2018
04.11

臨床のワンフレーズ(25):早く来てくれて良かったです

Category: ★精神科生活
 私たち医者は、診察室の外も治療的であるようなこころがけをするようにしています。精神療法は診察室の中だけで働くものではありません。生活にじんわりと浸透させることで、限りある診察時間を拡げていくようにしています。とはいえ、受診と受診のあいだ、すなわち患者さんのふだんの生活が平穏無事とは限らないのは周知の通り。安定飛行に入るまではブレが生じますし、状態が悪化していく人もいます。そういう時、次回の診察の予約までこらえきれずに受診する患者さんがいます。

 医者の外来はいつもいっぱいで、予約外に患者さんが来ると予約で来た患者さんの時間もずれ込んでしまいますし、病院によってはこの再来でギリギリの中に初診が入るところもあります。しかもクリニックでなければ入院患者さんもいますし、そのご家族との面談の時間なども入っています。よって、医者の方に全く余裕がなく、再来中心で何とか組んでいる中にそうでない要素が入ってくると、表情に出さないようにしているもののイライラしてきます。「こんな忙しい時に…」「何で待てないのか…」という気持ちがどうしても出てくるでしょう。そういう中で予約外の患者さんに接すると、それは患者さんにも伝わりかねませんし、患者さんの態度や言葉を悪い方に勘ぐってしまうことだってあります。そう考えると、投影性同一視という言葉は非常に危ういところを持っていますね。治療者自身が抱く負の感情を投影性同一視という名のもとにすべて患者さんに原因ありとしてしまうこともありえるでしょう。よく訓練された治療者こそが使うことを許可されるものと思います(生兵法は大怪我のもと、ですね)。

 患者さん側からすれば、本来であれば予約外なんて来たくないことが多いものです(例外はもちろんあります)。でも調子が悪くなり、今後どうなっていくのか不安である、もしくはこんなことになって情けない、という思いがあるでしょう。医者の外来が忙しいのは、待合でも十分に伝わります。「先生も忙しいのにこんな時に来てしまってすみません」というセリフは形式的なだけではなく、本音を十分に含んでおり、それが自責や自信喪失につながります。それは放っておくと症状悪化につながりかねません。

 であるからこそ、医者の方はその意を汲んでねぎらう必要があるでしょう。本音は「もうちょっと待っていてくれよ…」であっても、それを出さずにいることがプロフェッショナリズム。そのためには、医者の日常生活がピリピリしていてはいけないのですが。

患者さん「すみません先生、ちょっと調子が悪くて早めに」
医者「そうでしたか。どんな感じです?」
患者さん「実は…」

~~~

医者「じゃあちょっとお薬を調節しましょう」
患者さん「ありがとうございます。忙しいのに」
医者「いやいや、早めの対処が一番ですよ。だから今日来てくれて良かったです」

 このように最後に付け加えます。これはお世辞ではなく、患者さんの「先生は忙しいのに、来てしまった」「これから私はどうなるんだろう」という気持ちに応えるものです。かつ、早めに対処することで患者さんの先行きが見えない不安感への対応となり、それは症状の緩和にもつながります。基本的に、誰だって医者のところに何度も来たいとは思いません(繰り返しですが、例外はありますよ)。予約外で来るにはやはりそれなりの理由があって、来ざるを得なくなっています。そこを知ろうとするのも大事ですね。

 もちろん、予約した受診までしっかりと待ってもらって、そこで会うのを続けるということ自体が治療的なことも多いです。診察までの間にどのような症状があったか、どんな思いが芽生えたか、などを抱えてもらう練習になるのです。境界例が代表ですが、感情を抱えられずに予約外で頻繁に受診するようであれば、やはり抱えてみる練習として予約まで待つという重要性をお伝えする必要もあるでしょう。ただ、その場でも ”来た” ということを最初から否定するのではなく、色々と考えてもらうきっかけにしたいものです。抱えきれない人が医者から言われて最初から「はいそうですか」と言って予約にきちんと来るのは難しいでしょう(それは抱えられることになりますし)。練習には失敗がツキモノです。その失敗をマイナスとしてとらえずに次への糧とするように、こちらは腐心せねばならないでしょう。
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コメント
もなか先生へ

先生方もいろいろと考えて下さっていらっしゃるのですね。
とてもありがたいお話しです。

自分自身の得体のしれない不安を抱えてゆくのに…先生の優しい精神分析のお話しがとてもお役にたたせて頂いております。

最近…情緒不安定性パーソナリティーなのか境界性パーソナリティー障害なのかな?と思われる方と出会う機会が多くてですね…いろいろ勉強させられます。

投影性同一視されるのもするのも恐怖でして…自分のなかで緊張の戦慄です。
距離はかなりおいておりますが…お相手が近付いてくるとどう対処して良いのかわからない現状です。(普通の取り留めのない会話でも被害的に受け取られるので)
正直ホントに怖いです。

と言う自分もそうなのかな?…と。
どうしたらよいのでしょうか。
東西南北dot 2018.04.13 22:47 | 編集
>東西南北さん

境界性パーソナリティ障害のかたへの接し方は確かに難しいところがあるかと思います。
黒田先生の『治療者と家族のための境界性パーソナリティ障害治療ガイド』や、翻訳がちょっと残念ですが『境界性パーソナリティ障害をもつ人と良い関係を築くコツ』というのを実際に読んでみると、対応の一端が見えてくると思うので、お勧めしておきます。
実際に本屋さんに行って立ち読みをしてから買った方が、ご自身に合うものを見つけられるでしょう。
基本的に会話でも「多くのかたは~」「~というかたも結構いらっしゃるんですけど」などと一般化を強調していくと裏を取られることが少なくなるとは思います(それでもうまくいかないことも多いですが)。
m03a076ddot 2018.04.16 07:35 | 編集
もなか先生へ

お返事ありがとうございます。
図書館に行った時に探してみます。

最近…(いや…今週は!でしょうか)今日もですがとてもクタクタです。
なんと表現したらよいのか…精も根も尽きた感じ。
先生のヘロヘロ…を思い出しまして…。
夜が寝れてないのでしょうか。

何としたものか。
土曜日が待ち遠しいです。

季節の変わり目(気温があがったりさがったり)の影響でしょうか。
自力で体力セーブできないのが辛いです。
東西南北dot 2018.04.19 19:42 | 編集
>東西南北さん

ありがとうございます。
図書館にあれば、読んでみるのも良いかもしれませんね。
私もひどい風邪になってまだ咳が取れず、声がガラガラになりまして。
患者さんからも「先生のほうこそお大事に」と診察の終わりに言われてしまう始末です。
特にこの時期は皆さん体調を崩しやすいですね。
ご自愛ください(まさに自分を愛することが大事ですね)。
m03a076ddot 2018.04.22 20:54 | 編集
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