2016
03.11

不思議な状態…

Category: ★精神科生活
 統合失調症は典型的に10代後半から20代くらいに発症、というか症状が顕在化する疾患群。陰性症状と独特とも言える認知機能障害を本態とし、幻覚妄想は患者さんなりの圧倒的な不安への対処です。

 自分の少ない臨床経験の中で、確かに顕在化はその年代であり幻覚妄想状態になるのですが、病歴を聞くと進行が異様に速くて20代でもはや慢性期の患者さん的な状態になってしまっており、かつ衝動性も抑えがなかなか効かないという患者さんがいます。しかも複数経験していまして。精神病院に入院している人もいれば、ご家族の多大な努力により自宅で生活している人も。中学くらいまではまずまず適応出来ていて、何かちょっとしたことでバババッと症状が出てきてしまい、そこからはまさに谷底を転げ落ちるかのように進んでしまいます。ここは典型的な統合失調症と異なる様子。

 そして、幻覚妄想が統合失調症的ではないのです。慢性期の患者さんの幻覚妄想は典型例から外れてくることが多いのですが、上記患者さんたちは発症当時から全く統合失調症的ではなくてですね…。しかも、幻視もあるんです。統合失調症で幻視は稀ですよねぇ。あとは知能が落ちています。統合失調症は、若い頃に日常生活で分かるくらい明らかな知能低下は見られないのが一般的。疾患そのものは慢性期になるにつれ認知機能が下がっていくのが見ていて分かりますが。上記患者さんは10-20代でガクッと落ちてしまって、文字も小学生が書いたようなものに変わってしまいます。統合失調症の患者さんって、いくら幻覚妄想状態であってもかなりしっかりとした文字を書きます。慢性期でも、ものすごく綺麗な字を書く患者さんも多い。もちろん内容は分からないことが多いのですが、漢字やひらがな・カタカナ、文法などは冒されていません。そこも「本当にこの患者さん統合失調症なのかな…?」と疑わせるに十分。

 そして、全員ではありませんが、頭部画像でも前頭葉など脳の萎縮がわずかながら見られていたり。統合失調症では確かに疾患そのものや抗精神病薬による脳体積の減少が指摘されていますが、若い内から普通のMRIで分かるようなことはとても少ないのではないでしょうか。functional MRIでようやく示唆される程度であり、見た目で「あ、ちょっと萎縮してるかな?」とはなりません。だからそこも気になる。

 となると器質疾患…? 衝動性や前頭葉萎縮と来ると前頭側頭型認知症を想定します。前頭側頭型認知症は、自分が文献的に知っている限りで最も若く発症したのが21歳くらいだったように記憶しています。確かに上記所見は前頭側頭型認知症に当てはまりそうですし、若年発症であれば精神病症状を来たすこともあるそうです。ただ、前頭側頭型認知症ならどんどん悪化していって身体的にも寝たきりに近づいていきます。上記の患者さんは、身体はかなり元気なんですよね…。時間経過で身体的な機能低下になっていかないのは、前頭側頭型認知症とは色合いを異にする、か。側頭葉てんかん…? と考えても、自動症も見られないし脳波を何回施行しても出て来ないし。そもそも発作というレベルではなく、幻覚妄想にかなりの時間占有されている感じです。やっぱり違うかなぁ。梅毒なんてのも最近は流行していますが、血液検査で引っかかってこないし…。Niemann-Pick 病などのリソソーム病は確かに鑑別に上がりそうですが、眼球運動障害や協調運動障害、画像での小脳萎縮などが出て来ないとなかなか…。一元的に説明できるような器質疾患が見当たらないのです。でも、ひょっとしたら抗NMDA受容体脳炎の後遺症の姿を見ているのでしょうか…??? しかし抗NMDA受容体脳炎急性期のような意識障害やてんかん発作などの激烈な症状が初期には出て来ず。 自分の知らないレアな器質疾患かもしれません。

 抗精神病薬にも結構敏感で、錐体外路症状を起こしやすい抗精神病薬では、割と少ない量で副作用が出てしまいます。しかも血中濃度の高低によって症状もブレるかのような印象があり、脳の過敏性を感じさせます。脳の過敏性つながりでは、環境変化に弱いということも挙げられるでしょうか。入院や転居などで一時的に症状が増悪します。よって、対応はかなり時間をかけたほうが良さそう。スーパー救急での3ヶ月上限の入院ではちょっと医療者側が焦って力技になってしまって、急ぎが不安定をもたらします(経験済)。

 じゃあ自閉スペクトラム症(発達障害)はどうだろう…? 詳しく問診すると確かにほんの少し引っかかってくる感じはあり、中には不登校になる人もいますが、小中はまずまずの成績である患者さんも多く、決め手にかけます。ただ、実際の診察では眼線の合わなさが目立つこともありますし、幻覚妄想も内容がフラッシュバック的なところも。しかし、自閉スペクトラム症と自信を持って診断できるほどの情報は得られません。

 さて何だ…?と今でも悩んでいます。自分は、一応の診断名としては”自閉スペクトラム症”としておきます。疾患としては違うのでしょうけれども、統合失調症と診断して抗精神病薬が大量に入らないように、環境変化に慎重になるようにという思いで付けておきます。ただ、他の医者が見ると「なんで自閉スペクトラム症って診断?」と思うでしょう。いちおう、そんな理由で付けてます。しかし、抗精神病薬を使わなくて良いのかと言われると、そこは何とも…。使わないでみたこともあるんですが、やっぱりどうもよろしくない。かと言って使っても滅茶苦茶良くなるかと聞かれると…。先述したように血中濃度の高低で症状も一緒に揺らぐ感じはします。だから、一定にしてあげると少し良いのかも。よって、今思うと”デポ剤”が有効かもしれません。リスパダール®コンスタやゼプリオン®、最近はエビリファイ®もデポ剤が出ましたね。そこに気分安定薬を足してみるか…。患者さんたちを診ていた時はそこまで思いつかなかったんですが、今だったらデポ剤かなぁ…。でもそれで著明改善とはならないか、現状維持が精一杯か…。

 そんな患者さんたちは、脳の脆弱性による荒廃、とでも言うべきでしょうか。”荒廃”なんてどぎつい表現ですが、精神医学ではこの言葉を使います。深く聞くと、脳への影響を想像できる病歴を拾えることがあります。昔々に頭を強くぶつけたとか、低体重で産まれたとか、脳炎にかかったとか、幼少期に高熱が続いて意識障害をきたしていたとか、虐待とか。それが1st attackになり器質的な脆弱性を産み、後はライフイベントや重なるストレスが2nd attackになったのかもしれません。とは言え、あくまで自分の空想です。治療抵抗性統合失調症の一部が”カルボニルストレス性統合失調症”とも言われており、こういう患者さんたちはカルボニルストレスはどれくらいなんでしょうね。活性型ビタミンB6で改善すると嬉しいんですが…。今でもとても謎なのです。ひょっとしたら、数年経過すると神経学的な所見がはっきりしてきて何らかの器質的な面が明らかになるかもしれませんが…。うーん。

 そんな患者さんやご家族には、一度大きな病院でしっかり検査を受けるようにと初診の時点でお話をしています。MRIや脳波、そして可能ならば腰椎穿刺をして脳脊髄液を調べてもらうようにとお伝え。やはり自分の知らない器質疾患なのかもしれず、また前に勤めていた病院は様々な検査が出来なかったので。。。

 精神科の診断というのはとても曖昧であり、そこが色々と批判を受けるところではあります。特に診断がなかなか分からない患者さんやそのご家族は憤りを感じることも多いでしょう。上記の例を見ても、「これだ!」という診断が出て来ないので。。。ただ、牛の歩みであるものの、精神医学は進んでいます。残念ながら現在はその過渡期なのかもしれまず、心苦しいところではありますが…。そういった曖昧性に付け込む妙なビジネスもあり、それにハマってしまう人々もいるのは残念ですが、ここは精神医学がもっと頑張らねばならないところですね。前述した抗NMDA受容体脳炎は2007年に新たに疾患概念として確立した器質疾患で、今後も統合失調症かと見紛うほどの精神症状を呈する器質疾患が他に見つかってくる可能性もあります。そして、精神疾患の面でも、今後の研究によって説明がつく精神疾患が定義される可能性もあります。それに期待をして、現在出来ることをしていくしかないのかもしれません。。。

 精神科医を始めとして、医療者には『脳に棲む魔物』という本を読んで欲しいと思います。抗NMDA受容体脳炎に罹患した若い女性の話で、彼女は精神疾患や他の神経疾患と間違われて、やっとのことで脳生検までして正しい診断、治療に結びついたという内容になっています(しかも自分自身で書いています)。この辺りは自戒を込めて読まねばならないですね…。診断が難しい患者さんもたくさんいるので。

 ちなみに、この本は原題がBrain on Fireなので、邦訳がちょっとどうかなと思います。このFireは本の中に出てくる炎症という言葉とも絡んできているので、”炎”という言葉は残したほうが良かったかもしれません。直接的な”炎に包まれた脳”という訳が一番伝わるような気がします。他にもごく僅かながら訳に違和感を覚えるところもありましたが、他はとてもなめらかな日本語になっていてストレスを感じません。
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コメント
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私は入院する時はスーパー救急の病床を外して慢性期にでのんびりしているのですが、慢性期のおじいちゃんが作曲していたのには驚いた。
しかも、読んでみたらきちんと楽典を知っている人だったようで、曲になっている。また、対極として40代位の人ですが、字は殆ど書けないが中学生頃までの記憶だけは鮮明で、本院曰く中学受験までは普通で高校に行って虐められて発病し、難治性の統合失調症で…という方もいまして、一括りの病名になってはいますが、病態も様々だな。と。また私も双極とは言われていますが、なんとなく統合失調症圏だったり自閉圏だったりと思う事はあります。
逆に神経症圏がないので、急性期病棟は怖いんですね。焦ってるから。
さくらdot 2016.03.11 14:58 | 編集
以前にうつ病学会の記事にコメントした者です。引き続き楽しく読ませていただいております。
僕は先生よりさらに臨床経験は短く、大学病院でベッド数も少ないのですが、若年発症、なぜか脳萎縮(やはり前頭葉優位)、抗精神病薬への反応性が乏しいという例はいくらか経験があります。幸い検査機器は豊富なので、脳波、MRI、SPECT、髄液検査、いろいろな腫瘍マーカーとか自己抗体とかも出してはみるのですが何も引っかからず、もやもやしたままということがありました。精神科の世界はほんとに釈然としないことが多いですね・・・。それが面白いところだとも思っていますが。

理研の加藤先生のブログで紹介されていたので、脳に棲む魔物は読みました。脳生検は衝撃的でしたよ・・・。

春からは大学院生で研究メインとなりしばらく臨床からは離れますが、引き続き楽しみに読ませていただきます。いつか学会とかでお会いしてみたいです。
読者Adot 2016.03.13 08:03 | 編集
>さくらさん

ありがとうございます。
慢性期の病棟1つ見ても、統合失調症と診断されている患者さんのバラエティの豊富さに驚きます。
精神遅滞や発達障害の患者さん、ひょっとしたら何らかの器質性疾患の患者さんもいるのかもしれません。
現在も精神科診断は曖昧ですが、旧来の診断方法はそれに輪をかけていたので、なかなか難しいところがありますね。
急性期病棟は全体がいそいそとしていて、何となく”あせり”を感じます。
慢性期病棟は独特とも言える”落ち着き”がありますね。流れが緩やかというか。
m03a076ddot 2016.03.14 20:48 | 編集
>読者Aさん(先生)

ありがとうございます。
SPECTや髄液検査などでもひっかからないんですね…。
いったいどんな疾患なのか、これからの精神医学の進歩で分かれば患者さんやご家族にとって朗報だと感じます。
謎の状態像を示し治療が功を奏さない時、精神医学の未熟さが残念でなりません。
4月から大学院生なのですね。良い研究をして将来につなげていただければこれ幸いです。
学会は強制されない限りは行かないかなぁと思っていまして(出るなら漢方の学会くらいでしょうか)。
今年のうつ病学会は地元の名古屋ですが、恐らくは参加しないかと…。
やる気なくてスンマセン。
m03a076ddot 2016.03.14 21:01 | 編集
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dot 2016.03.16 18:17 | 編集
>管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

非典型的な統合失調症というよりは、統合失調症の症状を呈する何らかの疾患と考えた方が良いかもしれません。
あくまでも統合失調症は症候群であり単一疾患ではありませんので。
過ごすべき環境は、あまり急ぐことがなく、不意打ちを喰らわないような、自身のペースで生きていけるようなところが理想といえば理想なのかもしれません。難しいでしょうけれども…。
親御さんからは「この子1人で生きていけるのか」という心配は確かにあると思います。
そういう時は、例えば『障害のある子の家族が知っておきたい「親なきあと」』という本などを読んでみると、少し具体的に分かるかと感じています。
m03a076ddot 2016.03.18 16:40 | 編集
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dot 2016.03.19 18:02 | 編集
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

”ネット上の匿名論文”というのは論文ではなく、あくまでも”記事”のレベルです。
もちろん私の意見も”記事”にすぎませんが。
血流云々については血小板に作用する薬剤(例えばサルポグレラート)が明確な抗うつ効果を持たないことから、またワルファリンについても抗うつ効果を認めていないことからも、抗うつ薬の効果の本流ではないでしょう。
アスピリンは抗うつ薬への増強として用いることがありますが、それも低用量(抗血小板作用)では効果がなく1000mgという量(これは慢性炎症の改善作用)によってなされます。
確かに脳、例えば前頭前野への血流低下は様々な精神疾患の所見として認められます。そこから攻めていく、薬剤を考えることも一つの手段ではあるのでしょう。
m03a076ddot 2016.03.23 00:22 | 編集
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dot 2016.04.03 21:56 | 編集
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

現代の精神医学ではなかなか診断のつかないことも多く、患者さんやご家族は苦労されていると思います。
検査をすることは大事ではありますが、明確な異常が出ることも少なく、さてどうしたものか…とこちらも悩んでしまいます。
しっかりと検査できるものはして、それでも異常がなければ、しっかりと腰を据えて精神科的治療に取り組むのが良いかと思います。
これから大事になってくるのは、お子さんが患者さんだった場合、親亡き後をどうすれば良いか、という親御さんの気持ちなのでしょう。
ご家族であれば、『障害のある子の家族が知っておきたい「親なきあと」―お金の管理 住むところ 日常のケア』という本がオススメできます。
患者さんは家での生活を望むことも多いので、そのようにするのなら相応の社会福祉的な支援をしっかり得て、ご家族のこころの負担を少なくすることも欠かせないでしょう。
特に記事に挙げたような患者さんの場合、薬剤治療はかなり難渋するでしょう。統合失調症という診断であればクロザピンをトライすることも選択肢ですし、薬剤に敏感な印象があればリスパダールコンスタなどの持効性注射薬で血中濃度にブレができるだけ生じないようにすることも方法なのだと思います。
いずれにせよ、医療も社会福祉もできるだけのことをして支援ができれば、と考えています。
m03a076ddot 2016.04.04 16:44 | 編集
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dot 2016.08.23 14:19 | 編集
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

サプリメントについてはあまり明るくないのですが、よく「○○のこの成分が良い!」というようなプレスリリースや報道は、少し自分自身に待ったをかけ、冷めて見る方が良いかもしれません。
代表例は赤ワインのポリフェノールで、臨床的な成績は確かに出ています。しかしながら、その量を赤ワインで摂ろうと思ったら、毎日90リットルくらいを飲む必要があるのです。
薬剤ではなく栄養で、という考えをお持ちの方は多いのですが、現実的に摂取可能か、そしてそれで効果が出るのかどうかというのはかなり難しい問題でしょう。
ただ、統合失調症を例にしますが、中にはカルボニルストレス統合失調症というのが提唱されており、それは活性型ビタミンB6が有効かもしれないと言われています(ただし大量投与)。また、グリシンはアストロサイトへの関与から統合失調症の陰性症状に効果をもたらすのではないかとも言われます(これも大量投与)。
栄養ではなくとも最新の知見は心躍り希望ともなりますが、ほとんどは数年後に消えていってしまいます。まずは地に足をつけて取り組んでみることが必要でしょう。
m03a076ddot 2016.08.27 14:08 | 編集
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