2012
02.07

大動脈解離を見つけたい、否定したい

 大動脈解離 Aortic Dissectionはマレですが、実に怖い病気。特にA型は致命率が非常に高く、救命はなかなか難しいとされています。国試では結構snap diagnosis的な疾患ですが、実際は見つけづらいもの。非典型例が典型だ、とも言われてしまいます。放置しているとSIRSとなるため、熱も出るしSpO2も下がってくるし。発熱されたら解離をついつい鑑別から外してしまいそうになってしまいます。しかも血管が裂けることで痛みが生じるので、意外と痛みに波が出るんです。裂けて、少し休んで、また裂けて。この様に進展する場合は「蠕動痛…?」と勘違いしてしまうこともありますね。

 McGee先生のEvidence Based Physical Diagnosis(2nd edition)では胸痛患者における身体所見で、大動脈解離を疑うものの感度(sensitivity)、特異度(specificity)、陽性尤度比(positive likelihood ratio:LR+)陰性尤度比(negative likelihood ratio;LR-)をそれぞれ出しています。以下、ご紹介。

Pulse deficit:感度12-49% 特異度82-99% LR+6.0 LR-NS
AR murmur:感度15-49% 特異度45-95% LR+NS LR-NS
Focal neurologic sign:感度14% 特異度100% LR+33.4 LR-NS

 どれも感度が高くないのが欠点ですが、巣症状はさすがに凄いですね、特異度100%でLR+33.4って…(あくまでも胸痛患者さんにおいて、です)。AR雑音はあってもなくても診断に何ら寄与せず、というのも意外。

 その本では更に続きまして、複数の所見の組み合わせで診断の補助にしよう!という論文が挙げられています。

Clinical Prediction of Acute Aortic Dissection(FULL TEXT)

 2000年の論文。この中では

①pain that is tearing or ripping(引き裂かれるような痛み)
②pulse deficits, blood pressure differentials(>20mmHg), or both(脈拍欠損、血圧左右差)
③mediastinal or aortic widening on chest radiography(胸部X線で、縦隔か大動脈の拡大)

以上3つのコンボで解離の診断の助けに!ということを紹介しています。この①から③の中で

3つともない:感度4% 特異度47% LR+0.1 LR-…
1つある:感度20% 特異度… LR+0.5 LR-…
2つある:感度49% 特異度… LR+5.3 LR-…
3つともある:感度27% 特異度100% LR+65.8 LR-…

 3つともなければ、事前確率にも依りますが解離は否定的になります。1つあっただけじゃ何とも。。。2つある場合は中等度に確率を押し上げます。3つともあった日にゃあ、Rule in!CXRの縦隔拡大なんて自分はあんまり大したモンじゃなかろうと考えていたのですが、合わせ技だと使えますね。。。ちなみに単品ではLR+2.0 LR-0.3なので、何とも微妙。。。

 解離のA型は見逃したらアウトなので、やはり疑う!というのが大事。心筋梗塞を疑えば必ず解離によるものを否定しなければいけませんし(治療が全く逆)、特に解離が冠動脈を噛む場合は右冠動脈が多いので、右室梗塞を見たら解離から来たのか?と疑うのは外せません(大動脈経の拡大・AR・フラップの存在、をエコーで見ましょう)。

 患者さんを失わないためには、病歴・身体所見などで疑い、他の致命的な疾患でないのなら造影CTを追加するべき、というのが結論になるのでしょうか(巣症状、脈拍欠落、血圧左右差、背部痛、腹痛、下肢痛などなど)。

 身体所見ではなく血液検査ですが、解離を疑った患者さんのD-Dimerが基準値以内であれば、解離が100%否定できるとする論文が2005年に日本人によって出ています。

A rapid bedside D-dimer assay (cardiac D-dimer) for screening of clinically suspected acute aortic dissection.(PDFファイルへのリンク)

 それによるとD-Dimerの解離に対する感度は100%、特異度54%、陽性予測値58%、陰性予測値100%となっています。しかし、ちょっと検証に用いた患者さんの人数が少ない。

 その後に出た論文を眺めていると、感度100%はイイスギ感があり、でも95%くらいはあるようです(Serum D-dimer is a sensitive test for the detection of acute aortic dissection: a pooled meta-analysis.)。

 更に、カットオフの値を下げると感度100%で行けるよ~、と示した論文も(D-dimer in ruling out acute aortic dissection: a systematic review and prospective cohort study.)。いずれもレビューですが。

 でも大切なのは、病歴と身体所見で、ある程度の「らしさ」を弾き出しておくことだと思います。胸痛患者さんでも平気な顔をしていて移動する痛みや発症時から最大の激痛などがなく、なんか深呼吸すると痛い…という方なら、D-Dimerが基準値でほぼ100%否定できるのでしょう。一方、裂けるような痛みで背中に移動してるんですが…という患者さんでD-Dimerが正常であっても、完全なrule-outは出来ないかと。やはり病歴と身体所見で疑わしければ造影CTへ速やかに移行するのが大事だと思います。しかも偽腔閉塞型だとD-Dimerは上昇しづらいとも言われます。

 何か解離っぽくないんだけど、怖いから否定したい!という時にD-Dimerはほぼ100%の感度で除外できる、と考えるのが妥当ではないでしょうか。

 注意したいのは、D-Dimerは検査機器や試薬によって値にバラツキがあるということ。自分の病院ではどうなのかを知っておくことは大切です。


 追補:解離のCXRで、こういうサインもありました↓

カルシウムサイン Calcium Sign:consisting of the separation of intimal calcification from the outer border of the aortic knob by 1 cm or more, is highly suggestive of dissection but present in a minority of cases.

 CXRを見ると、ある程度年齢の行った人は大動脈弓の辺縁部に石灰化を見ることがあります。この沈着物は当然、内膜にくっ付いてます。解離は血液が中膜をベリベリッと破くので、内膜と外膜とが「解離」します。ですから、CXRの石灰化に注目すると、解離では石灰化が異様に大動脈弓の内部に見えることがあるとのこと。感度や特異度、尤度比はちょっと分かりませんでしたが、あまり見られる所見ではないのは確かなようです。あれば大きな武器になる、といったところでしょうか。この石灰化が離れて見えるサインは、弓部のみでなくそれ以降でも確認することが出来ます。

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 胸部の単純CTでも解離では石灰化が大動脈内腔の方に移動して見えます。これもカルシウムサインの1つと言えるでしょう。

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