2017
12.02

眠ることを侮るなかれ

 睡眠というのはとても大事なのですが、残念ながら日本ではこれまで軽視されてきました。最近になって風向きが変わってきつつあり、2017年6月18日にNHKスペシャルで”睡眠負債”をテーマに特集が組まれたのを記憶しているかたも多いかもしれません。ただ、それでもまだまだ「睡眠を削って頑張ろう!」という精神が根を張ってしまっているのが現状。医学部でも睡眠に重きをおいた講義なんてないですしね。河合真先生の『極論で語る睡眠医学』で睡眠の重要性に気づいたという医療従事者も多いのではないでしょうか。精神疾患でも睡眠障害はほぼ必発と言っても良いくらいで、患者さんからゆとりを持って「眠れたなぁ」という実感が出てくるのであれば、勝利は近いようにも思います。まずは寝ようね、ということ。

 それも兼ねて、研修医に読んでもらう文献に以下を加えました。2003年のSleepに掲載された、とても有名なもの。

Van Dongen HP, et al. The cumulative cost of additional wakefulness: dose-response effects on neurobehavioral functions and sleep physiology from chronic sleep restriction and total sleep deprivation. Sleep. 2003 Mar 15;26(2):117-26. PMID: 12683469

 この論文の重要な点は以下の図に凝縮されていると言っても良いでしょう。

睡眠1

 左図は、睡眠時間を制限したら単純な作業のミスがどのくらい増えるかというもの。右図は、同じく睡眠時間の制限で主観的な、すなわち患者さん自身が感じる眠気がどうなるか、というものです。

 左図から解説すると、こんな感じ。

睡眠2

 当然のように、睡眠時間が短くなるとミスは増えます。そして睡眠時間の短い日数が増えると、ミスも線形的に増えています。自動車事故もそうですね。睡眠時間6時間でも増えるというのは注目すべきでしょう。では、右図は?

睡眠3

 なんと、睡眠時間が減っても、あるところまで行くと自覚は頭打ちになるのです! 断眠は例外ですが、睡眠時間4-6時間が続くとミスは直線的に増えているものの、いっぽう自覚はlog関数のように伸び悩みます。

 寝不足がずっと続くと、脳はそれに応じて疲労しミスが増える。しかし、自覚は頭打ち。これはぬるま湯につかったカエルが、じっくりとお湯の温度を上げても気付かず、いつの間にか茹で上がってしまうというお話を思い出させます。睡眠時間6時間というのは「6時間寝てるから良いだろう」という風に考えてしまいがちな時間ですし、実際に眠気もどこか感じにくい。しかしその実ミスは着実に増えている。ここが怖いですね。

 人々は自分自身のミスが多いなと思ったり ”アタマの回らない感じ” を持ったりしていても、眠気はある一定のレベル以上にはなりづらく、睡眠不足はそれほどじゃないだろうと考えがち。これは大きな問題で、患者さんのみならず、医療従事者や多くの業務に携わる人々にも該当するのです!!

 そのため、何となく失敗が多くて身体の調子も重く睡眠時間が6時間程度であれば、1-2時間多く寝てみてほしいな、と思います。それを続けたら意外にも良い感じになるかもしれません。味気ないですが、ちょっと生活を睡眠中心にしてみる期間も必要かと。

 研修医の先生には、そこから睡眠時無呼吸症候群の話につなげます。睡眠時無呼吸症候群は結構見逃されているので、疲労感や抑うつ気分などを訴える患者さんでは問診が欠かせませんし、「不注意やミスが多いからADHDか?」と疑うような患者さんでも聞いておきたいところです。どの科でも意識すべき疾患ですしね。

 今回、「図を和訳するなんて、しかもスライドにするなんてどうしたんだ」と思うかもしれませんが、これ実は産業医をしている会社で少しお話をするためにつくったものであります…。論文を読んでいて「研修医にも良いんじゃなかろうか」と思って、追加しました。でも会社からは「でも人が足りないからぶっちゃけ無理だよね」と言われましたよ…。
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