2016
11.14

患者さんの周囲にも

Category: ★本のお話
 太田凡先生が監訳された『ER・救急のトラブルファイル』を読みました。研修医の頃に読んでいたのですが、改めて引っ張り出すことに。原著は2002年、翻訳は2007年なのでちょっと古めですね。

 研修医の頃は正直なところこの本の凄さの実感が沸きませんでした。ただただ「アメリカって怖いところやなぁ…。保険とか訴訟とか大変や」という感想だったように覚えています。この本の価値が肌で感じられるのは、前期研修医2年目の中盤や、後期研修医の時かもしれません。実際に救急外来や一般外来で患者さんを診るようになってから、しかもちょっと自信(それはほとんど空虚な自信なのですが)が付いてきた時がベストだと思います。

 この本は実際にあった失敗例のミーティングから産まれたものであり、そこから何を学んでいくかというスタイルです。序章で述べられているように


このミーティングのポイントは、他人の失敗から学ぶことであり、担当医に恥をかかせることではない


 というのが特徴的。リスクマネージメントと聞くとちょっと無味乾燥なイメージを抱くかもしれませんが、この本は実体験を糧にどう対処していくかをまとめているので生々しさがあります。日本でもM&Mカンファレンスが行なわれることが多くなりましたが、やっぱり責任追及型であることもちょろちょろとあり、それは”担当医に恥をかかせること”につながってしまいます。そうではないカンファレンスが求められますね。

 この本は医学的なピットフォールももちろん書かれています。”馬尾症候群の見逃しは、くも膜下出血の前兆出血の見逃しと同様に、最も深刻なものである” ”多くの尿路結石の患者では、たしかに睾丸への放散痛がある。しかし、このことで安心感に浸ってはいけない” ”「めまい」という用語を使わずに患者に症状を表現させる方法は、多くの臨床医が使うテクニックである”などなど。しかし、これだけでは他にも良書があります。本書はそれ以外の点がとても秀逸なのです。例えば

・救急医は、患者の家族やその愛する人たちの心の状態に敏感でなければならない。要するに、彼らもまた”患者”であるということだ。
・医学的妥当性と良い結果はいつも結びついているわけではない。診療に付随してくる患者とその家族の感情の問題に、救急医は”音痴”になってはならない。
・プロ意識の低い行動は、いかに治療がプロフェッショナルなものであろうと、いかに転帰がよかろうと、しばしば患者にショックを与え、長い間記憶に残るものである。
・医師と患者との間でコミュニケーションの崩壊が起きたら、プロとしての過失を弁明しようと理由を並べるより、単純に謝罪するほうがよい。
・最も重要なことは、聞かれるか聞かれないかにかかわらず、軽率で無礼な言葉自体を避けることである。そうした言葉は、救急部全体にある種の雰囲気を作り出し、最初はストレスのはけ口になるかもしれないが、結果として、緊張感を欠いた医療現場を作り出すのである。
・救急医は、勤務交代で引き継いだ患者にも主治医であるという意識をもたなければならない。

 などなどなど。他にもたくさん。医学書やマニュアルにはあまり書かれていない、患者さんやその周囲の方々との関係性を重視しているのがこの本に特別な地位を与えているでしょう。個人的にはCase 21が最も学ぶ点が多かったでしょうか。

 あとは、翻訳をされた中村陽子先生があとがきとして記されたCase 92は、鬼気迫るものがあり、医療者として厳しく受け止めねばならないと感じます。沖縄県立中部病院を基準にしてしまうとほとんどの病院が及第点をとれないとは思いますが、ここまでグダグダな医者、患者さんのことを考えない医者、そしてサンフォードを知らない医者っているんですね…。

 ぜひ若手の医者には読んでほしいと思います。救急外来でちょっと自信が付いてきたよ、という研修医、それぞれの科に進んで外来もこなしているよという先生が絶好の対象でしょうか。ホントはどんな年代でも読むべきとは感じますが。
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