2016
06.13

瀬戸際で介入を、生きてきた姿に認証を

 アルコール使用障害への介入について、少しまとめてみましょう。

 DSM-5のアルコール使用障害は“離脱、耐性、渇望を含む一群の行動的、身体的症状”と定義されています。物質使用障害群の中の1つですが、この群の基準Aは制御障害(基準1-4)、社会的障害(基準5-7)、危険な使用(基準8-9)、薬理学的基準(基準10-11)の4つの群にまとめられています。DSM-5からは“アルコール依存症”“アルコール乱用”という名称が消え、アルコール使用障害の中に重症度を設けて判断することとなりました。

 そんなアルコール使用障害は先進国でコモンな障害なのですが、診断や治療は遅れがち。18-29歳に最も多く、軽度であれば就労、結婚、親になり責任感が増すことなどによって寛解することが多いとされます。より重度の障害は最も治療されていない精神障害の1つであり、治療を受けている患者さんは15%以下とも言われます。よって、治療に結びつくのは30歳過ぎ、障害が本格的になってからになってしまいます。そして、アルコール使用障害は単なるモラル欠如によって生じるという誤解は正さねばなりません。多くの人間的、社会的、生物学的な因子が複雑に絡み合っているのです。

 アルコールは認知、感情、意欲に関わる神経伝達系に広く影響を及ぼします。GABA、グリシン、ニコチン性アセチルコリン、セロトニンなどの活性を高め、間接的にはドパミン、オピオイド、内因性カンナビノイドの活性を高め、グルタミン酸の伝達を阻害します。少量であれば報酬、抗不安、社交性を促すといった効果を持つため、これがアルコール使用障害への発展に一枚噛んでいます。

アルコール影響

 アルコール依存の臨床的特徴には耐性と離脱があるため、繰り返し飲酒することで神経伝達物質の反応は弱まり、以前と同等の反応を得るには飲酒量を増さねばなりません。突然の断酒によってリバウンドが起こり、それが離脱症状として経験されます。

 リスクの低いアルコール摂取量は国によっても異なるのですが、概ね男性で20-40g/day (<200g/wk)、女性で10-30g/day (140g/wk)とされます。一般的な問診では半数が診断されないため構造化された質問を用いることが勧められており、特に10項目からなるAUDITは問題飲酒の発見に有用です(感度と特異度がともに80-90%)。

 一般的に行なわれる血液検査ではMCVとγ-GTPが有名ですが、いずれも感度と特異度の低さが問題です。身体診察では、以下の項目を確認。

・精神:中毒や離脱症状、せん妄、抑うつ、不安、精神病症状、治療への意欲、洞察の程度
・神経:認知機能低下、小脳変性、末梢性ニューロパシー、近位ミオパシー
・心血管:高血圧、心筋症、心房細動(いわゆるholiday heart)
・消化器:栄養失調、肝疾患、膵疾患
・呼吸器:誤嚥性を含む肺炎、結核、タバコ関連障害群
・内分泌:偽性クッシング症候群、性機能低下

 構造化された質問、そして診察ではこの辺りをきっかけにして早期発見につなげることが肝腎。ここまではLancetのセミナー(Lancet. 2016 Mar 5;387(10022):988-98.)の一部から記載しました。以下は予防や依存の背景という視点で自分の意見を述べてみたいと思います。

 アルコール使用障害は、軽度であれば簡単な行動介入が有効であり、より重度であっても介入してみることで本格的な治療につなげることも可能になります。ここで大事なのが、プライマリケアを含む非専門医だと思います。本格的な治療につなげることも可能と述べたものの、重度のアルコール使用障害はかなり難治であり、アルコール専門医が治療しても再発が実に多く難渋します。そうなる前に掬い上げて行動介入することがやはり求められましょう。火種は小さいうちに、です。

 そのために覚えてもらいたいのは、セミナーでも紹介されていましたが”AUDIT”です。アルコール関連の質問といえばCAGEが有名ですが、これはコテコテのアルコール依存症を見つけるには有用なものの、その一歩手前、すなわちプライマリケアや非専門医で治療対象とすべき状態はスルーしてしまうことが実に多いのです。そこに強いのがAUDITでして、介入の方法を含めて公開されているので、ぜひ一度ご覧になってください。

アルコール使用障害特定テスト使用マニュアル(PDFです)

 これで8-19点であれば何らかの簡易的な介入はすべきであり、20点以上であればアルコール依存症の可能性がかなり高く(確定診断ではありません)、専門医に紹介すべき段階。もちろん点数が全てではないので、10点台でも依存症という患者さんは存在します。あくまでも臨床症状との兼ね合いで。

 患者さんには、AUDITの点数が何点だったかをまず示しましょう。7点以下であれば、今よりもお酒の量を増やさないように、このまま美味しく安全に飲んでもらうことを勧めます。8-19点が、プライマリケアや非専門医で主に介入する患者さん。お酒が身体やこころの不調に影響を与えている可能性が高く、将来的にもお酒に足をすくわれかねないことを説明するのですが、ここで念頭に置くべきは、私たちの説明は医学的なフレームだということ。患者さんは患者さんなりのフレームを持っているため、フレーム同士で対決させては決裂の可能性が高く、そうではなく必ず患者さんの思いをまず聞くことが大切。“医学的な説明で捩じ伏せてやる”のはご法度! 飲酒は患者さんなりの対処行動(コーピング)で、例えば仕事のストレスを減じるためであったり、これまでの人生で感じた孤独を慰めるためであったり、心的外傷を癒やすためであったり、よく眠れるようにするためであったり…。自分1人で何とかしようと足掻いてきた行動の1つなのです。その物語を無視して「減らしなさい」「やめなさい」と説得することは、暴力です。上手く行きません。

 患者さんなりの対処行動であったことは十分に認証されるべき。その上で依存症にまで至っていない患者さんに対しては、アルコールを減らす、もしくはやめるためにはどのように取り組んでいけば良いのか、それを前向きに話し合って行きます。到達目標は

・1日2ドリンク(ビール500mLや日本酒1合)以内
・週に2日の休肝日

 となっています。一度にここまで持っていくのは難しいので、まず今日や明日に出来ることを探っていきます。ノンアルコール飲料はお酒をやめた患者さんが口さみしいからという理由で始めると再飲酒の可能性があるものの、減らす過程で使用するのであればうまく働いてくれるかも。

 ちなみに、この中で“ドリンク”という単位が出てきますが、これは純エタノール10gを含むアルコール飲料を“1ドリンク”と定義しています。日本酒なら1合で2ドリンク、焼酎なら1合で3.6ドリンク、ビールは5%なら500mLで2ドリンク、缶チューハイは7%なら350mLで2ドリンク、ワインならグラス1杯で1ドリンク、ウイスキーならダブル1杯で2ドリンク。

 プライマリケアや非専門医でも、というかだからこそ、解決志向でアルコール使用障害に取り組むことの重要性が強調されるべきだと考えています。本では『ぼくらのアルコール診療』がオススメです。ポケットブックの大きさで表紙もちょっと軽い雰囲気ですが、中身はしっかり。字が小さいので自分は眼がしょぼしょぼしてしまい、それが欠点かも。読ませる本なので、教科書的なA5サイズで良かったのではとも思います。一般の方々にも分かりやすい本では『おサケについてのまじめな話』が秀逸だと思います。導入に最適。
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コメント
キッチンドリンカーの女性が救急搬送されて来て
ご主人に数日連絡が取れなかった
事を思い出してしまいました。
重症急性膵炎で、その時はなんとか乗り越えたのですが
そのあと、精神科に繋がったと思いたいですね。

そのひと、台所で倒れている所を発見されて
搬送された病院から更に大学病院へ搬送だったようですけど
どこの医療機関にも受診した事がなかったそうで
ある意味、そこまで人間耐えられることも学びましたけど。
本人にもあまりアルコール依存の自覚もなかったようなので
やはり啓蒙は大事なのでしょうね。
もう、20年近くまえの話しですが
さくらdot 2016.06.13 16:51 | 編集
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dot 2016.06.15 21:46 | 編集
>さくらさん

ありがとうございます。
アルコール依存症の怖いところは、本人や周りが気づかないうちにじわじわと手を広げ、気づいた時にはすっかりとらわれてしまっているということかもしれませんね。
本当に精神科につながってくれていれば良いのですが。
しっかりと世の中に疾患を知ってもらうことが欠かせないのだと思います。
m03a076ddot 2016.06.16 22:32 | 編集
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

アルコールについては、確かに本人が「よし!」と思わないと難しいところが大きいかと思います。
医療者がそこを上手くガイドしてあげられると良いのですが。
『ぼくらのアルコール診療』は医者向けの部分が大きいので、それよりは岩波ブックレットの『アルコールとうつ・自殺――「死のトライアングル」を防ぐために』や、ご家族用の『CRAFT 依存症者家族のための対応ハンドブック』、『薬物・アルコール依存症からの回復支援ワークブック』などが良いかもしれません。
m03a076ddot 2016.06.16 22:48 | 編集
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