2016
03.05

根を育てること

Category: ★本のお話
 研修医の先生には、とにかく早めの時期に総論的な内容を頭に入れておくようにといつも言っていました(今はもう研修医の先生と話すこともめっきり少なくなりましたが…)。その”総論”とは、自分はOSと呼んでいる内容なのですが、感染症であれば身体の常在菌や感染の機転や各抗菌薬の特性など、輸液であれば各コンパートメントの組成や有効浸透圧(張度)の概念や輸液製剤の覚え方など、といったもの。そして何より診断学が重要でしょう。

 総論は明日の診療にすぐに役立つわけではないので軽視されがち。マニュアルは当てはまればその場ですぐに使えます。しかし、総論はそうではありません。忙しい研修医はどうしても明日に直結する各論的、マニュアル的な知識を重視してしまいます。自分は、それらが不要と言っているわけではないのです。最後にモノを言うのは各論的な知識になるでしょうし、緊急事態になればマニュアル的にすぐ対応することが大切。総論だけでは何も出来ないという事実も忘れてはなりません。

 しかしながら、各論やマニュアルを活かすのも総論。樹木が大きく育つには、丈夫な根が必要であり、その根に相当するのが総論になると思うのです。ありきたりな例えではありますが。

 でもそんな総論をみっちりと教えてくれる指導医も少ないので、自分自身で学ぶ必要性が高いのが実情。優れた研修病院であればそうではないのかもしれませんが、一般的な病院では疎かになりがち。自分が研修したところもそうであり、自力でやらざるを得ませんでした。でもそのおかげでたくさん読んで調べる力は付いたかもしれません。よって、早いうちに(国試が終わった6年生など、研修医になる前にでも!)総論を叩き込んでおくべし。そして、各論やマニュアルを見る時も、総論を意識しながら「どうしてここでこうなるのか」を考えて勉強すると、1つ1つバラバラだった知識がつながってきます。そうなると覚えるのも早いし応用も利くし、良いことづくめです、たぶん。理屈で物事を考えていくための、土台となる暗記が総論なのかもしれませんね。”暗記”は悪い教育の代表、詰め込みの換言というイメージがある人も多いのですが、何をやるにしても暗記は必要なのです。理解の源泉としての暗記、これこそが総論知識でしょう。

 そして、大事なのは、研修医が終わる頃にもういちど総論をしっかりと学び直すこと。ある程度の各論やマニュアル知識がつながったところで総論を眺めると、また違った理解や新しい発見があるでしょう。総論で挟み込むことにより、研修医が終わってからも活きる知識にランクアップしてくれること請け合い。

 総論の本は良いものが色々出ているので、自分で勉強することが十分に可能です。自分としては、研修医が終わる頃に「”診断学””感染症””輸液””栄養””カルテ記載”の全体像が早めに分かっていればもうちょっと研修医生活もグレードアップできたな…」と後顧していたので、その5項目を押さえましょう。これらはどの科でも必須ですし。ということで、ちょっと以下に役立つ本を挙げておきます。数を挙げればキリがないので、読みやすくて代表的なものを。

 診断学の記念碑的な本には、野口善令先生の『誰も教えてくれなかった診断学』があります。これを読んでから、より臨床的な流れで見る『考える技術』で応用を。感染症では岩田健太郎先生の『抗菌薬の考え方、使い方』や矢野晴美先生の『絶対わかる抗菌薬はじめの一歩』などが良いでしょう。矢野先生の本が薄くて読みやすいですが、2010年の本なのでちょっと新しい薬剤については追えていません。岩田先生の本はVer.3で2012年になっています(結構厚くなりました)。感染症ではもう1冊、大曲貴夫先生の『感染症診療のロジック』もとても良く、自分が大好きな本です。まさに”原則”を1冊で見渡してくれて、読みやすくかつ薄い。この本と、矢野先生か岩田先生の本のどちらかを読んでおけば、基礎はしっかり作られると思います。輸液では薄くてすぐに読めて、かつ有効浸透圧(張度)の話も乗っている、柴垣有吾先生の『輸液のキホン』でしょうか。でも改訂版スターリングの法則(glycocalyxなどを考慮したもの)には触れられておらず、個人的にはそこが臨床で結構重要だと思っているため、追加で勉強が必要になります。栄養は清水健一郎先生の『治療に活かす! 栄養療法はじめの一歩』が分かりやすいかと。しかし、今や常識になりつつあるpermissive underfeedingに触れられていなかったり(出版年を考えるとやむなしですが)、オキシーパ®にちょっと大きな(大きすぎる?)期待をしていたり(これも出版年を考えると致し方ないのですが)、といった点は注意が必要です。読みやすさ、分かりやすさ第一ということで。ちなみに免疫調整栄養剤はEDEN-OMEGAの一連の研究によってかなり疑問符が付いています。それ以前に「ARDSに有効だよ!」と指摘していた試験、特にオキシーパ®の試験はアボット(売っているところ)が資金提供をしていましたし…。その辺りは上乗せで勉強しましょう。これら4項目をまとめた『こうすればうまくいく! 臨床研修はじめの一歩』というのも出ているので、1冊で全体像を見渡したい横着な人はこれでぜひ…(ん?)。最後のカルテ記載は、佐藤健太先生の『「型」が身につくカルテの書き方』がオススメできます。カルテ記載は自分の頭の中で知識がどれだけ整理できているか、どれだけ有機的につながっているかが他人にも分かってしまいます。そして、カルテの書き方を学ぶことは、知識を整理してつなげることにも役立ちます。”型”を知れば、毎日書くことで自分自身の技術がどんどんアップしていきますよ。カルテ記載関連の本は複数ありますが、この本がベストです、たぶん。

 この辺りの本を出来るだけ早めに読んで、総論を学んでおくことが大切。最初はその重要性が分からないかもしれませんが、研修医2年次の終わり頃や、研修医が終わってからの臨床で、「総論って大事だったんや! しかも面白い!」と、その偉大性に気付くのではないでしょうか。自分はそこが病みつきになってしまい、今でも総論関連の本は読むことがあります。特に生理学と絡めたような本は、学生時代の記憶が蘇ってきて「そうやって病態や治療とつながっていたのかぁ…」と膝を打つような感覚が出てきて面白いですよ。先日紹介した田中竜馬先生の『Dr.竜馬のやさしくわかる集中治療』や『人工呼吸に活かす! 呼吸生理がわかる、好きになる』、そしてRichard E. Klabunde先生の名著と言って良いでしょう、『臨床にダイレクトにつながる 循環生理』などは生理学の面白さが伝わります。


註:この記事は、2012年の『総論、各論、マニュアル本』という記事をアップデートしたものです。
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