2016
10.05

ポリファーマシーを避けるため

 以前にも同じような記事をつくった記憶はありますが、今回もう一度。

 最近はポリファーマシーに関する書籍が増えてきました。『解消! ポリファーマシー 上手なくすりの減らし方 』や『ポリファーマシー解決! 虎の巻』などが好例でしょうか。高齢社会になり基礎疾患が複数になる患者さんが多くなり、結果的にたくさんのお薬が処方されることも多い昨今、とてもイイコトだと思います。

 高齢患者さんではこっちもびっくりするくらいの種類のお薬が処方されていることもあり、さらにはいろんな病院を受診してしまうことで医療者の連携が取りづらく、同じようなお薬が違う病院で処方されるなんてのも珍しくありません。そして、複数種類のお薬が出ていると、お薬同士のケンカも起こることがあります。それは患者さんにとってあまりよろしくなく、もちろん医療経済的にもダメダメです。

 しかし、「あ! ポリファーマシーだ!」と感じた時、こころに留め置きたいのは

1. ”複数種類のお薬が出ていること=悪”とは限らない
2. ポリファーマシーを生み出す医者を敵視してはいけない

 ということだと思っています。

 1点目では、ポリファーマシーという言葉には”それすなわち悪”という印象がさも”しみチョココーン”のチョコレートのように浸透してしまっていますが、変な言い方をすると必要なポリファーマシーなんてのもあります。高血圧と糖尿病と心房細動の高齢患者さんでは、その時点でかなりの薬剤を使用しなければなりません。ぱっとお薬手帳を見るだけで「こんなに使ってる! ダメダメ!」と思ってはならないのです。必要なポリファーマシーと不要なポリファーマシーを分けて考えるための”力”が必要です。

 2点目は、特に精神科で起こること。紹介患者さんを診ると前医で何かものすごい感じの多剤併用がなされていることがあります。横断的に判断すると「何も薬剤のことを分かっていない医者だなコイツ」と思ってしまうのですが、処方を紐解いていくと最初は意外にシンプルな出し方をしていることも多いのです。なかなか改善しない患者さんを前にして「何とかしてあげたいなぁ」という思いを持ち、あれやこれやと頑張っているうちに、気がつくととってもカオスな処方になっている。そんなことがあるのです。医者は患者さんを悪化させようとしてお薬を出すのではなく、善意や医者としての使命感から出すのです。患者さんが良くならないとお薬を足したり変えたり、色々と複雑になってくるのでございます。多剤併用となるにはそれなりの理由があるため、特に他の医者の処方を見る時は”処方に歴史あり”と思った方が良いでしょう。苦戦や苦悩の表れなのです。それを考えずに「ちょっとアンタんとこの処方ダメだわ」と言ってしまうのは、他者への慮りを欠いていると言わざるを得ません。

 とは言いながら、やはり首をかしげる処方も実際に多く目にするため、お薬の知識は抜け落ちてはならないものと言えます。そこで医者は、不要なポリファーマシーを避けるためにも薬剤師の先生に頼ることをしましょう! お薬に関して彼らはエキスパートです。もちろん医者はそれなりに勉強して臨床経験やエビデンスを含めて知識を持っていますが、薬剤師の先生は”薬剤”師です。餅は餅屋という言葉があるように、特に治療のエビデンスという点では彼らにしっかりと聞くことを覚えたほうが良いでしょう。

 そして、薬剤師の先生にはそういう存在だという自負と責任を持っていただきたいものです。処方箋に書かれてあるものを袋に入れるだけが薬剤師ではないのですよ。最近の薬剤師の先生はとても勉強熱心で、JJCLIPという薬剤治療のエビデンスに関する鬼畜集団(褒め言葉ですよ!)もあるくらい。自分なんか専門外の疾患に対する薬剤治療では足元にも及びません(最近の新薬なんてついて行けなくて…)。そして専門の分野であっても見落としているところがあるので、薬剤師の先生の助言はとても大きいのです。

 不要なポリファーマシーを避けるために、医者は変なプライドなんて捨てて「薬剤のことは薬剤師に聞こう!」と思うべし。もちろん勉強を忘れちゃいけませんが。そして、薬剤師の先生は「聞かれても良いように勉強しよう!」と意気込んでください。即答する必要はなく、聞かれたら速やかに情報源にアクセスするというのが大事でしょう。世の中にあるお薬すべてについて知るのはプロでも無理なので、自分の得意とするところはカバーしておいて、ちょっと分からないところはすぐに調べられるように整える。これが現実的では、と自分は考えています。

 あとは薬剤師の先生から医者へ疑義照会する時の言い方でしょうか。「俺の処方にケチ付けるのか!」という(アホな)医者はまだまだ多く、彼らのご機嫌を損ねないようなモノの言い方が残念ながら必要になってきます。嫌な世の中ですけどね。一度でうまくいくことは少ないなという前提に立って、少しずつ掘り進む感じを持つのも大切。決して焦らずに。勉強熱心な薬剤師の先生は正義感が強いことも多く、そうなると医者と対立してしまい、お互いの距離がどんどん遠くなりかねません。医者が素直になるべきなのは言うまでもないのですが、薬剤師の先生も情報提供の仕方をちょっと工夫してみると、徐々に状況は好転していく可能性がありますよ。中には「エビデンスを出せば良いだろう」と考えて文献をたくさんくっつけて提供してくれる薬剤師の先生もいますが、文献を複数見せることが医者によってはアテツケととらえられてしまうことも! そういう医者にこそ「もっと勉強しろや!」と言いたくもなりますが、コミュニケーションって本当に難しいですよねぇ…。

 そんな愚痴を最後に混ぜてしまいましたが、医者と薬剤師の先生は同じ医療者。患者さんに良い人生を送ってもらいたいと思う気持ちは一緒のはずです。ならば、手を取り合って医療をなすのが道理ではないでしょうか。医者はもっと謙虚になろうね。
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コメント
総合診療医・感染症医の岸田直樹と申します。
すばらしいご指摘ありがとうございます。
自分は今年度、日本薬剤師会主催の病院診療所薬剤師研修会の講師を担当させていただいていて、「薬学臨床推論を生かして! 高齢者の薬物治療・ポリファーマシーを攻略する-医師の視点から- 」という話をさせていただいているのですが、まさに先生のご指摘の側面の問題点を感じ、話させていただいています。
「ポリファーマシーを出している医師=悪」
「薬剤師=正義の味方」
の図式に陥っているのをよく見かけるので注意しましょうと伝えています。
悪として出している医師はいません。大切なことは
appropriateかproblematicかを見極める臨床能力と、それを多職種でディスカッションできるかと思います。

”中には「エビデンスを出せば良いだろう」と考えて文献をたくさんくっつけて提供してくれる薬剤師の先生もいますが”
→これはまさによくありがちなシチュエーションで、研修医も同じことをするので薬剤師に限った話でもないかとは思います。

とても大切な視点で、自分もこの視点をつたえる活動をしています。FB,twitterなどでシェアさせていただきました。いつも勉強させていただいています。ありがとうございます。
岸田直樹dot 2016.10.05 20:29 | 編集
>岸田直樹先生

ありがとうございます。
先生がコメントをくださるとは思ってもおらず、とてもびっくりしてしまいました。
ご著書の略歴で同じ高校の卒業であることを偶然知り、密かに(?)応援しています。

おっしゃる通り、多職種での話し合いはとても重要だと感じました。
2つの職種での話し合いだと”対決”になりがちなので、様々な考えを入れていくことは良い方に向かいそうだと感じました。

エビデンスを多数提示するのは研修医も確かに同じで、上級医に面倒臭がられることも多いと思います。
いっぽう、研修医はまだ”医者”として大目に見てもらえるのですが、薬剤師の先生だとワンランク下に見てしまい、そうなると「薬剤師のクセに!」となってしまう状況も多々あるかと感じています。

医者は患者さんの治療に関して責任を負う立場であり、その責任に恥じない日々の姿勢も求められます。しかし、それを権力と誤認して他の医療職を見下すのは間違っていると強く思っています。
今の若手の医者はそういう権力を吹かす感じが薄らいできているので、薬剤師の先生や看護師さんなどとも(以前よりは)良好な関係性を築いていけるのではないかなと、ちょっと期待もしています。

先生からのご意見、感謝いたします。
様々な職種が連動して医療を成していければと思っております。
m03a076ddot 2016.10.08 11:33 | 編集
返信ありがとうございます。
いつか It's a long way~♬を一緒に(^-^)

多職種で話し合うことはとても重要なのですが
ただ、まだまだ医師も医師以外の職種も慣れていない人は
多いと思います。
なので、ギクシャクしたり、嫌な経験をする人もまだ多いかなと思います。
また、日本は良くも悪くも医師を頂点としたヒエラルキーがあります。責任は医師がとることが多いですが見下すのは良くないですね。

薬剤師さんはいま一番変化を求められていて
多くはいままでやってこなかったことをやっていますので
いま一番大変な職種のひとつかなと思います。

医師は良い意味でそのような薬剤師さんを無理やりではなくそっと引き込んであげることも大切かなと思います。

>様々な職種が連動して医療を成していければと思っております。

そうなんです。
ここは米国みたいな明確な役割分担よりは連動していくことが大切だと自分も思います。医師が先導者ではなく傘になってあげることが大切かなと思っています。

いつも勉強させていただき、ありがとうございます。
今後とも、よろしくお願い致します。

岸田直樹
岸田直樹dot 2016.10.13 13:13 | 編集
>岸田直樹先生

ありがとうございます。
確かに多職種での話し合いは医療職にとって新鮮で慣れないかもしれませんね。
結局は医者が発言してみんなそれに従うなんていうこともありますし…(反論を言えない、言うのが面倒くさいなど)。
でもこれからは必要なことなので、先生のように音頭を取ってくださるかたがいらっしゃると、医療界も少しずつ良くなっていくものと信じております。
薬剤師の先生はこれから求められることもどんどん多くなって大変かもしれませんが、今いちばん良い変化の中に飛び込めるチャンスでもありますね。
本当にありがとうございました。
m03a076ddot 2016.10.15 15:54 | 編集
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