2017
02.17

コテコテじゃなくても

Category: ★精神科生活
 以前にも記事にしたことがありますが、精神科領域で有名な漢方薬の使い方に


神田橋処方


 というのがあります。神田橋條治先生という超有名な精神科医が考案した処方でして



四物湯(or 十全大補湯) + 桂枝加芍薬湯(or 小建中湯 or 桂枝加竜骨牡蛎湯)



 という、2剤を合わせたもの。これは何に対して用いるかというと、フラッシュバックなんです。「そんなフラッシュバックなんて、精神科医以外は診ないでしょ~」と思われるかもしれませんが、このフラッシュバックはかなり広い意味でのフラッシュバックでして、重度の心的外傷ではなくても「会社のことがフッと思い出されて、つらくなる」「仕事着を見るだけで泣けてくる」など、そんなのも含みます。そう考えて患者さんに問診すると、結構な頻度で引っ掛かってきます。特に最近はお仕事関係で休職する患者さんも多く、そういった人たちにこのような症状が出てきます。あとは、PICSという概念があるように、集中治療を受けた患者さん(とそのご家族)もそのような症状に悩まされることがあり、悪夢が多い、寝付けないといった患者さんがいたら聞いてみると良いかと思います。「集中治療室にいた頃のアラームの音が頭に浮かんできて、怖くなる」「たぶん意識が朦朧としてたと思うんですけど、色んな人が僕を覗き込んでいたのが鮮明に残っていて、パッとそれが思い出されてくる」などのお返事は多いのでございます。

 フラッシュバックを広義にとらえると、精神科医以外でもそれを抱えている患者さんに多く接している、ただそれを問診していないのだということが分かってくるかと。その時には上述の神田橋処方を使ってみてください。ただ、四物湯は高率に「胃の調子が悪くなる」と言われるので、その時は四物湯に四君子湯+αを合わせた十全大補湯にしておいた方が良いかもしれません。しかし、十全大補湯ももたれることがあるため、そういった場合は四物湯に六君子湯を噛ませると良いです(これは私見)。補気薬や補血薬は胃に来ることがあるので、陳皮や半夏といった理気薬が重要。桂枝加芍薬湯に関しては基本的にこの方剤を用いますが、お子さんなら水飴を混ぜた小建中湯にしてみたり(飲みやすい)、不安が強いかたなら桂枝加竜骨牡蛎湯に変更します。桂枝加竜骨牡蛎湯は桂枝加芍薬湯から芍薬を減量した桂枝湯(桂枝湯の芍薬増量が桂枝加芍薬湯ですが)に竜骨と牡蛎を加えたもの。しかし、以前にコメントをいただいたことがありますが、桂枝加竜骨牡蛎湯が合わなくて桂枝加芍薬湯だと合うという患者さんもいます。また、桂枝加芍薬湯だとダメで桂枝加竜骨牡蛎湯だと良いという患者さんがいるのも事実。ここはとっかえひっかえしてみるのが良いかと。

 実際の用量としては、最大手のツムラさんを例としますが


・四物湯2包+桂枝加芍薬湯2包
・十全大補湯2包+桂枝加竜骨牡蛎湯2包
・四物湯2包+小建中湯4包
・四物湯2包+六君子湯2包+桂枝加芍薬湯2包


 など。基本的には2包ずつかなぁと思っています。小建中湯は水飴が多く他の生薬が少なくなっているので4包が良いかと。2週間から1ヶ月もあれば症状は軽くなります。

 しかし、なぜこの組み合わせが効くんでしょう??? 補血重視でおそらくは心血虚を狙っているというのは分かりますが、フラッシュバックという、情動を強く揺さぶるものがこの生薬の組み合わせで改善するというのはなかなか謎です。地黄の持つチカラ? 東日本大震災のPTSDに柴胡桂枝乾姜湯を用いて有効だったという報告もありますが、こっちはまだ納得できます。柴胡は精神科領域でとても大事な生薬であり、実際に神田橋処方でなくても柴胡加竜骨牡蛎湯や大柴胡湯でフラッシュバックが軽くなる患者さんもいます。ただし、柴胡を長期に使うなら柔肝と言って補血(+補陰)作用のある生薬もある程度使うべきで、それを怠ると間質性肺炎などの副作用をもたらします。そういった意味では神田橋処方の方がクセのない処方ではあるかと思います。

 精神科医も精神科医以外の先生も、広義のフラッシュバックにはぜひ注目してみてください。「昔の嫌な記憶が、ワケもなくパッと出てくることはありますか?」とか「ちょっとしたきっかけで昔の嫌な記憶が沸き起こってくることはありますか?」というのが良い質問でしょう。後は悪夢があればそれから広げても結構です。精神症状があり診ている外来患者さんや、ICUを経験したことのある患者さんなどが最初の対象となるかと。

 フラッシュバックで言うと、外傷性の幻聴もそれに入ります。どんな精神疾患でも外傷性の幻聴があり、それには抗精神病薬が効きづらいとも言われます。統合失調症でも、「○○が悪口を言ってくる」など、決まった対象であればその可能性があります(絶対、ではありません)。入院患者さんでも外来患者さんでも、他の人にいじめられて、それがしつこく被害的な幻聴となって襲ってくるということがあるので、その時は神田橋処方を使用してみる良い機会だと思います。
 
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コメント
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dot 2017.02.20 15:11 | 編集
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

そういったタイプでも有効かと思います。
ただ、典型的なフラッシュバックでも神田橋処方が全員に効くわけではないので、「効いたら嬉しいな」という気持ちで臨むのが良いかと思います。
神田橋処方以外でも、柴胡桂枝乾姜湯が東日本大震災のPTSD症状に効果があったという論文も出ています。
冷えがあって口の渇きが目立つのならこちらでも良いのかもしれません。
伊勢屋は閉店してしまったのですか…。とても残念です。
お店に行くと焼き立てを出してくれて、それを食べながら古町を歩いていたのが思い出されます。
高齢とのことですが、そこまで頑張ってくれていたんですね。ありがたいことです。
m03a076ddot 2017.02.20 16:28 | 編集
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