2016
07.06

久々に感染症のお勉強

Category: ★本のお話
 今回は『medicina 2016年6月号』を読みました。特集が”抗菌薬の考え方、使い方 ホントのところを聞いてみました”というもので、パラパラめくって面白そうだったので購入。もう専門外は英語でガリガリやる気力が乏しくなってきまして、こういう和文医学雑誌の特集や和書で勉強することが多くなりました。

 感染症は好きなのですがしばらく勉強から遠ざかっていまして、やる気を奮発して読んだのであります。ちなみに2016年4-6月に読んだ本で特にためになったのは『卒後10年目総合内科医の診断術』、『ジェネラリストのためのこれだけは押さえておきたい皮膚疾患』、『ねころんで読めるてんかん診療』でしょうか。『卒後10年目~』は知識の総まとめ的な立場で、『ジェネラリストのための~』は苦手な皮膚疾患のカンドコロが分かるようになった気がしないでもありません(どうせすぐ忘れちゃうんですけど)。『ねころんで~』はてんかん診療が専門外の医者向けに分かりやすく書かれていますね。で、雑誌を読み終えた今は『極論で語る総合診療』を読んでます(精神科の勉強はどうしたんや…)。

 今回は雑誌の特集ですが、分担執筆なのでそれぞれ味があって面白かったです(忽那先生は相変わらずトバしてるし)。もちろん「ちょっと薄いなぁ」と思う部分もありますが、強弱があるのは分担執筆の短所でもあり長所でもありますね。特に興味深くて「他の科でもそうなんだなぁ」と実感したのは冒頭の座談会での、青木眞先生のこのお言葉


(青木先生に感染症診療のことを)相談してくる医師は相談してくる必要のない医師で、相談してこない医師こそが問題だという思いがあります。問題のある医師の意識は10年前と変わらないですね。私の講演を一番聞かせたい医師がぜんぜん聞きに来ないし、聞いても反応がない。岩田先生たちが教育されて良くなっている若手がいる一方で、感染症の学会に行くと「ぜんぜん変わっていないのかな」と思える医師も多く、そのまだらの濃淡が強くなっているという印象です。これからの課題は、聞いてくださらない医師に、どのように変わっていただくかですね。
(カッコ内は前後関係が分かるように付け足しました)

 精神科の薬剤治療もそうなんですよねぇ。これはもう若手を底上げして、変わらない医者たちを駆逐するしかないのではないかと思ってしまいます。というか、言い方はものすごく悪いですけど、そういう医者の寿命が来るのを待つのが良いのかしらん、とも頭をよぎってしまうのです。精神科も若手はかなり教育されている人たちが多くなってきて、もちろん若手じゃなくても尊敬できる勉強熱心な素晴らしい先生も多いのです。でも何でもかんでもベンゾジアゼピンをぽいっと出して年単位でそのままだったり抗うつ薬を何剤も併用して症状を不安定化させたり、そんな医者はまさに「ぜんぜん変わっていないのかな」と言う感じで、まだらなんです(もちろんそのような処方をせざるを得ない患者さんもいるので、すべてダメという訳ではないですよ)。こういう底上げの他には、やっぱり国民の皆様に色々と”正しい情報”を知っていただくことが大事なのではないでしょうか、抗菌薬についても精神科のお薬についても。ただし! ただしです。そういうのに付け入って妙なビジネスをする輩も多いので、そこは情報を正しく選択してもらう必要があるのでございます。どうにも両極端な人が多いですからね、世の中。

 で、このmedicinaの特集ですが、どうしても気になったのは前立腺炎の項目。前立腺炎では移行性の良い抗菌薬を選択する必要がある、と書かれています。でも、”急性”前立腺炎は炎症が激しいので血液・前立腺関門が破壊され、移行性の良いものを選ぶ必要がなかったと自分は記憶しているのです。文献を調べてみると、ほとんどの抗菌薬は急性炎症を起こした前立腺に移行するという記載があります(Lipsky BA, et al. Treatment of bacterial prostatitis. Clin Infect Dis. 2010 Jun 15;50(12):1641-52.)。このことに本文で触れられていないのは残念。しかもこの文献は本項目でも参考文献で挙げられていたものなのですが。。。参考文献自体の本数も本文の参照番号と一致しないし。ここは「?」と思ってしまった(誤植というか編集段階で何か抜けてしまったの?)。

 後は、周術期の抗菌薬という項目があったので、出来れば”抜歯”の時の抗菌薬投与に強く触れても良かったのではないか、と考えています。対象が歯科医師になってしまうので読者層からはズレてしまいますが。なぜって、現在の歯科医療では抜歯の時にはほぼ全員に抗菌薬が処方され、かつ出される抗菌薬の種類も「いやはや…」だからなんです。前者について実は、抜歯の際の予防的抗菌薬投与は、感染性心内膜炎のハイリスク患者さん”のみ”に出されるべきだからなんです。そのハイリスクとは

心臓人工弁や人工物の入っている時
感染性心内膜炎の既往がある時
先天性心疾患でチアノーゼがある時、あるいは治癒していても人工物での治療6ヶ月未満、あるいは人工物の周囲に欠損が残っている時
弁膜疾患を伴う心移植患者さん
(Wilson W, et al. Prevention of infective endocarditis: guidelines from the American Heart Association: a guideline from the American Heart Association Rheumatic Fever, Endocarditis, and Kawasaki Disease Committee, Council on Cardiovascular Disease in the Young, and the Council on Clinical Cardiology, Council on Cardiovascular Surgery and Anesthesia, and the Quality of Care and Outcomes Research Interdisciplinary Working Group. Circulation. 2007 Oct 9;116(15):1736-54.)

 となっています。それ以外では”不要”なんです。AHAガイドラインも2007年に、そしてNICEガイドラインも2008年に”不要”へ変わりましたし、予防的投与をしてもしなくても感染性心内膜炎の発症頻度は変わりなかったということも明らかになっています(Thornhill MH, et al. Impact of the NICE guideline recommending cessation of antibiotic prophylaxis for prevention of infective endocarditis: before and after study. BMJ. 2011 May 3;342:d2392.)。

 そうであるにもかかわらず、抜歯の時は依然として患者さんは抗菌薬を渡されます。100歩譲って処方するのは目を瞑るにしても、出されるタイミングは抜歯”後”になってしまっています。本来なら抜歯の1時間くらい”前”に投与されるべきなのに。

 後者について、出される抗菌薬は判で押したように”フロモックス®”とか”メイアクト®”とかの第三世代セフェム(しかも用量少ない)。何というか開いた口が塞がらん。。。「何だよ、フロモックス100mg×3/dayで何とかなってるから良いじゃねーか」と思う人もいるかもしれませんが、フロモックスで何とかなっているのであれば、それは”抗菌薬なしでも何とかなっている”こととほぼ同義だと思いますよ。歯科処置で予防として出すべきなのはアモキシシリン2gを1回、しかも処置の1時間くらい”前”です。口腔内であればアモキシシリンで十分なのです。そういう悪しき習慣がまだまだ根強いので、今回の特集に入れて欲しかったなぁと思いました。

 今回の特集は、前半部分に”旨味”が出ていると思います。”座談会””肺炎球菌性肺炎””マイコプラズマ肺炎””気管支炎””急性咽頭・扁桃炎””細菌性髄膜炎”は目を通しておいても良いのではないでしょうか。新しい発見は少ないのでしょうけれども、「そうだよねぇ」と再確認できるような内容になっています。
トラックバックURL
http://m03a076d.blog.fc2.com/tb.php/2044-761e7cb1
トラックバック
コメント
初めまして。いつも楽しく読ませて頂いています。

先日、在学している大学病院の歯科で下顎の智歯を抜歯した後、やはりフロモックスを処方されたので、ありがたく受け取りつつも内心「ぜってー飲まねぇ」と思っていました。
その2, 3日後に下顎から頸部にかけて蜂窩織炎となったため、再診した際、表現には気をつけつつ「ケフレックスかサワシリンって頂けますか?」と聞いたところ「当科では(第3世代セフェムしか?)処方出来ない」と言われ愕然としました。

その後近医皮膚科を受診したのですが、蜂窩織炎の診断に対し「クラビットとジスロマックどっちが良い?」と言われたので泣く泣くジスロマックを選択しました…。

抗菌薬の使用量を2020年までに3分の2にするには、こう言うところから変えなきゃいけないんだな…と感じた次第です。
医学生dot 2016.07.06 16:00 | 編集
小児科や耳鼻咽喉科に子どもを受診させると
年々変わるな。先生方も大変だと思います。
が、お勉強してもらわないといけないですね。
精神科は同じ病院に通っても主治医で予後が変わってしまう
というのが怖いですね。ただ、患者同士の安易な情報交換も
実際に聞いていると怖い。
洪水のような新しい知識を判別出来るかどうかも難しいですよね。
さくらdot 2016.07.08 09:41 | 編集
先生は精神科のご専門なんですよね?段々わからなくなってきた(笑)

開業医の先生方は、患者さんが納得するまでお話できないから面倒で抗生剤を処方してる場合も多いのではないかな?と思いたいです。
口コミで悪評書かれたら開業医は大打撃ですからね・・・。
抗生剤の適性使用こそ週刊誌に取り上げて欲しいと時々思います。

NKdot 2016.07.09 01:56 | 編集
>医学生さん

ありがとうございます。
蜂窩織炎は第一世代のセフェムを十分量しっかり使うのが大事ですね。
予防的に第三世代セフェムを通常量服用しても蜂窩織炎は防げませんし(なる人はなる)。
歯とは異なりますが、自分の知り合いは丹毒になってフロモックスを出されて治らず、その次はクラビットを出されて治らず。
ちょっと見かねてケフラールを500mg×3で処方したら、次の日には発赤が退いてきました。
こういうのって何だか悲しいなぁと思ってしまいます。
若手のみなさん、今医学生のみなさんがしっかりと勉強してそういう医者に引導を渡してあげるのが良いのかもしれませんね。
m03a076ddot 2016.07.09 11:37 | 編集
>さくらさん

ありがとうございます。
情報のアップデートも早いので、医者は一生勉強だなと感じています。
いまはパソコンを開けば玉石混交の情報が渦巻いています。
書籍も様々、新聞も様々。
それを適切に拾う、捨てることが出来るかというのが大切ですね。
自分に好都合な情報ばかり集め、不利な情報には目を瞑ったり罵倒したりというのが多いので。
論理性が求められる時代なのだと思います。
m03a076ddot 2016.07.09 11:50 | 編集
>NKさん

ありがとうございます。
精神科です、たぶん。
抗菌薬については、患者さんやご家族が神話のように信奉しているところも大きいかと思います。
「風邪だから抗菌薬をください」ということも多いです。
それを拒否すると「あそこは風邪の薬も出さない!」と悪評が立ちますし。
患者さんは自然経過で治るのを抗菌薬のおかげで治ると勘違いしてしまうこともありますし。
患者さん側への正しい情報提供も大切ですね。
週刊誌は医者を敵視しているのか、必要なお薬まで過激に反対して人々を医療不信に導いてます。最近では週刊現代がやらかしてますね…。
質の高い情報が求められるなぁとつくづく思っています。
国が主導でしっかりと伝えると言いのかもしれませんが。
m03a076ddot 2016.07.09 11:57 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top