2015
08.06

帰せるのか入門

Category: ★本のお話
 学生から研修医になってガラッと変わるのは、実際に何らかの症状でやってくる患者さんに実際に診断をつける、もしくはつけられないまでも帰しても良い症状なのかどうかを実際に考える、ということだと思います。特に後者が多く、自分は研修医になりたての頃、診断がつけられないことがこんなにも多いのかとびっくりし、診断が分からないまま患者さんを帰すことにとても不安になったものです。

 よって、これから研修医になる、もしくは研修医になったばかりという人の勉強では、症候学、それも現実的なレベルでの勉強がポイントになってくるでしょう。すなわち


診断ははっきりしないけど、この患者さんは”待てる”だろうか?


 ということ。そこを教えてくれる本は極めて実践的だと個人的に感じています。

 学部6年生や研修医になったばかりという人には、前野哲博先生の新刊『症状対応 ベスト・プラクティス』が導入の導入として読みやすいと思います。

症状対応

 医者以外の医療従事者向けに書かれた本ですが、だからこそ総論部も難しいことを優しく噛み砕いて伝えてくれており、すっと入ってきます。「医者はこうやって考えているのか」という感覚、それも上質なものを得られる、まさに6年生やピカピカの研修医に向いていると言えましょう。もちろんこの本だけですべてをやりくりできるわけではありませんので、あくまでも基礎固めとして。

 診断学の本は野口善令先生の名著『誰も教えてくれなかった診断学』を皮切りに様々な本が出てきており、どれも読むのが楽しいです。ただ、研修医になったばかりとか、まだ診断学そのものを掴みきれていない医者が難しい本をいきなり読むのはちょっと大変。

 例えば志水太郎先生の『診断戦略』は良書であるものの、診断学を学び始めた研修医に向かないように感じています。この本は嫌な言い方をすると「難しいことを難しく言っている」雰囲気が強く、1年次研修医がちょっと無理をして読んで”分かったつもり”になると弊害を産んでしまいそうです。ひと通り勉強して日常臨床も十分行なっている医者が、更なるブレイクスルーを期待して読むのであれば、それに応えてくれる可能性はあるでしょう。研修医や学生のレベルまで降りてきて解説を丁寧にしてくれるタイプではなく、一定のレベルにまで来た医者に対して新しい視点を提供する、そういう本なのだと思います(志水先生の思考実験的な印象も受けました)。

 実際の診療はとても泥臭いもので、決して美しくありません。診断も綺麗につきませんし、シマウマをピタリと当てることなんてまず出来ません。「この症状は帰せるかな? どうかな?」というレベルで医者は悩みます。研修医であれば尚更でしょうし、帰せる自信もなくて当然でございます。自信があったら逆にこっちが不安になりますし。そこにスポットライトを当てた今回の『症状対応 ベスト・プラクティス』は実に良いなぁと思います。”症状対応”というタイトルが素敵ですよね。どこにも診断という文字がない。まさに”症状への対応”を中心に考える本。

 同様の本には、タイトルがとてもうまいなぁと感心してしまった『帰してはいけない外来患者』があります。

帰してはいけない

 「医療はサービス業」と書かれてあるのはどうなのかなぁと思うところはありますが、”帰してはいけない”ところに重点を置いたところがとってもGoodです。姉妹書には、2015年に新しく出た『帰してはいけない小児外来患者』も。

帰してはいけない小児

 何と『小児外来患者』の方はカラーです。内容でも名著の予感ありで、小児のこういう本は本当にありがたい。

 タイトルで買わせてしまう、不思議な2冊。もちろん内容も「どんな患者さんは帰すと危険か?」を説いてくれて、読むと何となく安心させてくれます。「あぁ、そうやって考えると良いんだな」と、モヤモヤを少し晴らしてくれる好著。『症状対応~』を読み終えた人や、救急外来を少し経験したような研修医の先生に自信を持ってお勧めできます。

 症候学では、鑑別診断を行なう道筋をしっかりたどることも重要です。しかし、「出来る範囲で調べたけれども診断がつかない…。さてこの患者さんどうしよう?」という悩みは実に大きいことも事実であり、その対応を学ぶ必要性もあります。換言するならば


”診断”と”対応”


 の2つのバランスの良さが実臨床、特に救急外来では求められます。前者に関連した本がこれまでは多く、後者を特に重視したものはあまりなかったのではないかなと記憶しています。それにきちんと焦点を当てて一歩解決に近づけてくれるのが、今回紹介した『症状対応~』『帰してはいけない外来患者』『帰してはいけない小児外来患者』などの本かもしれないな、と考えています。この3冊は研修医のうちに読んでみると、不確実性に耐える力が少しついてくる、かもしれません。
トラックバックURL
http://m03a076d.blog.fc2.com/tb.php/1920-74328a47
トラックバック
コメント
小児科は難しいというのは親視点でもわかります。
急外で帰宅後、容態が悪化しにゅういんしてしんだんかくていということもふつうにある得ることなのですが。
こういうことを医療者側の責任にしてしまうことが多いのが現在。
不確実性への耐性はすべての人が持つべきですね。
さくらdot 2015.08.11 08:07 | 編集
>さくらさん

ありがとうございます。
患者さんやそのご家族は「医者ならミスをするな」「ミスをしたら罰を受けろ」という意識が確かに高いかな…と思います。
ウログラフィンの裁判がありましたが、研修医に執行猶予付きの判決が出て、あれにはびっくりしました。
研修医を守るはずの病院が全くそのようにせず、トカゲのしっぽ切りも甚だしいなぁと感じました。
医療ガバナンス学会の記事がとても素晴らしく、これは国民の皆様に知っていただきたい内容(http://medg.jp/mt/?p=6032)。
確実への幻想はとても危険だと思います。不確実性の中におり、それを認識することが大切ですね。
2014年のBMJにも、不確実性を皆が心に留めなさいという論文が出ていました(Hoffman JR, Kanzaria HK. Intolerance of error and culture of blame drive medical excess. BMJ. 2014 Oct 14;349:g5702)。
m03a076ddot 2015.08.12 10:22 | 編集
なぜ、周囲の看護師や技師も止められなかったのか?
研修医だけ有罪は明らかにおかしいです。
それに研修医が減りますよね。その病院
大野病院のように医師会学会頑張るケースもありますが、何故に初心者マークは放置?しかも勤務医は病院から守られるのが一つの売りなのに。
今後、賠償責任は熱くかけておく必要があるようですって、無制限かけている方が多いですよね。自動車保険並みです。
さくらdot 2015.08.16 06:13 | 編集
>さくらさん

ありがとうございます。
有名な病院なんですけど、そのようなシステムで知らん顔というのはちょっと残念です。
「本人を裁いて欲しい」というご遺族の感情は無理からぬことですが、日本は医師を守る司法はないのかと思ってしまいます。
世間一般も、ミスをした本人を裁くことを是としてしまっているので、そこから溶かしていかねばならないのかもしれません。
日本では、医者は、1人においてミスをすると、それまで救った99人のことは完全に無視されてしまいます。それは決してあってはならないことですし、不幸にもミスに出会った患者さんやご家族には病院が相応の保障をすべきものでもあります。
今回のように、研修医1人に罪を押し付けたのは悲しいことだと思います。
m03a076ddot 2015.08.18 12:15 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top