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2019
10.20

神経梅毒について

 NEJMに神経梅毒のレビューが出ていました。精神科領域でもまだまだ精神症状の鑑別疾患に挙げられており、最近は日本でも感染者が増加しています。自分は「これは精神疾患ぽくないぞ」と思って梅毒検査をしたら見事陽性になった患者さんを覚えています。病歴からは心因とも言えそうだったのですが、症状そのものがどことなく「何か変だな…」という、言葉にしづらい違和感がありました。深刻味がないというか、悩みが強くないというか、どことなく他人事のような感じだったのです。心因であればもっと患者さん自身が強く悩むはずのことなのに、どこか感心が薄くて、とても奇妙でした。それが「器質っぽいなぁ」と思ったきっかけ。もちろん全員がそうではないのでしょうけれども、その患者さんのことが記憶に残っています。

 このレビューについて、全文の訳ではなくまとめとして以下に。

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Neurosyphilis. N Engl J Med. 2019 Oct 3;381(14):1358-1363. PMID: 31577877

●はじめに
 1期や2期の梅毒は2000年以降のアメリカで毎年増加傾向にあり、2017年は100000人中9.5人の割合となりました。神経梅毒は200年にわたって神経内科と精神科の分野で問題となる疾患でした。ただし、現代では数が少ないため、見過ごされる傾向にあります。神経梅毒はペニシリンが導入される前の時代と比較すれば稀ですが、臨床的に梅毒と診断される状態、もしくは眼科病変のある状態の患者さんの3.5%には、CSFの検査では神経梅毒が見られるとされます。また、初期梅毒の半数はHIVにも感染しており、その共感染の患者さんでは神経梅毒が2倍ほど多いとも言われます。

●症状など
 神経梅毒による症状と、1期~3期との関連については図1に示されています。最初の感染後数日以内に、トレポネーマは神経系に入り込み、神経梅毒は無症候性か症候性か、そして初期(最初の感染から1~2年後)か晩期に分類されます。晩期には進行麻痺や脊髄癆が含まれます。

図1

 神経梅毒に関する情報はペニシリン導入前に多くが語られています。ただし、HIVの共感染がある場合は神経学的な特徴がより早く出現する可能性があるということが、1990年前後から指摘されてきています。
 初期の神経梅毒はたいてい無症候性髄膜炎であり、CSF中の細胞反応のみです。しかし、頭痛、髄膜症、脳神経の麻痺、失明や難聴といった症状を認める場合もあります。南アフリカで行われた試験では、無菌性髄膜炎と診断された患者さんの3.3%は梅毒によるものでした。髄膜血管型梅毒は中枢神経系における小~中サイズの動脈の炎症がある髄膜炎であり、脳卒中や様々なタイプのミエロパシーを起こします。髄膜血管型梅毒はたいてい初期から晩期に一時的に出現し、典型的には最初の感染から1~10年で起こります。
 晩期の症候性神経梅毒は最初の感染から数十年で進展しますが、ペニシリン導入前は10~20%に見られていました。典型的なものは進行麻痺と脊髄癆です。両者ともスピロヘータの侵入に対する慢性的な反応と神経組織の破壊によるものであり、髄膜血管病変のために生じる脳梗塞も認めることがあります(表1)。

表1

 進行麻痺は狂気の概念を変えました。それは種々の精神疾患と同様の症状をもたらす構造的な脳の障害だったのです。誇大妄想を伴い、前頭葉と側頭葉が障害される認知症なのです。言葉も途絶や反復のパターンとなります。治療されずにいた場合、精神と身体の統制が取れなくなり、けいれんをよく伴います。現代では、進行麻痺は精神病状態、抑うつ状態、人格変化、特異的な徴候なく進展する認知症が特徴であり、時折華々しい妄想を伴います。
 脊髄癆はRomberg徴候を伴う歩行性の運動失調が特徴であり、ほとんどの場合、Argyll Robertson pupilsを伴います。歩行はstamp and stickと言われ、その音とリズムが特徴でしたが、今では糖尿病性ニューロパシーや多発性硬化症で見られることがより多くなっています。Charcot関節についても同様です。腹部や四肢の刺すような痛みは緊急手術を要する疾患と間違われます。原因は不明ですが、脊髄癆は進行麻痺よりも珍しいものとなってきています。

●診断は?
 診断は、血清やCSFの血清学的検査やCSF中の白血球数や蛋白の上昇によります。しかし、これらは不完全であり、ベンチマークとなりません。神経梅毒に対する血清学的検査はVDRLやRPRやトレポネーマ抗原を用いたFTA-ABSなどがあります。神経梅毒はたいていCSFの細胞数増加を伴い、これは数十年で減少していきます(表1)。そして、蛋白の軽度な上昇も認めます。HIV関連性髄膜炎の存在のため、細胞数増加はHIV感染のない患者さんよりもある患者さん、中でもHIV治療を受けていない患者さんや末梢血CD4+T細胞が多い患者さんでは特異度が低くなります。
 血清のVDRLやRPRは2期を過ぎてもほぼ全ての患者さんで陽性となりますが、晩期の神経梅毒では陰性になり、特に治療後では顕著です。CSFのVDRLは神経梅毒に特異的ですが、感度は30~70%しかありません。CSFのRPRは偽陰性がやや高くなります。神経梅毒を疑うような症状があるにもかかわらずCSFのVDRLが陰性であれば、CSF中のトレポネーマ抗原を用いた検査をすべきでしょう。諸検査の感度や特異度は表2に示されています。血清やCSF中のトレポネーマ抗原を用いた検査は未治療の場合は終生陽性となります。しかし、CSFの検査は合併症のない梅毒を治療した後、最大15%の患者さんで年余にわたり陰性となります。CSFのFTA-ABSは、血液のコンタミで赤血球が1000/mm3を超えていれば偽陽性となることがあります。

表2

 臨床的には、症候性の神経梅毒の診断は血清FTA-ABSが陽性(既感染を示唆)かつCSFのVDRLが陽性(神経梅毒を示唆)をもってなされます。CSFのトレポネーマ抗原を用いた検査が陰性であれば、無症候性の神経梅毒を除外でき、症候性の可能性も押し下げます。しかし、特に神経梅毒に一致するような症状がある場合には、決定打とはなりません。アメリカでは神経梅毒を含めた梅毒感染者に対してはHIV感染の検査が勧められています。

●CSF検査について
 血清中の検査が陽性であり神経梅毒に一致するような症状がある場合、CSFの検査が推奨されます。CSF中の白血球数を追うことで治療の妥当性がわかり、細胞数増加が6ヶ月以内に抑えられない場合、また治療後2年で駆逐できなければ、再治療が示唆されます。ある研究では、血清RPR力価が4倍にまで低下するか、または陰性になった場合、CSFの再検査は不要と指摘されています。しかし、私たちは細胞数が駆逐されるまでCSFの検査を行なっています。神経学的に無症候性の神経梅毒患者さんでHIVの共感染がある場合においても、十分な治療を行なった後に繰り返しCSFの検査を行うことの有用性は不明です。認知症に対し梅毒のCSF検査をルーチンで行なうことは勧められていませんが、HIB感染など梅毒のリスクがあれば、検査は適切かもしれません。

●治療
 過去50年で進行麻痺が稀になってきており、これは初期の梅毒治療が神経梅毒への進展を防いでいることを示しています。ペニシリンの非経口投与は神経梅毒のすべての病態に有効です。アメリカ、イギリス、EUのガイドラインは若干異なっています(表3)。歴史的な経験から、ペニシリンは晩期神経梅毒を改善させはしないけれどもその進展を食い止めるであろうことが分かっています。

表3

 ペニシリンアレルギーの場合は、皮内テストと脱感作が推奨されます。エビデンスは限られていますが、セフトリアキソン、テトラサイクリン、ドキシサイクリンが神経梅毒の治療に有効です。しかし、ペニシリンが強く推奨されます。

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ということでした。今回のレビューは簡潔にまとまっていると思います。多彩な症状を呈し、あのオスラーをして「the great imitator」「He who knows syphilis, knows medicine.」と言わしめた梅毒。疑わなければ診断できない疾患の代表格とも言えるでしょう。個人的に、このレビューにはもう少し精神症状に突っ込んだところが欲しかったのですが、それは精神科医だからですね…。
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