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2018
08.25

統合失調症治療におけるcGMPの役割

Shim S, et al. An emerging role of cGMP in the treatment of schizophrenia: A review. Schizophr Res. 2016 Jan;170(1):226-31. PMID: 26706197

 今回は統合失調症治療薬における細胞内経路の可能性を見てみます。初回がドパミン受容体阻害薬、前回がグルタミン酸受容体、そして最後の今回が前回でもちょっと出てきた細胞内経路。

 休暇中に読んだ最後の論文。7月の夏休みはゆっくり論文を読めたし知識の整理にもなったので、良しとしましょう。

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●導入
 統合失調症は人間の感情、知覚、思考、認知機能の様々な面に恐ろしい影響を与える精神疾患です。臨床的な特徴は陽性症状、陰性症状、認知機能症状に分類されます。治療の主流は抗精神病薬による薬剤治療です。第1世代と呼ばれる抗精神病薬の作用機序はドパミン受容体の阻害です。第2世代はセロトニン受容体の阻害や様々な受容体への結合プロフィールを示します。しかし、30%ほどが現在の治療では症状が改善せず、新しい治療ストラテジーが望まれています。
 この10年、種々の研究が行なわれ、統合失調症治療における "受容体依存性" の薬剤治療を超えた作用機序となりうるcGMPの調節が注目されています。このcGMPの合成はグアニル酸シクラーゼ (GC) によって合成されますが、NMDA受容体と一酸化窒素 (NO) によって調節されています。ホスホジエステラーゼ (PDE) がcGMPを加水分解しますが、これがもう一つの調節経路となります。このレビューでは、NMDA受容体エンハンサー、NOエンハンサー、NO阻害薬、PDE阻害薬、cGMPに影響を与える抗炎症薬としてのミノサイクリンの期待される効果を評価していきます。また、cGMPシグナル経路、酸化ストレス、神経炎症に影響を与えるメカニズムについても触れます。

●cGMPとそのシグナル経路の調節
 cGMPは細胞に幅広く分布しています。cGMPシグナル経路のキーとなるセカンドメッセンジャーであり、種々のタンパク質リン酸化に関わるcGMP依存性プロテインキナーゼ (PKG) を活性化します。リン酸化されたタンパク質はシグナルカスケードを開始し、多くの分子や細胞に影響します。cGMPはまたcGMP依存性カチオンチャネルなどの多くのタンパク質を直接活性化します。そして、PDEの触媒部位やアロステリック部位に結合し、ネガティブフィードバック機構によりPDE自身の分解を促進します。cGMPはGCが触媒となりGTPから合成され、PDEによって5'-GMPに分解されます。よって、GCとPDEはcGMPの細胞内濃度を決定する主な調節因子となります (fig. 1)。GCには2タイプが見つかっており、可溶性GCと膜結合型GCです。膜結合型GCは細胞外リガンドによって活性化され、可溶性GCのみがPKGによるシグナル経路や細胞内における他の神経化学的なプロセスに関わります。
 PDEはcGMPやcAMPの加水分解酵素のファミリーです。11のPDEのうち、PDE5, 6, 9の3つがcGMPを選択的に、PDE1, 2, 3, 10, 11の5つは両方を、PDE4, 7, 8の3つがcAMPを選択的に加水分解します。

fig. 1
fig 1

●NO/cGMP/PKGシグナル経路
 NOの活性化には可溶性GCが必要であるため、この可溶性GCはNO感受性GC (NO-GC) と呼ばれます。NOは神経にあるnNOSや内皮細胞のeNOSによってつくられます。NOSは構造的に不活性型であり、NOを低いレベルに保ちます。Caイオンが細胞に流入することで、Caイオンがカルモジュリン (CaM) に結合し、Ca-CaM複合体を形成します。これがNOSを活性化し、そこでL-アルギニンがNOとL-シトルリンに変換されます。NO-GCはcGMP合成の触媒として作用し、cGMPの濃度を劇的に上昇させます。このcGMPが様々なシグナルカスケードに関わる多くの標的タンパク質の活性化をもたらします (Fig. 1)。このカスケードによって神経保護や神経栄養、シナプス可塑性、内皮透過性、平滑筋の弛緩といった作用が生み出されます。NMDA受容体やNOやPDE阻害薬など、可溶性GCを活性化させる因子が統合失調症の新規治療薬となるのではないかと考えられ、研究が進んでいます。

●NMDA受容体を増強すると統合失調症症状の改善につながる
 NMDA受容体の機能低下が統合失調症の病態に関わっているのではないかという仮説があり、この機能を高めることが症状改善につながるかもしれないと言われています。NMDA受容体の非競合的アンタゴニストであるフェンサイクリジン (PCP) やケタミンやMK-801が統合失調症によく似た症状をもたらします。この20年、NMDA受容体エンハンサーを抗精神病薬に付加する試験が行なわれてきました。NMDA受容体グリシン結合部位のアゴニストであるグリシンとD-セリン、そしてグリシン再取り込み阻害薬のサルコシンは様々な症状を改善させることが示唆されましたが、後に行われた試験では結果が一貫していません。
 NMDA受容体エンハンサーが統合失調症の症状を改善させる可能性はありますが、その機序は明確ではありません。有力な仮説として、NMDA受容体の機能を増強するとNO/cGMP/PKCシグナル経路を活性化し、シナプス可塑性や神経保護や神経栄養の作用をもたらすというものです (Fig. 1)。NMDA受容体はNO/cGMP/PKCシグナル経路において大きな役割を果たしていることが知られています。NO合成の触媒をするNOSはNMDA受容体と連結しています。NMDA受容体が活性化することで、Caイオンが流入しCa-CaM複合体が形成されCaMKIIに結合します。その後、CaMKIIはNMDA受容体に連結しているNOSを活性化し、そのNOがNO合成の触媒となります。このように、NO合成はNMDA受容体の活性と強くリンクしており、NOの濃度はNMDA受容体の活性化の後に劇的に上昇します。NOはcGMP合成の触媒となるGCを活性化し、cGMPはNO/cGMP/PKCシグナルカスケードの下流を活性化します。

●NO活性化は統合失調症状を改善させるのか?
 NOが新規の治療ターゲットになる可能性が指摘されています。最近の臨床試験ではニトロプルシドを用いたものがあり、これは体内でNOに変換される降圧薬ですが、一回静注すると12時間以内に症状が著明に改善し、それが2-4週続いたのです。この試験の再現はなされていませんが、非常に期待されるものとなっています (コメント:2016年に二重盲検のRCTが行なわれましたが、残念なことにプラセボと有意差が付きませんでした。Psychol Med. 2016 Dec;46(16):3443-3450. PMID: 27655012)。ニトロプルシドの作用機序はNO/cGMPシグナル経路と考えられています。ニトロプルシドはNMDA受容体の下流を迂回して直接NOに変換され、cGMP産生を刺激しNO/cGMPシグナルカスケードを活性化させるようです。面白いことに、遺伝子の研究によってグルタミン酸伝達とcGMPは統合失調症において遺伝的に大きな比率を占めていることが報告されました。これは遺伝的な因子によってグルタミン酸伝達/NO/cGMP経路の機能不全がもたらされることを示唆しています。この経路が統合失調症の病態に関与しており、cGMPのアップレギュレーションが新規のターゲットになるだろうという私たちの見解と一致しています。

●NOの阻害は統合失調症症状を改善するのか?
 NOの産生を阻害することで統合失調症治療につながる可能性も示唆されています。ミクログリアの活性化は、ニトロソ化ストレスや酸化ストレスや炎症性サイトカインによる神経炎症のプロセスにおいて重要です。統合失調症の酸化ストレス仮説は、遺伝的そして発達的な因子が心理社会的なストレッサーと相互作用をすることでミクログリアを活性化し神経炎症の引き金となり、フリーラジカルを放出するというものです。神経炎症が長引くことでアポトーシスやミトコンドリア機能不全、興奮毒性、その他の神経毒性がもたらされ、統合失調症の病態を担ってくる可能性があります (Fig. 2)。神経炎症反応としてのNOフリーラジカルの形成が統合失調症の神経病理につながり、NOの産生を阻害することが治療となるかもしれません。
 酸化ストレスの理論は動物モデルや独特の抗炎症作用と抗酸化作用を持つミノサイクリンの研究から生まれました。10年の間、ミノサイクリンは脳梗塞、脊髄損傷、パーキンソン病、アルツハイマー型認知症、統合失調症、そして気分障害といった神経・精神疾患への治療可能性が指摘され、探求が進んできています。

fig. 2
fig 2

●ミノサイクリンの動物実験:げっ歯類での炎症モデル
 ミノサイクリンはLPSや3-NPなどによる炎症状態で見られるNO濃度やNOSの発現を減少させます。ミノサイクリンはサイトカインとNOの放出を抑えPKG経路の下流を活性化することで、Bcl-2濃度を高めカスパーゼの発現を抑制します。最近、LPSやGM-CSFを投与されたラットで、ミノサイクリンが自発運動の亢進を抑制し、社会性や新奇物体認識試験やプレパルス抑制の低下を改善したことが示されました。これはミノサイクリンが統合失調症の治療薬として期待できるものと指摘されてます。

●統合失調症げっ歯類モデルにおけるミノサイクリンの研究
 ミノサイクリンの可能性は、統合失調症のNMDA受容体アンタゴニストモデルでも支持されています。
 メカニズムはまだよく分かっていません。ケタミンモデルでは、抗酸化物質のマーカーであるグルタチオンや、フリーラジカルによって産生されるチオバルビツール酸反応性物質の濃度をミノサイクリンが正常化することが示されています。興味深いのは、ニトロソ化フリーラジカルであるNOが発生せずにこの変化が生じたことです。よって、ミノサイクリンはニトロソ化ストレスではなく酸化ストレスをブロックするのではないかということが示唆されます。また、ミノサイクリンは認知機能の改善をもたらす可能性も指摘されています。
 動物実験では、ミノサイクリンがフリーラジカルの形成を阻害し、これが統合失調症の治療で期待されるところです (Fig. 2)。しかし、これらの研究において、ミノサイクリンが炎症の多くの側面をブロックすると示されます。フリーラジカル形成を阻害するのは複雑な抗炎症作用の一部に過ぎません。酸化フリーラジカルはフリーラジカルの多くを占め、ニトロソ化フリーラジカルはNOとの相互作用で生じますが、これはフリーラジカル全体の一部でしかありません。よって、仮にミノサイクリンがNO産生を阻害したとしても、それが統合失調症治療においての大きな効果とは言い切れません。今のところ、NOのダウンレギュレーションがミノサイクリンの抗精神病作用だという明確なエビデンスはないのです。

●統合失調症患者さんにおけるミノサイクリン増強療法
 ここ数年、ミノサイクリン増強療法の小規模な試験がいくつか行なわれ、概ね陰性症状に効果を示しました。メタアナリシスではPANSSの陰性症状サブスケールスコアやSANSのスコアを減少させています。希望の持てるデータですが、スペクトラム診断ではなく統合失調症のみとし、より大きなサンプルサイズで、かつ長期効果を見ていく必要があるでしょう。

●統合失調症治療の有力なターゲットとしてのPDE阻害薬
 PDEは細胞内のcGMP濃度を主に調節する因子です。12のファミリーのうち、PDE5, 6, 9のみが選択的にcGMPを加水分解します。PDE阻害薬が統合失調症治療薬としての可能性を秘めていることが示唆されています。
 cGMPを加水分解するPDE阻害薬のうち、PDE5阻害薬がもっとも研究されています。PDE5阻害薬であるシルデナフィルが、げっ歯類の前頭前皮質や小脳や海馬で細胞外cGMP濃度を著しく高めることが示されています。統合失調症患者さんでシルデナフィル増強療法を見た試験がありますが、有意な効果を示せないものと示せたものとが混在しています。同じくPDE5阻害薬であるバルデナフィルは効果を示せず、PDE9にも親和性を持つザプリナストをマウスに投与した試験ではプレパルス抑制に効果を示していません。
 PDE阻害薬のうち、PDE9阻害薬がcGMPへの親和性が最も高く、新しいPDE9阻害薬のPF-4447943が聴覚ゲーティングやワーキングメモリーを回復させており、PDE9阻害薬の抗精神病薬としての可能性が考えられていました。しかし、線条体への低い親和性や行動面への効果がないことから、PDE9阻害薬は治療候補から外れてしまうようです。

●結論
 cGMPが統合失調症治療の新しい可能性となることが示唆されてきました。この20年、臨床試験や動物実験からNMDA受容体エンハンサーが特に陰性症状に効果的と示されています。NOのプロドラッグであるニトロプルシド、そしてPDE阻害薬はいくばくかの期待ができそうです。これらの薬剤に共通する作用はcGMPのアップレギュレーションであり、それによってcGMPシグナルカスケードが活性化し、神経保護や神経栄養をもたらし、臨床効果を生み出すと考えられます。いっぽう "酸化ストレス" 理論では、抗酸化作用と抗炎症作用を持つミノサイクリンがNOフリーラジカルの形成に関わる神経炎症を阻害して症状を改善する可能性があります。しかし、NOの調節が統合失調症にとって利益になるのか害になるのかは、今のところ明らかではなく、さらなる研究が待たれます。

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 なかなか統合失調症の治療はうまくいかないですね。前回の論文でもありましたが、病期によってNMDA受容体の経路の振る舞いが異なるのでしょう。NOが症状を改善させたりそうでなかったり、うーむ、と唸ってしまいます。うつ病とは異なり増強療法の効果もイマイチはっきりしませんし。ミノサイクリンは確かに使いたいですが、耐性菌の問題や偽膜性腸炎のリスクなどを考えると長期に投与できるものでもないでしょう。

 とはいいながら、自分はミノサイクリンを使用したことがあります。悪化するといつも昏迷状態になる患者さんで、毎回ベンゾが効かず抗精神病薬を使うと悪性症候群になるという人。これまでは昏迷中に肺炎など感染症を起こして総合病院で治療を受け、その感染症が治ると昏迷も良くなっているという経過をたどっていました。で、また昏迷状態で入院してきまして、何も薬剤の選択肢がなかったため、ご家族に説明してミノサイクリンを使用してみました (200 mg/day)。そうしたら疎通が良くなって改善したのでございます。これはお見事!という治療経過でしょうか (自分で言うか)。きちんとまとめて学会で発表すると面白かったかもしれませんね。

 そんなこんなでいろいろ悩みが深まって、統合失調症治療薬の3回シリーズは終了です。
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