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2018
08.14

精神病性障害のレビュー

Lieberman JA, et al. Psychotic Disorders. N Engl J Med. 2018 Jul 19;379(3):270-280. PMID: 30021088

 NEJMで精神病性障害のレビューが出ていたことに気づいたため、読んでみました。コンパクトにまとまっていると思います。遺伝のところは自分の知識がなく、理解がうまく進みませんでしたが…。要所要所を訳したので、細かいところは飛ばしています。

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 PSYCHOSISという言葉は、ギリシャ語の "心が異常な状態" から来ており、臨床では様々な意味で用いられてきました。1980年以前は、生活を十分に送ることができないほどに精神的な機能が障害されている人々に対して使用されていましhた。DSM-IIIが発行された1980年以降、この用語は現実の判断が全体的に障害されていることを示すようになりました。すなわち、自分の内的な経験と周囲の外的な現実との区別がつかなくなることです。
 診断精度を上げるため1994年にDSM-IVが発行されましたが、そこでpsychosisは妄想、厳格、解体した思考、音連合、言葉のサラダ、エコラリア、異常な運動行動といった症状が特徴となる精神障害を指すようになったのです。
 現行のDSM-5において、精神病性障害は疾患ではなく臨床的な症候群であり、主に罹病期間、症状のプロフィール、気分症状のエピソードと精神病症状との関係性、そして原因によって、細分化されています。現在では、psychotic symptom (精神病症状) は認知機能や知覚の機能不全であり、それは主に幻覚妄想を指します。いっぽう、psychotic disorder (精神病性障害) は精神病症状を有する疾患の診断基準に該当する状態を指します (コメント:よって、精神病理学者のいう "統合失調症" と、DSM世代のいう "統合失調症" は異なるのでしょう。そして、精神病理学者のあいだでも "統合失調症" は異なるのでしょうね)
 Psychosis (精神病状態) は3つのグループに分類されます。特発性、他の医学的疾患 (身体疾患) によるもの、中毒性、です。原因が判明しており、それやその結果に対して直接的に治療がなされうるような状態は、特発性からは外れます。この分類は恣意的であり、精神病性障害についての私たちの知の限界を反映しており、研究によって病理的な基盤や原因が判明すれば変更されます (コメント:古くはてんかんが三大精神病のひとつでしたが、原因がハッキリと分かったため外れました。原因が分かったものはどんどん外されていき、結局、精神医学は謎なものを相手にし続けるものなのでしょうね)

●Psychosisの自然史
 最初に精神病症状が出現する年齢と症状の経過は、基礎となる障害によって様々です。統合失調症、双極性障害、精神病症状を伴ううつ病といった、もっともコモンな精神病性障害は20代から30代に発症します。いっぽう、妄想性障害は中年であり、アルツハイマー型認知症など神経変性疾患による精神病状態は老化していく間に始まります。薬物乱用や処方薬による精神病症状、SLEやてんかん発作や発熱など身体疾患 (とそれによる症状や所見) による精神病症状はどの年齢でも起こりうるものです。特発性ではなく二次的な精神病状態 (中毒性や身体疾患によるもの) を示唆する特徴は、機能が急激に低下すること、突然発症、頭痛・てんかん発作・幻視・幻臭・幻触の存在、精神病性障害の家族歴がないこと、です。
 特発性の精神病性障害、特に統合失調症と失調感情障害はたいていfig. 1のような経過をたどりますが、予測が難しく、症状の起こる頻度や数や型は障害によって異なり、また同じ障害でも患者さんごとによって異なります (コメント:統合失調症ひとつとっても、本当に千差万別です)

schz fig1

 精神病性障害の患者さんは様々な併存症や精神病状態から派生する影響を被る可能性があります。特に自殺企図 (生涯有病率34.5%)、物質乱用 (生涯有病率74%)、ホームレス化 (年有病率5%)、被虐待 (3年有病率38%)、暴力 (一般人口と比較してオッズは49-68%)がそうです。

●原因と病理学的特徴
精神病状態における神経伝達物質
 前頭前皮質、線条体、中脳、海馬におけるドパミンとグルタミン酸経路での神経伝達が変化しており、その変化が精神病症状の出現につながっています (fig. 2)。この病態生理モデルは、シナプスでのドパミンとグルタミン酸の過剰がシナプス後部への刺激を高め、それが精神病症状をもたらすという多くの研究に基づいています。GABA作動性抑制性介在ニューロンの欠損とNMDAグルタミン酸受容体の機能低下によって、グルタミン酸とドパミンによる神経系の抑制と興奮のバランスが乱れてしまいます。最近、グルタミン酸の合成や代謝を調節するメカニズム (グルタミン酸デヒドロゲナーゼの欠損) もまた関与している可能性が示唆されています。
 物質誘発性の精神病状態の中には、これら神経伝達物質のメカニズムを理解する際に参考となってきたものがあります。例えば、カンナビノイド-1受容体 (CB-1受容体) アゴニストを含むようなカンナビノイドが精神病状態をもたらし、またそのリスクにもなります。カンナビノイド受容体はシナプスでドパミンやグルタミン酸のトラフィッキングをガイドします。他には、合成カチノンである “bath salts” のようないわゆるデザイナードラッグはドパミンやセロトニンを強力に放出し、同様の精神病症状を引き起こします。
 ある種の精神病状態はセロトニン5-HT2A受容体の刺激によってもたらされます。LSD、メスカリン、シロシビンといった幻覚剤は非古典的な細胞内シグナル経路を選択的に活性化させることで (5-HT2A受容体のbiased stimulation)、使用した者に精神病症状と見紛うような状態をもたらします。精神病性障害の病態生理としてセロトニンや5-HT2A受容体が関与しているように思えます。しかし、その作用を持つ幻覚剤による障害は、アンフェタミンやNMDA受容体アンタゴニストといったグルタミン酸活性を高める精神刺激薬によって引き起こされる障害、そして特発性の精神病性障害とは質的に異なるものです。

schz fig2

fig. 2
ドパミン (青矢印)、グルタミン酸 (紫矢印)、GABA (緑矢印)
統合失調症や精神病症状を伴う気分障害は、海馬CA1部位の細胞へグルタミン酸を放出する神経の過剰な活動から生じると考えられています。海馬でのGABA作動性抑制性ニューロンの欠損とNMDA受容体の機能低下 (赤い☓印) が、これら疾患の主な原因とされています。シナプスでグルタミン酸が増加しても、介在ニューロンが活動を示しません。そのため、GABAの放出が少なくなり、錐体細胞を阻害できず、海馬から中脳腹側被蓋野や線条体側坐核へグルタミン酸がより放出されます。海馬の過活性は線条体へのドパミン放出を促します。それは、直接的には側坐核のレベルで、間接的には側坐核や前頭前皮質に投射する中脳ドパミンニューロンを刺激することでなされます。中脳ドパミンニューロンはさらに海馬への投射を介してドパミンとグルタミン酸の機能不全を促進します。精神病症状はこれらの経路に影響する非特発性の疾患でも生じることがあります。アルツハイマー病では、コリン作動性のシステムが働かなくなり、海馬のグルタミン酸作動性細胞や中脳のドパミン作動性細胞へのコリン作動性の阻害がダウンしてしまいます。


精神病状態の遺伝因子
 特発性の精神病性障害には、遺伝が強く関与しています。統合失調症や精神病症状を伴う双極性障害は一卵性双生児においてある種の遺伝子座 (座位) で約50%の一致が見られます。そして、患者さんの兄弟や親では同じ障害のリスクが一般人口の10-15倍にまで高くなります。精神病性障害の遺伝に特異的なマーカーや様式は同定されていませんが、2つの仮説が提唱されています。ひとつはcommon disease-common allele仮説であり、もうひとつはcommon disease-rare allele仮説です。前者によれば、浸透率の低いありふれた遺伝子が相加的に、そして同じような遺伝子とのepistasis (コメント:非対立遺伝子間の相互作用) によって、統合失調症や失調感情障害のリスクとなります (コメント:第一の仮説というのは、コモンな疾患は、頻度は多いけれども影響の少ない多型が積み重なってできているとするものです。ジャブが積み重なって相手がフラフラになるような?)。後者によれば、まれな遺伝やde novo変異やCNVであり、見られることは少ないいっぽうで浸透率が非常に高いというものです (コメント:珍しい技ですが威力の高い一撃必殺、クロスカウンターのような?)

浸透率の低いコモンな遺伝子変異
 精神病性障害のリスクに関与する多くの遺伝子のうち、信頼性の高いものはごくわずかです。特発性の精神病性障害と関連のある遺伝子のうち、シナプスの神経伝達をコントロールするものがいくつか指摘されており、それは特にドパミンとグルタミン酸の経路に関わるものです。この関連性は現在の神経伝達物質の仮説と一致するものであり合理的ですが、確たるものとまでは言えません。最近の発見では、MHCの座位や補体といった免疫機能に関与する遺伝子が関連性を指摘されています。中枢神経において、MHC分子はミクログリアによるシナプス前終末の刈り込みを通して神経接続の発達を調節しており、神経回路やその機能の形成に影響を与えます (コメント:統合失調症ではシナプスの刈り込みが過剰に行なわれていることが指摘されています。対して自閉スペクトラム症では刈り込みが過少とも言われます)

浸透率の高いまれな遺伝子変異
 精神病性障害に関わるもっともコモンな遺伝子異常は染色体22q11.2の微小欠失です。これは22q11.2欠失症候群 (口蓋心臓顔面症候群やDiGeorge症候群とも言われます) を引き起こし、4000出生のうち1人に見られます。この疾患は心臓や顔面や四肢の異常を伴い、約25%の患者さんは統合失調症の症状や統合失調症様の特徴があり、特発性である統合失調症とはおおよそ区別がつきません。他にも浸透率や集団頻度に関して種々のCNVが報告されています。

精神病状態における神経発達の要因
 出生前の環境負因 (母体感染、薬剤毒性、栄養失調など) への曝露、出生時合併症、出生後外傷、発達の重要な時期における養育不全などが精神病性障害のリスクとなります。エフェクトサイズは小さいのですが、これら環境要因は遺伝要因と相互作用することもあれば、独立して影響を及ぼすこともあります。また、精神病性障害の表現型模写を生み出すこともあります。

精神病状態における自己免疫や炎症
 精神病状態のカテゴリーの中には、自己免疫疾患や炎症性疾患に伴って症状が発露するものもあります。自己抗体が脳の神経伝達機能、特にグルタミン酸系に障害をもたらします。このグループは臨床や研究において注目されています。

自己免疫疾患と精神病状態
 精神病症状はSLEなど中枢神経に影響を及ぼす自己免疫疾患で生じます。SLE患者さんの約30%において、NMDA受容体のNR2サブユニットのエピトープと反応するdsDNAに対する抗体が出現します。そして、実際に精神病症状が出現する患者さんもいるのです。

腫瘍による自己免疫症状
 統合失調症と似た症状は、ある種の自己免性脳炎の特徴でもあります。主に卵巣奇形腫によるものであり、組織内の異所性細胞がNMDA受容体を発現し、獲得免疫がそれへの抗体を産生します。この抗体が血液脳関門を通過し症状を生み出してしまいます。他の自己抗体も精神病状態をもたらすものの、この抗NMDA受容体脳炎ほどには確立されていません。

●診断
 様々な仮説はありますが、診断は臨床的になされるものであり、病歴や言葉、そして振る舞いなどに主に基づいています。画像や脳波、遺伝子型、血液検査などは初回エピソードで身体疾患によるものを疑った時になされます。しかし、精神病状態の個々の診断において、十分に有用なものは存在しません。

画像
 MRIやPETによって、精神病性障害の様々な異常所見が明らかになってきました。しかし、他のバイオマーカーと同様、信頼に足るレベルではなく臨床には使用されていません。

神経生理学的検査
 身体疾患が疑われる初回エピソードでは脳波は考慮されてもいいでしょう。精神病性障害でもある種の異常が指摘されていますが、これも臨床で使用できるものではありません。

血液検査
 梅毒検査は初回エピソードでは推奨されており、また全身性のウイルス感染の後に突然発症した場合、そして特発性の典型例から外れる年齢で発症した場合には、免疫状態も考慮すべきでしょう。

●治療
薬剤治療
 約20の抗精神病薬が米国にはあり、全てがドパミンD2受容体に作用するものです。これらは様々な障害の精神病症状の治療に有用ですが、基礎疾患や薬剤の代謝や排泄などによって有効性は変わります。旧来の (定型、もしくは第1世代) 抗精神病薬は錐体外路症状を引き起こしやすく、新規の (非定型、もしくは第2世代) 抗精神病薬は代謝異常をより来たす傾向にあります。クロザピンは例外であり、錐体外路症状をほとんど引き起こさず、治療抵抗性に対して治療効果を示します。しかし、クロザピンは重篤な副作用があり、それらはけいれん発作 (約4%)、心筋炎 (約1%)、無顆粒球症 (約0.8%) などです。それゆえ、治療抵抗性への使用が主となっています。
 アドヒアランス向上のため持効性注射薬もありますが、臨床的な有用性に関するエビデンスは一貫していない (コメント:内服薬よりも優れているとは言えないとしたメタ解析があります。Schizophr Res. 2017 May;183:10-21. PMID: 27866695)。また、抗精神病薬への様々な付加療法が行なわれてきましたが、有効性は小さく、エビデンスは限られています。そして、同じことが抗精神病薬の多剤併用にも言えるのです。
 D2受容体への親和性を持たずに5-HT2A受容体アンタゴニストとして非常に強く働く薬剤 (ピマバンセリンなど) はドパミン置換療法を受けているパーキンソン病患者さんの精神病症状に有用かもしれません。パーキンソン病患者さんでは、抗精神病薬はパーキンソニズムを悪化させるため相対禁忌です。こういった5-HT2A受容体アンタゴニストは認知症に伴う精神病症状において臨床試験中です。しかし、統合失調症や統合失調感情障害や精神病症状を伴う気分障害などではD2受容体アンタゴニストよりも効果が弱いのです。精神病症状が身体疾患によるものであれば、治療は抗精神病薬の前にその疾患 (発熱、感染、電解質異常、代謝内分泌異常など) を治療すべきです。薬剤、特に抗コリン作用を持つものはせん妄や精神病状態の原因となります。

ニューロモデュレーション
 ECT, TMS, tDCS, DBSといった脳刺激は一定の障害における精神病症状に対して用いられてきました。
 幻聴に対しては有望な治療法とされています。最近ではtDCSが統合失調症の陰性症状や幻聴に効果を認めたという報告があります。
 DBSは現在パーキンソン病と治療抵抗性の強迫性障害に対してFDAから承認されており、治療抵抗性うつ病や特発性の精神病性障害についても効果が検討されています。

心理社会的アプローチ
 特に統合失調症について、SSTが研究されており、他には家族への心理教育も支持されています。また、CBTも幻聴や妄想による苦痛を和らげるとされています。

●将来に向けて
早期介入と予防
 現在の薬剤治療は疾患そのものに切り込むのではなく症状を緩和していると考えられています。しかし、病初期において、統合失調症や統合失調感情障害の初回エピソードの段階で治療することは再発を減らし、知能や機能の著しい低下を防ぎます。よって、構造的なサービスモデルであるCoordinated Specialty Careが治療向上のため進歩してきました。このモデルは薬剤治療と心理社会的治療、そして未診断の患者さんの発見や未治療期間の短縮のためのアウトリーチから成っています。
 NIMHはこのアプローチを前駆期に広げることを考えるようになりました。しかし、ハイリスク状態から発症する患者さんを同定する現行の診断基準では50%以上の偽陽性があり、より良い診断方法が確立されねばなりません (コメント:不必要な治療をしてしまいますし、患者さんやご家族にも大きな不安を与えるでしょう)。そして、増悪するのか、安定や一過性か、もしくは改善するのかなどを見極められる検査も必要でしょう。現在の治療は症状を改善させることは出来ますが、予防には至っていないのです。

画期的な治療
 遺伝子をターゲットにしたものが期待されており、エクソームシークエンスが必要となります。

●サマリー
 Psychosisは、ドパミンとグルタミン酸の神経伝達が調節不全となることで、認知や知覚といった機能が全体的に障害されることを反映しています。D2受容体アンタゴニストは特発性の精神病性障害や神経変性疾患に伴う精神病症状における薬剤治療の主流となっています。いっぽう、他の身体疾患や薬剤による精神症状に常に用いられるわけではありません。かなりの金額が投入されてきましたが、薬剤治療の新しい展開は残念ながらほとんど見られていません (コメント:それどころか、向精神薬の開発から撤退する企業が増えているのです!)。ニューロモデュレーション (DBS, TMS, tDCS) やCoordinated Specialty CareでのD2受容体アンタゴニストを用いた早期発見と介入の戦略は、症状の緩和そして疾患の進行そのものへも影響してくるでしょう。

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 以上です。抗精神病薬の開発は何だか頭打ちのような感じで、いまだにD2受容体アンタゴニストを超えるものは出てきていませんし、ハッキリとした増強療法もありません (メマンチンもしょぼいし、ミルタザピンはどうでしょうか。アロプリノールは少しマシかも?)。このことから、必然的に医療者の興味は早期発見と早期介入に向かっているような気もします。

 今後は、数回に分けて統合失調症の治療薬について記事にしていく予定 (7月の夏休みに読んだ文献を3つ)。
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