2016
07.15

とらえる意味

 以前、引き継ぎで新しく診ることになった患者さんから、ちょっとしたお叱りを頂いたことがあります。

患者さん「先生、書かないの? 前の先生はオレの言うことをすぐ書いてくれたよ。書いてくれないと診てもらった気がしないなぁ」
自分「あ、そうでしたか…。私は字がヘタなもんで、書く時はしっかりとカルテの方を向かないと自分でも読めないくらいでして…」
患者さん「前の先生だってそうだったよ。そっち(机)向いて一生懸命書いてたよ」

 診察で、自分がカルテを書かずに話を聞いていた時の出来事。その病院は検査や処方のオーダーだけが電子化されており、診察記録はまだ紙カルテという状態でした。自分の診察スタイルは

・電子カルテであればタッチタイピングで内容を打ちながら患者さんの方を向いて話を聞く

・紙カルテであればキーワードをちょっとメモするくらいにして患者さんの方を向いて話を聞く
(後でキーワードをつなげて記録する)

 というものです。基本的にはいずれも患者さんの方に身体を向けて、眼や頭や手の動き、相槌のトーン・種類などによって「話を聞いてますよ」というアピール(?)をしています。以前担当していた先生はそうではなく、カルテの方を向いて患者さんの話すことを書き留めていたそうです。

 ここで、「おや?」と思うことがあるかもしれません。”カルテの方を向いて患者さんの話すことを書き留めていた”ということは、良く世間様からの言葉で


カルテの方ばっかり向いて、こっちの話を聞こうともしない


 というものがあります。”カルテの方”というのは、紙カルテが主流だった昔は机、今はパソコンになるでしょうか。そう、その先生のスタイルは一般的にその状態に当てはまる悪手と言えそうです。しかしながら、患者さんがその先生から受ける印象は全く異なっていたのです。カルテの方を向いて患者さんの言葉を書き留めていた行為、それがその患者さんにとって「診てもらっていた!」という意味になったのでしょう。もちろん、それだけでなく書きながらきちんと相槌を打っていたのだと思いますが、患者さんによると目線もカルテを向いていたと。

 私たちは既存の意味に規定され既存の意味の中を生きてはいますが、その意味付けをある程度は変えることができます。精神科なんてのは様々な事象の意味付けをちょっと変えるように持って行って、患者さんに別の視点を提供し、症状へのとらわれに気づいてもらってゆとりを得られるようにする科でございます。「カルテの方ばっかり向いて…」というのは世間一般の医療に対する不満を象徴する言葉でしょう。しかし、カルテの方を向いていてもその他のこと、例えばそれは相槌であったり、心理教育であったり、丁寧な検査であったり、患者さんの状態がその治療で改善していったという事実であったり、患者さんのこれまでの医療経験であったり…様々な因子が影響し合い、その”あいだ/あわい”で患者さんが「この先生は診てくれる先生だ」と思ったのであれば、カルテの方を向くという行為はその患者さんにとってマイナスにならない、むしろそのスタイルがプラス(話す言葉を一生懸命書き留めてくれる)に働くこともあるのだと思います。

 自分が引き継ぎ初っ端からちょっとコケてしまったというカッコ悪さを出したものの、そういう見方を改めて認識させてくれた好例とも言えそうです。ただ、自分はカルテの方をずっと向いてというのはちょっと出来ないかな…。世間様の既存の意味付けが強すぎて変える自信がないですわ、さすがに。
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コメント
こんにちは。
うちも新生姜つけました。豚バラといためてお弁当にいれてます。

自分の中の良かれが全てに通じる訳ではないということを
周囲から気がつき、謙虚に受け止めて、さらにそれを踏まえて新たに見渡してみる事が大事な事なんだと、もなか先生の記事を読んでいると思います。

医療に限らず万事そういう一面はあるのでしょうが
大人になればなるほど、固くなるので難しい事です

私の診察の場合、次回予約くらいしか打ち込む事がない日もあるので
(あとで多分一言くらいは何か書いてある。。。。。。んですよね?)
突然逆に急にせわしなくタッチ音がすると、ここが話しのキモなのか?
いいのか??ここで??先生??
と、心で叫んでます(笑)

さくらdot 2016.07.15 14:32 | 編集
あの先生はPCばっかり見てるから・・・。
私の担当病棟の診療科ではなかったのですが、外来患者さんのあるベテランDr.についての感想です。

逆に沢山書いてある方が良いという患者さんもいらっしゃるのですね。やっぱり不安の強い患者さんなのでしょうか?
ちゃんと目を見て話す、という行為を数回増やすだけで、基本PC画面に向かっていても患者さんの心象は変わるかもしれませんね。
NKdot 2016.07.16 10:48 | 編集
>さくらさん

ありがとうございます。
人はそれぞれのフレームでものを考えているので、なかなか自分では他の世界があるとは気づきにくいですね。
他者との触れ合いでどれだけ自身の考えは1つのフレームにすぎないのかを知ることがとても大切なのだと思います。
カルテの打ち込みは、精神療法のスタイルによっては後で長々と打つこともあります。
確かに、患者さんが何ともないと思うようなところが医者には気になって入力することがあるかもしれませんね。
その時は「そこ?」と感じちゃいますね。
m03a076ddot 2016.07.18 00:30 | 編集
>NKさん

ありがとうございます。
たくさん書いてあるのが良いというのは、その人の生き方もあるのかもしれませんね。
患者さんによっては医者が脇目もふらずにパソコンを見てカルテ入力をしているのが良いとか、あまり顔を見られると怖いと感じるとか、色々タイプがあると思います。
一般的にはパソコンを見すぎず、患者さんを見すぎず、になるのだと思いますが。
m03a076ddot 2016.07.18 00:33 | 編集
え、私、患者さんもスタッフも見過ぎてます。
あとはキャラクターもあるのか比較的患者さんに覚えてもらえて色々お話しちゃいます。(投薬が長くなって怒られる)
だからオジイサンに勘違いされるのかもしれませんね。。。今度からオジイサンは見過ぎないように気を付けます(笑)
NKdot 2016.07.21 18:35 | 編集
>NKさん

ありがとうございます。
”見る”というのは様々な意味がありますね。
キャラクターとして「この人は見てお話をする人なんだな」と分かってもらっていれば問題ないと思います。
初対面で「じー」っと見ていたら、日本人だと「おや?」と思うかもしれません。
薬剤師の先生も、安心や希望をお薬とともにお渡しするような工夫ができてくるといい効果が生まれそうですね。
m03a076ddot 2016.07.23 15:04 | 編集
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