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2019
06.10

整理をしてみる

Category: ★精神科生活
 以前にも記事にしましたが、大事なのでもう一度。

 4月から精神科にもレジデントが入り、もう2か月となりました。今の時代、レジデントは「できるだけ単剤で!」という教育を受けているので、昔の処方を見るとびっくりします。この驚きも通過儀礼というかなんというか。

 その昔の処方は精神科病院に行くと目にします。長年入院している統合失調症患者さんや知的障害の患者さんがそうで、その処方を見て「おぉ…」と思うこともしばしば。自分も最初に処方を見た時はまさに目が点になりました。いちおう前期研修の頃に精神科薬剤の勉強をしていて、統合失調症の治療も”非定型抗精神病薬を用いてできるだけ単剤で抗コリン薬は使わずに…”というアタマだったため、精神科病院に長年入院している患者さんの処方には本当にびっくりしたものです。ちなみに今は非定型ばかりではなく定型も使っていて、自分はブロムペリドール、チミペロン、ピパンペロン辺りに馴染みがあります。非定型だけではどうにもならない患者さんも確かにいて、そういう時に定型を使うと改善に向かうことが少ないながらもあるため、「定型も大したもんや」と感心してしまいます。クロザピンがもうちょっとハードル低く使えたらなぁと思いますが…。

 そして、レジデントはそんな処方を見てやっぱり「何とかしよう!」と思います。これを何とも思わないレジデントはちょっといかんのではないか、と自分は勝手に考えております。多剤大量の弊害は色々と言われているので、減らせるところまで減らせればそれはとてもイイコトと考えるでしょう、普通のレジデントなら。何もせずに最初からそれを放棄してはなりません。混沌とした処方を見て「さぁどうやって減らしてやろうか」とウズウズしてくるくらいがレジデントっぽくて良いのです、たぶん。

 しかし、この減量がクセモノで、うまくいかないことがとても多いんです。「え、ちょっと減らしただけなのに状態が悪くなった…」という体験をすると「やっぱりいじっちゃいかん処方だったのかなぁ…」と考えるでしょう。そこで、この”ちょっと減らしただけ”というのが、実は”ちょっと”ではないことが落とし穴。長年入院している多剤大量の患者さんは”受容体のアップレギュレーション”が生じていると考えましょう(あくまでも仮説ではありますが)。その場合、レジデントが”ちょっと”と思っていても、受容体的には”かなり”になります。よって、その部分で注意が必要でして、クロルプロマジンでもヒトケタ(1 mgとか2 mgとか)、ハロペリドールでもコンマ何mg(0.1 mgとか0.2mgとか)くらいの用心深さが求められます。私たちの思う”ごくごく少量”が長期入院の患者さんにとって”ちょっと”というレベルなのだと考えましょう。したがって、一人のレジデントが担当している間は減量が完成しないかもしれませんが、それで良いのです。次世代に継ぐような、それくらいに慎重にじっくりと焦らずやる必要があるのでございます。

 あと、レジデントにとって壁となる存在が看護師さんです。彼ら/彼女らは患者さんと特別な関係であり、もう数年~十年以上の付き合いになっています。患者さんの病棟生活をほぼ把握していると言っても過言ではありません。そういう関係性の中に4月からぴょいっと何も知らないレジデントがやってきて処方をいじくった挙句に症状を悪化させて最悪保護室を使わねばならなくなる。看護師さんからすると


「何してくれてんだよオマエ! ○○さんのこと何も知らないで薬剤をいじって! 前のレジデントもそうやって引っ掻き回して悪化させたことがあるんだよ!」


 という、強烈な陰性感情を抱かないわけではないのです。中にはレジデントに対して薬剤の減量について釘を刺しておくなんてこともあります。この気持は分からないではありません。自閉的でこだわりが強いながらも病棟での生活をせっかく送れていたのに、どこの馬の骨とも知らない若造がやって来て壊しているのですから。減量に失敗したレジデントにそのような視線を送ると、レジデントの方も積極性がなくなっていき、処方を変えずにそのまま…という長年の処方の継続という形が完成します。

 しかしながら、ここでやっぱり多剤大量の弊害を看護師さんにも知ってもらう必要があるかと思います。自閉的や強いこだわりは、ひょっとしたらドパミン受容体やセロトニン受容体の過剰な遮断によるものかもしれません。減らすことでちょっと患者さんが明るくなるかもしれません。入院中の患者さんの独特の歩き方は、やっぱりドパミン受容体の遮断によるでしょう。減量によってそれが改善するかもしれません。それ以外にも、薬剤を減らすことで心血管リスクが下がるでしょうし、誤嚥性肺炎も少なくなりますし、認知機能低下もなだらかに出来るかもしれません。

 そういうことをお話しした上で(看護師さんの立場を尊重しながら、は当然です)、各種受容体のアップレギュレーションを考慮に入れて、ほんのちょっと、ナメクジが這うよりもゆっくりなペースで減量を進めてみましょう。何も変わらないかもしれません。でも、何も変わらなくてお薬を減らせたら、それは勝利だと自分は思います。レジデントの大きな経験にもなるでしょう。なかなか失敗が許されない状況ではありますが、レジデントのみなさんはごくごく少量でも良いので減量にトライしてみることをオススメします。自分も、ハロペリドール9 mg/day入っていた患者さんを3mg/dayにまで減らしましたが、自発性の低下や姿勢の悪さは全く変わらずやや拍子抜けしたことがあります。でも、何も変化なくそこまで減らせるということが大事。

 ただし! 中には「どうしてもこの複雑怪奇な処方じゃないとダメなんだな…」という患者さんもいます。以前の主治医の先生方の叡智の結晶と言ったら大げさかもしれませんが、そういう処方もあるにはあります。全員が減量できるわけではないのでしょうね。

 また、減らす時は患者さんにしっかりと了解を得ましょう。患者さんは変化があまり好きでないことがあります。その場合、「多剤大量は弊害だ!」という私たちの考えだけで減らすことは、患者さんの不安をあおり、対立まで生むかもしれません。患者さんが「このままで良い」と言うのであれば、いじらずにそっとしておくことも方法なのです、たぶん。私たちが正義なのではありません。「正しいことをしている!」という認識は、ともすると暴力的ですらあるのです。私たちと患者さんとのあいだに漂いながら、じっくり考えていきましょう。

 ちなみに、「多剤併用のほうが単剤よりも再入院率が低いというデータがある」という人もいます。これは確かにそうなのですが(例えば Tiihonen J, et al. Association of Antipsychotic Polypharmacy vs Monotherapy With Psychiatric Rehospitalization Among Adults With Schizophrenia. JAMA Psychiatry. 2019 Feb 20. [Epub ahead of print] PMID: 30785608)、この場合の多剤併用は "2剤" がほとんどです。昔の日本で行われていた抗精神病薬の3剤や4剤、かつ抗コリン薬を乗せてベンゾを乗せて…という "多剤併用" とは同じではありません。ここは注意が必要ですね。旧来の多剤併用を正当化する内容ではないのです。

 ということで、患者さんが、そして周囲の環境が、減らすことを許容してくれる状況であるのなら、本当にゆっくりと少しずつ減量してみましょう。ただし、過大な期待は禁物です。そして、何か良くない変化があったらすぐに元に戻すことも大切です。それを忘れずに取り組んでみましょう。薬剤師の先生も細粒で微調整しなければならないので負担でしょうけれども、ご了承を…。
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