2016
04.16

安心できること

 精神病院には、長年ずっと同じ処方であったり多剤大量となったりしている患者さん(入院外来問わず)がいます。かつ、ちょっと不調な時があれば抗精神病薬をその時に上乗せされ、落ち着いてもそのまま。そして担当医の変更がもちろんあり、そうなると新しく担当となった医者は薬剤歴を見て「この薬を新たに入れたのは何のためだ?」と分からなくなることも。「もし切って悪化したら大変だな…。安定していたのがそれで崩れるのも患者さんに悪いし…。何かしらの必要性があって入れてるんだろうな…」と考え込むと、昔々に増量されたり開始されたりした薬剤を減量中止するのも気が引ける…。そんなことが往々にしてあります。患者さんの今ある生活を崩したくない、と思うのはごもっともなのです。例えばハロペリドール12mg+プロペリシアジン60mg+クロルプロマジン100mg+レボメプロマジン50mgなんてのも昔々の患者さんでは目にします。おそらくはハロペリドール主剤なのでしょうけれども、ちょっとブレたり不眠が続いたりした時に鎮静をかけるために他の薬剤をプラスしたのかもしれません。もしくは、減量しようと思って減らしたらリバウンドか再燃かによって症状が悪化して慌てて主剤を戻して鎮静系の他剤を加えたか? また、抗精神病薬にちょろっと抗うつ薬が噛まされていることも。これは抑うつになった時期があり、その時に抗うつ薬を入れたんだろうなぁと思わせる処方。そしてその状態を脱した後もそのままになり、担当医も幾度か替わり減量中止せずにそのままになっておるのでしょう。複雑な処方は、昔の担当医の遺産と言えるかもしれません。

 しかし、多剤が絶対的に悪いわけではなく、そうでないと何ともならない患者さんも実際にいるでしょうし、医者も最初から多剤にしたくてそのようにするってことはありません。それを考慮せずに「多剤にするのは薬漬けだ! 廃人にしようとしてこんなに出している!」と非難をするのはちょっと違うのかなと感じます。医者は、薬剤歴に悪戦苦闘の歴史を感じ取るのです。ただ、手順を間違えなければ減らせる患者さんもおり、いっぽうそれに消極的な医者がいるのも事実。減らすことで心血管リスクや誤嚥リスクを下げられますし、意欲も出て来るかもしれませんし、錐体外路症状も軽減でき、そうなると併用されている抗コリン薬も減らせて認知機能低下も改善できる可能性だってあります。

 そして、こういう患者さんの薬剤を減量する時、かなりの慎重さが必要。長年の処方でドパミンやヒスタミンなどなどの受容体がアップレギュレーションされているため、少しの減量が相対的に大きなダメージになることがあります。退薬性ジスキネジアを出してしまうとかなり治療が難しくなる、とも聞きます。受容体のアップレギュレーションという知識があるのとないのとでは、薬剤の使い方にかなり違いが出るのではないでしょうか。若手の精神科医はぜひこれについて学んでみてください。

 自分は何回か減量で手痛い目に遭っており、それはすなわち患者さんに不利益を与えてしまったことにもなります。安定している患者さんにゆらぎを与えるのは医者として本当に申し訳ないという気分になり、減量せずにそのままキープにしたいという人情も十分に理解可能。しかし、減量の向こう側に患者さんのより良い生活が思い描ける時は、決心して取り組みたいと思っています。

 ということで、最近は超安全牌として例えばハロペリドールであれば0.1mgを1-2ヶ月というような、かなり長丁場でちょこちょこと減量しています(患者さんによりますが)。ベンゾジアゼピンも統合失調症患者さんに投与されていることは多々あり、かつこのお薬は統合失調症患者さんの攻撃性に関与している可能性が示唆されてもいるため(Fond G, et al. Medication and aggressiveness in real-world schizophrenia. Results from the FACE-SZ dataset. Psychopharmacology (Berl). 2016 Feb;233(4):571-8.)、不必要だろうなと考えられる場合にはじわじわ減らします。もちろん「減らしても良いよ」と言ってくれる患者さんを対象として行なっておりますよ。

 このように微量で減らす時、いつも支えてくれているのは調剤する薬剤師の先生。結構面倒だと思います、粉でごくごく少量にするのは。しかもそうするのは1人の患者さんではないですし。錠剤しかない薬剤も粉末化でちょろちょろと。こちらは処方をオーダーするだけなのですが、実際につくってくれるのは薬剤師の先生。いやはや、いつもいつもスミマセン。この場を借りて御礼を。

 で、話は薬剤師の先生のことになるんですが、病院の持つ力は薬剤師の先生が担っている部分が相当に大きいと思っています。特に精神病院では多剤大量を是正する方に舵を切っていますから、そのやり方を薬剤師の先生が提示してくれるとか、後は相互作用の理解もそうですね。薬剤師の先生に十分な知識があるからこそ、医者は安心して処方できるという側面があります。

 そこで、偉そうなことを言ってしまうのですが、薬剤師は”薬剤”師なので、やはり薬剤に関してプロフェッショナルであってほしいと感じています(気分を害されたらスミマセン)。もちろん日本にあるすべての薬剤を把握することは無理なので、精神病院であれば向精神薬への十分な知識とそれ以外の薬剤(特に相互作用と副作用)について迅速に調べる情報収集能力が必要。薬剤に関して医者よりも数段上の知識を持つのが薬剤師の先生でしょうし、そうあるべきだとも考えています。医者もそれに負けないくらい勉強する必要はありますが(何せお薬を選んで処方するのは医者なので)。例えば桑原秀徳先生のような薬剤師の先生がどーんといてくれたら、こちらも大船に乗った気持ちで向精神薬を処方できそうな気分。それだけ薬剤師の先生の力は大きいのです。

 自分は疑義照会をたくさんかけてくれたり、患者さんの他院処方薬を教えてくれたりする薬剤師の先生を信頼しています。相互作用や、他にも疑問に思うところがあればやっぱり意見がほしい。それが患者さんへの安心安全な処方につながります。しかしながら、医者の中には疑義照会を鬱陶しく思う輩もおり、薬剤師の先生もなかなか大変なようです。”自分のやり方”が変に身に付いてしまった医者はそれを崩されるのを嫌うため、そうなると薬剤師の先生が疑義照会をしても突っぱねてしまう。それでは患者さんのためになりませんし、薬剤師の先生も次から「触らぬ神に祟りなし」的な対応になってしまうかもしれません。「疑義照会なんてかけてくるな!」という傲慢な医者は淘汰されてほしい、とひっそりと思ってしまいます…(ひっそりですよ、ひっそり)。患者さんの生活を考えたら、薬剤師の先生と手を取り合った方が良いでしょうに。自分の信条を優先してしまうのは、お薬どころか患者さんを置き去りにしてしまいます。それっていかがなものかと。これは精神科に限らず、どの科でもあること。知識に関しては、常に風通しを良くしておくことが求められるでしょう。色んな知見やトレンドを手に入れるのは、流行を追いかけるためではありません。ブラッシュアップすることで、新しい地平が見えてくると思うのです。それに対して眼を瞑ってしまえば、歩みを止めることになるでしょう。自分の持つ知識は絶対ではないのです。常に素足であることが望まれますよ。

 ということで、特に若手の医者は、薬剤師の先生との意思疎通を十分にしてほしいなと思います。そして繰り返しにもなりますが、若手の薬剤師の先生は薬剤のプロフェッショナルを目指してたくさん勉強してほしいなと感じています。「は? 医者なんかに薬の知識で負けるわけないっしょ」的な気概で。特に精神科医は専門外の分野にやたらめったら弱い医者も多いので、適切に指導をしてくれるとホントに助かります。

 若手の医者や薬剤師の先生は、これからの医療を担う人たち。自分の知識が絶対ではないという自覚は、若手の大きな武器です。向精神薬の使い方もそうですし、抗菌薬の適正使用もそうです。これからの時代をつくっていく人たちが協力して、より良い医療を目指して知識に対して貪欲であってほしいなと思います。
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コメント
精神科の薬剤師さんって、入院している時にお世話になるのですが
丁寧にお薬の履歴をたどってくれて、今後の見通し等も話してくれるので
先生の言葉の後押ししてくれてる心強い人ですね。
ただ、残念なことに、調剤薬局ではそういうことがないので…
システムの問題はわかるけど、院内調剤の良さっていうのもあったなと
感じます。
さくらdot 2016.04.21 10:02 | 編集
>さくらさん

ありがとうございます。
薬剤師の先生も、とっても丁寧で良い先生がいるいっぽう、処方箋に書かれたものを出してオシマイ、はたまたやたら医者に対して攻撃的、という先生もいますね…。
これはどの職種にも言えることですが、色んなタイプの人が存在するなぁと実感しております。
m03a076ddot 2016.04.22 10:25 | 編集
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