2018
02.03

研修医の先生に読んでもらう論文をいくつか:その2

Category: ★研修医生活
 以前、『研修医の先生に読んでもらう論文をいくつか』と題した記事を書きました( →コチラ)。そこで紹介した論文はWernicke脳症への注意と抗菌薬関連脳症とRestless Legs Syndromeについてでした。

 自分の勤めている病院には、たまに前期研修医の先生がやって来ます。研修している病院に精神科がなく、その科のローテの期間だけうちに来るというシステム。その間は前の記事にあるような論文を読んでもらっているのですが、今回は何と精神科2周目という奇特?な研修医がおり、ちがう論文を探すことになりました。

 ただし、2周目ということもあって精神科に少し慣れていると想定し、もう少し予診や初診の陪席を頑張ってもらおうということになりまして。よって、論文を読んでもらう時間はそんなに多くなくなったのであります。

 ということで、2本用意しました。どちらもNEJMのレビューですが。

・Marcantonio ER. Delirium in Hospitalized Older Adults. N Engl J Med. 2017 Oct 12 377(15) 1456-1466. PMID: 29020579

・Schuckit MA. Recognition and management of withdrawal delirium (delirium tremens). N Engl J Med. 2014 Nov 27 371(22) 2109-13. PMID: 25427113

 テーマは


"2つのせん妄"


 です。いずれも精神科以外でもお目にかかる超重要な病態。1つはフツーのせん妄、そしてもう一つは振戦せん妄 (離脱せん妄) です。薬剤的な対応が異なるため、しっかりと押さえておきましょう。ここではこの論文の概要を記事にします。決して逐語訳ではなく部分部分の拾い訳なので、ご了承ください。あと、少しですが註として自分のコメントを入れています。

 まずは上の論文、"入院中の高齢患者さんにおけるせん妄" です。

----------------

 せん妄は注意と覚醒の障害であり、急速に進展し、かつ動揺性です。種々のメカニズムの最終共通経路であり、急性心不全と似ており "急性脳不全" とも言えます。入院中の高齢患者さんに非常に多く見られ、短期予後や長期予後と強く関連しています。

 せん妄は「暴れて大変!」というイメージかもしれませんが、それは25%とされています。多くは低活動型で静かな状態の時があります (註:この低活動型は本当に見つけにくいです…)。低活動型はより予後が悪く、それは部分的にはあまり認識されていないことによるのでしょう。せん妄の重症度には幅があり、より重症であればより経過が悪くなります。

 リスクファクターは2つのグループに分類されます。基盤となるbaselineの部分と、誘発因子となるacuteの部分です。前者には高齢、認知症 (臨床的に認識されないことが多いので注意)、身体能力の衰え、併存疾患などがあり、他には男性、視覚や聴覚の障害、抑うつ症状、MCI、検査データ異常、アルコール乱用も関連しています。後者は薬剤 (特に鎮静系、抗コリン作用を持つもの)、手術、麻酔、強い疼痛、貧血、感染症、急性疾患、慢性疾患の急性増悪などです。基盤の部分が多ければ多いほど、より少ない誘発因子でせん妄に至ってしまいます。

 以前は、せん妄は一時的なものであるとされていましたが、決してそうではありません。いつ発生してもおかしくなく長引くこともあり、合併症や入院期間の延長のリスクにもなります。また、死亡リスク、施設入所、認知症の発症にも関連しています。

 せん妄は見逃されやすく、診断はCAMや4ATなどを使用しましょう。認知症、うつ病、その他の急性発症の精神疾患は重要な鑑別診断でもあり、かつ併存もします。せん妄と診断された場合は、迅速で適切な評価が必要です。要因は一つと限らないので、Table 3のDELIRIUMのゴロ(上の Evaluate and treat common modifiable contributors to delirium の部分)に従ってすべての要素を調べるべきです。

せん妄Table3

 非薬剤的な介入については、医師、看護師、他の医療者、そして家族によるあらゆる視点からのケアが重要です。既に投与されている薬剤の調整は可変的な要因の中でもっともコモンなものであり、その対応もTable 4に示されています。

せん妄Table4

 環境要因や合併症の予防/管理も重要であり、それはTable 3の残りの部分に記載されています。

 せん妄の行動面の治療は薬剤が使用されるものの、有益性を示す十分なエビデンスがなく有害性が指摘されているため、
非薬剤的な介入が不可欠となります。患者さんの受傷リスク低減のために身体拘束が行われることもありますが、実際は受傷が多くなることが示されています。よって、拘束はゼロに、そうでないにしても最小限に留めるべきです。ICUでは拘束せざるを得ない時もありますが、常に受傷リスクをモニターし不必要と判断されれば速やかに解除すべきです(註:マンパワーがあれば…。それのない状況で頑張ると他の患者さんに割く時間や手間が取られるという現実的な部分があります)。

 薬剤治療は、患者さん自身が苦しみそれを言葉で安心させることが出来なかった場合、行動が患者さんや周囲の人々にとって危険である場合には必要かもしれません。ベンゾはアルコールによるせん妄やベンゾの離脱せん妄の時など特殊な場合に使用され、多くの場合は抗精神病薬が用いられます(註:日本では伝統的にトラゾドンなどの鎮静系抗うつ薬を用いることがありますね)。しかし、抗精神病薬はせん妄の期間や重症度を軽減せず、ICU在室や入院の期間も短縮せず、死亡率も改善しません。よって、使用するのであれば、その場の興奮や幻覚妄想を軽減することと薬剤による過鎮静や合併症を天秤にかけるべきです。効果はどの抗精神病薬も似たり寄ったりですが、ハロペリドールが最も鎮静が少ないもののEPSの発現が多く、クエチアピンがその逆となっています。反応には個人差があるため、どの薬剤を選ぶにしても低用量から開始すべき。追加するのであれば、目標達成まで30-60分毎とします。せん妄が長引く時は頓用ではなく定期服用とすべきですが、これも拘束と同様に可能な限り早期に中止しましょう。

 予防については、訓練されたボランティアが働きかけるものやコンサルテーションを用いたものなどがあり、いずれもせん妄の減少に成功しています。向精神薬の減量もこの2つの重要な側面です。予防における薬剤の有効性は確立されていません。抗精神病薬による予防は有用性を見いだせておらず、メラトニンやその薬剤であるラメルテオンはせん妄発症を減少させるかもしれませんが、はっきりとしたエビデンスに乏しいのが実情です (註:オレキシン受容体拮抗薬のスボレキサントがせん妄予防になるという論文が出ていましたね。追試待ちでしょうか)。

----------------

 非薬物的介入を重視せよ、というのがこの論文のもっとも言いたいことだったかもしれません。そのためには人手がほしいなぁというのが自分の本音ではありますが…。抗精神病薬は低用量から開始することが大事で、論文ではハロペリドールの初回投与が0.25-0.5 mgとなっており、最大で3 mgでした。EPSもさることながら、特に静注だとQT延長も怖いですしね。オランザピンの最大が20 mgなのに対しクエチアピンの最大が50 mgと記載されていたのはちょっと「??」な気もします。鎮静ということを考えても、この用量比較だとオランザピンのほうがかなり鎮静がかかるのでは…。半減期も長く、自分はせん妄にオランザピンを第一選択では使用しません。

 次に、下の論文が『振戦せん妄 (アルコール離脱せん妄) の理解と管理』です。

----------------

 アルコール使用障害患者さんのうち50%がアルコールを減らすもしくは中止する際に離脱症状を経験します。そのうち3-5%が大発作、せん妄、もしくはその両者を経験します。アルコールはベンゾやバルビツレートなどと同様にGABAの放出を速やかに促しGABA-A受容体に働きかけ、シナプス後部のNMDA受容体活性を阻害します。何度もアルコールに暴露すると、脳は受容体やその他のタンパクを変化させてアルコールに適応していきます。そうするとアルコールの効果は落ち、以前と同様の効果をもたらすにはより多くの量が必要となってしまいます。その後にアルコールの血中濃度が落ちると離脱症状が生じ、それには不眠、不安、心拍数や呼吸数の増加、体温や血圧の上昇、手指振戦などがあります。エタノールは作用時間が短いため、血中アルコール濃度が落ちてから8時間以内に症状を認めることが多く、72時間ほどで最大となります。そのままアルコールを摂取しなければ、5-7日で過ぎていきます。

 アルコール離脱症状の経過と重症度は厳格にモニターしなければなりません。CIWA-Arが用いられており(Table 1)、8点以下であれば軽度でありベンゾを使用することはほとんどありません。8-15点では中等度であり、ベンゾをある程度用います。15点を超えるようなら重度であり、けいれんや振戦せん妄を避けることが重要となります (註:これは1回やってオシマイではなく、4-8時間おきなど経時的にチェックします。あと、意識障害があると適切な評価ができません)。

離脱せん妄Table1

 振戦せん妄の診断基準はせん妄とアルコール離脱症状に分けられます。後者は、長期大量飲酒状態から急にやめるもしくは減らすこと、そして、8つの症状 (自律神経の過活動、手指振戦、不眠、嘔気嘔吐、一過性の幻覚、精神運動興奮、不安、全般性の強直間代発作) のうち少なくとも2つがアルコールを減らした後に見られることとなっています。振戦せん妄はアルコール離脱症状が出現してから約3日で始まり、1-8日もしくはそれ以上続きます (大抵は2-3日)。振戦せん妄で入院している患者さんの約1-4%が死亡しますが、適切にそしてタイムリーに診断され治療されれば、死亡率は低下するかもしれません。高体温、不整脈、けいれんの合併症、併存する疾患によって死亡することが多いとされます。

 振戦せん妄を発症するであろうと予想されるのは、CIWA-Arが15点を超える時(かつsBP>150やHR>100の時に多い)、離脱けいれんを最近経験した(20%に見られる)、振戦せん妄や離脱けいれんの既往、高齢、ベンゾやバルビツレートなどの不適切な使用、身体疾患 (電解質異常や血小板減少、呼吸器疾患、心疾患、消化器疾患など) の併存の場合などです。予防は、併存疾患や離脱症状を見つけて治療することがベスト。治療の目標は焦燥をコントロールし、けいれんのリスクを下げ、受傷や死亡リスクを下げることです。診察と検査によって併存疾患を同定し治療することで、より状態が悪化するのを防げるかもしれません。ケアはせん妄の時と同様のことを行なうべきですが、静脈路は確保しておきましょう。ただし、経静脈的治療の際には注意すべき点があります。例えばグルコースを投与する際にはWernicke脳症やチアミン欠乏による心筋症を避けねばならず、アルコールによって一時的に心機能が落ちていることもあるため輸液を過剰にしないことも重要です。チアミン (経静脈的に500 mgを30分以上かけて1日1-2回、3日間) とマルチビタミンは推奨されていますが、マグネシウムをルーチンで投与することは支持されていません。Wernicke脳症が疑われた場合はチアミンの投与量をさらに上げ (経静脈的に500 mgを1日3回、5日間)、加えてマルチビタミンの非経口投与が推奨されています (註:チアミンの適切な投与量は実際のところはっきりしていませんが、自分もこんな感じの量を入れています)。

 振戦せん妄の薬剤治療の主流はベンゾです。ベンゾの中でどれが良いかは不明ですが、ここでは半減期の長いものとしてジアゼパムが、短いものとしてロラゼパムが挙げられています (註:自分もこれらを使うことが多いです。肝機能障害があればやはりロラゼパムでしょうか)。投与量は患者さんによってかなり異なり、桁外れの使用量となることもあります (註:この文献では、最初の2日間にジアゼパム2000 mgという量が記載されていました! まじ…?)。その他の薬剤も離脱症状には使用されますが、振戦せん妄に対するデータは欠けています (フェノバルビタール、クロメチアゾール、ミダゾラム、カルバマゼピン、オクスカルバゼピン)。高用量のベンゾに反応しない患者さん (特に挿管されている時) は、プロポフォールが使用されます。0.3-1.25mg/kgで、上限を4mg/kg/hr、48時間までとします。他にはデクスメデトミジンがあり、上限を0.7μg/kg/hrとして使用されます。これは心ブロックがあれば使用できず、血圧や心拍数を注意深くモニターしなければなりません。これらはベンゾよりも研究されていないため、危険性を常に考えましょう。

----------------

 振戦せん妄は "起こさないように徹底的にリスク管理を!" ということなのだと思います。自分のいる病院ではアルコール関連の入院も多いですが、CIWA-Arが最初に低くてもドンドン急激に上がっていく患者さんが実に多く、そうなると後手に回ることもあります。そのため、大量かつ長期の飲酒であれば、8点以下でも入院後にまずはベンゾを服用してもらうことが多いです。可能な限り振戦せん妄を起こさないようにするのが大事。ICUのある総合病院なら違うのかも?

 このような内容の論文2本でした。薬剤的な介入がまったく異なるので、対比させて覚えましょう。どの科でも役立つ内容でございました。今回、自分は研修医の先生を2日間担当することとなっています。1日目はこれらの論文で、もう1日は少し論文を探しておこうかな?
トラックバックURL
http://m03a076d.blog.fc2.com/tb.php/2177-4894c738
トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top