2017
10.01

臨床のワンフレーズ(20):どんな思いがよぎりましたか?

Category: ★精神科生活
 日々の診察の中では、患者さんとお話をすることになります。このお話というのは過去のその人の関係性、そしてこの診察室での医者と患者さんとの関係性がにじみでてくるものでもあります。いろんなメッセージが見え隠れしているとも言えるかもしれません。

 その中で、患者さんの中には”沈黙”する人もいます。沈黙は言葉がないから意味がないわけではなく、それ自体が大きなメッセージになっていると考えられます。黙ることもお話である、と表現できますね。

 しかし、話を聞いているこちらとしては、沈黙というのはちょっと居心地がよろしくないものです。何か言葉を発して破ってしまいたくなるもの。ただ、沈黙を破ればそこにあるメッセージも破られるかもしれません。なかなか難しいところです。

 もちろん、沈黙にはうつ病によく見られる抑制・制止というものや統合失調症に多い途絶というのもあります。今回はそういうのではなく、患者さんの苦悩としての沈黙。あまり予後のよろしくない身体疾患の患者さんで、明らかにその病気が悪化している時など、患者さんは気持ちを言葉で表しづらいものです。その時、沈黙が流れます。もちろん、身体疾患ではなく精神疾患であっても、診察の中で患者さんが話をせずに黙ってしまうことも多く見られます。

自分「○○さん、調子はどうですか?」
患者さん「…この前、健康診断に行ったらがんが見つかって」
自分「…がんが見つかったんですか」
患者さん「色々検査をして、今度手術になるんです」
自分「手術があるんですね。いつになるんですか?」
患者さん「1ヶ月後に…」
自分「1ヶ月、そうでしたか…」
患者さん「…」
自分「…」

 このように、何となく重々しい感じで話がなされ、患者さんはついに黙ってしまいました。こういう時、どうすれば良いか。何が正解かというのは分からないのですが、とりあえず1-2分は待ってみることにします。

患者さん「…」
自分「…」

 それでも患者さんが切り出してこない場合、もっと待つことにメリットはあるかどうか。精神分析的精神療法では40分ずっと待ったなんて報告がありますが、何だかそれは根比べになってしまっているようですし、その部分だけをクローズアップしてもよろしくないでしょう(若いときはそれじみたことをした経験がありますが…)。多くの医者は一般的な診察をしているので、その長い沈黙の部分だけ切り取って輸入してもどうかなぁと思っています。

 沈黙それ自体にはメッセージがあります。多くの場合は苦しみや悩みであり、それがこちらにも伝わってくるかのように、医者の方もつらくなります。できれば逃げ出したい、そんな気分にすらなります。しかしながら、沈黙の流れを断ち切ることは、患者さんのメッセージまでも切ってしまうような感じすらします。でも沈黙は耐え難い…。どうしようかなぁと考えを巡らせることに。

 そんな時、自分はその流れに乗ったまま患者さんに話してもらうような言葉を使ってみます。

患者さん「…」
自分「…」
患者さん「…」
自分「…、○○さん、今この間、どんな思いが頭をよぎりましたか?」

 ちょっと姿勢をより患者さんに向けて、声は低めに静かに。沈黙のさなか、患者さんは伏し目がちです。ここでこっちが名前を呼ぶと、ちょっと顔を上げます。その時に眼を見て、どんな思いがよぎったか? そんなことを問うてみます。

患者さん「…怖いです。私は両親ともがんで死んでいるので、もしかしたらとは思ってたんですけど…」
自分「…そうでしたか。ご両親ががんで…」
患者さん「でも本当に言われるとやっぱり…」
自分「怖い、ですよね。本当に怖いと思います」

 そうすると、沈黙の余韻を残しながら、話が進んでくれます。その時の感情を「そういう状況であれば無理もない」と認証して、それを言葉にしてくれたことを評価します。

 沈黙というのは本当にいたたまれません。そこをちょっとこらえてみて、流れを実感する。そこからそれを壊さないように、感情の吐露をそっと促すような言葉かけをしてみる。それが今のところ自分が行なっている方法です。もっと良いのがあれば、とは思いますが、せっかくの沈黙なので、話題を変えるのはナンセンスとも感じています。感情を先読みして励ましたり慰めたりというのも、ちょっと白々しい。沈黙を活かせるような診察が出来れば、患者さんにも侵襲的でないですね。
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