2015
09.02

アミトリプチリン適応追加予定ということで

 ”痛み”を抱える患者さんは多く、世界では約3人に1人が慢性疼痛を有していると言われます。自分は慢性頭痛と顎関節症がありまして、最近ちょっと顎の調子がよろしくなくて大きく口を開けるととても痛い…。抑肝散加芍薬あたりが効くかもしれません(?)。そしてその3人に1人のさらに5人に1人(15人に1人)が神経障害性疼痛であるとも言われます。

 さてそんな神経障害性疼痛ですが、最近は慢性疼痛の中の侵害受容性疼痛とスパッと分けられずにスペクトラムをなしているのではないか、とささやかれています(まるでそれは緊張性頭痛と偏頭痛との関係のような)。同じ神経伝達物質・神経ペプチド・炎症性サイトカイン・ケモカインなどが関与し、かつ上行性の経路・そのシグナルを受ける脳部位・下行調節経路も本質的には同じだ、ということのようです(Cohen SP, et al. Neuropathic pain: mechanisms and their clinical implications. BMJ. 2014 Feb 5;348:f7656.)。最近スペクトラム流行ってますね。

 痛みが長く続いてしまうのはなぜなのでしょう。末梢性感作と中枢性感作とが生じ、神経の慢性炎症を引き起こすことがその始まりと維持の要因のひとつではないかと言われています(Ji RR, et al. Emerging targets in neuroinflammation-driven chronic pain. Nat Rev Drug Discov. 2014 Jul;13(7):533-48.)。ちょっと見てみますか。

 まず組織損傷や感染などからマクロファージなどの免疫細胞を動員して、炎症性メディエーターが放出されます。これがCaイオンやcAMPなどのセカンドメッセンジャーを介してPKAやCaMKなどを活性化し、TRPチャネルや電位依存性Naチャネルを修飾。それによって過敏性や興奮性が亢進します(末梢性感作)。炎症性メディエーターはさらに周囲の健常な神経にまで波及し、害を及ぼしてしまいます。その感作を受けた末梢神経は脊髄後角や三叉神経核に到達しますが、その末端からグルタミン酸やBDNFなどが放出され、シナプス後部の侵害受容ニューロンの活動性が亢進します(中枢性感作)。特にNMDA受容体やMAPKの活性化がキーポイントとされ、それには脊髄後角や三叉神経核に存在するグリア細胞と神経細胞とのクロストークが重要な役割を果たします。

 しかしながら、痛みは純粋に生理学的な現象というわけではありません。海馬、扁桃体、側坐核、歯状回、前頭前皮質など、感情や記憶や認知などに関与する脳部位も絡んでおり、それが事態をややこしくしてしまいます。

神経障害性疼痛その0

 ということで、なかなか慢性疼痛への治療は難渋しているのが現状です。ケモカインをターゲットにしたもの、WNTリガンドをターゲットにしたものなどが研究されてはいるものの、決定打がと言える薬剤が出てこないのはもどかしいですね。

 そこで、今回はアミトリプチリン(トリプタノール®)という三環系抗うつ薬(TCA)における末梢性神経障害性疼痛への適応拡大を前にして、慢性疼痛、特に神経障害性疼痛に今使われている薬剤をパラパラっと挙げてみましょう(以前にも記事にしてはいますが…)。

 グループ別には、抗うつ薬(下行調節系への働きかけ+α)、抗てんかん薬(神経の過敏性を抑える)、オピオイド(オピオイド受容体への関与)、カプサイシン(TRPチャネルへの関与)がメインでしょうか。こういった薬剤の効果のほどを見ている図を出すのが早い。主に糖尿病性ポリニューロパシーを対象疾患としています。

神経障害性疼痛

 横の軸にNNT、縦の軸にNNHという表記があります。NNTというのはNumber Needed to Treatの略で、簡単に言うと”何人に1人の割合で、目標とする治療効果がもたらされるか”というもの。NNTが5であれば、5人に1人の割合で効果あり、となります。この値が低いほうが何となく効果は高そうだ、という印象。ただ、何を目標にするのかによってその数値は変わってきますし、あくまでも割合なので、5人に投与したら必ず1人に効果が出るというわけではありません。NNHというのはNumber Needed to Harmの略で、こちらは”何人に1人の割合で、定めた副事象が生じるか”というもの。よって、この値は高いほうが安全性が高そうだ、という印象。

 この図のNNTは痛みが50%改善することを目標に設定しており、NNHは副作用のため脱落してしまったことを副事象としています。

 文献に挙げられている主な薬剤のNNTとNNHを数字に起こしてみましょう。

NNTなど

 どうでしょうか。ちょっと意外な感じがするものもありますが、私たちが治療に用いる薬剤の大まかな性格はこんな感じでした(あくまでもこの文献は複数の報告のレビューであり、各薬剤を同一条件でガチンコ対決させたものではありません)。個人的には漢方薬も使いますが…。

 さて、今回はアミトリプチリンの適応拡大ということでつくった記事。なので、やっぱり使用に際しての注意を促しておきたいところではあります。特に痛みを訴える患者さんは整形外科に受診することが多く、精神科以外の医者がたくさん出すことになるでしょう。

 その前に、今や神経障害性疼痛に頻用されているSNRIであるデュロキセチン(サインバルタ®)、プレガバリン(リリカ®)、トラマドール(ワントラム®やアセトアミノフェンとの合剤であるトラムセット®)について注意点をちょろちょろと。

 これらを最初から結構な量をドカーンと出すクリニックが多いです。以前、某内科クリニックにて、80代のおばあちゃんにいきなりプレガバリン75mg/dayで開始し、かつトラムセット®を6錠/dayで出しているのを発見。自分のところには「ふらふらする」「食欲が出ない」という訴えで来院したのですが、明らかにやり過ぎな処方です。抜いたらその症状は良くなりました。こういうことを避けるために、お薬のことをもっと知って処方する心がけが大切。

 まず、プレガバリンについて臨床的な注意をいくつか。

・腎機能で用量調節を
・開始用量は25mg/day、高齢者なら12.5mg/dayくらいに
・副作用に気をつけて

 副作用には、めまいや傾眠、複視や霧視、肥満、認知機能低下、心不全、浮腫などがあり、ここに挙げたものは覚えておきましょう(稀に重篤な肝機能障害も生じることが報告されました)。大きな問題は投与量でして、これは添付文書の問題もありますが、75mg/dayや150mg/dayで開始してしまうクリニックがあまりにも多すぎます。ふらふらして転んで骨折、というのは避けたいところ。認知機能低下(いわゆる”リリカぼけ”)はよく見られ、認知症と他院で勘違いされてしまっては大変。副作用を知って慎重に少なめから出すようにしましょう。使い慣れていないのであれば、安全だと思える量からゆっくりと、が基本。

 トラマドールについても。

・”オピオイド”であるという認識を
・SNRI的な働きをします
・低血糖や低Na血症のリスクになります

 トラマドールは”オピオイド”です。麻薬処方箋を書く必要がないから気楽に出しているクリニックが多いのですが、この認識をしっかりしましょう。便秘になりますし、眠気も来ますし、嘔気嘔吐も結構起きてしまいます。トラマドールとモルヒネの換算は5:1ですから、トラムセットでは4錠がモルヒネ30mgやオキシコドン20mgに相当するんですよ。この事実を忘れちゃいけません! 本当に必要な患者さんに絞りましょう。また、トラマドールはSNRI的な働きもするため、デュロキセチンと合わせることでセロトニン症候群のリスクにもなります。低血糖と低Na血症のリスクは最近文献で報告されていました(低血糖:Fournier JP, et al. Tramadol use and the risk of hospitalization for hypoglycemia in patients with noncancer pain. JAMA Intern Med. 2015 Feb 1;175(2):186-93.  低Na血症:Fournier JP, et al. Tramadol for non-cancer pain and the risk of hyponatremia. Am J Med. 2014 Nov 22. pii: S0002-9343(14)01034-1.)。

 デュロキセチンは以下に注意。

・躁転のリスク
・嘔気嘔吐の副作用が結構強い
・重篤な肝機能障害や腎機能障害(CCr≦30)があれば禁忌

 副作用は他の新規抗うつ薬と同様ですが、嘔気嘔吐はその中でも強いです。また、整形外科で痛みに対して処方されて躁転してしまった患者さんがいます…。やっぱり”向精神薬”ですから、使うのであれば行動化がないかとか軽躁の既往はないかとか、そういうのを聞いてからにしてください。単なる痛み止め感覚で出さないように。個人的には10mg/dayくらいから始めたいかしら。

 さて、そして今回のアミトリプチリンです。このお薬は昔ながらのTCAで、確かに鎮痛効果は高いです。50mg/day以上ではそれがやや頭打ちになる傾向にあるので、精神科以外ではその投与量を超えて出すのは後述する副作用を考慮するとちょっと怖いでしょうか。でも100mg/dayにしてからいきなり効果が出てきた患者さんも経験しているので、50mg/day以上の投与が無意味というわけではありません。そこで、注意点を少し細かく載せてみましょう。

・抗コリン作用やα1受容体阻害作用が強い
・Ia群抗不整脈薬と同様にNaチャネル抑制作用がある
・躁転力は抜群
・薬剤相互作用も多い

 抗コリン作用やα1受容体阻害作用ですが、前者は頻脈や認知機能低下や身体機能低下、肺炎をもたらします(便秘や口渇など他の作用もあります)。心疾患があれば頻脈は避けたいですし、抗コリン薬による認知機能低下は問題になっています(Fox C, et al. Effect of medications with anti-cholinergic properties on cognitive function, delirium, physical function and mortality: a systematic review. Age Ageing. 2014 Sep;43(5):604-15.  Gray SL, et al. Cumulative Use of Strong Anticholinergics and Incident Dementia: A Prospective Cohort Study. JAMA Intern Med. 2015 Mar;175(3):401-7.)。後者は起立性低血圧を引き起こすため、高齢者や心疾患では注意です。また、Ia群抗不整脈薬と同様にNaチャネルを抑えてしまうということは、QT延長を有意に起こしてしまうのです。QT延長に禁忌が付いているエスシタロプラム(レクサプロ®)よりもはっきりとQT延長させるので(ここ注意)、使用するなら適宜12誘導で確認を! ということで、 大量服薬で死んでしまいます。 あとは、デュロキセチンと同じく行動化や軽躁の既往がないかというのはチェックする必要があります。SSRI以降の新規抗うつ薬よりも明らかに躁転させる力が強いので…。そして薬剤相互作用もとても強いのです。以下の図を御覧ください。

CYP阻害

 アミトリプチリンはCYP3A4以外を広範に阻害します。こういったことを配慮せずにぽーんと処方するのは絶対にやめましょう。多くの薬剤を服用しがちな高齢者では、特に注意です。

 繰り返しになりますが、アミトリプチリンは”向精神薬”です。決して”痛み止め”のような軽い感覚で出さないようにしてください。慢性疼痛への適応が取れたら処方することも増えると思いますが、必ず勉強をして薬剤の特性を学んでから使いましょう。特にアミトリプチリンは上記のような副作用が強いので。

 上記のようなリスクを認識した上で、必要な患者さんに安全な量から開始しましょう。どんなお薬にもメリットの裏側にデメリットがあります。そのデメリットを熟知して、必要だと判断した患者さんに、安全な量から開始を。不慣れであったり投与開始や増量に不安があるのであれば、無理せず慣れているところに紹介をしてください。

 誤解を避けるために言っておきますが、薬剤の危険性のみをいたずらに話すつもりは全くありません。慢性疼痛に対する武器が増えるのは歓迎すべきことであり、自分も上記の薬剤を使います。ただし、その武器のキャラクターを知って使うという大前提を忘れないようにしましょう。
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