2015
08.21

ちょろっと使ってみよう

Category: ★精神科生活
 今度、何の因果か漢方薬の入門的な講演をすることになりました。クラシエさん主催のものとツムラさん主催のものの2つですが、講演するのは久しぶりでございます。引きこもりが公の前に出るとは…。

 とは言ってもものすごく小規模で、募集がどちらも10人くらい。ニッチな感じの講演内容ですし、講師も誰だか分からないような人間ですし、募集人員が少ないのでしょう(どうかな?)。

 内容はヒミツなのですが、結論を言ってしまうと「ちょっとした精神症状には漢方薬を使ってみませんか?」という、何とも単純なことになります。例えばちょっとした抑うつ、ちょっとした不安、ちょっとした身体化。いわゆる”軽症”とされている状態に対して、漢方薬で下支えをしてあげて、そこからコテコテの症状に落ちていくのを防ぐような、そんなイメージです。

 最近の精神医学は、患者さんが随分と気軽(?)に受診することも増え、疾患ありきで鑑別をするというよりも、健常との連続性を考慮する視点に移行していると思っています。特にプライマリケアではその傾向が強いのではないでしょうか。なので”向精神薬を使うか使わないか””向精神薬を使わずに何とかならないか”と熟考する段階に来ています、たぶん。当然のことながら、健常に近ければ近いほど、お薬の効果は乏しくなっていきます。例えば軽症のうつ病に抗うつ薬はあまり効果がありません。それを漫然と投与して、中止する時に中断症状が出てさも症状の悪化ととらえられるとどんどんこじれてくることもあります。不安や身体化についても、ベンゾジアゼピン系抗不安薬を簡単に連日服用で出すのもいかがなものかと思います。周知のように、依存を形成するとやめるのにとても苦労しますね…。抗不安薬は、問題を先送りにする力しか持ちません。先送りにしている間に解決を図るのが適切であり、それをせずにずっと服用していては、気づいた時には問題が詰まってしまうことも多々。

 本当のところ、ちょっとした精神症状は


日常生活の養生


 こそが最も有効な治療だと思います。それなくしてお薬も何もないでしょう。患者さん側も、養生の重要性を改めて認識するべき時代。患者さん自身でしっかりと向き合って取り組むということをすべきであり、医者の出す薬におんぶにだっこ状態ではいけないのだ、と思います。貝原益軒に学ぶ気持ちが大事かもしれません。

 かといって「何も薬を出さないで様子を見るのもなぁ…」という治療者もいます、現実的に。また、患者さんの中には、薬が出ないことを不安に思う人もいます。日本は保険診療なので、患者さん側も病院に行くとお薬がもらえるものと思っているフシがあります。本当は、適切に「お薬は必要ないよ。まずはあなたの生活習慣をしっかり見直してみよう」と言ってくれること、そしてそれに納得して治療者の助言を参考に生活を整えることこそが重要なのではありますが。

 ただ、最近は生活を見直してみても様々なストレスを抱えて大変な人もままいます。そんな時は、しっかりとした養生を説くことを前提にして、患者さんに合った漢方薬を出すことは悪くないと思います。これまで依存や耐性や離脱症状といったものは個人的に経験しておらず、そういった点ではベンゾジアゼピン系よりも良いのでは。また表現はチープですが、ストレスがあっても以前のような症状が出にくくなるような、しなやかさ(レジリエンス)を補強してくれる印象もあります。もし漢方薬治療でも残念ながら症状が改善せずに悪化していくようであれば、その時に抗うつ薬などの出番を。こういう2ステップを踏んでみるのも悪くはないかと感じています。漢方薬での治療に慣れていたら、中等症でもまずは使ってみて良いかもしれません。そこは治療者の経験によるところでしょうか。


☆まずは…

超軽症:[養生]

軽症:[養生] それでも改善しなければ [養生+漢方薬]

中等症:[養生+漢方薬]or[養生+(西洋医学的な)薬剤治療]*

重度:[養生+(西洋医学的な)薬剤治療]*

*:(西洋医学的な)薬剤治療のサポートに漢方薬を使用するのも選択肢の1つ



 お薬を出すということは患者さんに安心を処方するとも言え、また漢方薬は養生とセットにしやすい雰囲気を持っているので、処方に精神療法を込めることも実は結構出来てしまいます。それらをフル活用しましょう。もちろん、実際に診察しないと適切な方剤を考えられませんし、下手なものを使うと副作用だって出ます。漢方薬とはいえ、絶対に安全なわけではないのです。また、処方が治療者自身の安心のためだけになされるのであれば、それは考えなおすべきでしょう。

 そんなこんなで、少しでも正しく使ってもらえるように、と言うと偉そうですが、適切な漢方薬を選んでもらえるように、ちょろっとお話をしてきます。やや抽象的な講演になるでしょうけれども…。

 ただ、自分は日本漢方とも中医学ともつかないような立場であり、日本漢方の実証や虚証による処方選択を一切しませんが、中医学のコテコテな五臓にもあまり立ち入らないというちょっと宙ぶらりんな治療態度。多くの治療者は日本漢方的な実証虚証をもとに処方を組んでいるので、自分の処方例を出してお話しするのはちょろりと不安ではあります。まぁ、そういう考え方も出来るんですよ的な流れにしたいと企んでおります。
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コメント
「こうすればうまくいく!精神科診療はじめの一歩」を読んでから先生の講演を聞いてみたいと思っていたのでK市の講演楽しみにしてます。
医師5年目dot 2015.08.21 13:44 | 編集
私もぜひ聞いてみたいです。

というか、私の担当医に聞いてほしいのですがね。

実は知り合いにも漢方をかじっている先生がおりまして、その方の知識を総動員して(初心者だから)ツムラの41を親子で試してみようかと。ほかにも人参湯とかどうかな?と。
116も調子の良いときは飲んでいます。

問題はですね。主治医に漢方やる気がなく「自分で調べて頂戴」
という方なのでね。
これから、漢方って使えると思うのです。
エナジードリンク系は負荷がかかりすぎるので、うまい使い方を模索中です。

そういえば、ぐでだまですが
ぐでだま哲学シリーズが実に良い味です。
精神科の待合室にちょうど良い本だと思います。

抜けすぎていますが。。。。
さくらdot 2015.08.24 10:55 | 編集
>医師5年目先生

ありがとうございます。
今度の講演は漢方の基本的なところのお話なので、あまり深みはありません。
精神医学特有なコアな話は出てこないので期待外れになるかもしれませんが、入門的な立ち位置でお話しさせていただきます。
m03a076ddot 2015.08.25 01:19 | 編集
>さくらさん

ありがとうございます。
自分で調べてみるというのも治療の一環になっているかも(?)しれませんね。
漢方は謎が多いのが難点ですが、それがまた魅力的でもあります。
ぐでたまで哲学というのは面白いですね。
こころにいつも”ぐでたま”を、なんてのは良いキャッチフレーズになりそうです。
ただ、ぐでたまが占拠してしまうのも大変ですが、片隅にいるくらいだとゆとりも産まれそうです。
m03a076ddot 2015.08.25 01:32 | 編集
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

患者さんの疾患や状態によってどのような提案になるかは変わってくるかと思います。
なので、なかなか一概にこうするとは言えないでしょうか。
1つ1つにおいても、例えば精神療法もいろいろな種類がありますし、漢方薬もかなり変化に富んだ処方もあります。
自分の患者さんには「お薬飲みたくない!」と診察の場で話すかたはほとんどいません(内心そう思っているかたもいるでしょうけれども)。
やはり時期というか、タイミングの巡り合いがあるかと思います。それに合わせて提案でしょうか。
若い人たちの死亡で自殺がトップという状況は、とても悲しいことですね。
どれだけ孤立しているのかと思うと、つらく感じます。
みんなのこころがほんわか笑顔でいられれば良いんですけどね。あくまで理想ですが。
ツイッターの世界でも良いので、どこかしら良いつながりがあれば、状況は変わってくるかもしれません。というか、変わってほしいという願いです。
m03a076ddot 2015.09.02 00:49 | 編集
先生こんにちは。
咳に効果のある漢方はありますか?
なかなか、これだけの情報では難しいかもしれませんが、先生が普段使用されてる漢方で何かあれば教えて下さい。

多分、緊張したりすると、咳が強くなります。
ノラdot 2015.09.14 20:16 | 編集
>ノラさん

ありがとうございます。
咳と言っても、咳の質やその他の随伴症状によって漢方薬は180度変わるといっても過言ではありません。
合わない処方によって、咳がより強くなった、痰がもっと出るようになって苦しい、ということも実際に起きえるので、漢方を使用したいのであれば漢方薬局やしっかりと勉強している医者のところに行って出してもらうのが安全だと思います。
m03a076ddot 2015.09.15 09:56 | 編集
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