2016
09.21

あえて世俗、長い髪

 自分はちょっと昔の歌をよく聴きます。フォーク・クルセダーズ(この前、名古屋で北山修先生の講演会がありました)から70年代は吉田拓郎、伊勢正三、荒井由実、中島みゆき、小椋佳、大滝詠一、山本潤子、グレープ、チューリップ、オフコース、安全地帯などなど。リアルタイムではないんですけど。

 60年代から70年代前半にかけては学生運動が盛んな時期でした。特に60年代後半は学生たちの思いを歌に乗せた非常にメッセージ性の強いものが多く、そこから学生運動の収束とともに音楽も様々な題材に広がっていったような感じがしています。学生運動の広がりと終焉(と言ってもまだくすぶっているところはチラホラ見えますが)には、音楽が強く関係していたのではと、改めて思っています。岡林信康、高石ともや、五つの赤い風船、赤い鳥などは学生運動の膨張とともに名を馳せたミュージシャンやグループでしょう。社会・政治と強く関連した歌詞が多くあります。

 で、個人的に興味があるのは、学生運動の”終わり”の方。学生運動そのものにアレコレと言う気はさらさらありませんが、その幕切れを促した要素の1つに歌があったのではないかなという考えはあります。始まり、膨張、そして破裂に歌が絡んでいた気がしてなりません。

 その代表曲は、やはり荒井由実の『いちご白書をもう一度』(バンバン, 1975年)ではないでしょうか。当時の象徴であった”男性の長髪”が歌詞に入っています。髪を伸ばして無精髭もたくわえて学生集会に行った、でも就職が決まって髪を切った。付き合っていた女性には「もう若くないさ」と言い訳をする。そして雨によって破れかけてしまった”いちご白書”という映画のポスターも、学生運動の比喩ととらえられます。1975年は学生運動が鎮静化に向かっていた時期であり、荒井由実はこのような歌詞と、ちょっと悲しげなメロディで長い髪と同じく運動への思いも断ち切る、「もう終わったんだよ」と表現したことで、それに拍車をかけたと言えましょう。時代に飲み込まれた若者の様子を描き切っているなぁと感心。

 でも自分としては、吉田拓郎の『結婚しようよ』(よしだたくろう, 1972年)がとても気になります。昔に聴いていた時はシンプルな歌だと思っていましたが、時代背景を考えるととても革新的だったのではないか、と最近になって思い直しています。歌い出しに、自分の髪が付き合っている女性と同じくらい伸びたら、という内容が来ます。当時のフォークソングで”男性の長い髪”というのは学生運動の比喩であることがとても多く、その視点でこの歌を眺めてみると、吉田拓郎の歌詞は常識をくつがえすものだったと感じられるかもしれません(穿った見方かもしれませんが)。この歌には、キナ臭さが全く出てきていません。甘ったるいような、でもどこか現実離れした感じ。肩まで届く髪というキーワードを冒頭に出しておきながら、政治に一切触れず、付き合っている女性に結婚しようよと語る内容になっています。内ゲバを繰り返す学生運動の方を全く向かない、結婚という言葉を出し学生運動には愛想を尽かしているような、そんな印象を抱かせます。時代を編みこんで歌を聴くと、まったく違う解釈が出て来るという好例ではないでしょうか。

 吉田拓郎は日本フォーク界の伝説であり、反体制の雰囲気の強かったフォークソングを大衆に引き込んだ役割を持ちます。しかし、それゆえに初期は観客から罵声を浴びせられていたこともあり、「大衆に迎合している軟弱野郎」という目で見られたのです。それでも吉田拓郎はスタンスを全く変えずに歌い続け、学生運動そのものも内部から崩れていったこともあり、ファンを獲得していきました。とはいえ、彼は恋だけを歌っていたわけではありません。彼は表立って政治関連の内容を出してはいませんが、個人と個人の関係性を歌いながらも反体制の運動は終わったのだというメッセージを出すことに長けていたと言えるかもしれません。かまやつひろしに提供した『我が良き友よ』(かまやつひろし, 1975年)も、自分と友との個人間の隔たりだけでなく、学生運動を引きずる友とその後の時代に適応して生きている自分という内容になっています。仮にそんな気がなく作詞していたのだとしたら、そのように思わせてしまうのも吉田拓郎のすごさなのではないか、とも感じてしまいます(言い訳?)。

 ちなみに、この流れを痛烈に持って行ったのが井上陽水の『傘がない』(井上陽水, 1972年)であり、社会のことなんかよりも君に会いに行く傘がなくて困っているんだ、という、社会や共同体、そして体制と反体制などという大きな物語が瓦解して、個人の多様性へと進んだメルクマールになっています(たぶんね)。

 そんな気持ちで、『いちご白書をもう一度』や『結婚しようよ』などを聴いてみてはいかがでしょうか。
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