2016
07.12

精神科診断を考える

Category: ★本のお話
 今回は、『モリソン先生の精神科診断講座』という本を読んでみました。訳も分かりやすいですし、文章そのものも難解ではありません。

 これは奇抜で職人芸を求めるような内容ではなく、DSMという診断基準をどのように臨床に活かしていくか、をまっすぐに述べている内容だ、と思いました。それと同時に、昔から言われている精神科診断における注意点にもしっかりと触れています。たとえば…


基準はあくまでも手引きとして理解すべきであり、それに拘泥するのではなく、臨床家は個々の状況のすべてを考慮して、慎重に基準を用いるべきである。

ただちに診断を下すことができない患者もいるという現実を認識することこそが重要である。

他の精神状態を認める場合には、パーソナリティ障害の診断に特に注意を払うべきである。他の精神障害の症状が最小限にまで緩和されて、パーソナリティ障害の症状が容易に認識され、それを誤って解釈する可能性が低くなるまで、診断を下すのを控えるべきである。

深く愛していた人が亡くなると、遺された人が悲しみにくれるのはごく当然である。私たちが臨床家として(そして、私たち自身も悲嘆に暮れる人として)必死になって立ち向かうのは、治療が必要な臨床的うつ病と、慰められそして耐えていかなければならない自然の悲嘆の過程の間にどのような境界を設けるかということである。
(中略)深刻な喪失の後に悲嘆や悲哀の感情に出会うのは当然であるので、性急にそれを精神障害と診断しないように注意すべきである。しかし、持続時間や絶望の理由にかかわらず、悲嘆に暮れている人がうつ病エピソードに該当するのに十分な症状を呈している場合には、治療の可能性について慎重に検討する必要がある。


 など。

 DSMに記載されている診断名についての説明や診断名間での違いを述べているため、DSMの勉強にももちろんなります。主眼は前述のように”DSMを精神科臨床でどのように活かしていくか”になるでしょう。DSMは色々と批判されてはいるものの、それを活かすか殺すかは臨床に携わる私たちです。私たちの使い方が”チェックリスト”であれば、それはDSMを殺してしまっています。批判すべきはDSMではなく、そのように使ってしまっている私たちの態度にあるでしょう。

 気になったのは、この本の著者は身体症状症という診断名に否定的だということ。


身体化障害に関しては、定義がより厳密なDSM-IVを今後も使うべきであるというのが、私の助言である。


 と述べています。ただ、自分は身体症状症に変更されたのは進歩だとも思っているのです(どちらが正しいかということもないでしょうけれども)。大きな違いは、身体症状症は身体疾患の有無にこだわらなくなった点でして、身体表現性障害では身体疾患が除外されていることが重要でした。でもDSM-5ではそうでなく、むしろ症状への認知や感情、これまでの患者さんの生き方などを考慮して判断しています。特に”痛み”はその傾向がありますね。身体疾患があっても身体症状症と診断することが出来るため、それによって私たちが患者さんの思いに配慮していけるのです。もちろん、この診断名を単なるラベリングとして用いてはいけません。要は、精神疾患でも身体疾患でも身体症状があるならば、相応の配慮をして患者さんと向き合いなさい、と言っているのがDSM-5の”身体症状症”です。

 あと、この本を読んでオーソドックスで基本に忠実で好感が持てたのと同時に、日本で長く読まれている笠原嘉先生の『精神科における予診・初診・初期治療』や土居健郎先生の『方法としての面接』はやっぱり名著だ、というのも実感しました。この2冊はいつ読んでも「なるほどなぁ」と思わせてくれる内容で、伝統的診断の時代のものですが実に臨床臨床臨床、なのです。

 『モリソン先生の~』で操作的診断を活かす術を学び、同時に笠原先生と土居先生の本で伝統的診断の深みに触れてみましょう。それらが頭のなかで混ぜ合わさって醸成されると、精神科医にとって良いのではないかなと感じています。
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コメント
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dot 2016.07.12 06:37 | 編集
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

臨床症状がなくてもエコーでそのような状態が見つかることもあります。
それがどのような意味を持つかが大事なのでしょうね。患者さんの状態によって変わってくるでしょう。
全く問題のない場合もあるでしょうし、今後のことを考慮して定期的に診察を受ける必要がある場合もあります。
もし専門家の受診を勧められているのであれば、まずはそのご意見を聞いてみるのが良いでしょう。
餅は餅屋と言いますから。
m03a076ddot 2016.07.15 12:18 | 編集
2年前位に、先生のもう一つのブログのLife in the ‥‥で、先生に家族の事について相談させて頂き、色々と教えて頂いた者です。その節は本当にありがとうございました。


今回また、相談させて頂きたい事があり、ブログの記事とは、別の内容ですが、下記、ご返信頂けたら幸いです。


父親67歳が2年前にすい臓がんが見つかり、手術し、約2年間から闘病中です。現在は、体力が落ちており、抗がん剤治療はやめて、緩和医療のみをやっています。現在の主訴は、だるさと食べれない(食欲が過度に少ない)

2年前から、レンドルミンを毎日0.25ミリ1錠を飲んでいます。
1ヶ月位前からレンドルミンを飲んでいても不眠が出てきたため、マイスリー1錠が追加になり、飲んでいます。

また、精神的に落ち込む事があり(しんどいときに落ち込みがあります。しんどくない時はそれほど落ち込みはないです。)ので、デパスも頓服で処方されています。

ここ1週間位、レンドルミンとマイスリーを各1錠飲んで22時か23時頃寝ても、毎日夜中の3時頃起きてしまうようになりました。

この場合、より半減期の長い睡眠薬(例えばユーロジンとか)に変えてもらった方が良いのでしょうか。

また、変える場合、どの薬で、量はどの量に切り替えるべきでしょうか。

現在服用している薬は、オキシコンチン、オキノーム、ランタスソロスタ(インスリン注射)です。

お手数お掛けし、大変申し訳ないのですが、ご返信頂けたら幸いです。
waterudot 2016.08.01 12:52 | 編集
>wateruさん

ありがとうございます。
その人の身体の状態や心の状態によって処方する薬剤は異なってくるので、どれが良いか、どの量が良いかというのは申し訳ありませんがお伝え出来ません。
より半減期の長いものに変えるのも方法の1つですし、抑うつが強いのであれば睡眠作用のある抗うつ薬を用いるのも選択肢でしょう。
その辺りは主治医の先生や緩和担当の先生ときちんとお話をしていくところだと思います。
m03a076ddot 2016.08.03 07:12 | 編集
お忙しい中ご返信ありがとうございます。
分かりました。訪問診療の先生から、ドラールとサイレースの名前が挙がり、筋弛緩作用が少ないという理由からドラールが処方されました。
先生からは、特にコメントはなかったのですが、ネットで見ると、食事と併用は禁忌と書いてありました。


食事と併用不可だと少し使いづらいのかなと思ったりもします。ネットで見てみると、ドラールは持越しがユーロジンなどより少ないとも見ました。


先生の感覚で、ドラールと、ユーロジンと、サイレースは、それぞれどういう特徴があるのでしょうか。どれも中時間~長時間型と思いますが、使いやすいにくいなどありますでしょうか。
waterudot 2016.08.04 00:02 | 編集
>wateruさん

ありがとうございます。
持ち越しはドラールの方がユーロジンよりも多いかと思います。
結構長く効くタイプの睡眠薬なので。
もちろん、使用量にもよります。
個人的にはあまり長めの睡眠薬を処方しないのですが、サイレースはちょっと重い感じを持っています。
m03a076ddot 2016.08.06 12:47 | 編集
ご返信大変ありがとうございます。
先生のように、優秀で知識があり、かつ、患者の立場になって考えて頂ける、両方を持っていらっしゃる方は少数です。
そんな先生の言葉は、患者や患者家族にとって本当にありがたいものです。

本当にありがとうございます。
waterudot 2016.08.06 18:54 | 編集
度々のコメントになってしまいすみません。
ドラールを処方されたものの、本人はドラールに抵抗があるようで、切り替えがまだ出来ていなくて、切り替え前の薬(レンドルミン0.25ミリを1錠+マイスリー5ミリを1錠、その1時間後くらいにデパス0.5ミリを1錠)を飲んでいます。

訪問診療の先生に、ユーロジンなどを提案、相談してみようかと思うのですが、

質問1、切替後の薬の量は、こちらのブログのベンゾジアゼピンのページの等価換算表を拝見しました。
レンドルミン0.25ミリの等価換算は、ユーロジン2ミリという理解でOKでしょうか。

質問2、
今の状態からユーロジンに切り替えるなら、先生なら、ユーロジン2ミリ+マイスリー5ミリに切替でしょうか。切替初日は、ユーロジン1ミリでスタートすべきでしょうか。

質問3、訪問診療の先生が、筋弛緩作用があると、だるさ、ふらつきが出るといけないのでと言われておられたのですが、筋弛緩作用があると、だるさがでるのでしょうか?


申し訳ないのですが。ご返信いただけたら幸いです。





waterudot 2016.08.08 00:17 | 編集
>wateruさん

ありがとうございます。
記事やこれまでのコメントを見ていただければお分かりかと思いますが、等価換算はあくまでも理論上の参考値です。
そして、自分ならどれをどれくらいにするかというのは、診察していない状態で述べるのは無責任にもなりますし、診察している先生に対しても失礼に当たるので、コメントはしないようにしています。
ご了承下さい。
筋弛緩作用を”だるい”と表現する患者さんもいるのは事実です。
大事なのは、診察をしている先生と納得の行くまできちんと話し合うことだと思います。
小さなすれ違いが勘ぐりを産んで、そこから関係性が悪くなってさらに勘ぐりが強まって、、、ということが非常に多いので。
m03a076ddot 2016.08.11 09:50 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2016.08.11 20:16 | 編集
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

自身で調べること、そして担当の先生に聞くこと。これがとても大事です。
m03a076ddot 2016.08.14 23:17 | 編集
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