2017
09.03

研修医の先生に読んでもらう論文をいくつか

Category: ★研修医生活
 自分が勤めている病院に研修医の先生が2週間やって来ることがあります。研修医の先生がいる病院に精神科がなく、それで精神科のタームの時だけこちらに来るというシステム。若い先生を見ると、昔の自分を思い出しますね。

 多くの研修医の先生は精神科に興味がないので、こちらも色々教えるというよりは「せん妄の対処は知っておこう!」くらいの立ち位置になります。しかもローテーションも2週間だし、出来ることは限られている。ちなみに精神科志望であればなおさら「今のうちに身体疾患の勉強をしておこう!」と言うことにしています。

 研修医の先生に一緒に診てもらう患者さんは他の先生がたが紹介しているので、自分は午前中に論文を何本か読んでもらって午後にその内容でお話をする、というスタイルにしています。座学も大切ですし、自分自身がリハビリ出勤なので省エネにしているというのも否めず。読んでもらう論文は大体決まっておりまして…

・Galvin R, et al. EFNS guidelines for diagnosis, therapy and prevention of Wernicke encephalopathy. Eur J Neurol. 2010 Dec;17(12):1408-18. PMID: 20642790

・Isenberg-Grzeda E, et al. Wernicke-Korsakoff syndrome in patients with cancer: a systematic review. Lancet Oncol. 2016 Apr;17(4):e142-8. PMID: 27300674

・Bhattacharyya S, et al. Antibiotic-associated encephalopathy. Neurology. 2016 Mar 8;86(10):963-71. PMID: 26888997

・Turrini A, et al. Not only limbs in atypical restless legs syndrome. Sleep Med Rev. 2017 Apr 4. pii: S1087-0792(17)30080-1. [Epub ahead of print] PMID: 28559087

 こんな感じ。人によって読むスピードは異なるので、全部読めなくてもO.K.です。あとは志望科によってそれと関係する論文を1つ付けるかどうか。

 これら論文を読んでもらう狙いとして

「Wernicke脳症を見逃すな!」
「がん患者さんのWernicke脳症だとモヤッとした症状もあるぞ!」
「抗菌薬で脳症が起きるぞ!」
「restless "legs" だけじゃないぞ!不定愁訴と片付ける前にちらっと疑え!」

 という強いメッセージがあるのです。精神科以外を志望しているのであれば、統合失調症の精神病理学とかを話してもあまり意味はないので、他の切り口にしているのでした。これら論文の内容を踏まえて研修医の先生に話す内容はですね…

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 Wernicke脳症はとても見逃されており、有名な3徴は16%にしか見られない。国試的には「Wernicke脳症といえばアルコール依存症、アルコール依存症といえばWernicke脳症」であるが、決してそれだけでない。アルコール依存症以外でも見られることは覚えておくべきであり、その内訳では、がん患者さん(特に血液腫瘍や消化管腫瘍)、消化管手術、妊娠悪阻、飢餓(神経性やせ症も注意)でアルコール依存症以外において発症するWernicke脳症の50%以上を占める。そして、がん患者さんでは頭痛、無気力、脱力といった ”モヤッとした” 症状を来たすことがある。「がんだし無気力にもなるよなぁ」「がんだしあまり動かず寝ているとアタマも痛くなるよなぁ」と過剰に了解することなく、「ひょっとしたらWernicke…?」と考えてまず治療をしてみるというのも大事。検査はMRIが有名だが、感度や特異度はスタディによってまちまちで、基本的にはRule inのために用いる補助と考えておこう。よって、所見がなくても治療してみるという勇気も必要。治療にはビタミンB1の経静脈的投与が行われるが、安価でありゆっくり投与すれば大きな副作用も大きなものはないので、疑ったら治療開始の気持ちで。ただ、投与量や投与期間にコンセンサスはない。

 抗菌薬の副作用で脳症が起きることもある。これらは大きく3つのグループに分けられる。開始後数日で発症し、けいれんやミオクローヌスが多く生じ脳波異常も見られやすいグループが1つ。これはペニシリン系とセフェム系に多く、特にセフェム系は腎機能が悪いと起こりやすい(セフェピムは特に有名)。別のグループは精神病症状が多いもので、これも開始後数日で発症する。脳波は異常がそれほど多くなく、プロカインペニシリン、スルホンアミド、キノロン、マクロライドで生じやすい。精神病症状だからと言ってすぐ精神科に!ではなく、これら抗菌薬を使用していればそれによる脳症かを考えよう(だから精神科医もそのことを知っておく必要がある)。別のグループはメトロニダゾールによるもので、投与後数週間してから発症する。小脳症状が多く、脳波は非特異的異常所見を示し、MRIでも異常所見(小脳歯状核がT2強調で高信号、脳梁膨大部が拡散強調で高信号)が見られる。最近、日本でも偽膜性腸炎(CDAD)の治療薬として静注のメトロニダゾールが承認されたので、こういった例が増えるかも? イソニアジドはいずれのグループにも入らない。発症は数週から数ヶ月で、精神病症状がコモン。脳波は異常を示すが非特異的である。

 Restless legs syndrome(RLS)は見逃されやすい疾患であるが、"legs" ではなく腕、他にも会陰部や膀胱、腹部、後背部、顔や口など様々な部位にも生じることが分かってきた。IRLSSGの診断基準は以下だが、それを身体の各部位に当てはめて疑うことが大切である。「変な症状だな。不定愁訴か」と括ってしまう前に、鑑別を考えよう。ドパミンアゴニストで速やかに改善することが多い(でもフェリチン低値なら鉄剤投与が優先かな…)。

IRLSSG 診断基準
1: 脚を動かしたくてたまらない衝動と不快感
2: 安静時に悪化
3: 脚の運動により不快感が軽減ないし消失
4: 夕方から夜に悪化
5: これらの特徴を持つ症状が,他の疾患・習慣的行動で説明できない

 ちなみに、日本語では”むずむず脚症候群”というが、”むずむず”では引っ掛けられないことが多い。”ちくちく””そわそわ””虫が這うような””お布団を蹴っ飛ばしたくなるような感じ””落ち着かない”など様々な訴えである。まさに"restless"なので、”むずむず”に引っ張られないように! 後は、「落ち着かないから眠れない」のではなく、「眠れないから落ち着かない」と患者さんは考えることがある。そうなると患者さんは「眠れない」としか言わないので、こちらから積極的に問うことが大事。

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 と、このような感じ。どれも精神科以外で遭遇しやすいので、こういう知識を入れておくのはムダではない、はず(覚えておいてくれれば)。こういった論文の中には検査方法の感度や特異度も記載されているものがある(Wernicke脳症に対するMRIなど)ので、時間があれば尤度比のお話もしています。今度はそれを記事にしようかな?

 そう言えば、以前は名古屋大学で研修医の先生がた相手に朝の勉強会を行なっていたんですが、他の科も勉強会をすることが多くなったそうで、研修医の先生から「朝は忙しいから夜にしてくれ」と言われ、しょうがないなーと思って夜にずらしたは良いけれども今度は「夜に集まるのは困難です」と言われ、何と2015年の7月(だったかな?)を最後に中止に追い込まれた苦々しい過去があります…。その時は「随分と身勝手な研修医だな…」と実は怒っていたんですが、まぁでも魅力のある面白い勉強会ならみんな来てくれていたんだろうと思うと、まだまだ自分も勉強不足だなと(今になってようやく)考えております。教えるっていうのは難しいものですね。
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コメント
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dot 2017.09.08 21:16 | 編集
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

学生さんなんですね。
昔は自分も学生だったんだなぁと、当然のことを改めて思いました。
根拠を探すことはとても大切で、この治療を選ぶ根拠は何か、をできるだけ明確にするのは今の医療の根幹です。
ただ、治療にはエビデンスだけではなく、目の前の患者さんにどのような医療を差し出すか、という ”出会い” 的な部分も重要だと思います。
EBMは人口に膾炙しましたが、あくまでもエビデンスに ”基づく” 医療です。
ここを誤解してしまっている人がとても多いのは憂うべき事態でしょう。
エビデンスのみで医療は為すことができません。
そこを早いうちに知っておくと良いかもしれませんね。
参考までに以下の2記事を挙げておきます。

http://m03a076d.blog.fc2.com/blog-entry-2036.html
http://m03a076d.blog.fc2.com/blog-entry-1988.html

学生のうちは色んな知識を吸収できる時間と貪欲さがあります。
勉強がんばってくださいね。
m03a076ddot 2017.09.09 09:10 | 編集
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