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2018
08.21

統合失調症の創薬:グルタミン酸にはまだ可能性があるか?

Goff DC. Drug development in schizophrenia: are glutamatergic targets still worth aiming at? Curr Opin Psychiatry. 2015 May;28(3):207-15. PMID: 25710242

 前回のドパミン受容体アンタゴニストの論文がちょっと期待はずれだったので、グルタミン酸受容体の方を読みました。NMDA受容体が非常に動的であるというのが分かり、この分野の創薬が難しいというのが実感。治療抵抗性への薬剤はなかなか難しいのかもしれませんね…。

 この論文も全訳ではありません。細かい機序は自分の知識がなくて分からない部分もありまして…。

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●導入
 グルタミン酸シグナルの調節不全と統合失調症との関係性は四半世紀以上研究がなされており、創薬のターゲットをいくつか生み出してきました。グルタミン酸作動性のものが有力でしたが、大規模試験ではことごとく失敗してしまいました。それは、効果そのものがわずかであり、また臨床試験の信頼性が低いということを反映しているのかもしれません。ケタミンチャレンジなど、グルタミン酸作動性の創薬におけるモデルが不適切という可能性もあります。グルタミン酸の伝達は非常に動的であり、使用依存性であり、神経発達の状態に応じて変化するシステムです。NMDA受容体によるCaイオン流入のコントロールは可塑性と神経毒性のあいだの微妙なバランスとなり、それは複雑なフィードバックによってなされ、薬理学的介入の効果を予想するのが難しいのです。加えて、グルタミン酸作動性をターゲットにした薬剤の効果は個人差があり、遺伝的や環境的な影響によるところが大きいとされます。そのため、より一貫した結果を得るには個別化された治療アプローチが必要となってくるかもしれません。そして、記憶固定の際にグルタミン酸作動性の物質は神経可塑性へと働くため、学習を向上させるような心理社会的介入を同時に行なうべきでしょう。ここでは、創薬におけるモデルとしてケタミンチャレンジの歴史を簡単に取り上げ、グルタミン酸受容体の薬理学に言及します。NMDA受容体やAMPA受容体、代謝型グルタミン酸受容体をターゲットにしたこれまでの開発やこれからの方向性も述べていきます。

●ドパミンモデルとケタミンモデルの簡単な歴史
 統合失調症のドパミンモデルは、高用量の神経刺激薬によってドパミン伝達を過剰にすると精神病症状が観察されたこと、そしてD2受容体遮断がその症状を改善したことに基づき、その優位性を示しました。しかし、統合失調症の症状すべてを捉えているわけではないことがすぐに明らかになり、そのモデルに基づく治療は陰性症状や認知機能障害には利益がなく、そして精神病症状も約1/3の患者さんで改善を示せませんでした。陰性症状や認知機能障害の説明として前頭前皮質におけるドパミンシグルナルの二次的な欠損が提唱されましたが、その部位でのドパミン伝達増加を狙った介入は失敗に終わっています。
 対して、1959年の初期、PCP (フェンサイクリジン) がドパミンアゴニストよりも統合失調症の症状をより広く捉えていることが分かりました。1990年までに、PCPとケタミンがNMDA受容体のCaチャネルを阻害することで作用し、NMDAとドパミン伝達の調節不全が絡まっているという新しいモデルが誕生しました。感覚入力の処理にドパミン作動性シグナルとグルタミン酸作動性シグナルが相互作用していると言われ、また、NMDA受容体アンタゴニストの投与により前部帯状回の神経変性が生じることで、統合失調症における神経発達の脆弱性が指摘されたのです。ケタミン投与によっても多くの症状が再現されましたが、PCPの方が統合失調症の症状を再現するには優れていました。ケタミンとPCPはNMDA受容体に加えてD2受容体、ニコチン性アセチルコリン受容体、シグマ受容体に結合するいっぽう、NMDA受容体アンタゴニストとして選択的に働く物質も精神病症状をもたらすことが分かってきました。ハロペリドールで安定している患者さんにケタミンを投与すると精神病症状が再燃するものの、クロザピンでは再燃しにくい傾向にあったのですが、これはNMDA受容体がクロザピンの優れた効果の一部を担い、一般的な抗精神病薬が有効でない症状につながっていることを示すものです。しかし、創薬におけるケタミンモデルの有用性はまだ確証が得られていません。臨床で高い効果を示すD2受容体アンタゴニストがケタミンモデルではあまり有効でなく、ケタミンの効果を弱める薬剤、例えばラモトリギン、mGluR2/3作動薬 (LY35470, LY2140023 monohydrate) 、5-HT2A受容体アンタゴニスト (M-100907)、NMDA受容体グリシン結合部位における作動薬などは大規模臨床試験で一貫した効果を示せておらず、クロザピンが唯一です。ケタミンが創薬のモデルとなるならば、適切なターゲットは不明のままです。ケタミンはNMDA受容体に作用しますが、それが介在ニューロン、錐体細胞、腹側被蓋野のドパミンニューロンのどこかは明確でなく、またクロザピンに関して言えば、効果とNMDA受容体の遺伝子型とのつながりは証明が難しいのです。

●グルタミン酸受容体
 グルタミン酸は中枢神経系において興奮性の神経伝達物質であり、イオンチャネル型とGタンパク質共役型である代謝型の2つのクラスの受容体に作用します。イオンチャネル型はNMDA受容体、AMPA受容体、カイニン酸受容体に分類されます。ほとんどのNMDA受容体は四量体であり、2つのGluN1サブユニットを含みます。このサブユニットはグリシンやD-セリンやD-アラニンといったコアゴニストの結合部位を持ちます。GluN1サブユニットはGluN2A-DやGluN3といったサブユニットとともに四量体を形成しますが、これらはグルタミン酸やアスパラギン酸の結合部位を持ちます。NMDA受容体サブユニットの発現は使用依存性であり、発達の段階や細胞のタイプ、脳部位、シナプス活性の度合いによって変わってきます。GluN2AやGluN2Bは主に錐体細胞に見られ、GluN2CやGluN2Dは介在ニューロンに限局しています。NMDA受容体のイオンチャネルが開口するにはグルタミン酸とグリシンの結合部位がともに占拠されていることが必要です。加えて、NMDA受容体のチャネルはMgイオンによってブロックされており、細胞が脱分極した時に外れます。それゆえ、NMDA受容体は "一致検出器" であり、2つの神経伝達物質による占拠と、AMPA受容体のチャネルや他のイオンチャネル (NaやK)による細胞脱分極とが一致して起こることが必要となります。この他のイオンチャネルの中にはL型Naチャネルなどがあり、最近のGWASによって統合失調症に関連していることが分かってきました。NMDA受容体のチャネル開口はさらにグリシン結合部位の内因性遮断物質、キヌレン酸、ポリアミン、pHによって調節されています。このように多くの物質が関与していることは、Caイオンの流入による神経可塑性と神経毒性のバランスに厳しいコントロールが必要だということを示唆しています。NMDA受容体のチャネル開口によってCaイオンが細胞内に流入することで、タンパク質の発現が促され、シナプス後部で興奮性の電流が比較的長期間生じます。NMDA受容体は、LTP (長期増強) と記憶形成に関与する海馬でのスパイクのバースト、そして注意、感情の強い高まり、新奇性と報酬への反応において特に重要です。
 脳の発達の初期では、急速なミエリン化や神経の分化の際にGluN2Bサブユニットを含むNMDA受容体がGluR2サブユニットを有さないAMPA受容体とともに多く認められます。これら受容体のサブタイプはCaイオンの伝導性を最大化し、受容体の活性化によってシナプス形成を促し、活性化していない細胞のアポトーシスによる除去や刈り込みを防ぎます。しかし、これら受容体は低酸素や炎症による興奮毒性への脆弱性をも高めてしまうのです。脳の発達が進むと、主にシナプスに認められるGluN2Aサブユニットを含む受容体が増加し、神経保護とシナプス増強を担うとされています。GluN2Aサブユニットを含むNMDA受容体はCaイオンの伝達を弱め、グリシンやD-セリンへの親和性が他のNMDA受容体よりも極めて低くなっています。NMDA受容体は非常に動的です。サブユニットが小胞体で組み立てられた後、受容体は細胞表面に輸送され、そこでは足場タンパク質 (postsynaptic density-95など) と結合し、シナプスとシナプス間隙との間を側方拡散によって動き、細胞膜内外を循環します。NMDA受容体は抑制性介在ニューロンの早期の遊走や成熟にも必要です。統合失調症と関わりのあるところでは、発達早期におけるNMDA受容体の活性化はGABA作動性の介在ニューロンでのパルブアルブミンとGAD67の発現を調節します。これらはγ帯域の周期的皮質活動や様々な脳部位の同期性に必要とされます。いっぽう成人期においてNMDA受容体が除去されても介在ニューロンの調節にはあまり影響しません。ケタミンやPCPは主に抑制性介在ニューロンのNMDA受容体に働きかけ錐体でのグルタミン酸放出を促し皮質の興奮性を高めると言われてきましたが、最近はNMDA受容体アンタゴニストによって錐体細胞の発火が直接的に阻害されてしまうことの関係性が示唆されています。だが成人では、ケタミンによってNMDA受容体が遮断されることで、前頭前皮質や海馬でグルタミン酸が過剰に放出されます。それによりγ帯域の自発活動の上昇が見られ、γリズムが乱れ、腹側被蓋野のドパミンニューロンの発火が障害され、結果的に線条体でドパミンが過剰に放出されることとなります。NMDA受容体サブユニットの構造は種々の薬理学的ターゲットになりうるのですが、グルタミン酸シグナルは非常に動的であり活動依存性であるため、効果が非常に予測しづらいのです。

●NMDA受容体関連のターゲット
 NMDA受容体の直接的なアゴニストは神経毒性となる可能性があるため、初期はグリシン結合部位に注目が集まりました。グリシンは血液脳関門を通りづらく、プロドラッグであるミラセミドが最初にテストされたのですが、結果は失敗に終わりました。対して、第1世代の抗精神病薬に高用量のグリシンを付加すると、特に陰性症状に有効でした。グリシン結合部位の内因性アゴニストであるD-アラニンとD-セリンは同様に陰性症状を改善させました。パーシャルアゴニストであるD-サイクロセリンは有効ではなく、クロザピンに付加するとかえって陰性症状が悪化したのです。CONSISTでは、第2世代抗精神病薬へのグリシンやD-サイクロセリンの付加は有効性を示せませんでした。初期の試験の再現に失敗した理由は不明ですが、CONSISTのサブ解析では抗精神病薬が第1世代であった場合、グリシンの効果が示唆されたのです。第2世代はおそらくセロトニン5-HT2A受容体を介しグルタミン酸伝達に影響しているのではないかと考えられました。その後の大規模臨床試験でもD-セリンの効果は示せなかったのですが、血液脳関門を突破できない問題は残っていました。しかし、初期の試験とその試験ではD-セリンの使用量はほぼ同じだったのです。血液脳関門やD-サイクロセリンがフルアゴニストではないことを考慮すると、グリシン結合部位がこれらの試験で十分にテストされたかはよく分からないままとなっています。
 グリシン結合部位を占拠するためのもう一つの戦略は、GlyT1の阻害です。GlyT1は前脳部のグリア細胞に位置し、シナプスのグリシン濃度を相対的に低く保っています (コメント:GlyT1は主にアストロサイトに発現し、シナプス間隙からグリシンを除去する働きを持つようです)。初期の試験では、低力価のグリシン再取り込み阻害薬とグリシン前駆体であるサルコシンの成績が良好であり、D-セリンを凌駕する場合もありました。製薬会社の中にはGlyT1阻害薬を開発するところもあり、そのひとつとしてビトペルチンがつくられましたたが、結局は効果を示せませんでした。そして、反応を予測するようなバイオマーカーは今のところ見つかっていません。
 このアプローチに見切りをつける前に、2つの問題が指摘できます。ひとつは、グルタミン酸調節不全のエビデンスは統合失調症の初期にもっとも強く見られる点であり、疾患の進展に繋がる可能性があるということ。よって、初回エピソードや前駆期への試験が議論されるべきでしょう。もうひとつは、D-セリンはグリシンよりもNMDA受容体のチャネル開口の調節に重要であり、統合失調症においてより中心的な役割を果たしているかもしれないという点です。DAO (D-アミノ酸酸化酵素) 阻害薬のベンゾエートはD-セリンの濃度を上昇させ、陰性症状と認知機能の改善を示しました。しかし、DAOが最高濃度を示したのは小脳と脳幹であり、統合失調症でNMDA受容体の活動が落ちている脳部位ではありませんでした。加えて、DAOは細胞内のD-セリン濃度を調節するのですが、シナプスにおけるD-セリンの濃度は主にAscT (アラニン-セリン-システイン トランスポーター) によって調節されています。抗酸化物質であるグルタチオンの試験は陰性症状がわずかに改善したものが一本と、症状は改善しなかったものの脳波での同期が改善したものが一本でした。グルタチオンはシステインの濃度を上昇させることでケタミンの効果を弱める可能性があります。システイン濃度が高まると、AscTによる取り込みをD-セリンと競合するようになります。別の方法は、内因性のグリシン結合部位アンタゴニストであるキヌレン酸の濃度を下げることです。キヌレン酸はアストロサイトでトリプトファンの代謝によって産生され、炎症の存在下では神経保護の役割を果たすと考えられています。キヌレニンアミノトランスフェラーゼIIを阻害することでキヌレン酸濃度を下げる介入が現在行われています。

●D-サイクロセリンとNMDAサブユニット:選択的ポジティブアロステリックモジュレーター
 D-サイクロセリンの結果は一致していませんが、単回投与では認知機能が強化されており、それは反復投与で消失していました。これはNMDA受容体の内在化に関わるグリシン結合部位の役割を反映しているかもしれません。D-サイクロセリンはGluN2AとGluN2Bサブユニットを含むNMDA受容体のパーシャルアゴニストですが、GluN2Cサブユニットを含む受容体ではグリシンよりも大きな作用を持つフルアゴニストです。GluN2Cサブユニットは主に小脳に局在してますが、前頭前皮質と海馬と視床の介在ニューロンにも認められます。統合失調症患者さんの死後脳を用いた研究では、GluN2Cサブユニットは前頭前皮質で選択的に減少していました。D-サイクロセリンによって記憶や学習が改善したという報告もあり、認知療法との併用でその改善が強まる可能性もあります。そして、GluN2AとGluN2Bサブユニットを含むNMDA受容体への選択的アロステリックモジュレーターが開発中です (コメント:アロステリックモジュレーターは内在性リガンドの作用する部位とは異なる部位に働き、受容体のサブタイプ選択的に結合できるそうです)
 ケタミンモデルからは、あと2つの薬理学的な戦略がもたらされています。ひとつは、GABA作動性抑制性ニューロンのNMDA受容体を阻害することがケタミンの効果において中心的な働きをしているという仮説です。しかし、GABA作動性の介在ニューロンの発火を強める方法は不成功に終わっています。もうひとつは、ケタミン投与後に生じるグルタミン酸の放出増加です。グルタミン酸濃度が過剰になると、ネットワークの同期性が乱れ、神経毒性につながってしまいます。ラモトリギンやmGluR2/3アゴニストはグルタミン酸の放出を抑制し、ケタミンの効果を弱めることが示されています。試験の結果は振るわなかったのですが、メタアナリシスではラモトリギンがクロザピンとの併用で効果を示す可能性が指摘されました。グルタミン酸の過剰な伝達は病初期においてのみ確認されることかもしれず、初回エピソードや前駆期でこのアプローチの試験を行なうべきでしょう。

●AMPA
 NMDA受容体とともに、AMPA受容体はLTPや神経可塑性に不可欠です。チャネル開口によってNaイオンが流入し脱分極することで、NMDA受容体のチャネルをブロックしているMgイオンが外れます。NMDA受容体からCaイオンが流入すると、シナプス後部のAMPA受容体はシナプスを強化し、LTPや記憶形成に重要となります。ケタミンの効果の中にはAMPA受容体に働きかけるものもあります。ケタミンの効果は内側前頭前皮質と海馬でもっとも認められ、ラットの研究では、ケタミン投与で内側前頭前皮質の活性が落ち、それはAMPA受容体アンタゴニストの投与でブロックされました。AMPA受容体のフルアゴニストはけいれん閾値を下げてしまうため、アロステリックモジュレーターが開発中です。しかし、臨床試験では効果を認めていません。

●代謝型グルタミン酸受容体
 代謝型グルタミン酸受容体は、サブユニットの構成によってグループ1 (mGlu1とmGlu5)、グループ2 (mGlu2とmGlu3)、グループ3 (mGlu4とmGlu6とmGlu7とmGlu8) に分類されます。統合失調症の創薬にもっとも関連しているのがグループ1とグループ2です。グループ1はほとんどシナプス後部に存在し、活性化するとCaイオン流入を促します。グループ2はシナプス前部に存在し、神経伝達物質の放出を阻害します。グループ1アゴニストのプロドラッグであるLY2140023はケタミンの効果をブロックしたのですが、臨床試験では有益な結果となりませんでした。代謝型mGlu5受容体はNMDA受容体と同様の局在傾向を示し、同じ足場タンパク質を共有し、NMDA受容体によるLTPを促進します。mGlu5受容体の遺伝子は統合失調症と関係しており、mGlu5ノックアウトマウスは統合失調症と同一の行動を示し、mGlu5とNMDA受容体をつなげるhomerタンパク質をノックアウトしたマウスも同様でした。このmGlu5受容体によって、NMDA受容体がGluN2Bサブユニットを含むものからGluN2Aサブユニットを含むものにスイッチすることが示されています。このスイッチはパルブアルブミンを含む抑制性介在ニューロンの発達や成熟に必要です。現在の統合失調症モデルに関して言えば、mGlu5受容体はミクログリアの活性化を調節しています。mGlu5ポジティブアロステリックモジュレーターはケタミンやアンフェタミンによる効果を改善し、LTPやLTD (長期抑圧) を促進することも示されました。しかし、バイオアベイラビリティの問題から、臨床試験は遅れています。そして、mGlu5ネガティブアロステリックモジュレーターが抑うつモデルに効果を示しており、mGlu5ポジティブアロステリックモジュレーターが逆の作用を示すかは不明のままです。

●細胞内経路
 これからの創薬はNMDA受容体下流の細胞内経路にその鍵があります。NMDA受容体のチャネルが開口すると、Caイオンが流入し、カルモジュリン、NO合成酵素、アデニル酸シクラーゼ経路が活性化します。これはcAMPとcGMPの産生、そしてシナプス可塑性や神経新生に関わるCREB (cAMP response element-binding protein) のリン酸化につながります。NO合成酵素経路は統合失調症に強く関連していると考えられており、複数の創薬ターゲットとなっています。ニトロプルシドを一回静注すると急性期の患者さんで陽性症状も陰性症状も著明に改善したという研究があります。PDE阻害薬もまたcAMPとcGMPの産生を促し、認知機能を改善させる可能性があります。PDE5阻害薬はcGMPを増やして記憶を改善させますが、統合失調症での研究結果は一致していません。ヒトの脳におけるPDE5の濃度がまだ良く分かっていないため、結果の解釈が難しいのです。PDE4やPDE10の阻害薬は現在開発中であり、いくつかは認知機能改善に期待ができます。

●結論
 グルタミン酸シグナルの調節不全は統合失調症で強く示されています。さらに、ケタミンチャレンジによって、NMDA受容体シグナルの急激な調節障害によって生じる統合失調症の症状を改善する物質を同定することができます。残念ながら、ケタミンチャレンジによって同定された薬剤は臨床試験で失敗していますが、これはこの戦略の特異性の低さを示唆しています。クロザピンはケタミンチャレンジの有用性を示す重要な例です。概して、グリシンやセリンの濃度を上昇させてグリシン結合部位に作用する物質は、初期には成功したが大規模試験で失敗しています。これは、治療効果がきわめて乏しいこと、疾患の異質性、大規模臨床試験の再現性などを反映しているかもしれません。グリシンやD-セリンは血液脳関門を透過しづらく、GlyT1阻害薬であるビトペルチンは臨床試験において効果は小さく結果も一致していません。このアプローチを捨てる前に、個別化医療のために病初期やバイオマーカーなどを考慮すべきでしょう。これはラモトリギンやmGluR2/3アゴニストにも言えることであり、これらも効果が小さく試験間でも結果が一致していません。NMDA受容体サブタイプやmGluR5受容体に選択性の高いアロステリックモジュレーターの開発など、新しい方向性の創薬が始まっています。これらは心理社会的な介入と組み合わせることで、神経可塑性を高め学習を促進する可能性があります。そして、NMDA受容体下流の細胞内経路も神経可塑性に関与し、それは興奮毒性のある細胞外のグルタミン酸受容体をターゲットにする問題点を突破できています。グルタミン酸に関わる物質はまだ効果を見いだせていませんが、このアプローチに見切りをつけるのは大きな間違いであり、創薬においてもっとも期待できる分野なのです。この疾患に苦しむ患者さんが新しくより良い治療必要としているのです。

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 以上のような内容です。グルタミン酸受容体へのアプローチは、ちらほらと薬剤を開発中と聞きながらもその後は音沙汰なし…というのを繰り返しているような印象で、難しいんだなぁと思います。個人的には細胞内経路に期待大ですし、ニトロプルシドの論文が出た当時は「へー」と驚いたものです。また、この論文では触れられていませんが、ATP受容体なんかも治療の対象になっていくのかなぁと想像しています。

 ただ、大手製薬会社は向精神薬、特に抗精神病薬の薬剤開発からは手を引いてきているので、これからがやや不安でもあります。もちろん薬剤以外の治療法を手厚くすることを忘れてはいけないのですが。
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