2016
05.18

大事なものは大事に使うのだ

 抗菌薬の適正使用が盛んに叫ばれており、政府が初の行動計画(薬剤耐性対策アクションプラン)を公表することとなりました。ヒトに関しては以下の項目が掲げられています。

1. 2020年の人口千人当たりの1日抗菌薬使用量を2013年水準の3分の2に減少させる。
2. 2020年の経口セファロスポリン系薬、フルオロキノロン系薬、マクロライド系薬の人口千人当たりの1日使用量を2013年水準から50%削減する。
3. 2020年人口千人当たりの1日静注抗菌薬使用量を2013年水準から20%削減する。
4. 2020年の肺炎球菌のペニシリン耐性率を15%以下に低下させる。
5. 2020年の黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性率を20%以下に低下させる。
6. 2020年の大腸菌のフルオロキノロン耐性率を25%以下に低下させる。
7. 2020年の緑膿菌のカルバペネム(イミペネム)耐性率を10%以下に低下させる。
8. 2020年の大腸菌および肺炎桿菌のカルバペネム耐性率0.2%以下を維持する。

 医者のずさんな処方や患者さん側からの不適切な要求に対して、今やらねばいつやるのか。かなり難しいのでしょうが、先延ばしには出来ない状況、待ったナシなのです。

 処方するのは医者なので彼らへの介入が重要なのは論を俟たないのですが、調剤する薬剤師の先生にもしっかりとした知識を得てもらい、疑義照会する勇気を持ってもらうことも欠かせません(医者はその疑義照会に対してきちんと応えること!)。そして、処方される側の患者さんやそのご家族にも抗菌薬の特徴を正しく知ってもらうことも大事。このバランスが崩れてしまうと、医療者と患者さん側との間ですれ違いがどんどん起こり、両者が不幸になってしまいます。“患者さんは処方してほしい、医者は処方したくない”や“患者さんは処方してほしくない、医者は処方したい”では、意見の一致を見ずにお互い不満がたまっていくでしょう。

 患者さん側はAPICの啓蒙(PDFです)を見てみるだけでも少し違うかもしれません。以下に少し。

 内容の1つめは“抗菌薬のABC”です。

Ask:この抗菌薬は本当に必要なのか? 良くなるためにどんなことをしたら良いか?
Bacteria:ウイルスに抗菌薬は効かない。細菌にのみ効く
Complete the course:処方された抗菌薬は正しく飲み切る(状態が良くなっていても)

 2つめは、下記の状態に抗菌薬は不要だということ。

・風邪やインフルエンザ
・ほとんどの咳や気管支炎
・溶連菌が原因ではない咽頭炎
・鼻水
・ほとんどの耳痛

 3つめは、耐性菌(抗菌薬が効きにくくなった細菌)の知識。間違った抗菌薬使用は耐性菌を産み、将来の感染症を治しにくくしてしまうことも危惧されています。

 4つめは、以下のことを医者に聞いてみること

・抗菌薬は本当に必要か
・抗菌薬なしで良くなるか
・どんな副作用があるか、お薬同士のケンカはあるか
・副作用のうち、特に何を医者に言えば良いか
・ウイルス感染に抗菌薬は効かないけれども、私の今の状態をどう思うか

 これらを導入として、特に“風邪”に抗菌薬は無効(というか有害ですらある)だということを知りましょう。それだけでも抗菌薬の不適切な処方・服用はだいぶ減ると思いますし、アクションプランの1番2番は達成可能かもしれず、それは結局アクションプラン全体の達成にも近づく気がします。ちなみに風邪とは、“ほとんどは自然寛解するウイルス感染症であり、多くは咳・鼻汁・咽頭痛など多症状を呈するウイルス性上気道感染のこと”です。

 「でも以前、風邪に抗菌薬を出してもらって効いたからやっぱりほしい!」と思うこともあるかもしれません。それについては、上記のとおり風邪は“放っておいても良くなる”という純然たる事実があります。“抗菌薬を飲んで良くなった”のではなく、“勝手に良くなった状況に抗菌薬が入っただけ”であり、因果関係があると間違えないように。また、親御さんであれば具合の悪いお子さんに何かしてあげたいという気持ちもあるでしょう。しかし、抗菌薬が風邪に対して実際に良い役割を果たすことはなく、かえって副作用でつらい思いをするかもしれません。そこをぜひ知ってください。

 医療者については、感染症と抗菌薬への正しい医学的知識を得ることに尽きるかもしれません。「そうは言っても、臨床をしているとスパっと割り切れなくて、出しておいた方が良い患者さんもいるんだよ。現場を分かってないなぁ」という意見もごもっとも。特に高齢者では明らかに肺炎だと分かりにくく、急変しても嫌だし出しておこうかな…となることは多いかと思います。しかし、そうであっても可能な限り各種培養を行なう、処方する抗菌薬を考える、という経路は踏みたいものです。フロモックス®、メイアクト®、バナン®、セフゾン®、トミロン®など経口の第三世代セフェムやシプロキサン®、クラビット®、アベロックス®、グレースビット®、オゼックス®などのキノロンは頻用(というか乱用)されている抗菌薬ですが、本当にこの患者さんのこの状況に必要なのか? は自問せねばなりますまい。代表的な欠点を挙げると、経口第三世代セフェムはバイオアベイラビリティが絶望的に低いですし、キノロンは緑膿菌に効く大切な抗菌薬であり、新規のものは嫌気性菌にもそのスペクトラムが広がっており、かつ結核に効いて“しまう”のです(FDAが注意を促したように副作用も多いし)。他にはオラペネム®という経口カルバペネムがありますが、カルバペネムは基本的に緑膿菌感染のためのもの。外来かつ経口というセッティングで、どれだけ重篤な緑膿菌感染が想定されるでしょうか。こんな抗菌薬がぽんぽん処方されるのは何とも…。クラリス®、ジスロマック®といったマクロライドに関しても、日本の肺炎球菌は多くがマクロライド耐性である事実を忘れてはなりません。

 そして何より、抗菌薬が医療者・患者さん・ご家族の“抗不安薬”になってしまっている現状を打破せねばならないでしょう。「念のため…」「悪化すると嫌だから…」との不安から処方したり要求したり。みんな「はやく良くなりたい」「何とかしてあげたい」という気持ちがあり、それ自体は肯定されるべきものです。しかし、抗菌薬の投与が負の連鎖を産んでいるのも事実。お互いが正しい知識を得て、医療者も患者さん側も“養生”の大切さをもっと知るべきなのでしょうね。加えて、医療者は上述のような患者さんの思いをいったんは汲みとることも求められます。頭ごなしに否定して「抗菌薬は意味ないから出さない!」と言っても、患者さん側は納得しません(処方してくれるクリニックに行ってしまうかも)。不安な気持ち、何とかしたいという思いを認証するというステップを必ず踏むこと。正しい説明をする前に、患者さんの気持ちを認証する。それがなければ、正しい説明も”受け入れられない””押し付けられた”とみなされ、暴力性を帯びてしまうでしょう。

 最後に、正しい知識を得るには、やっぱり勉強せねばなりません。抗菌薬について気合を入れて勉強したことがない医療者は、ちょっと古いですが超入門編として『プライマリケア医のための抗菌薬マスター講座』をまず読んでみましょう。プライマリケアでの使用に絞っており、100ページちょっとと薄いので1日で読めます。もちろん入門用なので、そこからもっと広げるべし。その内容を十分に知っていたら、Gノートの『総合診療力をググッと上げる! 感染症診療』を読んでみると良いかも。抗菌薬に限った内容ではないのですが、現場を意識した仕上がり。風邪に絞れば『誰も教えてくれなかった風邪の診かた』が適切。

 患者さんやご家族にも読んでほしいのは『総合診療医が教える よくある気になるその症状』です。薬剤師の先生向けにはなっていますが、内容はとても分かりやすく、受診すべきかどうかの状況でとても参考になります。研修医にも良いかもしれませんね。抗菌薬からは外れますが、健康への一般的な取り組みには『ドクター徳田安春の養生訓』が面白く読めるでしょう。

 お子さんを持つ方々、そして子どもを診る医療者は『子どもの風邪』を。一般の方々には少し難しいかもしれませんが、親御さんへのアドバイスも書かれており温かみのある医学書です。

 大げさではなく、抗菌薬の適正使用に関しては日本のみならず人類が一丸となるべき状況に来ています。それを意識して、日々の診療、日々の生活を考えてみてはいかがでしょう。

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コメント
こんにちは。
クリニックの門前で働くようになって風邪に抗生剤、よく見ます・・・。
しっかり食べてしっかり寝る!ですよね。。。
生活乱れてるのに薬に頼ってはダメだということをもうちょっと国民が考えるべきではないかと思います。
最近は鶴舞公園よくお散歩してます(*^^*)
NKdot 2016.05.29 10:55 | 編集
>NKさん

ありがとうございます。
抗菌薬のどうしようもない処方をする医者はホントどうしようもない…と呆れてしまいます。
そういう医者はいくらこっちが言っても聞かない人たちなので、ちょっと残念ですね。
国民のみなさんも、医者やお薬ではなく”養生”をもう一度しっかり見直してほしいと思います。
夏に向かっている今は、鶴舞公園も緑が綺麗になっていますね。
m03a076ddot 2016.05.30 23:16 | 編集
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