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2017
09.03

研修医の先生に読んでもらう論文をいくつか

Category: ★研修医生活
 自分が勤めている病院に研修医の先生が2週間やって来ることがあります。研修医の先生がいる病院に精神科がなく、それで精神科のタームの時だけこちらに来るというシステム。若い先生を見ると、昔の自分を思い出しますね。

 多くの研修医の先生は精神科に興味がないので、こちらも色々教えるというよりは「せん妄の対処は知っておこう!」くらいの立ち位置になります。しかもローテーションも2週間だし、出来ることは限られている。ちなみに精神科志望であればなおさら「今のうちに身体疾患の勉強をしておこう!」と言うことにしています。

 研修医の先生に一緒に診てもらう患者さんは他の先生がたが紹介しているので、自分は午前中に論文を何本か読んでもらって午後にその内容でお話をする、というスタイルにしています。座学も大切ですし、自分自身がリハビリ出勤なので省エネにしているというのも否めず。読んでもらう論文は大体決まっておりまして…

・Galvin R, et al. EFNS guidelines for diagnosis, therapy and prevention of Wernicke encephalopathy. Eur J Neurol. 2010 Dec;17(12):1408-18. PMID: 20642790

・Isenberg-Grzeda E, et al. Wernicke-Korsakoff syndrome in patients with cancer: a systematic review. Lancet Oncol. 2016 Apr;17(4):e142-8. PMID: 27300674

・Bhattacharyya S, et al. Antibiotic-associated encephalopathy. Neurology. 2016 Mar 8;86(10):963-71. PMID: 26888997

・Turrini A, et al. Not only limbs in atypical restless legs syndrome. Sleep Med Rev. 2017 Apr 4. pii: S1087-0792(17)30080-1. [Epub ahead of print] PMID: 28559087

 こんな感じ。人によって読むスピードは異なるので、全部読めなくてもO.K.です。あとは志望科によってそれと関係する論文を1つ付けるかどうか。

 これら論文を読んでもらう狙いとして

「Wernicke脳症を見逃すな!」
「がん患者さんのWernicke脳症だとモヤッとした症状もあるぞ!」
「抗菌薬で脳症が起きるぞ!」
「restless "legs" だけじゃないぞ!不定愁訴と片付ける前にちらっと疑え!」

 という強いメッセージがあるのです。精神科以外を志望しているのであれば、統合失調症の精神病理学とかを話してもあまり意味はないので、他の切り口にしているのでした。これら論文の内容を踏まえて研修医の先生に話す内容はですね…

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 Wernicke脳症はとても見逃されており、有名な3徴は16%にしか見られない。国試的には「Wernicke脳症といえばアルコール依存症、アルコール依存症といえばWernicke脳症」であるが、決してそれだけでない。アルコール依存症以外でも見られることは覚えておくべきであり、その内訳では、がん患者さん(特に血液腫瘍や消化管腫瘍)、消化管手術、妊娠悪阻、飢餓(神経性やせ症も注意)でアルコール依存症以外において発症するWernicke脳症の50%以上を占める。そして、がん患者さんでは頭痛、無気力、脱力といった ”モヤッとした” 症状を来たすことがある。「がんだし無気力にもなるよなぁ」「がんだしあまり動かず寝ているとアタマも痛くなるよなぁ」と過剰に了解することなく、「ひょっとしたらWernicke…?」と考えてまず治療をしてみるというのも大事。検査はMRIが有名だが、感度や特異度はスタディによってまちまちで、基本的にはRule inのために用いる補助と考えておこう。よって、所見がなくても治療してみるという勇気も必要。治療にはビタミンB1の経静脈的投与が行われるが、安価でありゆっくり投与すれば大きな副作用も大きなものはないので、疑ったら治療開始の気持ちで。ただ、投与量や投与期間にコンセンサスはない。

 抗菌薬の副作用で脳症が起きることもある。これらは大きく3つのグループに分けられる。開始後数日で発症し、けいれんやミオクローヌスが多く生じ脳波異常も見られやすいグループが1つ。これはペニシリン系とセフェム系に多く、特にセフェム系は腎機能が悪いと起こりやすい(セフェピムは特に有名)。別のグループは精神病症状が多いもので、これも開始後数日で発症する。脳波は異常がそれほど多くなく、プロカインペニシリン、スルホンアミド、キノロン、マクロライドで生じやすい。精神病症状だからと言ってすぐ精神科に!ではなく、これら抗菌薬を使用していればそれによる脳症かを考えよう(だから精神科医もそのことを知っておく必要がある)。別のグループはメトロニダゾールによるもので、投与後数週間してから発症する。小脳症状が多く、脳波は非特異的異常所見を示し、MRIでも異常所見(小脳歯状核がT2強調で高信号、脳梁膨大部が拡散強調で高信号)が見られる。最近、日本でも偽膜性腸炎(CDAD)の治療薬として静注のメトロニダゾールが承認されたので、こういった例が増えるかも? イソニアジドはいずれのグループにも入らない。発症は数週から数ヶ月で、精神病症状がコモン。脳波は異常を示すが非特異的である。

 Restless legs syndrome(RLS)は見逃されやすい疾患であるが、"legs" ではなく腕、他にも会陰部や膀胱、腹部、後背部、顔や口など様々な部位にも生じることが分かってきた。IRLSSGの診断基準は以下だが、それを身体の各部位に当てはめて疑うことが大切である。「変な症状だな。不定愁訴か」と括ってしまう前に、鑑別を考えよう。ドパミンアゴニストで速やかに改善することが多い(でもフェリチン低値なら鉄剤投与が優先かな…)。

IRLSSG 診断基準
1: 脚を動かしたくてたまらない衝動と不快感
2: 安静時に悪化
3: 脚の運動により不快感が軽減ないし消失
4: 夕方から夜に悪化
5: これらの特徴を持つ症状が,他の疾患・習慣的行動で説明できない

 ちなみに、日本語では”むずむず脚症候群”というが、”むずむず”では引っ掛けられないことが多い。”ちくちく””そわそわ””虫が這うような””お布団を蹴っ飛ばしたくなるような感じ””落ち着かない”など様々な訴えである。まさに"restless"なので、”むずむず”に引っ張られないように! 後は、「落ち着かないから眠れない」のではなく、「眠れないから落ち着かない」と患者さんは考えることがある。そうなると患者さんは「眠れない」としか言わないので、こちらから積極的に問うことが大事。

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 と、このような感じ。どれも精神科以外で遭遇しやすいので、こういう知識を入れておくのはムダではない、はず(覚えておいてくれれば)。こういった論文の中には検査方法の感度や特異度も記載されているものがある(Wernicke脳症に対するMRIなど)ので、時間があれば尤度比のお話もしています。今度はそれを記事にしようかな?

 そう言えば、以前は名古屋大学で研修医の先生がた相手に朝の勉強会を行なっていたんですが、他の科も勉強会をすることが多くなったそうで、研修医の先生から「朝は忙しいから夜にしてくれ」と言われ、しょうがないなーと思って夜にずらしたは良いけれども今度は「夜に集まるのは困難です」と言われ、何と2015年の7月(だったかな?)を最後に中止に追い込まれた苦々しい過去があります…。その時は「随分と身勝手な研修医だな…」と実は怒っていたんですが、まぁでも魅力のある面白い勉強会ならみんな来てくれていたんだろうと思うと、まだまだ自分も勉強不足だなと(今になってようやく)考えております。教えるっていうのは難しいものですね。
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2017
03.26

あとでまわれ

Category: ★研修医生活
 研修医の先生方は4月から色んな科をローテすることになりますね。そこで言えるのは、


行きたい科や好きな科は最初に廻らないようにしよう!


 ということ。もう遅いよ、廻る順番決めちゃったよ、という声も聞こえてきそうですが。。。

 なぜかって言うと、最初は研修病院のシステムに慣れることで精一杯だからなんです。病院のどこに何があって、どんな電子カルテ(紙カルテでも記載の方法など)を導入していてどんな操作をするのか、上級医の先生や看護師さんたちとどうやってコミュニケーションをとって、そして何より患者さんとどう話をしていくか、などなど。。。こういうことにまず慣れる必要性があり、それは最初にローテする科の体験の中で学んでいくことが多いのではないでしょうか。他にも、どこにスーパーがあるとか、どこに食べるところがあるとか、新しく住むところに馴染むとか、どんな同期や2年次がいるとか。
 
 自分は学生の時、神経内科の推理っぽさが好きでした。それもあって「好きな科を最初に回ってモチベーションアップや!」と思っていたら、カルテの使い方と病院の構造を理解するまでに2週間を要してしまい、あまり神経内科を肌で感じられなかった経験があります。バタバタと慣れていくうちに研修する期間の半分が過ぎてしまいました。指導医の先生も「最初だからまずカルテの使い方から勉強してね」という感じで。論文の調べ方もあんまり知らず、見やすいパワポの作り方も全然分からず、しかも患者さんとお話しするのも慣れてなくてね…。今では口先で商売する感じになってますけど。

 なので、好きな科があれば、そして出身校の附属病院でなければ(附属病院ならポリクリで廻ってるので勝手知ってるはず)、最初に回るのは”あんまり興味のない科”にした方が良いでしょう。自分だったら消化器内科とかかな…(すんません)。

 ちなみに自分は腎臓内科も好きで、それは2年次研修医の時に廻りました。そこでは深く学べたなぁと実感してます。たしか3ヶ月か4ヶ月くらい?廻ったはず。2年次ローテでは腎臓内科とICTを集中的に選択して楽しかったなぁ。感染症ってすごく大事で、どの科でも遭遇します(精神科でもね)。そこで適切な診断と適切な検査と適切な抗菌薬の選択が出来るようになれれば、やっぱり良いもんです。特に感染症に関しては上の年代の先生方はみっちり勉強してないので、若手が一本取れるチャンスでもありますよ。こういう成功体験ってやっぱり健全な自己愛を満たすために大切だと思ってます。

 ということでね、廻る科の順番は、科そのものの興味では決められないというお話でした。
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2016
04.24

精神科志望の研修医は何を勉強すべき?

Category: ★研修医生活
 ありがたいことに、精神科を志望してくれる研修医が一定数います。理由は色々あるでしょうけれども、若い力が入ってくれるのは心強いものです。個人的には、ちょっと文系的な、言葉に興味がある人とかだと更に嬉しくなっちゃいますが。やっぱり精神科医は言葉のプロですからね。

 そういった人たちから「研修医のうちに、どんな勉強をすれば良いですか?」という質問もあります。今回はそれについて、周辺のことも交えての記事。前にも何回かしたような記憶もありますが。

 その前に、精神科医になったら何を最初に学ぶべきか。それはやはり、今の時代はお薬(向精神薬)の勉強だと思います。新鮮で変にクセの付いていないまっさらな状態のうちに、良質なテキストで学ぶのが良いでしょう。そうすると、例えばベンゾジアゼピン系をぽんぽん出さないとか、離脱症状に配慮するとか、そういったところへの気づきが出てきます。もちろん継続的な服薬が必要な患者さんもいるため、「すべての向精神薬は悪だ!」という極論はそういう患者さんを愚弄していることになりかねません。一部のコトバに偏らないようにしましょう。極端な情報を発信する人からはビジネスの香りがしますね…。

 こういうお薬の勉強や文献での勉強は「頭でっかち」と非難されがちですが、若手は経験では絶対的に不足しておりそれは覆せませんから、その分きちんと本や文献を読んで知識を入れるのは、患者さんを診療するにあたっての礼儀でもあると思うのです。経験も少なく、知識も少ないのではダメダメですよね。最初は頭でっかち(この言葉を”知識先行”という意味で用いています)でも良いのです。経験は必ず付いてくるので、そのために知識を最初は身に付けておきましょう。つまりは


頭でっかち上等!


 の心意気やで。焦らず、教科書や文献で正しい診断や治療の”型”をしっかり学んでおきましょう。”習うより慣れろ”ではなく、”習って慣れろ”的なイメージを。

 そして、生活習慣の改善、つまり”養生”を治療の第一義とするように心がけること。さらには”処方しない”という選択肢も用意しておくべきです。特に昨今の精神科外来は一昔前のような”疾患同士の比較”というよりは”健常との比較”にシフトしてきています(その境目もファジィというのは論を俟たないものです)。だからこそお薬が効きにくいですし、処方せずに養生をお願いする術も意識しましょう。その養生には個別性がありますから、必然的に患者さんの生活を聞く事にもなります。それは大切な情報。

 しかし、そういったことは精神科医になってから! 研修医のうちは仮に精神科志望であっても、というか精神科志望だからこそ、”身体疾患の勉強”をして欲しいと思います。精神科医になったら精神疾患に否が応でもどっぷり浸かるわけですから、そうなる前は身体疾患のお勉強を。つまりは普通の研修をするべきでございます。これは自分が医局の教授から教えられたことでもあります。実は、自分は研修医2年次の時に「精神科をたくさん選択してスタートダッシュをしよう!」と目論んでいたのですが、教授から「研修医のうちにしっかりと身体を診ておきなさい」と諭され、かなりローテする期間を減らしたのでした。

 身体疾患の中には精神疾患の大事な鑑別となるものがあります。しかし、他科から「精査したけどうちの科じゃないから」と言われて精神科に来た患者さんに対して精神科は「じゃあ精神疾患として治療しよう」と考えて身体疾患を今一度調べ直すことを忘れてしまうことがしばしば。


”精神科の患者さん”というラベリングがいったんなされてしまうと、それはなかなか洗い流せないものなのです


 以前にも記事にしましたが”精神科医こそ身体疾患を鑑別する最後の砦”でもあります。そのためにもしっかりと研修医期間中に基本的な考え方(診療のOS)を習得。精神疾患だけ勉強すれば良いというのではいけませんよ。その鑑別となる身体疾患への目配せを怠らないためにも、研修医のうちは身体疾患の勉強をして身体疾患を持つ患者さんに接しておくのが求められるのです。論理的に考える技術を身に付けるために、やっぱり欠かせません。事前確率や尤度比を冷静に見つめて診断に至るその考え方は、すべての医者が知っておくべき知識でございましょう。「尤度比って何?」という精神科医がいまだに多いのは悲しいことです。

 そして、鑑別となる身体疾患の勉強だけで済ませてはダメでして、いわゆるコモンディジーズの診断や治療に用いるお薬の特徴をも知っておきましょう。精神疾患を持っている患者さんの身体疾患の治療にとっても役立ちますし、他の病院で処方されたお薬の特徴を知っておくことで、患者さんの一見すると症状悪化と思われた状態が実は相互作用によってもたらされたものだと気づくこともできます。

 自分は高血圧症や脂質異常症や2型糖尿病といったコモンな疾患の治療をしてますし、よく出会う感染症の治療も。特に感染症はとんでもない抗菌薬を使う医者も多いので、自分で勉強して治療した方が良い時がとても多いのです。。。蜂窩織炎にレボフロキサシン(クラビット®)を1ヶ月出す皮膚科医とかいますからね…。あとは第三世代セフェムや経口カルバペネムをぽいぽい出す医者も「むむむ…」と思ってしまいます。それよりは自分がしっかりと診断して抗菌薬も選んで治療。もちろん自分では手に負えない状態であれば、それはお願いします。何でもやろうとするのは、単に自分の自己愛を満たしたいだけになってしまい、患者さんをその延長として見ることになりかねません。

 ある程度であれば自分で治療するのがストレスもなく、患者さんの服用するお薬も分かります。そして精神疾患以外のちょっとしたところに手が届くと、患者さんの信頼度も実はアップ。患者さんの身体に目配せをすることで、実は精神科的にも良い作用になっているのです。こういうのは、臨床研修制度を経験している若手の医者の強みだと思いますよ。もちろん、他の病院で妙なお薬を使われて相互作用で大変な目に遭うのを避けたいという思いもあったりしますが。こっちでリチウム(リーマス®)出しておいてるのを知っているのに向こう(開業医さん)でロキソプロフェン(ロキソニン®)を180mg/dayで定期的に出されてリチウムの血中濃度が…なんてことは稀じゃないのでした。。。向精神薬の知識って精神科以外はかなり乏しいのです(精神科医で乏しければ失格です)。同様に、「精神科医は向精神薬以外は何も知らねぇんだな」という誹りを受けないためにも、コモンな身体疾患で頻用されるお薬については最低限知っておかねばなりません。患者さんが高血圧症でACE阻害薬を服用していたら、やっぱりリチウムは軽々と処方できないでしょう。心房細動でワルファリン(ワーファリン®)を服用していたら、フルボキサミン(デプロメール®/ルボックス®)は積極的に出せないでしょう。

 何だか愚痴になってしまいましたが、何を言いたかったんでしたっけ…。そうそう、精神科志望であっても、研修医のうちは精神科ばっかり勉強するんじゃなくて、身体疾患、特に精神疾患との鑑別になる身体疾患の診断、そしてコモンディジーズの診断と正しい治療が出来るようになっておくことが欠かせないということでした。診断推論って大事。

 研修医のうちから精神病理学の難しい本を読んだり、精神分析のちょっと摩訶不思議な本を読んだり、言語学を学んだりする必要はないですよ。それは精神科医になってからちょっとずつで結構です。研修医のうちは身体疾患を「これでもか!」というくらいに勉強してくださいまし。”今”に浸ってその中でもがくことこそ、将来の原石。

 それでも何か…という研修医の先生には、医学書院さんから出ている姫井昭男先生の『精神科の薬がわかる本』をオススメします。この1冊をきちんと読むだけでもだいぶ違いますし、精神科以外の先生方みなさんも是非読んでみてください。そして、精神科医になったらすぐに『The Maudsley Prescribing Guidelines in Psychiatry』を買いましょう(2016年3月の段階で第12版が最新)。この本は最強の薬剤処方のガイドラインです。
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2016
03.23

不安でいること

Category: ★研修医生活
 研修医のみなさんが主戦力となる場、それは救急外来ではないでしょうか。自分が研修した病院では診た患者さん全員を内科直もしくは外科直に上申するという安全第一のシステムでしたが、病院によってはそうでないところもあります。

 特に救急外来デビューの日はめちゃくちゃ緊張する/したと思います。自分が初めて当直で救急外来に来た時、第一診察室では心肺蘇生が行われていた真っ最中でした。同期が頑張って胸骨圧迫をしていたのを見て、「おぉ、やっていけるかな…」と怖くなったものです(同期も初日に胸骨圧迫でくじけそうになったと言っていました)。ちなみに初めて診た患者さんは「喉が痛い」というかたで、典型的な咽頭炎。でもわたわたとしてしまって、カルテ記載も恥ずかしいレベルでした。そしてその日は色んなマニュアルやテキストを持って来ていたのも覚えています。重かったのですが、この重いのがお守り的な。ただ、色々と持ち込むのは研修医の2年間を通じてずっと不変でした。

 そこで、1つ重要なことを。それは


不安でいてほしい


 ということです。「救急外来怖いな」「何か失敗するんじゃないかな」という思いは、必ず持っていてほしい。なぜなら、その気持は真摯な勉強につながるからです。医学の勉強もそうですし、患者さんの勉強も。「いつまで経っても不安で、こんなんでオレ大丈夫かな…」と感じることもあるかもしれませんが、その不安があるからこそ、しっかりと勉強できるんですよ。だからその感情があるのは素敵なことなんです。敵視せずに、医者として生きていく上で大切なパートナーだとすら思ってみてください。

 逆に怖いのが「救急外来慣れたし、もう大丈夫だな」というこころ。確かにとっても優秀な人は大丈夫なのかもしれません。ですが多くの研修医にとって、それは”慢心”に変換されるでしょう。そうなると、自分自身にスキが出来てしまい、手痛いしっぺ返しを喰らうことだってあります。自分の経験では、エコーをたくさん練習して「結構イイ線行ったんじゃない?」と感じた時期がありました。今思い返すととても恥ずかしくて黒塗りにしたいくらいなんですが、その当時はそんな気分でいたのです…。しかし、ある患者さんの胆石を見つけられず、結果的にCTで判明したということがありました。内科直の先生からは「この部分のは見づらいよ」と慰めとも言える言葉をもらいはしたものの、エコーにちょっと自信が出ていた自分の鼻はポッキリと折れました。慢心の典型的な例でしょう。ふくらし粉で見かけだけ大きくなった安物のパン、そんな空虚な自信だったのです。

 自信を持つな、というわけではありません。自信が出ることはそれだけ勉強した傍証でもあるでしょう。しかしながら、自分1人が体験した世界の中、しかもそれは研修医の短い期間で得られた狭い自信であるということも忘れてはなりません。その部分では、不安を捨てずに持っていてほしいと思います。

 救急外来の怖さが抜けない研修医のみなさん、デビューを控えてちょっとドキドキしているかたがた、その姿がいちばんです。その怖さ・不安を忘れずに最後まで持っていてください。それは大きな武器です。

 自信が出てきたかたがた、しっかりと勉強しており、とっても素晴らしいと思います。でも、みんなが体験した”あの頃”の怖さも思い出してあげて下さい。今までの勉強は、その怖さがあったからこそ進んできたのかもしれません。それを糧にすると、もっと診察の質が向上されることでしょう。

 総じて、不安は決して悪者ではありません。その不安を不安として見つめてあげることが大切なのです。その上で、研修医として何をしていけば患者さんのためになるかをじっくりと考えて、その道を進んで欲しいと思います。不安はその道中を共に歩いてくれる仲間となり得るでしょう。
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2015
11.01

風邪を風邪と診断するために

Category: ★研修医生活
 救急外来でとても多い風邪の患者さん。研修医はたくさん来る患者さんの中からミミックを探しだして倒さねばなりません(倒せずザラキを唱えられて砕け散るのも避けたいですね…)。換言するならば



風邪を風邪と言い切れるか!?



 という、一見当然にも感じられることがとても大事になってきます。

 今回は1年次研修医向けにつくった勉強会のレクチャーから、風邪についてお話(しかし勉強会自体がなくなってしまったのでお蔵入りになってしまった…)。ほとんどは故・田坂佳千先生の書かれた『”かぜ”症候群の病型と鑑別疾患(今月の治療. 2006;13(12):1217-21)』をベースにしています。いわゆる”風邪本”(例えば岸田直樹先生の『誰も教えてくれなかった風邪の診かた』や山本舜悟先生の『かぜ診療マニュアル』)も元をたどるとこの田坂先生の論文に行き着きます。風邪本の源流と言っても良いでしょう。

 さて、研修医にとってとても心配になるのが「患者さんに風邪と診断して自信を持って帰せるか?」というところ。例えば

「喉が痛い」→大動脈解離!
「気持ち悪くて吐いた」→心筋梗塞!
「下痢をした」→消化管出血!

 こんなのを診てしまうとびっくりしてしまいます。

 もちろん”後医は名医”という言葉の通り、時間が経つことで疾患の輪郭がよりはっきりとし、後で診た医者が正しく診断できるのは当たり前。よって、患者さんには「これこれこういう症状が出たら/今の症状がどんどん悪くなるようなら、また来てくださいね」など、鑑別で捨てきれなかった疾患でまだ出現していない症状や今ある症状の増悪の可能性をお伝えして、”時間性”をうまく使うようにします。

 救急外来、特に発症早期ではまだ症状が揃わずうまく疾患としてのまとまりに欠けるため、診断には限界があるというのを大前提とします。その限界を意識しながらも出来るところまで詰めていくというのが求められます。そして、限界の先に向かうために、患者さんにこちらの予想をお伝えして診断に幅をもたせることを利用します。

 それを認識した上で、まず風邪の定義ですが


ほとんどの場合、自然寛解するウイルス感染症で、多くは咳・鼻汁・咽頭痛といった多症状を呈するウイルス性上気道感染のこと


 と表現できます。細菌感染では原則として細菌が1種類の臓器で暴れます。もちろん例外はたくさんあり、代表例はレジオネラ肺炎の腹部症状でしょうか。ウイルス感染は多くの臓器にまたがるのが通常です。

 ”細菌が1種類の臓器で暴れる”というのは様々なprediction ruleにも反映されており、例えば細菌性咽頭炎とウイルス性咽頭炎との鑑別に用いられるCentor's criteriaでは”咳がないこと”というのが、細菌性咽頭炎らしさを示しています(咽頭に感染するのであって、より下の気道症状である咳は細菌性らしくないということ)。肺炎の検査前確率を推定するDiehr's threshold scoreでは、咽頭痛と鼻汁の存在は肺炎らしくなさを示します(細菌は肺に感染し、喉や鼻の症状は出にくいということ)。

 ということで、典型的な風邪とは以下の図で示せます。
典型的な風邪

 この図の言わんとしていることは


“咳・鼻・喉”の症状がほぼ等しく急性に出現している時は、風邪と判断して良い


 ということ。これをしっかりと認識しているのといないのとでは、風邪症状を訴える患者さんへの取り組みが全く異なってきます。典型的な風邪の顔つきを上記でつかんだ次は、典型的ではない、辺縁に位置するような症状の時が注意点になってきます。そこが医者にとって大切で、田坂先生の以下の名言のように


風邪(症候群)における医師の存在意義は、他疾患の鑑別・除外である


 ということ。これに尽きるのだと思います。それをスッキリさせるため、まずこのようにまとめましょう。
典型ではない
 これらの時は「典型的な風邪とはちょっと違うなぁ」と思うところで、しっかりと鑑別疾患を挙げて除外していくことが求められます。

 最初は、鼻症状が中心の時。
鼻症状
 これの代表的な鑑別には急性副鼻腔炎があります。意外に診断は難しく、以下を参考とします。

いわゆる「風邪のぶり返し」
うつむいて顔面痛の惹起や増悪
上歯痛
耳鏡で鼻腔を覗いて膿性鼻汁を確認
エコー(心臓用のプローブ)で上顎洞の貯留液を確認

 JAMAの『Rational Clinical Examination』を読んでも、なかなか「これは!」と思える所見に出くわさないのでした。。。この「風邪のぶり返し」は急性副鼻腔炎に限らず「細菌感染かな?」と思える糸口になりえます。

 次は、咳症状が中心の時。
咳症状
 もちろん本命対抗は”肺炎”です。実はこの肺炎の診断は

聴診で分からないことがとても多い
レントゲンではっきりしないことも多い(撮るなら正面像と側面像)
エコーが有用!?
グラム染色は行なうこと
尿中抗原でRule outは難しい

 という特徴があります。聴診で分からないからといってそれを省くのは以ての外でして、レントゲンではシルエットになって分かりづらい肺底部のcracklesが聴こえることもありますし、レントゲンでは見えないけれども肺胞呼吸音が気管支呼吸音化していてCTでしっかり肺炎像が出ているなんてことも。エコーはちょっと自信ないですけど…。自分は肺水腫と気胸を見つける時にしか使わなかったので、肺炎を見つけるためのエコー経験が乏しいのでした…。やはり重要なのは流行・患者背景・症状をしっかりとらえることになります。

「風邪のぶり返し」でガッツリ来る
悪寒戦慄を伴う高熱と咳
びっしょり寝汗や頻脈や頻呼吸
基礎疾患やマイコプラズマの流行
ホテル、温泉、湯沸かし…(レジオネラ)

 この辺りは最低限チェックしておきたいですね。頻脈や頻呼吸にはやっぱり敏感になっておきたい。

 もちろん怖い疾患が隠れていることもあり、急性心不全や肺塞栓なんてのは医者泣かせだと思います。患者背景で狙いを付けて、SpO2低下・頻呼吸・呼吸困難といった所見があれば注意をしておきますし、否定できなければBNP(もしくはNT-pro BNP)やD-dimerなどの検査。

 そして、慢性咳嗽の初期を見ていることもあります。慢性咳嗽は3週間以上続く咳が定義ですが、初期に見るとそれは”急性咳嗽”になってしまいます。急性咳嗽と慢性咳嗽とでは鑑別疾患の色合いが異なり、結核や肺がんや心不全などなど…。以上を頭の片隅に。

  次は喉症状が中心の時。
喉症状
 鑑別として細菌性咽頭炎は言うまでもないかもしれませんが、その細菌は何とGASにも、若年者(15-30歳)ではFusobacterium necrophorum, GCS, GGSといった細菌が発症に関与するとという報告が出ています(Centor RM, et al. The Clinical Presentation of Fusobacterium-Positive and Streptococcal-Positive Pharyngitis in a University Health Clinic: A Cross-sectional Study. Ann Intern Med. 2015 Feb 17;162(4):241-7.  Centor RM, et al. Avoiding sore throat morbidity and mortality: when is it not "just a sore throat?". Am Fam Physician. 2011 Jan 1;83(1):26, 28.)。特にFusobacterium necrophorumは結構多いらしいです…。迅速診断キットはGASのみを対象としているため、これらの細菌では陰性になることがあります。これを考えると、Centor's criteriaで4点以上ならキットなしで抗菌薬投与というのも何となく頷けます。ちなみに日本にいるGASは多くがマクロライド耐性なので、細菌性咽頭炎にマクロライドを出しても改善しないことがあるので注意。また、上記論文の著者であるCentor先生は、あのCentor's criteriaのCentor先生です。すごいですなぁ、まだ生きてたんだ(おい)。

 他の鑑別は結構怖いものが多く、いわゆるKiller sore throatには急性喉頭蓋炎、咽後膿瘍、扁桃周囲膿瘍、Ludwig アンギナ、 Lemierre症候群(前述のFusobacterium necrophorum感染の重大な合併症)などがあるのです…!感染症以外では大動脈解離、心筋梗塞、くも膜下出血、亜急性甲状腺炎などが挙がってきます。恐るべし喉症状…!

 ここで、風邪っぽくなく咽頭炎っぽくなく、「おや…?」と嗅ぎ分けるポイントを。

 咳と鼻汁が少なく咽頭痛が中心の時で、“咽頭痛が強い+咽頭所見が強い”は当然注意すべき。問題は…


咽頭所見は軽く、嚥下痛が強い!
もしくは
咽頭所見は軽く、嚥下痛が軽い!



 これが「何かおかしいなぁ…」と感じる第一歩。患者さんが「喉が痛い」と言っているにもかかわらず咽頭所見が軽いというのは、事件の中心は“咽頭”ではないことを示します。つまり


咽頭周囲の問題
頚部の問題
放散痛の問題



 という風に分類できましょう。仮に咽頭ではなく”頚部痛”であったとしても、患者さんは「頚が痛い」ではなく「喉が痛い」と言うことがとても多いです。専門用語では頚と喉は異なりますが、患者さんの世界では明確な分類になっていません。自分の身に起きた現象を何とか持っている言葉で表現しようとして「喉が痛い」になるのです。医者側はそれを考慮して、言葉の奥の現象をとらえるようにする必要があります。患者さんの言葉に引きずられずここに気を配れるようになると、問診力がアップしますよ。患者さんと医者とは異文化の存在だという認識を持ち、出てくる言葉が表そうとしている現象(シニフィエと言えるかもしれません)に思いを馳せてみましょう。

 上記の点を考えながら、鑑別をしっかりかけて見逃してはいけない疾患を除外していきます。

 最後は、咳症状・喉症状・鼻症状のいずれもないという時。
いずれもない
 その際は「うーん、風邪でしょう」と言わないようにしましょう。”発熱+α”でとらえ、その+αは、頭痛、倦怠感、消化器症状、関節痛、皮疹などなどなど…。それぞれに従って鑑別疾患を挙げて診断していきます(個々の鑑別疾患は割愛)。+αが無く発熱のみのいわゆるsolo feverなら、気合いを入れた診察が欠かせず、血液・尿・胸部レントゲンの検査は必要になることが多いです。腎盂腎炎、胆管炎、前立腺炎、感染性心内膜炎、高齢者の肺炎など、ちょっと見逃せないものばかり。子どもさんも中耳炎から心筋炎まで幅広い。

 咳症状・喉症状・鼻症状がない時は本当に気をつけねばなりません。診断や診察の本をしっかり読んで鑑別を頭に入れておくことが結局のところ大事です。考える力も欠かせませんが、ある程度の暗記というか知識は絶対に必要。

 ということで、風邪のお話でした。最後に、いつも同じようなことを言っているかもしれませんが


風邪の典型例を知り、風邪と間違えやすい疾患を知ること。そうすることで“風邪”と“非・風邪”との境界線がよりはっきりと浮き出てくる!


 とまとめて、終わりとします。
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