2017
01.04

咳止めがひらく医療の世界?

 本日が仕事始めで、現在当直中です。明日はそのまま日直をして、金曜日から通常業務。しかも今、風邪をひいてまして…。喉と頭が痛いです。なんと残念な2017年の幕開けでございましょうか。。。愚痴はこのくらいにして、本日は真面目な話題を。

 有名な咳止めのお薬に”デキストロメトルファン(メジコン®)”というのがあります。これが色々な方面に役立つのではないか…?と言われておりまして。枯れた技術の水平思考みたいな。今回はこの論文を参考にして浅く見てみましょう(図もこの論文から)。

Nguyen L, et al. Dextromethorphan: An update on its utility for neurological and neuropsychiatric disorders. Pharmacol Ther. 2016 Mar;159:1-22. PMID: 26826604

 デキストロメトルファンは50年以上前からある古参の薬剤。モルヒネ誘導体であるメトルファンの鏡像異性体から最初につくられました。治療域(60-120 mg/day)ではでオピオイドの持つ中枢神経作用を発揮しないことが明らかになっています。そんな鎮咳薬ですが、20年ほど前から抗けいれん作用や神経保護作用が指摘されていました。そして、CYP2D6阻害作用を持つキニジンとの併用(合剤)が情動調節障害(pseudobulbar affect)に有用だとして、FDAとEMAに認可されています。これは有名な話ですね。そして今、種々のCNS関連疾患への臨床試験が行われている最中。

 デキストロメトルファンはμオピオイド受容体アゴニストであるレボファノールの誘導体なのですが、種々のオピオイド受容体へのアゴニスト作用を持ちません。他の多くの受容体やトランスポーターに結合することが分かっており、NMDA受容体アンタゴニスト、σ1受容体アゴニスト、ニコチン受容体アンタゴニスト(α3β4、α4β2、α7)、そしてセロトニントランスポーター阻害、ノルアドレナリントランスポーター阻害、電位依存性Caチャネル阻害作用などなど、精神科医が泣いて喜びそうな感じがしてきますね。σ1受容体は刺激することで↑セロトニン、↑ドパミン、↓グルタミン酸をもたらします。抗うつ薬ではフルボキサミン(デプロメール®/ルボックス®)がこの作用を持つということで盛んに製薬会社が宣伝していましたが、「いやいや、うちのサートラリン(ジェイゾロフト®)だって持ってますよ」と別の製薬会社も乗っかってきた経緯があります。

 そんなデキストロメトルファンは、上述のように情動調節障害に使用されます。2010年にFDAが、2013年にEMAがキニジンとの合剤を認可しました。情動調節障害はALS(筋萎縮性側索硬化症)と脳卒中の50%に、アルツハイマー型認知症の39%に、MS(多発性硬化症)の10-29%に、パーキンソン病の5-17%に、TBI(外傷性脳損傷)の5-11%に認められます。情動調節障害の詳しいメカニズムは不明ですが、脳幹の運動核群や小脳に対する皮質の下行調節系が消失し、感情表現の運動調節に対する抑制が効かなくなっているのではないかと言われています。神経伝達物質ではセロトニンやドパミンの減少、グルタミン酸の増加が指摘されています。だからアルツハイマー型認知症患者さんの持つ突発的な焦燥や攻撃性にSSRIが効くのかもしれませんし、たまーにメマンチン(メマリー®)が効果を示すのも納得。抑肝散も言われてみるとセロトニントランスポーター阻害とNMDA受容体阻害の作用を持つから、効くことがあるんですね。ちなみにデキストロメトルファンとキニジンの使用量は、20/10 mgを1日2回もしくは30/30 mgを1日2回。副作用は嘔気、めまい、頭痛が10%ほどに見られ、傾眠、疲労感、下痢が7%前後、口渇が5%くらい。治療初期に見られ重大なものはなく、また重大な心電図変化、心イベント、呼吸抑制も認められないとのこと。副作用を軽減しながら治療するなら、最初は20/10 mgを1日2回から始めて、30/30 mg 1日2回もしくは30/10 mg 1日2回に漸増が適切でしょう。日本では適応外使用となりますが、抗精神病薬を用いるよりもまずこれからトライしてダメならSSRIやトラゾドン(レスリン®/デジレル®)など抗うつ薬を使ってみるという手順を踏んだ方が安全なのだと思います。どうせどれもこれも適応外だし。

 ここからは”治療薬としての可能性”がある分野。

 1つはうつ病への使用です。抗うつ薬は色々とあるもののどれも作用機序では似たり寄ったりであり、1/3の患者さんにはあまり効きません。しかも効果発現まで時間がかかるのもネック。その点、デキストロメトルファンは効果が早いようで期待されています。薬理学的ターゲットについて、三環系抗うつ薬であるイミプラミン(トフラニール®)、そして迅速な効果発現で期待されているケタミンと比較してみるとこのようになるそうです(図のDMがデキストロメトルファンです)。

メジコン1
(Pharmacol Ther. 2016 Mar;159:1-22.)

 また、AMPA受容体への作用も注目されています。直接結合するわけではないのですが、σ1受容体を介して(?)この受容体の活性を高めて迅速な抗うつ効果をもたらしているかも? と言われます。ケタミンもNMDA受容体への作用が強調されてきましたが、その抗うつ効果は実はAMPA受容体のアップレギュレーションに大きく寄っているのではないかとも指摘されおります。デキストロメトルファンは同時に栄養因子の発現を高めて神経可塑性につながっている可能性もあるようです。この2つをσ1受容体を軸にして図示したのがこちらです。この著者らはσ1受容体が好きなんですかね? それともそんなに魅力的な受容体なんでしょうか。

メジコン2
(Pharmacol Ther. 2016 Mar;159:1-22.)

 デキストロメトルファンは本当に様々な作用を持っており、このカオスさ、”ダーティさ”がSSRI以降の新規抗うつ薬の持たない魅力となっています。三環系抗うつ薬はダーティの代表格であり、抗うつ効果は新規抗うつ薬よりも強いことが分かっています。ただ、そのダーティさが様々な副作用を産んでしまっているのも事実。新規抗うつ薬は安全性という点では遥かに三環系抗うつ薬を凌駕します。より副作用が少なく安全で、三環系抗うつ薬と類似した効果を発揮できることがうつ病治療の目標ではあります。デキストロメトルファンはそこを突破できる可能性があります。

 次は脳卒中。デキストロメトルファンは脳卒中に伴う種々の神経症状、精神症状を改善させるものの、全体的な機能的アウトカムは残念ながらそうではないようです。脳卒中では以下のことが生じており、これらが治療的なターゲットと考えられます。

メジコン3
(Pharmacol Ther. 2016 Mar;159:1-2)

 デキストロメトルファンはσ1受容体アゴニスト作用、NMDA受容体アンタゴニスト作用、電位依存性Caチャネル阻害作用などによって、これらに関与してくれるのでは? とされています。しかし臨床的にはなかなか思うような改善は認められず、これは脳への移行性や実験動物とヒトとの違い、性差などが挙げられます。

 TBI(外傷性脳損傷)はどうでしょうか。これはデータが非常に限られていますが、脳損傷によるてんかん発作(seizure)や情動調節障害を改善する効果が指摘されています。TBIへの薬理作用は脳卒中と類似しており、σ1受容体やNMDA受容体への作用のようです。そして、炎症性サイトカインやケモカインを抑制することでも神経保護作用を発揮するのではないかとも言われます。

 てんかん発作については、治療抵抗性のものに対する臨床試験で一定の効果がありました。最も大きな試験では、治療抵抗性の部分発作に対してデキストロメトルファンを160 mg/dayもしくは200 mg/dayを上乗せしたものでした。何故効くのかは不明ですが、抗てんかん薬の血中濃度を変化させないことから、直接的な効果があると推測されています。おそらくは、NMDA受容体に作用することで過剰なグルタミン酸を抑えることが主な作用ではないかと言われます。多量ではむしろ発作を増悪させる可能性があり、この増悪については、フェニトインやカルバマゼピンなどのNMDA受容体アンタゴニスト作用を持つ抗てんかん薬が中毒域ではてんかん発作を臨床的に引き起こしたり脳波で発作波を来たしたりすることなどからも説明できるかもしれません。他にも様々な薬理学的作用が指摘され、σ1受容体アゴニスト作用やL型の電位依存性Caチャネル阻害作用を介している可能性があります。

 疼痛に関しても研究が進められており、いくつかありますが、この論文で主に触れられているのは術後疼痛と神経障害性疼痛の2つでした。前者については、デキストロメトルファンの効果は一貫してはいないものの、術前投与によって術後に必要とされるオピオイドの量がより少なく済むことが報告されています。これはデキストロメトルファンが間接的なμオピオイド受容体アゴニスト作用を持つためかもしれません。ただし、手術の種類や患者さんの年齢によってその効果は異なるようです。神経障害性疼痛については大量に使用することでその効果がもたらされるようですが、その分副作用が強く出てしまうため臨床応用は限られています。しかし、キニジンと併用することでその副作用を抑えつつ効果を発揮しようという研究が行なわれています。このデキストロメトルファンの鎮痛作用はNMDA受容体阻害作用に寄るところが大きいのですが、それは脊髄視床路を介して脳に到達する1次上行ニューロンに干渉することでなされるようです。

 デキストロメトルファンは、メトトレキサートの神経毒性にも効果があることがいくつかの試験で分かっています。メトトレキサートの神経毒性は高用量の使用や髄腔内投与によってもたらされることがほとんどであり、メトトレキサートを頻用する急性リンパ芽球性白血病、リンパ芽球性リンパ腫、骨肉腫といった疾患で見られます。神経毒性は急性、亜急性、慢性に分類されます。急性は投与後数時間以内に発症し、髄膜炎様の症状を呈しますが、たいていは一過性であり後遺症はありません。亜急性から慢性の毒性は数日後から数年といったスパンで出現し、脳や脊髄に変化をきたし、進行性であり最悪の場合は死に至ります。亜急性では、けいれんや脳卒中様症状(片側不全麻痺や失語や複視などなど)を、慢性では認知機能低下、行動異常、痙縮などを呈することがあるようです。この神経毒性の機序は不明ですが、ホモシステインからメチオニンへの再メチル化が障害されることが指摘されています。ホモシステインとその酸化物であるホモシステイン酸はNMDA受容体のアゴニストとして働くため、デキストロメトルファンの神経毒性への作用はこのNMDA受容体アンタゴニスト作用がその一部に挙げられます。そして、特に亜急性の神経毒性に対して有望ではないかと言われています。

 パーキンソン病については、その治療や薬剤治療の副作用軽減のために臨床試験が行なわれていますが、その結果は一貫していません。年齢や性別や疾患のステージ、そしてデキストロメトルファンの使用量などがその一因とも言われます。動物実験では、ミクログリアの活性化を抑制することでドパミンニューロンの変性を防ぐことが指摘されており、他にはレボドパ誘発性のジスキネジアをセロトニン受容体アゴニスト作用やNMDA受容体アンタゴニスト作用やσ1受容体アゴニスト作用などによって改善させるかもしれないと言われます。

 自閉スペクトラム症についてはあまり研究が行なわれていません。プラセボとの比較試験では有意差なしだったのですが、明らかに効いたと思われる患者さんも一部おり、それは自閉スペクトラム症そのものが異質性の高い疾患と言うか症候群だからであろうと思われています。やはりNMDA受容体アンタゴニスト作用やσ1受容体アゴニスト作用が有効性を示す機序の一部とも言われますが、詳細は分かりません。一部に有効な患者さんがいるという事実があるため、今後も掘り下げる必要のあるトピックではあります。

 これまで述べられてきたように、動物実験とヒトを対象とした臨床試験とでは結果に乖離が見られていますが、その一因としてCYP2D6活性がアセスメントされていないということが指摘されています。今後の臨床試験はその点を考慮に入れてなされるべきでしょう。そして高用量を投与するとやはり神経症状などの副作用がネックになります。治療抵抗性のてんかん発作や神経障害性疼痛には高用量が有効であるとする報告も多く、リスクとベネフィットを慎重に見極めねばなりません。かつ、高用量の場合はCYP2D6活性が非重要な因子となるようです。デキストロメトルファンの長期使用の欠点や乱用のリスクについては、治療用量であれば重大な影響はないだろうと言われていますが、これは複数の報告をきちんと待つことも大事でしょう。

 他には、レット症候群、関節リウマチ、湾岸戦争症候群、糖尿病性黄斑浮腫、ADHD、うつ病や統合失調症やアルツハイマー型認知症における焦燥、片頭痛(episodic migraine)、種々の原因による舞踏病などへの研究が行なわれています。そして、デキストロメトルファンは単剤で使用するのは現実的ではなく、確立された治療法に付加的に用いるものという位置付けと考えましょう。

 ということで、軽いNMDA受容体アンタゴニスト作用と強力なσ1受容体アゴニスト作用、他にも様々な作用を併せ持つデキストロメトルファンの不思議なチカラをまとめてみました。個人的な思い出としては、昔々に慢性腰痛で診ていた患者さんが「咳止めをください」と言ったのでメジコン®を少しの期間だけ出したことがあるのですが、その時に「いやぁ、この薬はシャッキリしますね」と語ったというもの。その時はその”シャッキリ”にまったく気を止めずにスルーしてしまい投与を終えた後もこちらから聞くこともなかったのですが、ひょっとしたら何らかの良い効果がありそのように表現していたのかもしれません…。しかもその患者さんはデュロキセチン(サインバルタ®)も服用していまして、このデュロキセチンはキニジンには及ばないものの中等度のCYP2D6阻害作用を持つのです…。いやぁ、どうだったんだろう。効いていたのかしら。今となっては確かめるすべもないのですが。。。
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