2016
04.24

精神科志望の研修医は何を勉強すべき?

Category: ★研修医生活
 ありがたいことに、精神科を志望してくれる研修医が一定数います。理由は色々あるでしょうけれども、若い力が入ってくれるのは心強いものです。個人的には、ちょっと文系的な、言葉に興味がある人とかだと更に嬉しくなっちゃいますが。やっぱり精神科医は言葉のプロですからね。

 そういった人たちから「研修医のうちに、どんな勉強をすれば良いですか?」という質問もあります。今回はそれについて、周辺のことも交えての記事。前にも何回かしたような記憶もありますが。

 その前に、精神科医になったら何を最初に学ぶべきか。それはやはり、今の時代はお薬(向精神薬)の勉強だと思います。新鮮で変にクセの付いていないまっさらな状態のうちに、良質なテキストで学ぶのが良いでしょう。そうすると、例えばベンゾジアゼピン系をぽんぽん出さないとか、離脱症状に配慮するとか、そういったところへの気づきが出てきます。もちろん継続的な服薬が必要な患者さんもいるため、「すべての向精神薬は悪だ!」という極論はそういう患者さんを愚弄していることになりかねません。一部のコトバに偏らないようにしましょう。極端な情報を発信する人からはビジネスの香りがしますね…。

 こういうお薬の勉強や文献での勉強は「頭でっかち」と非難されがちですが、若手は経験では絶対的に不足しておりそれは覆せませんから、その分きちんと本や文献を読んで知識を入れるのは、患者さんを診療するにあたっての礼儀でもあると思うのです。経験も少なく、知識も少ないのではダメダメですよね。最初は頭でっかち(この言葉を”知識先行”という意味で用いています)でも良いのです。経験は必ず付いてくるので、そのために知識を最初は身に付けておきましょう。つまりは


頭でっかち上等!


 の心意気やで。焦らず、教科書や文献で正しい診断や治療の”型”をしっかり学んでおきましょう。”習うより慣れろ”ではなく、”習って慣れろ”的なイメージを。

 そして、生活習慣の改善、つまり”養生”を治療の第一義とするように心がけること。さらには”処方しない”という選択肢も用意しておくべきです。特に昨今の精神科外来は一昔前のような”疾患同士の比較”というよりは”健常との比較”にシフトしてきています(その境目もファジィというのは論を俟たないものです)。だからこそお薬が効きにくいですし、処方せずに養生をお願いする術も意識しましょう。その養生には個別性がありますから、必然的に患者さんの生活を聞く事にもなります。それは大切な情報。

 しかし、そういったことは精神科医になってから! 研修医のうちは仮に精神科志望であっても、というか精神科志望だからこそ、”身体疾患の勉強”をして欲しいと思います。精神科医になったら精神疾患に否が応でもどっぷり浸かるわけですから、そうなる前は身体疾患のお勉強を。つまりは普通の研修をするべきでございます。これは自分が医局の教授から教えられたことでもあります。実は、自分は研修医2年次の時に「精神科をたくさん選択してスタートダッシュをしよう!」と目論んでいたのですが、教授から「研修医のうちにしっかりと身体を診ておきなさい」と諭され、かなりローテする期間を減らしたのでした。

 身体疾患の中には精神疾患の大事な鑑別となるものがあります。しかし、他科から「精査したけどうちの科じゃないから」と言われて精神科に来た患者さんに対して精神科は「じゃあ精神疾患として治療しよう」と考えて身体疾患を今一度調べ直すことを忘れてしまうことがしばしば。


”精神科の患者さん”というラベリングがいったんなされてしまうと、それはなかなか洗い流せないものなのです


 以前にも記事にしましたが”精神科医こそ身体疾患を鑑別する最後の砦”でもあります。そのためにもしっかりと研修医期間中に基本的な考え方(診療のOS)を習得。精神疾患だけ勉強すれば良いというのではいけませんよ。その鑑別となる身体疾患への目配せを怠らないためにも、研修医のうちは身体疾患の勉強をして身体疾患を持つ患者さんに接しておくのが求められるのです。論理的に考える技術を身に付けるために、やっぱり欠かせません。事前確率や尤度比を冷静に見つめて診断に至るその考え方は、すべての医者が知っておくべき知識でございましょう。「尤度比って何?」という精神科医がいまだに多いのは悲しいことです。

 そして、鑑別となる身体疾患の勉強だけで済ませてはダメでして、いわゆるコモンディジーズの診断や治療に用いるお薬の特徴をも知っておきましょう。精神疾患を持っている患者さんの身体疾患の治療にとっても役立ちますし、他の病院で処方されたお薬の特徴を知っておくことで、患者さんの一見すると症状悪化と思われた状態が実は相互作用によってもたらされたものだと気づくこともできます。

 自分は高血圧症や脂質異常症や2型糖尿病といったコモンな疾患の治療をしてますし、よく出会う感染症の治療も。特に感染症はとんでもない抗菌薬を使う医者も多いので、自分で勉強して治療した方が良い時がとても多いのです。。。蜂窩織炎にレボフロキサシン(クラビット®)を1ヶ月出す皮膚科医とかいますからね…。あとは第三世代セフェムや経口カルバペネムをぽいぽい出す医者も「むむむ…」と思ってしまいます。それよりは自分がしっかりと診断して抗菌薬も選んで治療。もちろん自分では手に負えない状態であれば、それはお願いします。何でもやろうとするのは、単に自分の自己愛を満たしたいだけになってしまい、患者さんをその延長として見ることになりかねません。

 ある程度であれば自分で治療するのがストレスもなく、患者さんの服用するお薬も分かります。そして精神疾患以外のちょっとしたところに手が届くと、患者さんの信頼度も実はアップ。患者さんの身体に目配せをすることで、実は精神科的にも良い作用になっているのです。こういうのは、臨床研修制度を経験している若手の医者の強みだと思いますよ。もちろん、他の病院で妙なお薬を使われて相互作用で大変な目に遭うのを避けたいという思いもあったりしますが。こっちでリチウム(リーマス®)出しておいてるのを知っているのに向こう(開業医さん)でロキソプロフェン(ロキソニン®)を180mg/dayで定期的に出されてリチウムの血中濃度が…なんてことは稀じゃないのでした。。。向精神薬の知識って精神科以外はかなり乏しいのです(精神科医で乏しければ失格です)。同様に、「精神科医は向精神薬以外は何も知らねぇんだな」という誹りを受けないためにも、コモンな身体疾患で頻用されるお薬については最低限知っておかねばなりません。患者さんが高血圧症でACE阻害薬を服用していたら、やっぱりリチウムは軽々と処方できないでしょう。心房細動でワルファリン(ワーファリン®)を服用していたら、フルボキサミン(デプロメール®/ルボックス®)は積極的に出せないでしょう。

 何だか愚痴になってしまいましたが、何を言いたかったんでしたっけ…。そうそう、精神科志望であっても、研修医のうちは精神科ばっかり勉強するんじゃなくて、身体疾患、特に精神疾患との鑑別になる身体疾患の診断、そしてコモンディジーズの診断と正しい治療が出来るようになっておくことが欠かせないということでした。診断推論って大事。

 研修医のうちから精神病理学の難しい本を読んだり、精神分析のちょっと摩訶不思議な本を読んだり、言語学を学んだりする必要はないですよ。それは精神科医になってからちょっとずつで結構です。研修医のうちは身体疾患を「これでもか!」というくらいに勉強してくださいまし。”今”に浸ってその中でもがくことこそ、将来の原石。

 それでも何か…という研修医の先生には、医学書院さんから出ている姫井昭男先生の『精神科の薬がわかる本』をオススメします。この1冊をきちんと読むだけでもだいぶ違いますし、精神科以外の先生方みなさんも是非読んでみてください。そして、精神科医になったらすぐに『The Maudsley Prescribing Guidelines in Psychiatry』を買いましょう(2016年3月の段階で第12版が最新)。この本は最強の薬剤処方のガイドラインです。
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コメント
男の研修医は、女の気持ちを理解するために、
色んな女性と付き合うといいと思う。

これはあくまで、私見ですが、
精神科志望の研修医ってなんちゅーか、内向的すぎてなんかなあ。
そりゃあ、自分の心の有り様を考察するのも大事だけど、
様々な人の心の有り様を体験するのも大事ですわ〜。

さらに、ここからは、愚痴になりますが、
最近の若い研修医は、人を恐れているか知らんけど、
全然自分の生活圏というか、世界を広げないんだよなあ。
人の心を診るのだから、人の心にたくさん触れ合うのが大事なんだよ。
なのに、何を勘違いしているのか知らないけど、、、
以下延々と続きそうなので、止めます。
秋宮dot 2016.04.24 21:25 | 編集
>秋宮先生

ありがとうございます。
様々な交流を持つのも大事ですね。
自分の周りの精神科医はかなりアクティブな人が多く「精神科医も変わったなぁ」と思われるかもしれません。
生活を広げない人も確かにいますが、日々患者さんに向き合っていることに対して釣り合いを保つため、ちょっとプライベートでは一息を入れている可能性がなきにしもあらず、でしょうか。
m03a076ddot 2016.04.27 07:28 | 編集
いつも楽しく拝読しております
精神科レジデントです
製薬会社のサイトですが、モーズレイ第12版の邦訳のWeb版が無料で公開されていますね。
ぜひ多くの人に活用してもらいたいと思ってます。
http://www.abilify.jp/var/07/index.html
Kdot 2016.04.29 10:31 | 編集
>K先生

ありがとうございます。
モーズレイは第10版がアルタ出版から本で出ていますが、11版移行は大塚製薬のweb版になりましたね。
どういった事情があるのかは知りませんが…。
モーズレイは本当に素晴らしいガイドラインだと思います。
レジデントの先生がみなさんこれで勉強してくれたら、精神科薬物療法はかなり進歩するのではないでしょうか。
若手がいちばん成長できる時期だと思います。頑張ってくださいね。
m03a076ddot 2016.05.01 18:40 | 編集
私は脳腫瘍を10年間も見過ごしてしまって、脳腫瘍の産生するホルモンの影響でバランスがおかしいのを耐えてました。プロラクチノーマです。中高以来からの月経不順を10年以上後に遂に無月経となりました。付随するうつ状態、めまい、頭痛等で苦しみました。
今は、ようやく脳腫瘍の治療をし出して、体がだるいことも徐々に回復し、普通の若者としての相応の体力を取り戻しています。
私の方も、体のだるい異様なうつ状態をこころの問題だと決めて、精神科の先生に頼りきってたから悪かったのでしょうね。

一方で、なかなか良くならない患者を根気良く見護り下さって、ある時期は精神的支柱になってくれました。感謝の気持ちも沢山あって、ちょっと複雑です。
脳腫瘍は眼に見えないししょうがないこともあるのですね。人生が山あり谷ありです。
そんな私は、女性総合診療医になります!心身をどちらも丁寧に診ることを心がけたいと思います。まだその事を先生に話せずにいるのですが、きっと喜んで応援して下さることと思います。私の人生は、まだまだこれから!
体系ブツリdot 2016.05.26 00:46 | 編集
>体系ブツリさん

ありがとうございます。
抑うつの原因としての脳腫瘍はなかなか見つけるのが難しいかもしれません。
でも腫瘍自体の治療もなされるようになったとのこと、とても良かったと思います。
そういった経験は今後に活きてくるでしょうし、立派な心がけをお持ちなので、とても素晴らしい医師になることが出来ると思います。
人生勉強ばかりですが、一日一日に真摯に取り組むことで臨床のスキルアップにもなるでしょう。
焦らずこころにゆとりを持ちながら、がんばってくださいね。
m03a076ddot 2016.05.27 16:54 | 編集
もなか先生 温かいコメントありがとうございます。
周りの人よりも周回遅れの人生で、そこが唯一、焦りと自責、後悔で後ろ目たくもあります。
でも、私は希望を持っています。医学を日本で学び、世界(ロンドン希望)へ打って出たい(笑)のです。
留学経験一切ないのですが、幸いなことに英語に不自由しないのです。
婦人科内分泌系の臨床医兼研究者兼アマチュアピアニスト(?)として、
世界の女性(男性も。)に勇気と希望を!
内分泌系の画期的な治療法(迅速かつ安価で非侵襲)を確立してみたいなと思います。

色々とストレートでいかない歩みですが、私の背中(無様な生き様)を見て、勇気を持って!と言わんばかりに、精進します。
もなか先生の仰る通り、ゆっくり一歩一歩、山登りのように焦らずじっくりと何事にも取り組みます。唯一の趣味であるピアノを楽しみながら。
お忙しい中、本当にありがとうございました。
体系ブツリdot 2016.06.23 01:24 | 編集
>体系ブツリさん

ありがとうございます。
英語に不自由しないとのこと、とてもうらやましいです。
仕事の行き帰りにリスニングを勉強していますが、いくらやっても上達しなくてですね…。
周回遅れでも全く気兼ねすることはないですよ。世の中には本当に色んな経歴を持った医者がおりますので。
そして、周回遅れということは、その分色んな景色を見ることができたという証拠だと思います。
それは後の人生にとって、特に医者という仕事であれば、様々な人の肌理を理解できることにもつながります。
とっても貴重ですよ。
m03a076ddot 2016.06.24 18:14 | 編集
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