2016
02.06

必要なら使います

 お薬は状況次第で良い面が強調もされますし、悪い面が顔を出すこともあります。絶対悪の代表選手として取り沙汰されるベンゾジアゼピン系のお薬も、”必要な時に必要な分だけ”使えば、とても良いものだと思っています(自分も使う時はありますよ、もちろん)。また、風邪を引いている時に解熱薬を飲んだところで早く治ることは全くないのですが、それを飲んで熱が少し下がることでちょっと気持ちが楽になって良く寝られるようになることもあります。”冷えピタ”や”熱さまシート”なんかも解熱効果がないのは分かってはいますが、お母さんが子どもに貼るという行為自体に意味を込めることが可能ですし、貼るとしばらくは実際に気持ちの良いものです。それによって、もし子どもがつらそうじゃない表情で寝てくれたら、お母さんも少しほっとしますでしょ。

 やっぱり、”文脈”が大事なんだなぁと思います。当然なんですけどね。「こんなの絶対にダメだ」という頭にならないことが重要であり、文脈の中にお薬をポンと置いてみると、その価値がいろんな形の枝葉を広げていく様に驚きます。お薬の効果って1つでは決まらないもので、単純じゃあない。

 最近話題のpolypharmacyだってそうですね。「こりゃいかんわ…」と目を覆いたくなるようなpolypharmacyもあれば、患者さんの状態を考えて投与されているpolypharmacyもあります(必要十分なpolypharmacy)。”polypharmacy”という言葉が独り歩きしてしまっては意味をなさず、沢山のお薬が出ていることそのものが悪なのではありません。その境目をしっかり判断するためにも”文脈”への配慮が求められるでしょう。

 その”文脈”の理解を可能にするには、”患者さん”、”お薬”、そして患者さんを取り巻く”環境(あわい)”への目配せが欠かせません。患者さんの身体状況や精神状況、お薬の持っている特性、患者さんのストーリー、これらを常に意識することで、患者さん1人1人の”文脈”が見えてきます。お薬を使うか使わないかは繊細な判断が要求され、そこを考えてみると”84歳女性にロラゼパム”という、いかにも悪手のように見える処方も、違った顔を見せてくれます。

 ただ、自分は精神科医なのでどうしてもベンゾジアゼピン系の話になってしまいますが、その”使い方”が残念な医療者が多いのも事実。先ほど「単純じゃあない」とは言ったものの、臨床をしていると「あ、やっぱ単純でした…」ということが頻回なのでございます(polypharmacyもそうなのですが)。机上だけだと前者でストップしますが、やっぱり実際に患者さんを診ていると後者がね。。。とっても多い。よって、残念な医療者へのカウンターとして「脱抑制もあるし睡眠時の行動異常もあるしすっ転ぶしぼーっとするしなどなど、だから危ないんだよ」と示しておくことも必要なのではないかと思います。使い方が残念な医療者はお薬の悪い特性が見えていないことも多く、それを知らせる役割も存在する意義はあるでしょう。しかしそれは恐怖を煽ったり挑戦的な内容にしたり感情的な批判に終始したりするのではなく、きちんと文献的知識に基づいた客観的な情報であるべきです。

 文脈の中で活かされるのであれば、多くのお薬は存在価値が出てきます。価値や意義というのは絶対ではなく、その都度つくり出されるもの。決して極端な情報に走ること無く、状況を見定めていくことが求められるでしょう。それを考え抜くのが臨床の1つの味わいなのかもしれません。”使い方”という簡単な言葉には、とても難しい判断が含まれております。

 いちおう強調しておきますが、それですべてのお薬が許容されるわけではありません。文献的に弊害のほうが明らかに大きいと分かっているもの、例えば風邪に対して抗菌薬を処方するなど、は肯定されるべきではないでしょう。文脈に置けば何でも正解になると言っているのではありませんので。
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コメント
新しくベンゾコーナーができたようで、良いのか悪いのか?わたしもシャープに抑えたい時は無理せずベンゾ飲みます。使いたくないと思えば思うほど脅迫的に絶対飲まない方向になりがちですね。
ありがたくベンゾを利用することが大事なケースもあるでしょう。
わたしの場合は入院して「死ぬと思うまで飲むな」という無茶苦茶断薬で薬剤師さんも看護師さんも「先生マジ??」的でしたがそれはそれぞれなので、そこは主治医との関係領域以外にカバーしようがないでしょうね。
さくらdot 2016.02.06 22:09 | 編集
>さくらさん

ありがとうございます。
ベンゾのコメント欄増設は確かに良いのか悪いのか何とも…ですね。
恐怖心や不安感が症状を複雑化させているような印象も強いです。
ベンゾも使いようによっては良いお薬ではあると思います。
主治医の先生との関係性もとても大事だと考えています。”孤立”が大きな因子なのでしょうね。
m03a076ddot 2016.02.09 09:33 | 編集
先生こんにちは。ちょっとした疑問をお聞きします。
インターネットで時折都市伝説かのごとく「ベンゾよりお酒の方が
よっぽど体に悪い」「寝酒するなら睡眠薬の方がまだマシ」といった
記事を見かけますが、これって本当なんですか?
どっちも常習性とか量の問題はあると思いますが…。
コメットdot 2016.02.20 10:34 | 編集
>コメットさん

ありがとうございます。
お酒のほうが悪いのは明らかだと思います。
依存や離脱症状などは両者ともにありますが、圧倒的にお酒の方が身体を蝕むでしょう。
m03a076ddot 2016.02.20 12:21 | 編集
ベンゾ系は、今まで、使うことが悪だと思っていました。でも、必要な時に必要な分を使うことで、進めなかったところへ一歩進む勇気が増すのならそれも間違いではないかなぁと思いました。飲むならできるだけポジティブな気持ちで飲みたいなぁと思います。
ノラdot 2016.04.16 21:57 | 編集
>ノラさん

ありがとうございます。
お薬は、患者さんの状況によってその意味が変わってくるものだと思います。
おっしゃるように、患者さんは”飲むならできるだけポジティブな気持ちで飲みたいなぁ”と思うでしょう。
そのポジティブな気持ちを持ってもらえるように、医療者はもっと意思疎通を図るべきでもあると考えています。
処方をしても、実際に飲むという行為をしてくれるのは患者さんです。
医療者はそこを忘れずに、安心や希望を同時に処方するべきですね。
m03a076ddot 2016.04.16 22:28 | 編集
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

眠剤も人によって、また病状によっても合う合わないがあるので、全員にオススメできるものは残念ながらありません。
ベルソムラは悪くないですが、精神疾患を併存した患者さんへの臨床試験が行なわれておらず、その疾患への影響が未知数です。
トラゾドンやマプロチリンやミルタザピン、状態によっては鎮静系の抗精神病薬というのを精神科医は使用することがあります。
m03a076ddot 2016.04.22 10:22 | 編集
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