FC2ブログ
2018
05.01

レジデントのために、多剤併用について思うこと

 新年度も少し時間が経過し、精神科でもレジデントの先生がたが精神科病院の過ごし方に慣れてきた頃でしょうか。しかし、精神科病院における、特に慢性期統合失調症患者さんの薬剤治療。それは、大学病院で教わることとはかなり異なるもので、びっくりする先生も多いかなと思います。

 若手 (自分も含めちゃいますが) にとって、統合失調症患者さんへの抗精神病薬は単剤治療が原則と教え込まれています。しかし、ずっと入院している患者さんの処方を見ると、決してそうではない。周知の通り、多くの方は多剤併用となっています。

 この多剤併用を見ると、レジデントの先生は「これは何とかしよう! 単剤化できれば患者さんも変わるはず!」と思うことでしょう。というか、若手であれば一度はそう思ってもらいたいところであります。

 ただ、注意点としてはいくつかあります。たくさんあっても覚えきれないと思うので、ここでは5つを挙げておきましょう。

1. 患者さんがこの処方で良いと思っていることが少なからずある
2. 前主治医までの医者が悪気があって多剤にしているわけではない
3. 意外とこの処方で何とかまとまっている患者さんが多い
4. 無事に単剤化しても対して状況が変わらないことも多い
5. 減らす薬剤の量や速度が大きいと失敗することもある

 1.についてですが、処方された薬剤は常に医者と患者さんとの関係性の現れである、ということ。患者さんの中には、これまでの医者が出してくれた薬剤を、まだ主治医になって間もないペーペーの医者がいじることに不快感を表すかたもいます。昔の主治医との思い出が処方に残っているかもしれません。処方というのは、医者と患者さんとをつなぐものであり、そこへの配慮が必要でしょう。もっとも、医者とのつながりが処方でしかないのは味気ないので、日々の診察で人とのつながりを出していきたいところです。レジデントの先生は焦らず、まずは患者さんに会って自分を覚えてもらうことから始めていきましょう。その間に、昔のカルテを見たり看護師さんから話を聞いたりして、その患者さんがどういう生き方をしてきたのかについて知識を深めていく。患者さんとの診察はあまり長くしすぎず多少あっさりな感じで、少しずつ病状以外のことを聞いていく感じが良いでしょうか。それができてから初めて薬剤について聞いてみます (もちろん安定している患者さんが対象ですよ)。薬剤の変更に対して患者さんが拒否的であれば、いったん身を退きます。「私はこんな感じに思っているので、また気が変わったら教えてください」程度の言葉を残していくと良いかもしれません。そして、また時間が経ったら押しつけがましくなくさらっと聞いてみると非侵襲的かと思います。もちろん、看護師さんも「この処方で問題なく経過しているんだから、何でこの来たばかりの医者は減らそうとするんだ?」と思うことが多々あるので、すぐに薬剤を変えないのは彼ら彼女らとの関係を壊さないためでもあるのですが…。

 2.ですが、やっぱり患者さんの精神状態というのは揺らぎがあります。忙しいとつい薬剤に頼りたくなりますし、そう言えば受け持ち患者さんが多いと向精神薬を処方しやすいなんていう報告もありますね (Am J Psychiatry. 1994 Apr;151(4):580-5. PMID: 8147457)。そうやって悪戦苦闘をしていると、気がつけばアラ不思議、多剤になっていた…なんてことになります。ハロペリドール (セレネース®/リントン®) 12 mg/dayで頑張っていたけどちょっと興奮が続くからレボメプロマジン (ヒルナミン®/レボトミン®) 150 mg/dayを追加し、幻覚妄想が一時的に強くなったからリスペリドン (リスパダール®) を6 ㎎/day追加。しばらくは良かったけどたまに不眠や妄想が出てきて他の患者さんからも苦情が来るのでオランザピン (ジプレキサ®) を10 ㎎/day追加…。というのが起こります。昔のカルテを見ると意外にシンプルだったのが、ページをめくっていくと徐々に種類や量が増えていく。こういうのはザラですね。悪気があって多剤にしているわけではなかったのであります。1.と合わせて、"処方に歴史あり" とは良く言ったものです。

 3.は5.と少し重なるところもありますが、複雑怪奇な処方で何とか患者さんの症状が軽くなっているということもあるでしょう。カルテを見ると、単剤では歯が立たず割と早期から多剤になってそれで辛うじて保っていることが多いでしょうか。「こんな多剤、意味あるの?」と思ってちょっと減らしてみたらあれよあれよという間に状態が悪くなっていく患者さんもいます。まるで終盤のジェンガのような。これは不思議なのですが、昔の主治医が見せる素晴らしいウデなのだと思います。レジデントの先生がたは「クロルプロマジン (コントミン®/ウィンタミン®)を25 mg減らしただけなのに…」という嘆きをこれから経験するかもしれません。

 4.ですが、これはこれから数多く遭遇すると思います。じりじりと減らしてCP換算もだいぶ少なくなり種類もすっきりして、「これで患者さんの陰性症状もググっと良くなるだろうなぁ! いやぁ、いい仕事をした」と満足していたにもかかわらず、実際の患者さんの状態はピクリとも変化しない。多剤を見るとつい症状の多くが薬剤性に見えてしまうのですが、決してそうとは限りません。でも、減らして何も変わらないのであれば、大進歩!です。減量によって心血管リスクが低下したかもしれませんし、そのままだったら患者さんがいずれ多剤併用を重く感じてしまっていたかもしれません。そして、患者さんは言葉に出さないかもしれませんが、薬剤の量や種類が減ることは、自分は見捨てられていないと思うきっかけになるやもしれません (薬剤の変更は、1.で生じる気持ちとここで生じる気持ちの両方を産みます。関係性によってどちらがより強く出るかが変わるのでしょう)。また、身体が少し軽くなったと感じるかもしれません。レジデントの先生がたは薬剤を減らすことを理想化しすぎず、減らしても症状が変わらないというのを目標にし、ちょっと陰性症状や錐体外路症状が改善したら御の字くらいの気持ちで臨みましょう。

 5.については、過感受性精神病という言葉が有名になってきたのもありますね。薬剤でずっと受容体を遮断していると、生体側は受容体を増やす、すなわちアップレギュレーションで対応することになります。同じく刺激が続くとダウンレギュレーションが起こります。ちょっと減らすだけだったのが、相対的に大きくなるのです。そうなると、3.で見た「クロルプロマジン (コントミン®/ウィンタミン®)を25 mg減らしただけなのに…」という嘆きがここでも聞こえてしまいます。これが全員に見られるわけではないのですが、一部にそういう患者さんがいます。なので、ちょっと薬剤を少なくした際に大きく反応する場合は「ははぁ、受容体の数が変わっているな…?」と推測し、減量はほんのちょっとだけ、例えば細粒を使って少しずつ。そして、次に減らすのは数か月待っても良いくらい。あくまでもイメージですが、減らした後の薬剤に受容体が慣れるまで待つような。なので、レジデントの先生は「自分の代では完全に薬剤を整理できないかもしれない」と思っておきましょう。例を挙げると自分の医局では2年間レジデントとしてその病院で働くため、この2年で全部を何とかしようと思わないことです。次のレジデントの先生に託すような、そんな気持ちでゆったりと取り組みましょう。ま、この減量に失敗すると病棟の看護師さんから恐ろしいほどの白眼視を受けるのでありまして…。先述しましたが「これで安定しているんだから何で減らすんだ?」と思うわけです、看護師さんは (全員ではないでしょうけれども)。減らして症状が変わらないならまだセーフですが、悪化してしまったら「そら見たことか! この若造が!」とひそかに思うことが往々にしてあります。面と向かって言われはしないですが、言葉の端々にやっぱりね…(残念ながらかなり前に自分は言われたことがあります)。看護師さんの気持ちもごもっともなのでそれを批判するつもりはないのですが、レジデントの皆さんは十分に注意しましょう。看護師さんとの関係性はとっても重要です。自分はこれで手痛い過去があるため、皆さんには同じ経験を味わってほしくありませぬ。サウザー様には怒られるかもしれませんが


退く!媚びる!省みる!


 気持ちが大事です、はい (あくまでも気持ちね)。

 そんな感じで5つまとめてみましたが、いかがだったでしょうか。個人的には、一人でうんうん悩むよりも薬剤師の先生としっかり相談しながらやってほしいと思います。薬剤師の先生は自分たちよりもよっぽど薬剤について詳しいですし、そうあるべきとも思います。薬剤の知識に関して、薬剤師の先生は医者に負けてはいけない。遥かに凌駕する存在であってほしい。だって名前が "薬剤師" ですし。薬剤のプロですから、その自負を持ってもらって、医者はその知識に大いに頼りたいものです。最近の薬剤師の先生はものすごく薬剤関連の論文のエビデンスに詳しくて、教えてもらうこともたくさんあります。「薬剤はお願いね!」と薬剤師の先生にお任せできるのが理想的。協同してやっていきましょう!

 ちなみに、多剤併用に関してはそれ自体決して悪くないんじゃないの? とも言われます (World Psychiatry. 2017 Feb;16(1):77-89. PMID: 28127934)。ただ、質の高い論文が少なく、またカッコ内の文献ではTable 1を見ると2剤なんです。そのため、精神科病院で見かける4剤や5剤ではどうなのかはちょっと分かりかねます。上記3.のような患者さんがいるのも事実でして、必要あっての多剤は確かにあるかもしれません (それがどのくらいの数かは不明)。しかし、しかしです。多剤の場合はどの薬剤がメインに効いているのか分かりませんし、結果的にCP換算で多くなってしまい、高プロラクチン血症になっていることも多いです。薬剤相互作用も特に定型抗精神病薬は良く分からないものがあり、今の患者さんにとっては何ともないかもしれませんが、肝腎機能が落ちてきた時、また身体疾患によって何か他の薬剤が入った時などはちょっと怖いところがあります。

 よって、減らせるのであれば減らすに越したことはないですし、これからの患者さんは何とか単剤 (せいぜい2剤?)でやっていきたいですね。そして、減らす場合もしっかりと患者さんの同意を得てからです。減らしていく中でも、患者さんに具合を聞きながら。「減らすよ」と一回言ったきりではなく、適宜その状況をお伝えする。患者さんにも「眠れなくなったり頭の中が忙しくなってきたりしたら教えてくださいね」と、関わりをお願いをします。処方と服薬というのは、患者さんと医者との関係性を表すものでもあり、お薬を出すということ、そして増やしたり減らしたりすること、これらを患者さんがどう感じるかというのを考えていくことも大切でしょう。
トラックバックURL
http://m03a076d.blog.fc2.com/tb.php/2195-9b81a7cd
トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top