2016
05.25

学生さん向け、現実的?な洋書の読み方

Category: ★学生生活
 学生の時は2年次から専門科目がスタートすることが多く、発生学や組織学、解剖学などがあります。自分の大学では最初の試験が発生学で、見事に追試の憂き目にあったことを鮮明に覚えております…(確か70人くらい落ちたんですよ)。

 自分の成績はあまり安定しておらず、好きな科目はトコトン勉強したんですが、興味の沸かない科目は合格ラインスレスレでして。秀、優、良、可、不可の5段階でしたが、秀・優を獲るか可になるかという凸凹の激しいものでございました(もちろん可の方が多かったですけどね…)。しかも好きな科目の中でも好きな分野とそうでないところが細分化(?)されており、試験では”当たれば強い(マニアック)”という感じ。頭の良いオールマイティな学生さんってホントに隙のない勉強をしますよね。何でこんな科目(失礼…)を真面目に勉強するのだ、と感心してしまった記憶があります。自分は王道的な勉強がダメなので、いつも変化球で逃げていたようなものでした。とは言っても、医者になってからは専門性が出て来ます。自分の場合は精神科でしたが、それを考えると変化球的な勉強スタイルも悪くはなかったかなぁと思っておりまして。もちろんどんな科でも良く遭遇するようなコモンディジーズは診断と初期治療が出来るようにとこころがけておりますよ。臨床研修修了ラインは保っておきたい。

 で、話題は学生時代に洋書を用いるということです。ハッキリ言って、使わなくても適切な知識は身に付きますし学生レベルで困るようなこともないでしょう。しかも最近の日本語の医学書はとっても良いと思います、基礎も臨床も。でも、「せっかく医学生になったんだから読んでみるのも悪くないんじゃない? 受験生時代に英語はたくさん勉強したんだし、医者になったら英語は絶対必要だし、抵抗を減じるという意味でも」というのが個人的な意見。

 「洋書を読む=凄い学生さん」ではありませんが、どんな世界にもバケモノはおり、何でこんなに読めるんだ! という人もおります。そういう人は概して医者になってからもバケモノでして、その意見が大きな位置を占めることも。ただ、”大多数の学生さん”という現実的な事を考えると、そのバケモノを基準にしてはなりません。良いの良いの、バケモノはバケモノなんですから。私たちは現実的なラインを考えて一歩一歩進んでいきましょう。自分自身がちょっと背伸びをしたら届くような、そこが目標。

 バケモノ学生さんやバケモノドクターには生ぬるいように見えるかもしれませんが、多くの学生さんにとって”洋書に触れてそれが長続きして医者になっても英語の文献を読むことに抵抗を感じにくくなる”というのが目標だと思うのです。そのため、洋書選びのポイントを3つに凝縮してご紹介。あくまでも個人的な経験によるものでありますが、洋書入門の参考になってくれれば。

 第一のポイントは、洋書で勉強する科目を絞る、ということ。知識全部を洋書で得ようとするとそれはそれは大変でして、生理学はGuyton先生の『Textbook of Medical Physiology』で、解剖学はMoore先生の『Clinically Oriented Anatomy』で、薬理学はKatzung先生の『Basic and Clinical Pharmacology 』で、、、なんてことになったら確実に挫折するでしょう。私たちの処理速度を完全に超えております。やっぱり”好きな科目”に焦点を当てるのが大事。自分は2年次の時、組織学でJunqueira先生の『Basic Histology』を読んだのが初めての洋書経験でしたが、それは組織学が他の科目よりも好きだったから。基礎医学の中では免疫学が最も興味を惹くものだったので、それも4年次の時だったかしら、Abbas先生の『Cellular and Molecular Immunology』を読んですごく面白かった記憶があります。嫌いな科目だと日本語でも苦しいので、英語なんて論外です。最初は、”1年で1冊”くらいの目標で良いでしょう。慣れてきたら”1年で2冊”にしても構いません。それを重ねていると、臨床科目に進んでからは色んな科目の洋書をちらちらと読めるようになりますし、卒業して研修を開始してからも英語文献に高いハードルは感じません(たぶん)。でもあんまり洋書に手を出し過ぎると消化不良になるので、そこは重ねて注意をしておきます。恥ずかしながら、自分は買っておいて読みきれずにタンスの肥やしになった洋書がチラホラ…。もったいなかった。

 第二のポイントは、あらかじめ日本語で知識を入れておく、ということ。何の知識もないところからいきなり洋書で開始すると、意味が分からなくなることが多いです(経験的に)。組織学なら例えば牛木辰男先生の『入門組織学』を読んでから洋書に進むなど。場合によっては、日本語訳が出ている洋書であれば図書館で日本語訳を読みながら原著を進めていっても良いでしょう。でもせっかくだから違う本にしたいという気持ちも確かに。ただ、洋書の読み始めのうちは慣れない単語もかなり多く、最初は1日で数ページなんてこともザラでした、自分の場合。記念に保存してある当時の『Basic Histology』をめくってみると、「こんな単語も知らなかったのか…」と恥ずかしくなります。例えばepithelial tissueの下には”上皮組織”と書き込んでますし、heterogeneousの下に”異質性の”と…。いちいち電子辞書を使って調べていたので時間がかかりましたね…。ま、そういう積み重ねがあったからこそ今は読めるのでありますが。和訳版を読んでおくと、その辺りのもたつきは少ないと思います。自分が学生の頃は『Basic Histology』も『Cellular and Molecular Immunology』も『Clinically Oriented Anatomy』も和訳が存在しておらず、『Textbook of Medical Physiology』はとても古い版のものしかなかったのです。今の学生さんは恵まれておりますなぁ(羨望)。

 第三のポイントは、通読できる厚さにしておく、ということ。洋書で勉強するのはとても良いことですが、その科目に時間をとられて他の科目の勉強が間に合わず落ちてしまった…という妙な事態にならないようにすることが肝腎です。Guyton先生の『Textbook of Medical Physiology』は素晴らしいのですが、分厚いため原著で読み切ろうとすると正直なところ生活がそれ一色になりかねず。。。しかも生理学は大体2年次で勉強するでしょうから洋書を読み慣れず知識も乏しいため読むスピードがめちゃくちゃ遅く、かつ他の科目も勉強法があまり分からないまま進みます。よって、あまり1つの科目にとらわれている時間は多くないのでございます。せいぜい400-500ページかなぁ、読み切れるのは。そして、学生さんにとって”通読する”ということは大きな達成でもあります。”半年や1年かかった牛の歩みでも、この洋書を全部読んだ!”という経験は嬉しいものであり、自信にもなるのでございます。自分は『Basic Histology』(500ページ)だけは最初に買って通読した洋書として本棚に置いています。若かったあの頃の情熱を偲ばせる、そんな対象。今はその気概がどこに行ったのだ…? (ゲーセンか…???)

 以上、この三点が大多数の学生さんが洋書を読む際の大まかなポイントになるかと。とは言っても今は名著と呼ばれる洋書がほとんど和訳されているので、昔と事情は違うんですよねぇ。。。そこをどう考えるかではありますが。値段も大きく違わないし、新しい版が出てから日本語訳が出るまでのスピードも結構速いし。それに、洋書を読むのは効率性が良くありません。その分、日本語でたくさん勉強したほうが実際は知識が身に付くのかも、とも思ってしまいます。だからこそ好きな科目に絞るというポイントも出て来るのですが、”知識”という点で和書と洋書を比べると、効率を考慮すると前者に軍配が上がってしまいそう。しかしながら、洋書を読む重点はそこになく、将来のための布石という位置付けでございます。あとの利点は、洋書の持つクリアカットな説明や臨床に即した書き方に触れておくことでしょうか。分からないところはごまかさず”分からない”と書かれていますし、疾患のもたらす症状も、ずらずら書くのではなく重み付けがきちんとなされています(特に『Harrison』や『Cecil』はそうですね)。

 最後に、あくまでも通読のための洋書として少し基礎医学の例を挙げて終わりにしましょう。学生さんは好きな科目に絞って、決して無理しない範囲(ちょっと背伸びくらい)で読んでみても良いかもしれません。厚くないものを選んでいますが、何せ学生を終えてかなり時間が経っているので、最近の流行を追えていない恐れが。。。

 組織学は『Junqueira’s Basic Histology』はいかがでしょうか。ただ自分が最初に読んだという理由ですが…。クリアカット過ぎて「?」と思う時もたまーにあります。Ross先生の『Histology』の方が詳しいのですがかなり厚いので却下とします。

 解剖学は日本語(和訳含めて)で良いんじゃないかなぁと。どれもこれも分厚いですからね。ちょっと蛇足ですが、学生さんは『トートラ 人体の構造と機能』もしくは『カラー図解 人体の正常構造と機能 全10巻縮刷版』という本を基礎医学の最中にせっせと読んでおくと解剖と生理が見事につながる感覚が得られると思います。臨床の礎って感じがしますよ。

 神経解剖は『Neuroanatomy: An Illustrated Colour Text』が薄くてイラストも綺麗。ただ、薄すぎて(200ページ弱)コレ一冊でO.K.とは行かないかもしれません。もうちょっと厚くても良いのならWaxman先生の『Clinical Neuroanatomy』が400ページ弱で内容もしっかり。

 免疫学は『Cellular and Molecular Immunology』が好みです。イラストが綺麗で、説明も実に分かりやすい。免疫学といえばJaneway先生の『Immunobiology』が最も有名ですが、厚くなりすぎてしまった感アリ(イラストもそんなに綺麗じゃないし)。

 生理学はCostanzo先生の『Physiology』(BRSではない方)が厚さと内容とイラストのバランスが良好で秀逸。そりゃGuyton先生のが最良ですけど、いかんせん分量がありすぎで多くの学生さんにとって”通読”を考えると難しいかな。。。

 病理学は通読出来る分量で深みを持つものがなく、『Rapid Review Pathology』くらいでしょうか…。でもこれでも800ページ近くあるのであんまりなぁという印象。和訳含めて日本語の本の方が良いかも。

 発生学はベタですが『Langman's Medical Embryology』でしょうか。ただ、自分はこの本を買ったものの組織学の洋書で手一杯になっておりあまり読めず、結局は発生学を落としてしまったのでございます…(赤裸々)。あまり他人様にオススメ出来るような立場でないかもしれません。ちなみに追試ではおとなしく医学要点双書の『発生学』で勉強しました(無事に受かりました)。

 また、多くの科目で『Lippincott’s Illustrated Reviews』シリーズはオススメです。自分が学生の頃はそんなに種類がなかったのですが、今はたくさんありますね…。英語も平易でイラストも多く、特に薬理学と生化学は人気が高いです。

 そんな感じ。バケモノ学生さんにとって物足りないのは重々承知しておりますが、多くの学生さんにとってということでご了承下さい。分厚い医学書については、疑問に思ったところを拾い読みする辞書的な使い方をして、そして総論部を読みましょう。基礎の『Robbins』(簡略版ではない方)も『Guyton』も、臨床の『Harrison』も『Cecil』も、総論部の出来が秀逸であり、さすが超一流の洋書だと思わせます。繰り返し読んでみて、研修医になった後もチラチラ見てみると、「ほぉ」と思わせます。そんな使い方であれば、あえて原著にするよりも和訳されたものを図書館で読んでも良いような。
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