2018
05.18

臨床のワンフレーズ(26):それが王道ですよ

 患者さんは回復過程が長く感じます。そして、本当に自分が良くなっているのか、これからどういう形に進んでいくのか、というのはとても心配になるもの。私たち医療者は、先を照らしておくことを忘れてはいけません。足元しか見えないとまさに五里霧中、暗中模索。でも、先の道や目標が見えるとホッとしますね。これを常に意識することが診療では大事になると思います。

 休職をしながらうつ病を治療している患者さん。極期を抜けて日常生活に少し安らげるようになってきました。しかし「楽しいことなら色々とできるようになったんですけど…」と。


患者さん「書類を見たり仕事のメールを見たりするのはまだちょっと…」
自分「仕事を思い出してちょっと…ていう感じでしょうか」
患者さん「はい。何だか好きなことばかりして怠けてるみたいで…」
自分「今の状況ならそう思うのも無理はないかもしれんですね」
患者さん「はい…。このままじゃなぁと思ってるんですが」
自分「そうでしたか。実のところ、好きなことからできるようになってくるっていうのは、回復する順番としてとても自然なんですよ」
患者さん「そうですか?」
自分「嫌なことから真っ先にやる気が出るなんてことはないでしょう。○○さんがドMなら話は別ですけど」
患者さん「いやいや。でも確かにそうですね」
自分「楽しめることを楽しめるようになったことが大事で、まずはしっかりとそれを味わいましょう。それが出来るようになると、気持ちも仕事に向かい始めますでね」
患者さん「分かりました」
自分「ここにいらっしゃる前は、楽しめるはずのことも楽しめなかったですもんね」
患者さん「そうですね、言われてみれば、ちょっとドライブっていう気にもなれませんでした」
自分「こころと身体が楽しめるっていうのが回復の基本ですから、まさに"王道"なんです。○○さんは王道を歩いとるで、とってもいい感じです。だからめちゃくちゃ楽しんでください」


 自分は外来を重くしないように、少し軽くしようと意識しています。もちろん患者さんやその時々の状況によりますが、ベースは楽観的な雰囲気が漂うようにしています。眉間にしわを寄せない、ちょっとオーバーに驚く、などもしますし、診察室に飲み物(自分用ですよ)を持っていくようにもしています。もちろん診察中は飲みませんが、置いておくとちょっとガチガチの真面目感が和らぎます、たぶん。今回はまず「○○さんがドMなら話は別ですけど」と、ちょっといたずらっぽく笑いながら発言しています。意外な言葉で患者さんも少し笑って、姿勢が軽くなります。繰り返しますが、この言葉を使うかどうかは患者さんや状況によります。これを間違うとアカンことになってしまいます。ふと思いましたが、診察って即興劇のようなところってありますね。

 そして、受診に至る前の苦しい時との比較を促します。最後に "王道" という言葉。「アンタが歩いとるんは王道やでぇ。安心せぇよ」というメッセージとなります。この "王道" なんて言葉は普通出てこないので、患者さんに強く印象付けられます。患者さんってこっちが思うよりも診察室では緊張していて、診察が終わって外に出たら「あれ、何話したっけ」となることも。なので、印象的な言葉を使ったり、緊張感そのものを和らげるようにこころがけたり、そんなことに医療者は取り組みます。「王道かぁ。よっしゃあ、大丈夫そうや」と思ってくれれば良いですねぇ。

 日々の外来で何が大事かというと、診察が終わった後に患者さんが「よし、これからもやっていこう」と思ってくれることなのだと思います。診察室に入る前は下を向いていた顔が、出る頃には上を向いているようになっている、これが一般的な日常臨床での理想かしら (難しいですが)。細かいところはこちらから指摘することもありますが、それも「これダメや。こっちにしい」とは言わずに基本的には「アンタのやっとることでO.K.や! そしてな、これをな、こうするともっと良いかもしれんで!」という感じの表現にします。それの積み重ねが回復に向かうのだろうなぁと考えております。
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2018
05.12

4 mgを狙ってるやろ

 大塚製薬の新薬であるブレクスピプラゾール (レキサルティ®) が発売になりました。自分はまだ処方したことがないですけれども。これは日本では最大2 mgの投与となっており、アメリカさんの半分なのです。彼の国では4 mgまで使用可能でして、その半分で大丈夫なのかしらとも思っております。

 大塚製薬のMRさん曰く、国内の臨床試験ではランダムに割り付けられたものの4 mg群にやや重症患者さんが多かった、ドロップアウトが多かったなどの理由で2 mgと有意差がつかずに承認されなかったと。

 なので、2 mgでもうひと息!という患者さんに日本で4 mgまで増量したら査定されてしまうため要注意なのです。

 しかししかし、大塚製薬は4 mgを諦めていない!と自分は勝手に思っています (あくまでも自分の推測です)。その理由が2つほどあるのですが、まずは添付文書の用法・用量の欄を見てみます。


〔用法・用量〕
通常、成人にはブレクスピプラゾールとして1日1回1mgから投与を開始した後、4日以上の間隔をあけて増量し、1日1回2mgを経口投与する。
《用法・用量に関連する使用上の注意》
A 本剤の1日量4mgを超える用量での安全性は確立していない(使用経験が少ない)。



では、非定型抗精神病薬の代表であるオランザピン (ジプレキサ®) ではどうでしょうか。統合失調症の部分だけ引用。


用法及び用量
通常、成人にはオランザピンとして5~10mgを1日1回経口投与により開始する。維持量として1日1回10mg経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。ただし、1日量は20mgを超えないこと。



 同じくリスペリドン (リスパダール®) の統合失調症の部分を。


用法及び用量
通常、成人にはリスペリドンとして1回1mg1日2回より開始し、徐々に増量する。維持量は通常1日2~6mgを原則として1日2回に分けて経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。但し、1日量は12mgを超えないこと。



 お分かりになったでしょうか。非定型抗精神病薬の添付文書にはしっかりと "1日量は○○mgを超えないこと" と記載されているのです。こう書かれると、超えた処方をしてはいけません (そりゃそうだ)。

 しかしながら、ブレクスピプラゾールにはその記載がありません! かつ、使用上の注意でわざわざ4 ㎎に言及しています。これってかなりグレーな記載で、非定型抗精神病薬、というか最近の薬剤にしては非常に珍しいのです。これが4 ㎎を諦めていないと思われる理由のひとつめ。ちなみに、"この量を超えて出すな" と書かれていなければ、通常用量の倍量まではおそらく査定されないだろうという暗黙?のルールがあります (その場合は "なお、年齢、症状により適宜増減する" という記載になっていますが、その一文がブレクスピプラゾールにはありません)。

 だからと言って「2 ㎎を超えるなって書いてないんなら超えて出しても良いんだろ」と考えて4 ㎎を処方すると今は査定されてしまいますのでご注意を。これは繰り返しの注意です。

 で、もうひとつの理由が、薬価なのです。

 ブレクスピプラゾールは2 ㎎という今のところの最大用量で509.2円になっています。ここが大きなポイントでして、この約500円というのは非定型抗精神病薬 (先発品) の最大投与量の "半分" の値段なのです。

 抗精神病薬の値段を釣り上げたことで有名なオランザピンは最大投与量が20 ㎎なのですが、先発品10 ㎎の薬価が489.9円に発売当時に設定されました。これは当時では恐ろしく高価だったのですが、この "最大投与量の半分でだいたい500円" というのが以降の抗精神病薬の薬価設定をする際の参考となったのであります。ただし、オランザピンは2016年に後発品が出たため先発品の薬価も下がり、今は10㎎では489.9円→345.8円になっています。

 新しい薬剤の一つであるパリぺリドン (インヴェガ®) は、最大投与量の半分である6 ㎎で465.7円となっています。これは後発品がまだ出ていないので薬価もまだこのままのはず。

 ブレクスピプラゾールの前に大塚製薬の看板商品だったアリピプラゾール (エビリファイ®) はどうだったのか。15 ㎎が最大投与量の半分なので、これは12 mg+3 mgになります。350.4円+97.1円=447.5円となりますね。ただし、アリピプラゾールも後発品が出たため先発品の薬価が下がり、今では15 ㎎を出そうと思うと241.1円+66.9円=308.0円となります。

 さて、アリピプラゾールの特許が切れて虫の息となった大塚製薬が会社の存亡?をかけて開発し送り出したブレクスピプラゾール。その薬価が安いはずはない! 開発費を回収し収益もV字回復を狙っているはずです。 もう一度薬価を見てみると


現状での最大投与量である2 ㎎で509.2円


 瀕死の大塚製薬が良心的な設定をするはずなく (?)、「ははぁ、これは4 ㎎を見越しての設定だな」と性格の悪い自分は邪推しています。自信をもって市場に出す薬剤を安売りする理由もないでしょうし。2 ㎎で手を打つのであれば、1 ㎎の薬価がこの価格になっていたはずです。

 例えば、後発品が出るタイミング (10年以上後なのか…?) に先発品だけ何らかの試験をするとか学会や臨床医からの要望として厚労省に掛け合うとかで4 ㎎に上げるとか…? そのタイミングだと、後発品は2 ㎎が上限のままで先発品だけ4 ㎎を出せるようになって、後発品に処方が流れるのを防げますしね。そこまで待たなくても年単位でラグを設ければ良いのかもしれません。いちおう、大塚製薬としてはまず双極性障害と大うつ病への適応を取ろうとしているみたいですが。

 今回は、ブレクスピプラゾールについてちょっと引っかかったことを記事にしてみました。こういう視点から薬剤を見るのも面白いかもしれません。というか、虫の息とか瀕死とか言うと大塚製薬に怒られるかしら、そろそろ。
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2018
05.08

若手医師にこそ読んで欲しい

Category: ★本のお話
 少し前にも紹介した、医学書院さんから出ている中井久夫先生の『看護のための精神医学』。看護師さん向けですが、精神科医になりたて~少し経ったような若手医師にも読んでもらいたい、と思うのです。

 紹介した際にも引用した以下の名文。


看護という職業は、医師よりもはるかに古く、はるかにしっかりとした基盤の上に立っている。医師が治せる患者は少ない。しかし看護できない患者はいない。息を引き取るまで、看護だけはできるのだ。


 看護師さんにとっては希望の文だと思います。挫けそうになった時、この言葉に救われたというかたもいらっしゃるのではないでしょうか。でもこれを前面に出すと「看護は絶対善である」と勘違いしてしまうかもしれないので注意をしてください。善というのは相手が善だと思って初めて善になります。こっちが善だと思っていても、相手からすると ”ありがた迷惑” になるかもしれません。手当てというのは看護の原点でしょうが、不用意に手を当てることは、患者さんの痛みを強くしてしまうこともあるでしょう。中井先生の名セリフはそっとこころに仕舞っておいて、疲れた時や大変な時にちょっと思い出して、やわらかい明かりを灯す感覚でいるのが良いのだと思います。この文を看護の優位性と勘違いしてはいけません。看護師さんが「私たちは、医者に出来ないことをしているのよ!」と声高に叫んだ時点で、それは傲慢へと転がり落ちるでしょう。この言葉を間違って使ってほしくはないなぁと思うのです。

 そして、これは医者も銘記しておくべきではないでしょうか。若手医師はちょっと仕事に慣れてくると妙な自信を持つようになります。それは大いなる勘違いなのですが、その自信はともすると医者以外の医療従事者を下に見ることにもつながりかねません。「オレが治しているんだ!」という、井の中の蛙な状態ですね。そうなってしまうと、その態度は他の医療従事者に伝わり、彼らの態度もまた硬直化してしまいます。それがさらに医者に伝わり、一匹狼的な様相を呈し誰も近づかなくなる…。まさに悪循環。

 そんな風になってしまう前に、看護は医者のなす狭い医療が持たないしなやかな強さを有しているのだ、というのをこの本で学んでもらいたい、そう思うのです。 "看護のための" 精神医学ではありますが、それは同時に広く "医療のための" 精神医学でもあると感じています。薬剤の効果が乏しい患者さんはいくらでもいます。その時、「オレが!」というタイプの医者は「薬が効かないんなら何したってムダ」と見切りを付けてしまうかもしれませんが、そうならないようにこの文を思い出すべきでしょう。星野弘先生の『分裂病を耕す』(最近 ”新編” として出版し直されましたね)を読むと分かるかもしれませんが、本当に地道なんです。特に統合失調症患者さんとは、侵襲を与えない人として接し、ゆっくりと孤立を緩和していくことが大切なのだと再確認できると感じています。確かに、今の精神科では外来で1日数十人診て、抱えている入院患者さんも数十人、その中には急性期の患者さんも多いでしょう。そんな中ではなかなか慢性期の患者さんに割ける時間は多くないのが実情です。でも何とか少しでも安心できる関わりを増やすことが出来れば、それは治療的に働くのだと思います。そして、その関わりは看護の理想形に近くなるのでしょう。薬剤が効く入院患者さんであっても、医者だけが治している・薬剤だけが治しているのではありません。看護師さんがどれだけ患者さんの状態をチェックしてくれているか、ちょっとした話を聞いてくれているか。私たち医者は患者さんと実際に関わる時間はとても短いのです。多くの時間は看護師さんが患者さんとのつながりを保ってくれている、そこを知らねばならないのだと思います。

 医者にとっては自分自身の限界をしるための自戒として、看護師さんにとっては辛い時の希望の光として、この名文は存在しているのでしょう。

 『看護のための精神医学』の内容を読むと、理想論と思われるかもしれません。中井先生ならではのところは確かにあると思います。でも、理想を持ちながら現実を見て医療をなすことも大切でしょう。理想ばかりでも現実ばかりでもよろしくない。両方に根ざした関わりが求められているのです。そのバランスのために望ましいのは、春日武彦先生の『援助者必携 はじめての精神科』も合わせて読んでおくこと。こっちは現実的な路線を重視しており、実臨床での苦悩と良い意味での諦め(?)が分かるかなと。「あーこういうのってあるよねぇ…。つらいなぁ」と色々と困ったことが思い出されますが、「こうすれば良いんだな」という現実的な対処が身につくでしょう。毛色の違う2冊が相乗効果をなしてくれる気がします。

 ということで、精神科医になりたての後期研修医あたりに読んでもらいたいなと思ったのでありました。2冊とも。
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2018
05.04

うれしやかなしや

Category: ★精神科生活
 大型連休も終りを迎えます。みなさん、日々の疲れはリフレッシュできたでしょうか。自分は日曜日に日直がありまして、土曜日で本格的な休みはオシマイとなります。

 こういう休みというのは、やはり嬉しいもの。病院もないし、翌日のことを考えずにゆっくりと休めるのはまさに自分にとって "ゆとり" そのものだなぁと実感します。愛知県は麻疹の感染患者さんが増えているので人混みに行かないようにし、家でゆっくりと過ごしました (ここ数年は抗体価を測っていなかったのでちょっと心許なかった…)。Amazonプライムで仮面ライダーBLACKをずっと観ておりましたよ。やはりライダーシリーズの最高傑作はBLACKでしょう!

 しかしながら、休みは悲しいものでもあるのです。このように休みのために外来がない、ということは、本来その日に来るはずだった患者さんがおり、彼らはどこか別の日に流れ込むことになります。つまり…


休みの前後の週が激混み!


 なのです…。はぁ。

 これがとても苦しくて、ただでさえ混んでいる外来がもうぎゅうぎゅう。今勤めている病院では外来日が金曜日と土曜日でして、5月11日の金曜日、12日の土曜日、19日の土曜日は予約枠をすべて使い切っています…。でもどうしてもその日に診たほうが良い患者さんもおり、彼らは予約外で来てもらうことになっております (予約枠がもうないので、予約できない!)。かつ、別の病院で月曜日にちょっと特殊?な外来をしていますが、そこも何だか大変なことになっています…。ちょっと先の話ですが、9月なんて17日と24日の2週連続で月曜日が休みでしょ、しかも10月8日も休み! あー、アカン。これはアカンよ。絶対にパンクしますわぁ。この月曜日の外来は時間がもともと短いのですが、規定の時間だけじゃあ全然足りなくて、最初を30分繰り上げて、最後も1時間繰り下げて毎週ようやく間に合っているレベル (もはや病院に対する慈善事業みたいなモンでしょうかね…)。そこに休みが重なってきた日にはもう阿鼻叫喚ですよ…。

 こういう時の外来って、連休恒例となっているUターンラッシュ時の新幹線乗車率みたいな感じでしょうか。100%オーバーなのです。4月最終週の外来も満席で大変なことになっていましたが、今月の混み混みを想像するだけでお腹が痛くなってきそう。うーん。患者さんが大変なのも重々承知していますが、医者の側がゆとりを持たなければ診察にも影響しそうで。

 いつも外来後は疲れてぐったりなのですが、予約がすべて埋まっている日の疲れ度合いったらもう、半端じゃありません。病棟に行かねばならないけれども身体が動かない。だから休みは嬉しいと言えばもちろん嬉しいものの、こういうデメリットもあるのでした。

 自分は正直なところ働くのは好きでなく、どちらかと言えばゆったりと休み中心に生きていきたいと思っています。もちろん身体的にも精神的にも忙しいと調子を崩すというのもありますが。週休4日ほどのペースで、かつ外来も忙しくなくちょっと雑談できるような、そんな流れでやっていければなぁ。1週間のうち休みが過半数というのが理想的。でもそんなの実現しないでしょうね…。

 という愚痴の記事でした。
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2018
05.01

レジデントのために、多剤併用について思うこと

 新年度も少し時間が経過し、精神科でもレジデントの先生がたが精神科病院の過ごし方に慣れてきた頃でしょうか。しかし、精神科病院における、特に慢性期統合失調症患者さんの薬剤治療。それは、大学病院で教わることとはかなり異なるもので、びっくりする先生も多いかなと思います。

 若手 (自分も含めちゃいますが) にとって、統合失調症患者さんへの抗精神病薬は単剤治療が原則と教え込まれています。しかし、ずっと入院している患者さんの処方を見ると、決してそうではない。周知の通り、多くの方は多剤併用となっています。

 この多剤併用を見ると、レジデントの先生は「これは何とかしよう! 単剤化できれば患者さんも変わるはず!」と思うことでしょう。というか、若手であれば一度はそう思ってもらいたいところであります。

 ただ、注意点としてはいくつかあります。たくさんあっても覚えきれないと思うので、ここでは5つを挙げておきましょう。

1. 患者さんがこの処方で良いと思っていることが少なからずある
2. 前主治医までの医者が悪気があって多剤にしているわけではない
3. 意外とこの処方で何とかまとまっている患者さんが多い
4. 無事に単剤化しても対して状況が変わらないことも多い
5. 減らす薬剤の量や速度が大きいと失敗することもある

 1.についてですが、処方された薬剤は常に医者と患者さんとの関係性の現れである、ということ。患者さんの中には、これまでの医者が出してくれた薬剤を、まだ主治医になって間もないペーペーの医者がいじることに不快感を表すかたもいます。昔の主治医との思い出が処方に残っているかもしれません。処方というのは、医者と患者さんとをつなぐものであり、そこへの配慮が必要でしょう。もっとも、医者とのつながりが処方でしかないのは味気ないので、日々の診察で人とのつながりを出していきたいところです。レジデントの先生は焦らず、まずは患者さんに会って自分を覚えてもらうことから始めていきましょう。その間に、昔のカルテを見たり看護師さんから話を聞いたりして、その患者さんがどういう生き方をしてきたのかについて知識を深めていく。患者さんとの診察はあまり長くしすぎず多少あっさりな感じで、少しずつ病状以外のことを聞いていく感じが良いでしょうか。それができてから初めて薬剤について聞いてみます (もちろん安定している患者さんが対象ですよ)。薬剤の変更に対して患者さんが拒否的であれば、いったん身を退きます。「私はこんな感じに思っているので、また気が変わったら教えてください」程度の言葉を残していくと良いかもしれません。そして、また時間が経ったら押しつけがましくなくさらっと聞いてみると非侵襲的かと思います。もちろん、看護師さんも「この処方で問題なく経過しているんだから、何でこの来たばかりの医者は減らそうとするんだ?」と思うことが多々あるので、すぐに薬剤を変えないのは彼ら彼女らとの関係を壊さないためでもあるのですが…。

 2.ですが、やっぱり患者さんの精神状態というのは揺らぎがあります。忙しいとつい薬剤に頼りたくなりますし、そう言えば受け持ち患者さんが多いと向精神薬を処方しやすいなんていう報告もありますね (Am J Psychiatry. 1994 Apr;151(4):580-5. PMID: 8147457)。そうやって悪戦苦闘をしていると、気がつけばアラ不思議、多剤になっていた…なんてことになります。ハロペリドール (セレネース®/リントン®) 12 mg/dayで頑張っていたけどちょっと興奮が続くからレボメプロマジン (ヒルナミン®/レボトミン®) 150 mg/dayを追加し、幻覚妄想が一時的に強くなったからリスペリドン (リスパダール®) を6 ㎎/day追加。しばらくは良かったけどたまに不眠や妄想が出てきて他の患者さんからも苦情が来るのでオランザピン (ジプレキサ®) を10 ㎎/day追加…。というのが起こります。昔のカルテを見ると意外にシンプルだったのが、ページをめくっていくと徐々に種類や量が増えていく。こういうのはザラですね。悪気があって多剤にしているわけではなかったのであります。1.と合わせて、"処方に歴史あり" とは良く言ったものです。

 3.は5.と少し重なるところもありますが、複雑怪奇な処方で何とか患者さんの症状が軽くなっているということもあるでしょう。カルテを見ると、単剤では歯が立たず割と早期から多剤になってそれで辛うじて保っていることが多いでしょうか。「こんな多剤、意味あるの?」と思ってちょっと減らしてみたらあれよあれよという間に状態が悪くなっていく患者さんもいます。まるで終盤のジェンガのような。これは不思議なのですが、昔の主治医が見せる素晴らしいウデなのだと思います。レジデントの先生がたは「クロルプロマジン (コントミン®/ウィンタミン®)を25 mg減らしただけなのに…」という嘆きをこれから経験するかもしれません。

 4.ですが、これはこれから数多く遭遇すると思います。じりじりと減らしてCP換算もだいぶ少なくなり種類もすっきりして、「これで患者さんの陰性症状もググっと良くなるだろうなぁ! いやぁ、いい仕事をした」と満足していたにもかかわらず、実際の患者さんの状態はピクリとも変化しない。多剤を見るとつい症状の多くが薬剤性に見えてしまうのですが、決してそうとは限りません。でも、減らして何も変わらないのであれば、大進歩!です。減量によって心血管リスクが低下したかもしれませんし、そのままだったら患者さんがいずれ多剤併用を重く感じてしまっていたかもしれません。そして、患者さんは言葉に出さないかもしれませんが、薬剤の量や種類が減ることは、自分は見捨てられていないと思うきっかけになるやもしれません (薬剤の変更は、1.で生じる気持ちとここで生じる気持ちの両方を産みます。関係性によってどちらがより強く出るかが変わるのでしょう)。また、身体が少し軽くなったと感じるかもしれません。レジデントの先生がたは薬剤を減らすことを理想化しすぎず、減らしても症状が変わらないというのを目標にし、ちょっと陰性症状や錐体外路症状が改善したら御の字くらいの気持ちで臨みましょう。

 5.については、過感受性精神病という言葉が有名になってきたのもありますね。薬剤でずっと受容体を遮断していると、生体側は受容体を増やす、すなわちアップレギュレーションで対応することになります。同じく刺激が続くとダウンレギュレーションが起こります。ちょっと減らすだけだったのが、相対的に大きくなるのです。そうなると、3.で見た「クロルプロマジン (コントミン®/ウィンタミン®)を25 mg減らしただけなのに…」という嘆きがここでも聞こえてしまいます。これが全員に見られるわけではないのですが、一部にそういう患者さんがいます。なので、ちょっと薬剤を少なくした際に大きく反応する場合は「ははぁ、受容体の数が変わっているな…?」と推測し、減量はほんのちょっとだけ、例えば細粒を使って少しずつ。そして、次に減らすのは数か月待っても良いくらい。あくまでもイメージですが、減らした後の薬剤に受容体が慣れるまで待つような。なので、レジデントの先生は「自分の代では完全に薬剤を整理できないかもしれない」と思っておきましょう。例を挙げると自分の医局では2年間レジデントとしてその病院で働くため、この2年で全部を何とかしようと思わないことです。次のレジデントの先生に託すような、そんな気持ちでゆったりと取り組みましょう。ま、この減量に失敗すると病棟の看護師さんから恐ろしいほどの白眼視を受けるのでありまして…。先述しましたが「これで安定しているんだから何で減らすんだ?」と思うわけです、看護師さんは (全員ではないでしょうけれども)。減らして症状が変わらないならまだセーフですが、悪化してしまったら「そら見たことか! この若造が!」とひそかに思うことが往々にしてあります。面と向かって言われはしないですが、言葉の端々にやっぱりね…(残念ながらかなり前に自分は言われたことがあります)。看護師さんの気持ちもごもっともなのでそれを批判するつもりはないのですが、レジデントの皆さんは十分に注意しましょう。看護師さんとの関係性はとっても重要です。自分はこれで手痛い過去があるため、皆さんには同じ経験を味わってほしくありませぬ。サウザー様には怒られるかもしれませんが


退く!媚びる!省みる!


 気持ちが大事です、はい (あくまでも気持ちね)。

 そんな感じで5つまとめてみましたが、いかがだったでしょうか。個人的には、一人でうんうん悩むよりも薬剤師の先生としっかり相談しながらやってほしいと思います。薬剤師の先生は自分たちよりもよっぽど薬剤について詳しいですし、そうあるべきとも思います。薬剤の知識に関して、薬剤師の先生は医者に負けてはいけない。遥かに凌駕する存在であってほしい。だって名前が "薬剤師" ですし。薬剤のプロですから、その自負を持ってもらって、医者はその知識に大いに頼りたいものです。最近の薬剤師の先生はものすごく薬剤関連の論文のエビデンスに詳しくて、教えてもらうこともたくさんあります。「薬剤はお願いね!」と薬剤師の先生にお任せできるのが理想的。協同してやっていきましょう!

 ちなみに、多剤併用に関してはそれ自体決して悪くないんじゃないの? とも言われます (World Psychiatry. 2017 Feb;16(1):77-89. PMID: 28127934)。ただ、質の高い論文が少なく、またカッコ内の文献ではTable 1を見ると2剤なんです。そのため、精神科病院で見かける4剤や5剤ではどうなのかはちょっと分かりかねます。上記3.のような患者さんがいるのも事実でして、必要あっての多剤は確かにあるかもしれません (それがどのくらいの数かは不明)。しかし、しかしです。多剤の場合はどの薬剤がメインに効いているのか分かりませんし、結果的にCP換算で多くなってしまい、高プロラクチン血症になっていることも多いです。薬剤相互作用も特に定型抗精神病薬は良く分からないものがあり、今の患者さんにとっては何ともないかもしれませんが、肝腎機能が落ちてきた時、また身体疾患によって何か他の薬剤が入った時などはちょっと怖いところがあります。

 よって、減らせるのであれば減らすに越したことはないですし、これからの患者さんは何とか単剤 (せいぜい2剤?)でやっていきたいですね。そして、減らす場合もしっかりと患者さんの同意を得てからです。減らしていく中でも、患者さんに具合を聞きながら。「減らすよ」と一回言ったきりではなく、適宜その状況をお伝えする。患者さんにも「眠れなくなったり頭の中が忙しくなってきたりしたら教えてくださいね」と、関わりをお願いをします。処方と服薬というのは、患者さんと医者との関係性を表すものでもあり、お薬を出すということ、そして増やしたり減らしたりすること、これらを患者さんがどう感じるかというのを考えていくことも大切でしょう。
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