2016
07.20

投げっぱなしジャーマンではない

Category: ★精神科生活
 ベンゾジアゼピン系はその弊害が叫ばれつつあります。このブログの記事でも、毎日ずっと飲むことはあまりよろしくないという記載をしていますが、自分はベンゾそのものを否定しているわけではございません。

 確かにこれまでは長期処方の危険について啓蒙がなされておらず、漫然と処方して「いつやめても安全」と言ってしまう医療者もいました(今もいるっちゃいますが)。結果的に離脱症状を起こしてしまった患者さんがおり、彼らが大変な思いをしているのは事実です。

 しかし、だからと言って「ベンゾ=絶対悪」ではないのです。”うまく使えば”良いお薬だと思っていますし、自分も処方することがありますよ。一度に大量に飲んだって死なないし、しかも薬価が安いし。この”うまく使えば”というのは、あくまで個人的な見解ですが

・頓用で処方し、1週間に2回程度を上限とする
・連用はするにしても1-2週間程度とする
・事前に依存と離脱症状についてお話をする

 というのがまず入ってきます(アルコール依存症の離脱や緊張病の治療は例外)。そして、強調しておくべきは


お薬があなたの問題を解決するわけではないんですよ


 ということ。特にベンゾは問題を先送りにする働きだと思ってもらいます。先送りにしている間に何らかの手を打つこと、しかもその主語は患者さん、を前提としているのです。その対策の後押しを診察室できちんとするのが医療者の役目であり、それをすることで初めてベンゾが良いお薬にななる舞台が整うことになります。

 例えば、発表のたびにドキドキして不安でしょうがないんです、という患者さん。

「とにかく発表の時を何とか乗り切りたいです。発表の回数ですか? 月に2-3回ですね」

 こういう人にベンゾを使うことがあります。発表以外では何とかやって来られて、日常生活は大丈夫。そしてその発表もそんなに多くない。であれば頓用でベンゾを出しても悪くないでしょう。しかし、前述のように注意は促します。

「じゃあ、頓服のお薬を使ってみましょうか。ただ、これは毎日飲んでると”飲まないと不安”になってしまって、やめにくくなることがあります。あくまでも、発表の時だけにしてください。そして、飲んでから効果が出るまで少し時間がかかって、あとは眠気も副作用で出ます。だから、まずは休日とか何でもない日に飲んでみて、眠気がどれくらいで出るかとか確認しておいて下さいね。効果は緊張した時じゃないと分かりづらいかもしれないですけど、眠気とだいたい同じようなタイミングで出てきます。飲んで30分から2時間の間かなと思うので、発表の前に飲む時はそこを計算しておいて下さい。直前だと意味無いですからね」

 などなどをお話。そしてさらに

「お薬はドキドキとか不安をゼロにはしません。少し軽くして何とかなる程度にはしてくれると思います。まずはお薬を使ってしのげる程度にしてみましょう。それを繰り返すと、こころにゆとりが出来て慣れてきます。そうしたらお薬の量を少なくして、飲まなくても発表が大丈夫になりますよ」

 とある程度の道筋を付けておきます。決して症状をゼロにはしないというのを自分は強調するようにしておりまして。

「感情はもともと人間に備わっているものだから、それ自体は悪いやつじゃないんですよ。でも○○さんは不安が頭いっぱいになって発表の時にパニック(医学用語ではなく一般用語として)がやってきますね。お薬でそのパニックを少し小さくしてあげると、落ち着いて不安を見つめることが出来るようになってきますよ」

 とお話ししています。「不安を見つめられるように」とは言うものの、患者さんからすると不安が大きすぎてなかなか対処しきれない時があるでしょう。そこは薬剤で少し不安を小さくしてあげて、患者さんが対処しやすい形に持って行きます。そこからは診察で自信を少しずつ持ってみても良いんだよという内容のお話しを。その積み重ねによって、不安からだんだん距離が取れるようになってきて、お薬をちょろっと少なくしてみるきっかけにつながります。そういう話をしておくことで、ベンゾはプチ精神療法の一翼を担ってくれるでしょう。

 仮に処方したベンゾが効かなくても、初回の処方前に「今が一番つらい時だから、これ以上の負けはないですよ。悪くて引き分け。負けのない勝負だから、今回出すお薬が効かなくても大丈夫。そういう時は少し長期的に考えてみましょうか。方法はいくつかありますからね」とお話ししておきます。

 ちなみにこういう状況依存性のドキドキとか手の震えには、ベンゾ以外にも自分はβ遮断薬を使うことが多いです。例えばプロプラノロール(インデラル®)10mg頓用、という形で。いずれも安いのが特徴。抗うつ薬は高いですし毎日飲むししばらく続けないといけないですからねー。
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コメント
不安やストレス等々で血圧・脈の上がる人にデパスやリーゼを処方する開業医の先生がいらっしゃるけど、逆バージョンもありなんですね。
糖尿や高血圧だけでなく生活習慣の乱れや嗜好品の摂取なんかを一緒に見直すことで
お薬が変わらなくても不眠や気分の落ち込みが軽くなったという患者さんも何人かお会いしたのですが、なかなかそういう話をゆっくり出来ないなと思います。

心理士さんが介入するほどでもない・栄養士さんが入る疾患ではない?・診察はサササっと。こういう患者さんが一番困られてるような気がする今日のこの頃です。
NKdot 2016.07.21 18:30 | 編集
先生が芋なげたのかと……ごめんなさい。

真面目にググりました。
「昨今のプロレス界でも問題になってるいわゆる「危険技」の走りでもある」
あの反った状態でを投げ飛ばす技ってことですね。
確かに危険だ。

ベンゾを大胆に切ったときは、仰られるように「不安と向き合う」キッカケに
なったと思います。割り切りが出来た頃には、不安に対して寛容になったかな?

ただ、最近気になるのは、回って来る来る若手さんが
結構薦めてくるんですよね。連用で一ヶ月とか。
あれは、何故なんだろうか??と首かしげています。

さくらdot 2016.07.22 14:47 | 編集
こうゆうふうに出しっぱなしでなく、その先まで導いてくれたり、説明を加えてくれたりするだけで、効果にも、患者の捉え方も違いが出てくる気がします。でも、投げっぱなしジャーマンが多い気がします。
ノラdot 2016.07.23 11:32 | 編集
>NKさん

ありがとうございます。
やっぱり”養生”は地味ですけど一番大事で響いてくるものだと思います。
患者さんに説明すると結構時間がかかる時は、読みやすく見やすいパンフレットなどをつくって渡したり本を紹介したりすると良いかもしれませんね。
患者さんには、治療をするのはあなたなんですよというメッセージを送り続けることも重要だと思っています。
m03a076ddot 2016.07.23 15:00 | 編集
>さくらさん

ありがとうございます。
おイモを投げたらトマト祭りみたいな感じになるでしょうか。でも固いから凶器になりますね。
それも危険。
若手の医者が薦めてくるんですか? それは意外ですね。
使い方さえ悪くなければ良いお薬ではありますが。。。
自分の医局だと若手は「デパス出したら負け」みたいな雰囲気が無きにしもあらず…。
若手のうちは便利なものをあえてあまり使わずに対話術というか精神療法というか、そっちを磨くのもアリかなと思っています。
m03a076ddot 2016.07.23 15:22 | 編集
>ノラさん

ありがとうございます。
そうですね、ちょっと言葉を添えるだけでも先の見通しが良くなるので、それを重視することが結果的にお薬の効果をより引き出すことにもなると感じます。
投げっぱなしジャーマンではなく、でも普通のジャーマンスープレックスホールドも危険ですね、思い直すと。
そんな意味では今回のタイトルはちょっとおかしかったかもしれません。
m03a076ddot 2016.07.23 15:24 | 編集
ちょいと前までは先生方もベンゾ切り、状態よりメジャー少量なりに移行ていたのですが、代診の先生にも言われて驚きました。主に頭痛や肩こりの筋緊張に対してと、過呼吸が増えていたからかもしれないのですが、身体症状アピールしすぎ??と反省。
でも、外出時の前触れのない過呼吸(パニックではないですね)に対しては鋭くベンゾに効いてもらわんと救急車さんがきてしまうし難しいところです。
やはり他のひとの状況と比べないで、わたしを維持するための養生をして、少しでも飲まないように受け入れていかないといけませんね。
さくらdot 2016.07.25 15:09 | 編集
>さくらさん

ありがとうございます。
代診だとつい無難なものを勧める傾向にあるので、その場しのぎに優れるベンゾになるのかもしれませんね。
自分は甘麦大棗湯の頓服なんかをパニック発作には使うこともありますが。
人はついつい他人と自分とを比べて、自分にないものを渇望して苦しくなる傾向にありますね。
自分の持っている資源を大切にして育んでいくのが大切だと思っています。
m03a076ddot 2016.07.26 14:37 | 編集
いつも興味深く拝見しております。
インデラルって脈拍などを下げるだけで、不安感には全く効果はないと
いう認識でいいですか?また、インデラルは依存性や離脱症状はありますか?
教えて下さい!
42.195キロdot 2017.01.21 21:24 | 編集
>42.195キロさん

ありがとうございます。
インデラルは不安や緊張そのものを軽くする作用があります。
特に社会不安障害で場面に限局されるような時に効果を発揮します。
ただ、クセのある薬剤なので誰かれ構わずという訳にはいかないかと思います。
依存はありませんが、毎日使用している場合はいきなりやめると身体がびっくりします。
これはどんなお薬でもそうで、血圧を下げるお薬も、胃酸を抑えるお薬も例外ではありません。
m03a076ddot 2017.01.23 19:12 | 編集
早速のお返事感謝致します。ありがとうございます。
インデラルが不安や緊張を軽くするとは知りませんでした。
抗不安薬との違いや住み分けはどうなっているのでしょうか?
42.195キロdot 2017.01.25 01:56 | 編集
>42.195キロさん

ありがとうございます。
インデラルは場面に限局して緊張を伴うような不安に効果的です。
そのような症状であれば、抗不安薬ではなくインデラルの方が有効なことがあります。
もちろん抗不安薬の方がフィットする患者さんもいますし、両方使うこともあります。
実際には使ってみないと、ということになるでしょうか。
ただ、インデラルにはクセがあるため副作用や禁忌などに注意しなければいけません。
使いやすさという点では抗不安薬の方に分があるでしょうか。
m03a076ddot 2017.01.27 09:18 | 編集
いつもご丁寧にありがとうございます。
最後にもう一度薬の性質の質問をさせて下さい。
抗不安薬は実際に飲んだことがあるのですが、不安に思っていることが
どうでもよくなる、気にならなくなるといった感じで効くのですが、
インデラルもそういった実感は得られるのでしょうか?
それとも「あ、心臓のドキドキが少なくなったな。よかったよかった。」
という程度なのでしょうか?
またインデラルがクセがあるとおっしゃる理由を教えて頂けないでしょうか?
よろしくお願い致します。
42.195キロdot 2017.01.27 11:34 | 編集
>42.195キロさん

ありがとうございます。
インデラルの感じ方は抗不安薬とは少し違うかもしれません。
抗不安薬は不安に鈍感になる感じになりますが、インデラルは緊張が静まるような印象です。
なので、インデラルの効果も場面に限局して緊張を伴うような不安症になります。
漠然とした不安というのには効果は乏しいと考えています。
クセについては、血圧と脈拍を下げるという点から、多く服用すると低血圧や徐脈の副作用が出るという点と、中には鬱転(抑うつ気分になる)という副作用が出るという点が挙げられます。
他にも副作用が結構挙げられているので、添付文書をご覧ください(http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/2123008F1048_3_09/)。
そして、不安症に使う場合は保険適応外であるということも挙げられるでしょう。
抗不安薬の方が副作用含め失敗が少ないのです。
m03a076ddot 2017.01.30 16:15 | 編集
ご丁寧にご説明頂きありがとうございました。
大変勉強になりました。
ありがとうございました。
42.195キロdot 2017.02.04 08:20 | 編集
>42.195キロさん

ありがとうございます。
お薬はリスクとベネフィットがかならずあるので、薬剤師の先生などにもきちんと聞いてみることが大事だと思います。
m03a076ddot 2017.02.06 17:30 | 編集
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