2016
10.02

ベゲタミン退場の巻

Category: ★精神科生活
 1957年より日本のみで使用され続けていたベゲタミン(塩野義製薬)が2016年いっぱいでついに姿を消すようです。これは超強力な睡眠薬で、AとBの2パターンあります。いずれも3種類の向精神薬のブレンド(合剤)ですが、配合比が異なっていまして。

ベゲタミンA:クロルプロマジン25mg、プロメタジン12.5mg、フェノバルビタール40mg
ベゲタミンB:クロルプロマジン12.5mg、プロメタジン12.5mg、フェノバルビタール30mg

 Aがどぎついピンク色で、Bが白色。成分を見ると、実に良く考え抜かれた処方だなと思ってしまいます。フェノバルビタールはGABA-A受容体に結合して鎮静作用、クロルプロマジンはH1受容体、M1受容体、α1受容体に結合して鎮静作用、プロメタジンはH1受容体、M1受容体に結合して鎮静作用を持ちかつクロルプロマジンのD2受容体結合による錐体外路症状を防ぐ作用も担っています。3種類がうまく長所を活かして鎮静に向かわせ、錐体外路症状も防ぐのが特徴。

 これだけ聞くととても良い睡眠薬に見えてしまいますが、過量服薬でばったりと死んでしまう薬剤でもあるのです。特に困りものがフェノバルビタール。これは依存を来たしやすく、さらに治療域が狭く、その隣には言うまでもなく中毒域が待っています。しかも身体から抜けにくい。若手の精神科医がベゲタミンを新規に出すことはほぼないと言っても良いでしょう。出すなら慢性期統合失調症の入院患者さんでずっとベゲタミンが出ていた、慢性期統合失調症の外来患者さんで長年ベゲタミンを含む処方で安定していた、などに限られると思います。昔の先生ならそれ以外にもぽろっと出すこともあるかもしれませんが、新規に処方しないように教育がなされているため若手は出すことにかなりの躊躇があります、たぶん。少なくとも自分がレジデントとして学んだ医局では。

 安全な薬剤であればここまで問題にならなかったのですが、やっぱり多く飲むと呼吸抑制が起きたり死んでしまったりするのが怖いところで、自殺目的で飲む患者さんがいたのも事実。そういうのはやっぱり出さないに越したことはありません(双極性障害へのリチウムや治療抵抗性うつ病への三環系抗うつ薬は例外です)。自分が属している医局の教授もベゲタミン追放運動(?)を展開していて、販売元の塩野義さんに随分と言っていたそうです。精神神経学会も「もうあかんで」と宣ったため、今回の措置になりました。塩野義さんはずっと販売していたものの大量服用に注意するようにパンフレットをつくって啓蒙していまして、企業としての姿勢は悪くないと思います。ベンゾをつくっている各製薬会社もこれくらいはしてほしいところ。

 さて、ベゲタミンが無くなって万事良かった、となるかと思いきや、それで困る方々が。それが、長年処方されていた患者さん。もうこれじゃないと寝られない! という人も多く、さてさて、どうしたものか。嘆いてもあがいても2016年いっぱいで製造されなくなるらしく、何とかしなくてはいけません。

 取るべき方策は1つ、構成成分に分解して処方し可能ならば漸減中止する、になります。クロルプロマジンもプロメタジンもフェノバルビタールもそれ自体は製造販売されているので、ベゲタミンの配合に合わせてそれぞれを処方することになります。しかし、これが合剤の妙というか何というか、「ベゲタミンだと寝られるけどバラバラの処方だと寝られない」という患者さんが結構多いのです…!! 自分もレジデントの頃はベゲタミンを見つけるたびにバラバラ処方にして漸減中止を行なっていましたが、なぜか「ホントに同じ? 全然寝られないんだけど…」と言われたことが1度や2度ではありませんでした。とっても不思議です。でも何とかなだめすかして中止に持って行きましたが。。。

 減らす場合ですが、色んな方法があるかと思います。絶対的なものはないので、そこは個々の医者のさじ加減としか言いようがない。3種類とも一緒にじわじわ下げる方法もあるでしょうし、どれかひとつからというのもあるでしょう。減量方法の優劣は全く分かりません。いずれにしても焦らずゆっくりとが大事で、年単位かけるくらいの気長さで行なうのが肝腎要。

 精神科医のみなさんは、製造販売中止になるというのをきっかけにして、バラバラ処方にするだけではなく減量中止を開始してみるのも良いのではないかと思います。言うは易く行うは難し、ではありますが。
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