2016
07.04

腸間膜静脈硬化症と漢方薬

 腸間膜静脈硬化症(mesenteric phlebosclerosis)は結構レアな疾患。基本的な病態としてはその名の通り腸間膜静脈が硬化するのですが、この静脈の石灰化によって慢性的に血流が乏しくなって虚血を起こしてしまいます。

 原因は不明なのですが、漢方薬が関連していると言われているので、頻用する身として注意が必要でございますね。数年前にMRさんが情報提供をしてくれて、自分はそこで初めて知りました。その関連性を指摘した論文は前に存在していたので、本来なら自分で情報収集して知るべきではありましたが…。むむむ。

Hiramatsu K, et al. Mesenteric phlebosclerosis associated with long-term oral intake of geniposide, an ingredient of herbal medicine. Aliment Pharmacol Ther. 2012 Sep;36(6):575-86.

Guo F, et al. Idiopathic mesenteric phlebosclerosis associated with long-term use of medical liquor: two case reports and literature review. World J Gastroenterol. 2014 May 14;20(18):5561-6.

 この辺りの論文を参考にしてみましょう。

 先述のように結構レアな疾患で、1991年に最初に報告されました。2000年にphlebosclerotic colitisと名付けられましたが、炎症所見が見られないことから2003年にidiopathic mesenteric phlebosclerosisと呼ぶべきではないかと推奨されました。地域が限定されており、ほとんどが日本や中国などの東アジアなのです。中高年に多く、男女比はやや女性寄り。症状は腹痛(右側に多い)、嘔気嘔吐、下痢など。ただ無症状ということもあるそう。主たる病変部位は回盲部から横行結腸です。頻度で言えば盲腸では80%弱、上行結腸は100%、横行結腸では90%弱、下行結腸は30%弱、S状結腸は20%弱、直腸は5%弱なのだそう。

 原因は、患者さんのうち漢方薬を内服していたのが9割近くということもあり、この関連性が強く疑われています。だから地域限定の疾患なのですね、たぶん(漢方を使う東アジア)。漢方薬では特に加味逍遥散と黄連解毒湯が多く、辛夷清肺湯、茵蔯蒿湯、加味帰脾湯などがそれに続きます。それらに共通する生薬が”山梔子(クチナシの実)”なのです…!

 山梔子の成分であるゲニポシドが腸内細菌で加水分解されて、ゲニピンが出来上がります。これが大腸から吸収されて腸間膜静脈に入るのですが、そこで色々と反応を起こして青色の色素をつくり出し、かつ静脈に石灰化をもたらします。なるほど。しかしそこまで行くにはかなりの年数が必要なようで、多くの患者さんが10年以上の服用をしています。最短で4年くらい? 休薬すると多くは改善するみたいでして、疑ったらまずお薬をストップするのは王道でございます。ただ、それでも改善しない場合は手術も要するとのこと。良く分からない慢性腹痛で漢方薬内服の病歴が取れたら、チラッと想起してみましょう。

 画像的には、ゲニポシドの人生を反映してCTで石灰化が確認できますし、大腸内視鏡では青~紫の色素沈着が見られます。結構特徴的な所見なので、知っていれば一発診断できるかも(下図参照)。大腸から吸収されるモノが原因なので、回盲部から横行結腸に多いのは頷けます(そこでゲニピンが多く吸収され、下行結腸まで行くとゲニピンが少ししか無い)。

腸間膜静脈硬化症CT
(World J Gastroenterol. 2014 May 14;20(18):5561-6.より)

 この疾患は中高年に多くてやや女性寄り、と言いました。これはですね、あくまで自分の憶測ですが、加味逍遥散が中年女性に用いられやすい、ということがあるかと思います。それを年単位で服用すると、発症は中高年。もちろん年をとって動脈硬化が進んで血流が悪くなりがちだというのもあるでしょうけど。後は加味帰脾湯も女性に良く用いられますね。茵蔯蒿湯と黄連解毒湯は男性に用いることが多いでしょう。”やや”女性寄りということは男性にもまぁまぁ多いことでもあります。それはやはりこれら、特に黄連解毒湯や茵蔯蒿湯が男性患者さんの数を引き上げているように感じます。あくまで自分の考えですが。あとは漢方って言うと女性のほうが食いつきが若干良い印象(これは偏見?)。

 少し漢方の話をすると、加味逍遥散や加味帰脾湯などのいわゆる”加味方”は本来なら一時的な使用が良いと思います。

加味逍遥散=逍遥散+[山梔子、牡丹皮]
加味帰脾湯=帰脾湯+[柴胡、山梔子]

 であり、加味された牡丹皮や柴胡や山梔子は”肝鬱化火”を鎮めます。イライラ、怒りっぽい、などですね。加味方を用いてそれが良くなったら、それらを抜いた逍遥散や帰脾湯を使っていくのがスマートなやり方だと思います(清熱がなされたらそれ以上熱を抑える必要が無いので)。ただ、ここが日本漢方の残念なところで、何と医者の処方する医療用エキス製剤には逍遥散が無いのでした…。仕方ないから、使うなら四逆散と当帰芍薬散を合わせるかなぁ。帰脾湯はあるんですけどね。あと、黄連解毒湯もそんなに長期連用するかな…?

 この疾患、もちろん漢方薬を内服していない人にも発症しうるのですが、その際の原因は色々言われているものの不明。しかし、健康食品が個人的に怪しいと踏んでおります。ゲニポシドで考えてみると、生薬では杜仲がありますね。よって、”杜仲茶”は長年飲んでいたらひょっとするかもしれません。健康食品を売っている会社はゲニポシドの有効成分を謳って杜仲茶を推しているところが多いので、そこは注意した方が良さそうです。他には、生薬の山梔子が”クチナシ”の果実ということを踏まえて、”クチナシ茶”を飲んでいる場合とか。後はサプリだと例えばDHCの”ルテイン”とか”速攻ブルーベリー”とかにはクチナシエキスが含まれていますね。しかし、生薬の量がサプリよりも多い医療用漢方薬ですら発症には年単位の服用を要するので、ちょっと飲むくらいなら問題はないでしょう。杜仲茶然り、クチナシ茶然り。何事もホドホドが一番ということで。

 ちなみに、クチナシの花言葉は”喜びを運ぶ”だそうです。もうね、運ぶものが違いますよと言いたい。ゲニピンなんて運んじゃあかんで。
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コメント
えー。食品添加物として使用されるクチナシ色素についての話題を以前眼にして、栗きんとんが好きで大量に作るので気を付けてはいるのですが
加味逍遥散や加味帰脾湯って頻用されるから衝撃的。。。

最近は西洋の色んな食用ハーブも入手しやすくなってきており、私もフェンネルシードを使っているのに=茴香ということを半年ほど前まで気付いてませんでした(゚Д゚;)

少し前に安中散の反復投与によるCYP3A4阻害効果ウンヌンというのを目にして、面白いなーと思ったばかりでした。
生薬成分についてもっと気を付けて見ていきたいです。仕事遅いって怒られそうだけど(笑)
NKdot 2016.07.05 01:28 | 編集
>NKさん

ありがとうございます。
加味逍遥散とか加味帰脾湯は結構使いますね。加味方は一時的と考えておいた方が良さそうです。
漢方薬もCYP阻害があるので、その研究がもっと進むと良いですね。
そして、生薬から理解していくとそれぞれの方剤はかなり考え抜かれてつくられているなと実感できますよ。
m03a076ddot 2016.07.06 11:32 | 編集
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