2012
02.06

心音の聴診

 医者は学生の時に聴診器を買います。手にした時は「何となく医者だなー」と思ったものです。実際に心臓の音を聞いて見ても、最初は何が何やらだった記憶があります。懐かしいものですね。旧ブログにあった心音関係の記事をここにまとめておきます(学生の時に記載したものなので間違いがあるかもしれません…)。

 I音とII音。

I音…僧帽弁(と三尖弁)閉鎖の直後に生じる振動
II音…大動脈弁(と肺動脈弁)閉鎖の直後に生じる振動

 典型的な聴診の順序を示しましょう。

 まず、指で胸の心尖拍動(一番ドクンドクンって動くところ)を触知。そしてその触知した部位に聴診器(膜型)を当てます。もし触知できなかったら、左鎖骨中線第五肋間あたりに何となく聴診器を当てます。

 次に胸骨左縁第四肋間、胸骨左縁第三肋間(Erb領域)、胸骨左縁第二肋間、胸骨右縁第二肋間と移動させます。

 心尖部では ドントッ ドントッ ドントッ と聞こえてくるはずです。若いヒト(十代までかしら)なら ドントトン ドントトン と聞こえてきます(この「トン」は生理的III音)。残念ながら自分は若くないので聴こえませんでした…。親戚など、近くに子供がいれば聴いてみて下さい。

 さて話を戻して、、、 ドントッ のドンがI音で、トッがII音です。

 もうちょっと分かりやすくすると、次に聴こえてくる音との時間が短い方がI音。長い方がII音。聴こえ方を示すと

①② ①② ①② ①②

こんな感じになります。

 それでも分からなければ、心尖部から心基部(胸骨左縁第二肋間や胸骨右縁第二肋間)に移行していって、大きくなっていくのがII音ということになります。ちなみに正常の場合、心尖部ではI音はII音よりも大きく(心尖部は僧帽弁により近いため)、心基部ではII音の方が大きくなります(心基部は大動脈弁により近いため)。こんな風にするとI音とII音は判別できますが、それよりも楽な方法として、聴診と同時に頚動脈を触知するというのもあります。I音→頚動脈拍動→II音の順番なので分かりやすいです(I音と頸動脈拍動はほぼ同時)。

 ここで1つ例を。心尖部でI音よりもII音の方が大きく聞こえる時は何だろう??ということは、I音が小さいかII音が大きくなっているかのどちらか。つまり「I音の減弱」か「II音の亢進」を疑います。I音の減弱では左心室の機能低下を、II音の亢進では持続性の高血圧を考えます(がしかし、追補のエビデンスをご覧下さい)。

 でもでも、I音の減弱かII音の亢進かなんてワカランよ…。そんな時は、ベル型と膜型とを切り替えてみましょう。
I音がベル型では聴かれるけど膜型では聴きにくい、こういう時にI音の減弱を疑います。それ以外ではII音の亢進、となる訳、らしい。

 また例を1つ。II音の生理的分裂。注意深く聴くと、心基部でII音の分裂が分かります(心尖部では聴こえません)。正常では息を吸った時(吸気時)に ドントロン ドントロン ドントロン と聴こえ、吐いた時(呼気時)は ドントッ ドントッ ドントッ と聴こえるはずです。でも最初は、息を吸った時の雑音がかなり邪魔でとてつもなく聴きづらいので、息を止めてやや前かがみになって(自分の心音を聴いている時。他のヒトを聴診している時は前かがみになってもらって)聴いてみましょう。すると聴こえてきます。でもあまりはっきりしないヒトもいるそうですが。

 ちょっとポイント:心電図異常(不完全右脚ブロック)があり、II音が呼気時でも同じくらい分裂している場合(固定性分裂)は心房中隔欠損を疑います。

 I音・II音のエビデンス
①リズムが正常にもかかわらずI音の強さが変わっていたら、房室解離を強く示唆(LR+24.4)
②意外にも、IIpの亢進は肺高血圧を示唆しない!IIpの亢進がなくとも肺高血圧は否定できない!(感度58-96%、特異度19-46%、LR+NS、LR-NS)
③触知できるIIp音は、肺高血圧を示唆(LR+3.6)
④IIp音が触知できない場合、肺高血圧は否定的(LR-0.05)
-----
 今度はII音に絞ってお話しを。II音は大動脈成分(IIA:大動脈弁の閉鎖する音)と肺動脈成分(IIP:肺動脈弁の閉鎖する音)の二つからなります。普段聴いているII音はIIAがメインで、IIPは隠れてしまっているのですが、吸気(静脈還流が増加し、胸腔内圧が低下)によってIIAもIIPも両方聴こえます(これを「分裂する」と言います)。それは何故?ということで教科書から引っ張ってきました↓

第一に、右心室の拍出量が増加することによって肺動脈弁の閉鎖が遅れること、第二に、肺血管のコンプライアンスが吸気時に増強し、そのために左心系への還流血液が増強し、同様の機序で左心系の駆出時間が短縮するためである。

だそうです(何か難しい…)。ま、とにかく分裂するということで、、、、、。

 で、II音の分裂には「生理的分裂」「幅広い分裂」「固定性分裂」「奇異性分裂」があります。

 生理的分裂 physiological (respiratory) splitting は、吸気時に分裂して聞こえるというもので、生理的と言う名前の通り病的な意義はなし。

 幅広い分裂 wide splitting は呼吸サイクル全体を通して分裂が聴かれるというもの。呼気時にも分裂して聴こえますが、その幅は吸気時よりも小さいものです。右脚ブロック(最多)、肺動脈弁狭窄、僧帽弁逆流などで肺動脈弁の閉鎖が遅れることから出る所見。

 固定性分裂 fixed splitting も呼吸サイクル全体で聴こえるのですが、呼気・吸気の影響を受けません。ずっと同じ間隔を空けてII音が分裂しています。心房中隔欠損で聴こえるものです(前回ちょっと出ましたね)。心房でシャントが出来ることで、呼吸に伴う血液量の変化がキャンセルされてしまうために分裂が固定されてしまう、とのこと。
この固定性分裂が聴こえない場合は、ASDがないことを強く示唆します(LR-0.1)。聴こえてもASDと決め打ちはできません(LR+2.6)。

 奇異性分裂 paradoxical splitting 。如何にも名前が病的ですな。。。これは一般と逆で、呼気時に分裂して聴こえ、吸気時には分裂がなくなってしまうという、まさに奇異な分裂です。しかも、IIAが遅れるかIIPが早くなる→IIPがIIAに先行しているのです(普通はIIAの次にIIPが聴こえます)。これまた奇異ですね。大動脈弁の閉鎖が遅れたり、肺動脈弁の閉鎖が早くなったりという病態で聴こえます。左脚ブロックや大動脈弁狭窄が例として挙げられます。が、感度や特異度もあまり芳しくなく、臨床的な意義は薄いとされています(感度50%、特異度79%。LR+NS、LR-NS)。

 II音の判別っていうのもあります。心尖部から心基部にかけて幅広く伝わっているのがIIA。胸骨左縁第二肋間の辺りに限局しているのがIIPということに。

 何か色々あるもんですね。。。
-----
 最後に過剰心音を取り上げましょう。これには6種類を挙げておきます(他にもありますが、一応コモンなもの、重要なものとして)。

III音(心室充満音)、IV音(心房音)、僧帽弁開放音(OS)、大動脈駆出音(AE)、肺動脈駆出音(PE)、収縮中期クリック(K)

 これらですね。

 いきなりですが、とある患者さんの聴診で、II音の後に過剰心音を聴きました。さて、その鑑別は?
⇒IIp、OS、III音を考えましょう。

 IIpはII音の分裂で、II音(IIa)の直後にあり、音量は小さいです(心尖部聴診なら殆ど聴こえないはず)。OSですが、最近は僧帽弁狭窄症の患者さんが少なく、殆どお耳にかからないとのこと。IIpと比べるとII音から離れて、高い音なんだそうです。III音はII音から最も離れていて、心尖部で良く聴こえます。これには生理的III音と病的III音がありまして、前者は若年者で聴かれるもの(正常でも聴こえないことが多いのですが、その時は一応高血圧や心筋の肥厚を疑うとのこと)。I音、II音も大きく聴こえ、III音の音程も高いのが生理的の特徴です。病的なものですと、I音が小さく聴かれて、III音の音程が非常に低いです。ベル型で注意して「あるかーあるかー」と聴きましょう。病的III音はCHFによる容量負荷、僧帽弁・三尖弁の逆流なんかで心室機能が低下したら出てくるもの。心室性奔馬調律ventricular gallopなんて言われたりもしますね。ギャロップ、何か循環の講義で聞いた覚えのある単語。。。拡張型心筋症dilated cardiomyopathy(DCM)でも聴こえることで有名。DCMは残念ながら予後不良の疾患。心臓移植を受けなかった場合の5年生存率は50%未満とのこと。

 では、またとある患者さんの聴診で、II音の後というよりはI音の前(直前)で過剰心音を聴きました。さて、鑑別は?
⇒IV音、I音の分裂、くらいかしら。。。

 IV音。これはIII音と比較すると臨床的意義は低いとされています。心尖部で聴取されますが、この子も音が低くて聴こえづらいので、ベル型を使いましょう(III音・IV音は患者さんを左側臥位にすると聴きやすくなります)。左室の拡張障害が起こっていることを示しますから、左室肥厚(肥大型心筋症や高血圧)のため、左室拡張末期圧が上昇している状態なんです(容量負荷というよりは圧負荷)。大量の血液の柱が心室に流れ込んで、心房の収縮が大きくなることで発生。心房性奔馬調律atrial gallopなんて呼ばれ方もします。肥大型心筋症hypertrophic cardiomyopathy(HCM)は突然死の原因になったりなんぞしますが、多くの患者さんでは肥大は軽度で、普通に寿命を全うできるようです。遺伝子の突然変異が関わっているそうですね、この疾患。I音の分裂はあんまり重要な所見とは考えないというのが一般的のようです(と言うと怒られそう…)。じゃあ問題なのが、IV音とI音の分裂との聴き分けとなります。これはベル型と膜型を使い分けることで解決。ベル型で良く聴こえるのがIV音。逆がI音の分裂です。

 III音、IV音の両方が聴こえる患者さんではI音、II音とともに四部調律となります。これで頻脈になったら、III音とIV音とが重なって重合奔馬調律summation gallopというものになります。頻脈で三つ音が聴こえる、となったら重合奔馬調律を考えたいですが、正確なものは徐脈にしてみないと分からないのではないかしら、と思います。どうなんでしょう、実際。

 収縮中期クリックは、I音とII音との間に聴かれるもので、結構高い音になってます。I、クリック、IIの順で「タパタ、タパタ」なんて聴こえるみたいです。僧帽弁逸脱症で名に負う代物ですが、この音単独では臨床的な重要性は低いと考えられていて、僧帽弁逆流雑音が同時に聞かれなければ特に問題は無い様子。本当かどうかは定かではありません。

 駆出音は、大動脈弁狭窄や肺動脈弁狭窄の時に収縮期雑音の直前に発する過剰心音でして、弁狭窄と弁下狭窄の鑑別に用いられるそうです(前者は駆出音あり、後者はなし)。また、先天生の大動脈二尖弁でも聴こえるみたいですね。AEとPEとの鑑別は非常に難しいので、他の所見を参考にすべし、というのが沢山先生(聴診の大御所)のお言葉。後ですね、駆出音はI音の病的分裂として括っても良いみたいです。あんまり大事にするような音ではないというのが、個人的な意見(あくまでも個人的な意見です)。

 過剰心音のエビデンス
①III音が聴こえることの意味
 駆出率<0.5を示唆(LR+3.4)
 左房内圧を示唆(LR+5.7)
 BNP上昇を強く示唆(LR+10.1)
 胸痛患者が心筋梗塞であることを示唆(LR+3.2)
 呼吸困難で救急外来を受診した患者では心不全を強く示唆(LR+11)
②術前評価でIII音が聴こえることの意味
 術後の肺水腫をを強く示唆(LR+14.6)
 術後の心筋梗塞や心臓死を強く示唆(LR+8.0)
③III音が聴こえないことの意味
 駆出率>0.3を示唆(LR-0.3)
④IV音が聴こえることの意味
 心筋梗塞後の5年生存率が低下することを示唆(LR+3.2)

 以上で心音の聴診について、軽くまとめました(心雑音は扱ってないですが)。あくまでも学生時代に記したものなので、鵜呑みにしないようにお願いいたします。でも精神科となった今の自分よりも色々知っていたような。。。もはや修正、確認する知識もなくなりました…。
トラックバックURL
http://m03a076d.blog.fc2.com/tb.php/733-a530dc3d
トラックバック
コメント
管理用閲覧コメントをくださった方、ありがとうございます。

生理的III音ですか。若い心臓を持ってらっしゃいますね。うらやましい。
自分が学生の頃につくった昔の記事なので、何か明らかな間違いがあるかもしれません。でも、今の自分にそれを発見して直す力もなくなってしまい…。精神科になると知識が消えていってしまいまして。。。
一応、循環器の大御所である沢山俊民先生のご意見を参考にまとめた様な記憶があります。
病的III音や心尖拍動の触知などは、心不全への特異度が非常に高く、診察の重要性を教えてくれます。
これから大変でしょうが、お勉強がんばってくださいね(最近、自分のブログは精神科ばっかりになってしまったのであまり参考にならないかもしれませんが)。
m03a076ddot 2013.06.02 07:10 | 編集
管理人用閲覧コメントを下さった方、ありがとうございます。
若いって良いですねー。自分は1日単位で体力の低下を実感し、嘆いております。
最近は1年生でも色々と医学の授業があるんですね。随分変わったなぁと実感してます(大学の違いかもしれませんが)。
電子聴診器!めちゃくちゃ高いですよ、アレは。性能は良いのですが、価格のこともありあまり使っている先生はいないです。自分が前に勤めていた病院の総合診療科の先生が「良いでしょ、これ」と嬉しそうにしておりました。すごくよく聞こえるそうで。学生さんや研修医で使う人はごく少数かなと思います。臨床に役立たないというわけでは決してなく、やっぱりお値段かなと。性能そのものは抜群です。良いモノをもらいましたね。
医者になる理由は千差万別ですね。どんな理由でも、他人様の命を預かる職業ということに責任と矜持を持って臨まれんことを願っています。
将来、あなたを待っている患者さんが必ずいます。1人1人の患者さんの、人間としてのありようを理解してける良いドクターになって下さいまし。
m03a076ddot 2013.06.02 21:51 | 編集
管理者閲覧用コメントを下さったかた、ありがとうございます。

学生さんが企画したんですね。随分と熱心で感心しました。
病的なIII音はベル部で「ある!」と思って聞かないとなかなか聞こえてこず、難しいなぁと思っています。
ご自身の生理的III音で、出てくる音のタイミングをぜひ掴んで下さい。
医学の勉強もさることながら、大学生活は見分を深めるチャンスです。
たくさん色んな事に触れてみてください。
m03a076ddot 2013.06.07 00:27 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top