2015
11.09

理解して覚える漢方薬

 「漢方薬ってどうやって覚えたら良いの?」と聞かれることがあります。

 そんな先生がたに対して、逆に「今までどうやって覚えてきたの?」と問い返すと、多くは


口訣


 という決まり文句的な覚え方をしてきています。「○○があればこの処方」というのをたくさん覚えて、それに当てはまるような患者さんに使うというやり方。確かに悪くなく、すぐに使えるというのも利点のため、入門としてはむしろ優れている気もします。

 しかし、それだけではどうしても詰まってきて、応用が利かなくなります。「もうちょっと漢方薬で何とかしてみたいなぁ」と思うのであれば、また、漢方薬の副作用を考慮するのであれば、それなりの勉強が必要だと思います。研修医の時だったでしょうか、ある講演会で「老人にはまず八味丸(八味地黄丸)を使えば良いんです」と言っていた先生がいましたが、そんな浅い知識じゃ間質性肺炎を起こすことも稀ではありません。八味地黄丸に桂枝と附子が入っている意味をとらえていない証拠でしょう。ここ数年は「インフルエンザに麻黄湯」なんてのが流行ってますが、これも危険。熱が出て暑がって苦しい時に麻黄湯を使うのはご法度でして、それを理解せずに表面的な決まり文句で処方するのはいけません。

 そこで、より安全な処方に必要なのは、方剤に含まれている生薬の理解。面倒くさいと思うかもしれませんが、こればかりは避けて通れないと思いますし、口訣だけで行くなら、本当にドンピシャの患者さんのみに使うべきだと考えます。そうでないと安全性は担保できません。

 この生薬の理解は、薬剤が占拠する受容体を覚えるのと同じレベルと考えてほしいなと思います。自分は精神科医なので抗精神病薬が例になりますが、オランザピンの持つ作用/副作用を知るには、やはりどんな受容体を占拠するのかを覚えているでしょう。抗うつ薬でも、SSRIやSNRIとは異なるミルタザピンの作用/副作用は、受容体の理解に基づいて覚えているでしょう。薬剤相互作用に配慮する時も、CYPの阻害とPGP(P糖蛋白)の阻害を覚えるはずです。それと同じこと。

 残念ながら、個々の生薬が占拠する受容体は不明であり中医学独特の概念に足を踏み入れねばなりませんが、体系の異なる医学で用いているお薬なので、そこはちょっと我慢が必要。どっぷり浸かる必要はありませんが。

 実際の覚え方の例を少し示してみます。多くの方剤がありますが、まずは核となる方剤と構成生薬を覚えて、そこから頻用している方剤を派生させる方法が良いかと思っています。ちょっとこの図を見てみましょう。

補気剤

 いくぶん恣意的ではありますが、補気剤の例を示しています(帰脾湯を入れていないのは、帰脾湯が補血にも強く関わるからです)。この補気剤の基本骨格は四君子湯。


四君子湯=人参 甘草 朮 茯苓 大棗 生姜


 大棗と生姜は後の世になって加わっており、”四君子”は人参、甘草、朮、茯苓の4生薬を指します。いずれも補気薬として使用され、例えば人参は身体の中を温めて水分を保つ作用を、朮や茯苓は身体の水はけを良くする作用を併せ持ちます。人参は水分を保つ働きが強く、人参湯は副作用に浮腫があるくらい。朮や茯苓が入ることで、これを相殺してくれるのです。

 この様に1つ1つの生薬の主な働きをとらえます。そして、その四君子湯に陳皮と半夏が加わると、皆さんおなじみの六君子湯になります。


六君子湯=四君子湯+[陳皮 半夏]


 四君子湯と六君子湯との違いは、この陳皮と半夏の生薬の作用を見ると良いのです。陳皮は健胃作用と鎮咳去痰作用を持ち、半夏は制吐作用と鎮咳去痰作用を持ちます。よって、六君子湯は四君子湯の作用に胃腸を整えて咳や嘔吐を抑える作用が加わっている、と理解できます。ただ、鎮咳去痰とは言いましたが西洋医学の去痰とは異なりもっと幅広い概念ではあります。そして、この去痰作用を持つ生薬は”身体を乾かす作用”が強いのです(ここでは特に半夏)。

 よって、六君子湯は身体を乾かす方を向いているとイメージします。このことから、口訣上の注意でよく耳にする「六君子湯は舌苔が無い時には使わない」というのが理解できるでしょう。舌苔が無いのは身体が乾いているために苔が生えてこないのを意味することが多く、そういった時や口渇が強い時、空咳が強い時などには身体を乾かしてしまう六君子湯は不向きです。四君子湯が適切でしょう。

 今度は四君子湯から派生した補中益気湯を見てみます。


補中益気湯=四君子湯-茯苓+[黄耆 柴胡 升麻 陳皮 当帰]


 これは”黄耆・柴胡・升麻”という組み合わせが重要であり、この3つで”升提作用”を期待しています。この作用は横紋筋や平滑筋を引き締めることであり、それにより、手足の重だるさを緩和しますし、添付文書の効能に”胃下垂、脱肛、子宮下垂”と書かれているのもお分かりになるかと思います。特に黄耆は”固表止汗”と言って、汗が出過ぎないようにしてくれます。添付文書の効能の”多汗症”もこの黄耆の働きによります(多くのメーカーは朮が蒼朮ではなく白朮になっており、その白朮も汗を止めます)。さらに、陳皮が入ることで気を少しめぐらせ、当帰でわずかに血を補いめぐらせる作用も備えています。そして柴胡がその両方の働きを助けてくれます。この柴胡が入ることで、補中益気湯は身体を冷まして乾かす方に傾いています。こういったことから、補中益気湯は単なる補気剤ではないことが分かります。

 以上のように、骨格となる方剤から生薬の加減で派生を覚えていくと知識がつながってくるでしょう。そのような覚え方が応用力のある漢方処方を可能にし、各方剤の口訣が生まれた理由も納得しやすくなります。さらに、生薬を勉強すると”温める””冷ます””潤す””乾かす”などの知識も付いてくるので、理論面でも力になってくれるのです。最近は生薬の本も随分と増えてきたので、読みやすいものをどれか持っておくのをお勧めします。

 これは蛇足ですが、日本漢方の”実証””虚証”といった体格や体力で方剤を決める方法を”やめてみる”のも実は大事なのではないかなと、これはあくまでも個人的に考えています。日本漢方の”実証””虚証”は、正気の方しか見ていません。病邪にも実と虚が存在するため、それを考えないから、よく症例報告で目にする”実証と考えたが虚証であった””虚証と考えたが実証であった”というような事態が出てくる、そう思っています。”扶正祛邪”を念頭に補すことと瀉すことの両方に配慮する必要があり、場合によっては日本漢方的な”虚証”でも大柴胡湯といった”実証”用の方剤を使って病邪を追い払うようにしますし、”虚証”用の漢方薬である四君子湯と”実証”用の柴胡加竜骨牡蛎湯を同時に使用するということもします。体格や体力で分ける”実証””虚証”の枠から出てみると、漢方薬の処方は一気に柔軟性を帯びてきますよ。これはじわじわと広げていきたいと思っています。
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