2016
08.14

講演の範囲

 3月の初旬と6月下旬に漢方薬の講演をしてきました。どちらも”初学者はどうやって漢方を学んでいくと良いか”という内容。

 個人的、あくまでも個人的ではありますが、最初は”決まり文句”から入っていくのが良いかなぁと思っています。初っ端から漢方独特の理論や生薬を学ぶと、高率でドロップアウトするでしょう。自分は生薬の知識が入ってくるまではかなり苦しんだ記憶が…。理論の方も、実態のない概念なのでなかなかね。。。しかも人によって定義が異なってくるし。

 この決まり文句は日本漢方が得意とするところで、例えばこのようなものがあります。

・ぐったり夏バテ、清暑益気湯
・コンコン空咳、麦門冬湯
・腰痛で、冷えると大変、五積散
・立ちくらみ、そんな時には、苓桂朮甘湯
・冷えるとうずく、古傷に、桂枝加苓朮附湯
・緊張で、手に汗握る、四逆散
・お年寄り、コロコロうんちに、麻子仁丸
・ちょっとした、体調不良に、桂枝湯
・ギリギリと、強い歯ぎしり、抑肝散

 などなどなど、こんな感じでパッと方剤を選べます(覚えやすそうなリズムでつくってみました)。いくつか覚えておいて、「これぞその決まり文句がピタッと当てはまる患者さんだ!」という患者さんに限定して出してみる。そこで何か効いてくれれば「おっ」と思えるのではないでしょうか。そんな体験が増えると、理論や生薬を知りたくなる、かもしれません。自分は昔々に「足の手術をしたんだけど、天気が悪かったり冬場になったりすると痛いんだよねぇ」という患者さんに桂枝加苓朮附湯(ツムラさんなら桂枝加朮附湯ですが)を処方して劇的な効果を示したことがあり、また「ヘルニアで腰が痛くて」という患者さんに五積散を使ってみたらびっくりするくらい良くなって、そんなのが重なると患者さんからも感謝されますし、感謝されたらやっぱり正直なところ嬉しいですし、そしてもっと使ってみたいという欲も出てきますし。かゆいところに手が届く可能性を漢方に感じております。

 ただ、やっぱり基本的な理論と生薬の知識があると、処方の理由が分かってきます。そこが重要になってくるでしょう。それについても、決まり文句がなぜそのような決まり文句になっているか、から入って行くと良さそうです。前述の桂枝加苓朮附湯であれば、エキス製剤はこんな生薬で成り立っています。

桂皮(本来であれば桂枝)、芍薬、茯苓、蒼朮、附子、生姜、大棗、甘草

 桂皮と附子と生姜は身体を温めます。特に附子は鎮痛作用も結構あり、身体の水はけを良くしてくれます(基礎医学的には、アストロサイトの活性化を抑制するらしい)。そして、芍薬も鎮痛。茯苓と蒼朮は身体の水はけを良好にしますよ。よって、冷えや天候で悪化するような筋骨格系の痛みによく効いてくれます(天候で悪化というのは、身体の水はけが良くないために生じます)。

 自分自身が使って効果のあった漢方薬の決まり文句から解剖をしていって生薬を覚えていくと、なぜ効くか/効かないかが段々とつかめてくるのではないでしょうか。その積み重ねがとっても大事。

 残念ながら自分は五行論が苦手でして、それを実際に臨床で応用することはあまりありません…。腎を整えることや両隣の臓への配慮をしてみるとかは考えますが。本を読んでもちょっと五行にはついていけないかなぁ。いかようにも説明できてしまうような気がしてしまって。

 そして、日本漢方で言う”実証””虚証”には懐疑的なので、講演でその話をして自分が実際に処方した例を出すと、みなさん「??」という感じになります。当帰芍薬散と桃核承気湯を合わせたり、四君子湯と大柴胡湯を合わせたり、黄連解毒湯と大建中湯を合わせたり。この辺りになると会場が「この講演は難しいなぁ…」という雰囲気になってきます。。。

 講演でどこまで話すか、というのは非常に重要なんでしょうね。でもせっかくお話しするんだから、ちょっと異なる意見を提出してみたいという欲求が無きにしもあらず。しかしながら、たくさん喋りすぎてみなさん消化不良になってしまうという、毎回の結末。ということで、今回の講演からは別刷りで資料を付けてみました。お家に帰って読む人は多くはないかなぁと予想していますが、1人でも眼を通して「そんな考え方もあるんだなぁ。ちょっと勉強してみようか」と思ってもらえたら、これ幸いではあります。

 このブログの漢方の記事では、日本漢方のことをちょっと悪く言っているように受け取られるかもしれません。確かに上述のような病邪を考慮しない”実証””虚証”は「どうなのかなぁ」と思わないこともないのですが(中医学の”実証””虚証”とは異なる)、日本漢方の特徴である”決まり文句の豊富さ”は導入にとても良いと思っています。そこを足がかりにして中医学の理論を少しずつ。それがベターなのでは、と今のところ思っています。
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コメント
とても久し振りにコメント致します。
先生のブログはいつも楽しく、また興味深く拝読しております。
私は漢方の味がとても苦手で、処方してもらっても大抵はゴミ箱行きです…
苦いのは全然平気なのですが、甘い後味が兎に角苦手で苦戦します。口内に広がって収拾がつかなくなってしまったエキス剤をなんとか胃に流し込むために大量の水を飲まなくてはならず、それもまた苦手な理由の一つです。
今は漢方のお勉強をしっかりとしたドクターでなくても症状で処方されることも多く、何科にかかってもセカンドチョイスくらいのタイミングで勧められることがありますが、私はほぼお断りします。
1年くらい前に骨折したときも何だか名前忘れましたが、打撲的なネーミングの漢方を出されて驚きました。
何気に丸剤を飲んでみたり、煎じ薬を飲んでみたりもしましたが、いずれも私には無理でした。
因みに先生が思う「美味しい漢方ベスト3」「まずい漢方ワースト3」はなんでしょう?
麦や飴が入っているのは美味しいのかしら?

私は先生の食べ物記録的な記事とぐでたま先生の話題が好きです。
キャラクターには人生で一度たりとも惹かれたことはないのですが、ぐでたま先生は良いですね。
もちろんグッズなどは持っていませんが、ここのブログ記事を拝見してはほっこりした気持ちになっております。
あんな風にゆるく生きたいですね…
うーん、なんとも取り留めのない文章になってしまいましたが、
9月に京都へふらふらと行こうと思っておりまして、3泊4日くらいで宿泊するのに適当なホテルってありますかしら?
すごく藪から棒な質問ですが、近郊ホテルとグルメのことなら先生だ!っと閃いてしまいました^_^;
どうでしょう?
なんてざっくりした質問なんだ!と思いますが、是非教えて下さい。いえ、ご無理を承知の上ですのでサラッと流して下さっても全然大丈夫です。
では失礼致しました。
ふうこdot 2016.08.15 18:52 | 編集
>ふうこさん

ありがとうございます。
まずくて飲めない時は無理しない方が良いかと思います。
漢方薬が絶対に安全というわけでもないですし。
錠剤になっているのもあるにはありますが、種類も少なく、またかなりの錠数を飲まねばならず。
骨折の時に出されたのは多分”治打撲一方”ですね。
アレは急性期に下痢がするくらい大量に服用するのがポイントでして、そうすると不思議なほどに腫れず治ります。
個人的には美味しい漢方は甘みが基準なので、小建中湯、桔梗湯、甘麦大棗湯が来るでしょうか。
また、香蘇散は甘くないですが軽い味わいで良い感じですし、桂枝湯はシナモンで美味しいなぁと思っています。
不味いのは四逆散、茯苓飲、黄連解毒湯でしょうか。
四逆散と茯苓飲は枳実という生薬が入っているので渋い感じで、黄連解毒湯はストレートに苦くて…。
それでも患者さんに出すのですが、あらかじめ「超まずいですよ」と半分冗談で伝えています。

ぐでたま先生は自分の生きる目標でして、あんな風に暮らせたらなぁと思います。

京都は色んなホテルがあるのでなかなか難しいところですが、個人的には京都駅にほど近い”ドーミーインプレミアム京都駅前”が良いかと思います。
ビジネスホテルでお部屋もちょっと狭いのですが、朝食に京都のおばんざいが多く、コスパが良いかと思います。
京都は駅を中心にしてバスや電車で移動するのが良いかなと考えていまして。
もちろん行く先が絞られているのであれば、例えば四条烏丸であれば”三井ガーデンホテル京都新町別邸”が京都らしさ満載になっています。
いちおう、2016年1月13日から23日までの記事が、ドーミー-インプレミアム京都駅前に泊まって観光した内容になっているので、よろしければご参考に。
m03a076ddot 2016.08.16 20:03 | 編集
添付文書の薬効薬理に作用機序が記載されてる方剤もあるし、漢方も化学的証明がなされる日が来るんじゃ?と私は思ってます。
先生の講演は面白そう。名大病院でのみの講演ですか??
NKdot 2016.08.17 20:56 | 編集
>NKさん

ありがとうございます。
漢方も少しずつメカニズムが分かってきている方剤もあるようですね。
潤腸湯はルビプロストン(アミティーザ)と似た働きをするとも言われています。
自分の講演は愛知県内でポツリポツリと行なわれていましたが、さすがに内容を盛りすぎているせいか、需要が乏しく…。
m03a076ddot 2016.08.19 12:14 | 編集
行われていた??若手の先生かと思ってたのですが違うのですか?!
アミィーザ2回とか薬価高いし潤腸湯使って見たらいいのに・・・と思うことはあります。
調剤薬局に出て日々医療費の無駄が気になります。笑
NKdot 2016.08.23 00:14 | 編集
>NKさん

ありがとうございます。
漢方の講演をし始めたのがここ3年くらいでして、本当にポツリポツリです…。
アミティーザは良いお薬なんですけど、確かに高いですね!
潤腸湯や麻子仁丸で結構代替がきくので、自分はそっちにしてしまいます。
もちろんオピオイドによる便秘ならアミティーザはとても有効ですが。
m03a076ddot 2016.08.23 09:18 | 編集
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