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2018
05.18

臨床のワンフレーズ(26):それが王道ですよ

 患者さんは回復過程が長く感じます。そして、本当に自分が良くなっているのか、これからどういう形に進んでいくのか、というのはとても心配になるもの。私たち医療者は、先を照らしておくことを忘れてはいけません。足元しか見えないとまさに五里霧中、暗中模索。でも、先の道や目標が見えるとホッとしますね。これを常に意識することが診療では大事になると思います。

 休職をしながらうつ病を治療している患者さん。極期を抜けて日常生活に少し安らげるようになってきました。しかし「楽しいことなら色々とできるようになったんですけど…」と。


患者さん「書類を見たり仕事のメールを見たりするのはまだちょっと…」
自分「仕事を思い出してちょっと…ていう感じでしょうか」
患者さん「はい。何だか好きなことばかりして怠けてるみたいで…」
自分「今の状況ならそう思うのも無理はないかもしれんですね」
患者さん「はい…。このままじゃなぁと思ってるんですが」
自分「そうでしたか。実のところ、好きなことからできるようになってくるっていうのは、回復する順番としてとても自然なんですよ」
患者さん「そうですか?」
自分「嫌なことから真っ先にやる気が出るなんてことはないでしょう。○○さんがドMなら話は別ですけど」
患者さん「いやいや。でも確かにそうですね」
自分「楽しめることを楽しめるようになったことが大事で、まずはしっかりとそれを味わいましょう。それが出来るようになると、気持ちも仕事に向かい始めますでね」
患者さん「分かりました」
自分「ここにいらっしゃる前は、楽しめるはずのことも楽しめなかったですもんね」
患者さん「そうですね、言われてみれば、ちょっとドライブっていう気にもなれませんでした」
自分「こころと身体が楽しめるっていうのが回復の基本ですから、まさに"王道"なんです。○○さんは王道を歩いとるで、とってもいい感じです。だからめちゃくちゃ楽しんでください」


 自分は外来を重くしないように、少し軽くしようと意識しています。もちろん患者さんやその時々の状況によりますが、ベースは楽観的な雰囲気が漂うようにしています。眉間にしわを寄せない、ちょっとオーバーに驚く、などもしますし、診察室に飲み物(自分用ですよ)を持っていくようにもしています。もちろん診察中は飲みませんが、置いておくとちょっとガチガチの真面目感が和らぎます、たぶん。今回はまず「○○さんがドMなら話は別ですけど」と、ちょっといたずらっぽく笑いながら発言しています。意外な言葉で患者さんも少し笑って、姿勢が軽くなります。繰り返しますが、この言葉を使うかどうかは患者さんや状況によります。これを間違うとアカンことになってしまいます。ふと思いましたが、診察って即興劇のようなところってありますね。

 そして、受診に至る前の苦しい時との比較を促します。最後に "王道" という言葉。「アンタが歩いとるんは王道やでぇ。安心せぇよ」というメッセージとなります。この "王道" なんて言葉は普通出てこないので、患者さんに強く印象付けられます。患者さんってこっちが思うよりも診察室では緊張していて、診察が終わって外に出たら「あれ、何話したっけ」となることも。なので、印象的な言葉を使ったり、緊張感そのものを和らげるようにこころがけたり、そんなことに医療者は取り組みます。「王道かぁ。よっしゃあ、大丈夫そうや」と思ってくれれば良いですねぇ。

 日々の外来で何が大事かというと、診察が終わった後に患者さんが「よし、これからもやっていこう」と思ってくれることなのだと思います。診察室に入る前は下を向いていた顔が、出る頃には上を向いているようになっている、これが一般的な日常臨床での理想かしら (難しいですが)。細かいところはこちらから指摘することもありますが、それも「これダメや。こっちにしい」とは言わずに基本的には「アンタのやっとることでO.K.や! そしてな、これをな、こうするともっと良いかもしれんで!」という感じの表現にします。それの積み重ねが回復に向かうのだろうなぁと考えております。
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