2012
02.04

救急外来で使用する検査項目~トロポニン-T(ラピチェック追加)

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 胸痛患者さんではトロポニンTを使うことが多いと思いますが、この検査特性を理解してから使用するようにしましょう。

 トロポニンTは自分の勤務している病院で使用できる心筋マーカーの中で最も早期に陽性となり、救急外来でも「胸痛で救急車。はいトロップTね!」という勢いで使われ、とりあえずビール的な印象。でもここで大事なことは、心筋梗塞の発症から測定までの時間によって尤度比が大きく変わるという点。2009年NEJMの報告を示します(1)。

発症から3時間以内:感度55.2%、特異度95.7%、LR+12.8、LR-0.47
発症から6時間以内:感度62.1%、特異度94.9%、LR+12.1、LR-0.40

 他の文献でも大体こんなもんじゃないでしょうか。尤度比を見ると、3時間以内でも陽性尤度比は10以上を示して有用性が高いと言えます。しかし、陰性尤度比は6時間以内でも0.4であり、検査後確率を大きく下げることにはなりません。仮に心筋梗塞の検査前確率を50%とすると、LR-0.4では検査後確率は30%ほどとなり、除外するには程遠い値。ここに注意して下さい。

 LR-0.2というある程度除外に有用性のある数値を出すには、発症から6-8時間経過することが必要になります。トロポニンTが陰性だから心筋梗塞の可能性は低い、とは一概に言えないということは必ず覚えておきましょう。大切な知識ですよ。

 陽性の場合は非常に心筋梗塞の可能性が高くなりますが、それも検査前確率に左右されます。心筋梗塞の検査前確率が50%で、発症から3時間以内のトロポニンTが陽性ならLR+12.8ですので、検査後確率は92%ほどになります。しかし、検査前確率が10%であればトロポニンが陽性でも検査後確率は60%に満たないのです。

 偽陽性の例としては、心筋炎や肺塞栓、大動脈解離、心不全、高度腎不全、骨格筋障害、蘇生後の外傷などなど、多彩な疾患で上昇します。この事実も覚えておき、むやみやたらに検査を乱発したり、その結果に振り回されることのないようにするのが肝腎。

 心筋梗塞に限らず、ある疾患をどれだけ疑っているかで、それを対象とする検査の意義はかなり変わってきます。「検査陰性=その疾患ではない」「検査陽性=その疾患である」という判断は非常に危険です。常に病歴と患者背景、そして診察から適切な検査前確率を弾き出すようにしましょう。

 上記でお分かりなように、トロポニンTは決して完全な検査ではありません。陰性でも疑わしければ循環器内科コンサルトで、、、という安全志向がやはり重要かもしれませんね。

 また、日本で発見されたマーカーにH-FABP(ラピチェック)というものがあります。早期除外と言う意味ではトロポニンTよりも優れてるんですけど、それでも単独で除外の役割を担えません。2010年のAmerican Journal of Cardiologyでは、ラピチェックとトロポニンTの併用を検討しています(2)。胸痛発生から4時間以内の段階でラピチェック単独だと感度86%、特異度66%(LR+2.5、LR-0.2)という値でした。トロポニンTと組み合わせてどちらかが陽性になった場合、感度93%、特異度66%となりました。これだとLR+2.7、LR-0.1となり、確かに有用ですね。4時間以内でこの陰性尤度比は、何と高感度トロポニンIでも不可能な数字なんです。4時間を超えた場合、ラピチェックとトロポニンTとを組み合わせたものの感度は100%、特異度が64%となっています(LR+2.8、LR-0)。この論文はトロポニンTの検査特性がイヤに高く出ており、しかもn=97という小規模。それを考慮する必要があると思いますが、併用は優れているということを示す良い論文だと思います。

 そこまで言っておいてナンですが、現時点で残念ながらラピチェックとトロポニンTの同時測定は保険上認められていないのでした。。。
 
 まとめですが、トロポニンTはそれ単独では決して除外できない検査です。それはどのマーカーにも言えることで、ラピチェックとの組み合わせを行うにせよ同様です。検査に依存せずに、適切な検査前確率の設定が求められます。陽性の際は心筋梗塞をやはり念頭にし、他の鑑別疾患(偽陽性を示す疾患)を手早く除外することが必要になります。


☆参考文献
1) Sensitive Troponin I Assay in Early Diagnosis of Acute Myocardial Infarction; N Engl J Med 2009; 361:868-877; August 27, 2009
2) Comparison of Usefulness of Heart-Type Fatty Acid Binding Protein Versus Cardiac Troponin T for Diagnosis of Acute Myocardial Infarction; American Journal of Cardiology; Volume 105, Issue 1 , Pages 1-9, 1 January 2010
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