2016
11.25

同じでありたい、特別でありたい

 診察では”一般化”という方法を行なうことがあります。

患者さん「口の中が痛くて痛くて、どこに行っても気のせいって言われて。こんな症状って私だけなんでしょうか?」
医者「そういう痛みを持っているかたって結構多くて、○○さんだけではないんですよ。みなさん気のせいって言われて困っているみたい」
患者さん「そうなんですかぁ。私だけじゃなかったんですね」

 こんなやりとり。患者さんは「自分だけがこんな眼に遭っているのか」という疑念を持ちがち。よって、医者は「そういう人って結構多くて、みんな苦しんでいるみたいよ」という風に、患者さんだけではないのだということを伝えて安心を得てもらうようにします。

 この一般化は精神科医に限らず多くの医者が特別な意識なく使っていると思います。しかし、この方法にもちょっとした陥穽があるということは、覚えておいて良いかもしれません。

 人は「自分ひとりは嫌だ、みんなにもそれがあってほしい」という気持ちは確かにあるのですが、同時に「この苦しみは自分だけのものだ、容易に理解されてたまるか」という感情も併せ持っていることがあります。


みんなと同じでありたいけど、同時に特別でもありたい


 そんな気持ち。後者が強い時に「みんなそうなんですよ」「そういう人って多いんですよ」と一般化することは、患者さんをムッとさせる一言になりうるのです。

患者さん「朝起きるとつらくて、起きようと思っても身体が動かないんです…。何でこんなことになったのかと…」
医者「そうでしたか。うつになるとみんなそういう状態になりますから、○○さんだけじゃないですよ」
患者さん「そうですか…」

 患者さんによっても、そして同じ患者さんでも精神状態によっても、”みんなと同じ”をより求めるか”特別”をより求めるかは異なってきます。判別は難しいんですけど、一人であることに不安を持っているような雰囲気があったり、これまで認めてもらえなかった無念さや孤立感がにじみ出ていたりすれば、一般化はフィットするかと感じます。そうでない時は少し柔らかめにした表現を用いるのが無難でしょう。 

患者さん「事故に遭ってから外に出るのも怖くなって、最近は少し出られるようになったんですけど、やっぱり電車に乗るのが難しくて…」
医者「少し外出できるようになったけど、電車は怖い感じが残っているんですね。ああいうことがあったので、その感覚が残るのも無理はないかと思います」
患者さん「はい、ありがとうございます…」

 ”~するのも無理はない”という表現は理解を示しながら「みんなそうなんだよ!」とあからさまに伝えないという戦略になっています(いわゆる”認証”)。このように話すことで、患者さんもほんのすこし安心できるかもしれません。あとは、医者という立場を利用する方法もあります。医者は医者が思う以上に患者さんにとって特別というか権威的な存在。よって

医者「私も○○さんと同じ立場なら、そう感じると思いますよ」
患者さん「先生もそう感じるんですか?」
医者「そうですね。○○さんのお話を聞いているとそんな感じがしました」

 と言うことも。これはあんまり言い過ぎると患者さんと医者との境界が薄くなることがあるので頻用はオススメしませんが(精神分析の好きな医者はこの言い方を特に嫌います)、たまーにならポツリと呟いても良いのでは。同じ人間だけどちょっと特殊な存在がそう言うことは、一般化と特別化のあいだを通す一言になり得ます。もちろん患者さんが持つ医者の印象が悪ければイカンのですが。

 ”一般化”という方法はちょっと医療者の間で過大に評価されていると感じています。コミュニケーションの教科書にも”共感”と並んで書かれていますが、どっちも怖いもんです。特に精神疾患の患者さんや慢性疼痛を持っている患者さん、あまり多くの人が経験しない身体疾患の患者さんにおいてはいくばくかの注意が必要でしょう。患者さんは「分かられてたまるか!」「このつらさはオレにしかないんだ!」という気持ちをどこかで持っていることがあります。これは強調しておいても良いことかと。
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コメント
コメダでキャラメルリンゴをいただいております。
小豆シリーズはチョイと手が伸ばせません。
勇気がない。

「朝なかなか布団から出られなくて」
と言ったら
「生活習慣が悪いのではないでしょうか?」
と、迷宮化させて頂いたことはございます。
胸を張って間違いとは申せないのが痛かったのですが。

ぐでたま先生の来年の日めくりカレンダー届きました。
一月一日に華々しくめくろうと思い
まだAmazonさんの箱に入れたままです。


さくらdot 2016.11.26 13:53 | 編集
>さくらさん

ありがとうございます。
小豆シリーズはコーヒー以外にも出ましたね。
どれもこれも甘そうですが…。
「生活習慣が悪いのでは?」と言われると、誰しもどこかしら思い当たる部分があるようにも感じます。
なかなか「おぅっ…」と来る質問でしたね。。。
ぐでたま療法がもっとも有効かもしれません。
m03a076ddot 2016.11.29 11:15 | 編集
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