2015
11.01

風邪を風邪と診断するために

Category: ★研修医生活
 救急外来でとても多い風邪の患者さん。研修医はたくさん来る患者さんの中からミミックを探しだして倒さねばなりません(倒せずザラキを唱えられて砕け散るのも避けたいですね…)。換言するならば



風邪を風邪と言い切れるか!?



 という、一見当然にも感じられることがとても大事になってきます。

 今回は1年次研修医向けにつくった勉強会のレクチャーから、風邪についてお話(しかし勉強会自体がなくなってしまったのでお蔵入りになってしまった…)。ほとんどは故・田坂佳千先生の書かれた『”かぜ”症候群の病型と鑑別疾患(今月の治療. 2006;13(12):1217-21)』をベースにしています。いわゆる”風邪本”(例えば岸田直樹先生の『誰も教えてくれなかった風邪の診かた』や山本舜悟先生の『かぜ診療マニュアル』)も元をたどるとこの田坂先生の論文に行き着きます。風邪本の源流と言っても良いでしょう。

 さて、研修医にとってとても心配になるのが「患者さんに風邪と診断して自信を持って帰せるか?」というところ。例えば

「喉が痛い」→大動脈解離!
「気持ち悪くて吐いた」→心筋梗塞!
「下痢をした」→消化管出血!

 こんなのを診てしまうとびっくりしてしまいます。

 もちろん”後医は名医”という言葉の通り、時間が経つことで疾患の輪郭がよりはっきりとし、後で診た医者が正しく診断できるのは当たり前。よって、患者さんには「これこれこういう症状が出たら/今の症状がどんどん悪くなるようなら、また来てくださいね」など、鑑別で捨てきれなかった疾患でまだ出現していない症状や今ある症状の増悪の可能性をお伝えして、”時間性”をうまく使うようにします。

 救急外来、特に発症早期ではまだ症状が揃わずうまく疾患としてのまとまりに欠けるため、診断には限界があるというのを大前提とします。その限界を意識しながらも出来るところまで詰めていくというのが求められます。そして、限界の先に向かうために、患者さんにこちらの予想をお伝えして診断に幅をもたせることを利用します。

 それを認識した上で、まず風邪の定義ですが


ほとんどの場合、自然寛解するウイルス感染症で、多くは咳・鼻汁・咽頭痛といった多症状を呈するウイルス性上気道感染のこと


 と表現できます。細菌感染では原則として細菌が1種類の臓器で暴れます。もちろん例外はたくさんあり、代表例はレジオネラ肺炎の腹部症状でしょうか。ウイルス感染は多くの臓器にまたがるのが通常です。

 ”細菌が1種類の臓器で暴れる”というのは様々なprediction ruleにも反映されており、例えば細菌性咽頭炎とウイルス性咽頭炎との鑑別に用いられるCentor's criteriaでは”咳がないこと”というのが、細菌性咽頭炎らしさを示しています(咽頭に感染するのであって、より下の気道症状である咳は細菌性らしくないということ)。肺炎の検査前確率を推定するDiehr's threshold scoreでは、咽頭痛と鼻汁の存在は肺炎らしくなさを示します(細菌は肺に感染し、喉や鼻の症状は出にくいということ)。

 ということで、典型的な風邪とは以下の図で示せます。
典型的な風邪

 この図の言わんとしていることは


“咳・鼻・喉”の症状がほぼ等しく急性に出現している時は、風邪と判断して良い


 ということ。これをしっかりと認識しているのといないのとでは、風邪症状を訴える患者さんへの取り組みが全く異なってきます。典型的な風邪の顔つきを上記でつかんだ次は、典型的ではない、辺縁に位置するような症状の時が注意点になってきます。そこが医者にとって大切で、田坂先生の以下の名言のように


風邪(症候群)における医師の存在意義は、他疾患の鑑別・除外である


 ということ。これに尽きるのだと思います。それをスッキリさせるため、まずこのようにまとめましょう。
典型ではない
 これらの時は「典型的な風邪とはちょっと違うなぁ」と思うところで、しっかりと鑑別疾患を挙げて除外していくことが求められます。

 最初は、鼻症状が中心の時。
鼻症状
 これの代表的な鑑別には急性副鼻腔炎があります。意外に診断は難しく、以下を参考とします。

いわゆる「風邪のぶり返し」
うつむいて顔面痛の惹起や増悪
上歯痛
耳鏡で鼻腔を覗いて膿性鼻汁を確認
エコー(心臓用のプローブ)で上顎洞の貯留液を確認

 JAMAの『Rational Clinical Examination』を読んでも、なかなか「これは!」と思える所見に出くわさないのでした。。。この「風邪のぶり返し」は急性副鼻腔炎に限らず「細菌感染かな?」と思える糸口になりえます。

 次は、咳症状が中心の時。
咳症状
 もちろん本命対抗は”肺炎”です。実はこの肺炎の診断は

聴診で分からないことがとても多い
レントゲンではっきりしないことも多い(撮るなら正面像と側面像)
エコーが有用!?
グラム染色は行なうこと
尿中抗原でRule outは難しい

 という特徴があります。聴診で分からないからといってそれを省くのは以ての外でして、レントゲンではシルエットになって分かりづらい肺底部のcracklesが聴こえることもありますし、レントゲンでは見えないけれども肺胞呼吸音が気管支呼吸音化していてCTでしっかり肺炎像が出ているなんてことも。エコーはちょっと自信ないですけど…。自分は肺水腫と気胸を見つける時にしか使わなかったので、肺炎を見つけるためのエコー経験が乏しいのでした…。やはり重要なのは流行・患者背景・症状をしっかりとらえることになります。

「風邪のぶり返し」でガッツリ来る
悪寒戦慄を伴う高熱と咳
びっしょり寝汗や頻脈や頻呼吸
基礎疾患やマイコプラズマの流行
ホテル、温泉、湯沸かし…(レジオネラ)

 この辺りは最低限チェックしておきたいですね。頻脈や頻呼吸にはやっぱり敏感になっておきたい。

 もちろん怖い疾患が隠れていることもあり、急性心不全や肺塞栓なんてのは医者泣かせだと思います。患者背景で狙いを付けて、SpO2低下・頻呼吸・呼吸困難といった所見があれば注意をしておきますし、否定できなければBNP(もしくはNT-pro BNP)やD-dimerなどの検査。

 そして、慢性咳嗽の初期を見ていることもあります。慢性咳嗽は3週間以上続く咳が定義ですが、初期に見るとそれは”急性咳嗽”になってしまいます。急性咳嗽と慢性咳嗽とでは鑑別疾患の色合いが異なり、結核や肺がんや心不全などなど…。以上を頭の片隅に。

  次は喉症状が中心の時。
喉症状
 鑑別として細菌性咽頭炎は言うまでもないかもしれませんが、その細菌は何とGASにも、若年者(15-30歳)ではFusobacterium necrophorum, GCS, GGSといった細菌が発症に関与するとという報告が出ています(Centor RM, et al. The Clinical Presentation of Fusobacterium-Positive and Streptococcal-Positive Pharyngitis in a University Health Clinic: A Cross-sectional Study. Ann Intern Med. 2015 Feb 17;162(4):241-7.  Centor RM, et al. Avoiding sore throat morbidity and mortality: when is it not "just a sore throat?". Am Fam Physician. 2011 Jan 1;83(1):26, 28.)。特にFusobacterium necrophorumは結構多いらしいです…。迅速診断キットはGASのみを対象としているため、これらの細菌では陰性になることがあります。これを考えると、Centor's criteriaで4点以上ならキットなしで抗菌薬投与というのも何となく頷けます。ちなみに日本にいるGASは多くがマクロライド耐性なので、細菌性咽頭炎にマクロライドを出しても改善しないことがあるので注意。また、上記論文の著者であるCentor先生は、あのCentor's criteriaのCentor先生です。すごいですなぁ、まだ生きてたんだ(おい)。

 他の鑑別は結構怖いものが多く、いわゆるKiller sore throatには急性喉頭蓋炎、咽後膿瘍、扁桃周囲膿瘍、Ludwig アンギナ、 Lemierre症候群(前述のFusobacterium necrophorum感染の重大な合併症)などがあるのです…!感染症以外では大動脈解離、心筋梗塞、くも膜下出血、亜急性甲状腺炎などが挙がってきます。恐るべし喉症状…!

 ここで、風邪っぽくなく咽頭炎っぽくなく、「おや…?」と嗅ぎ分けるポイントを。

 咳と鼻汁が少なく咽頭痛が中心の時で、“咽頭痛が強い+咽頭所見が強い”は当然注意すべき。問題は…


咽頭所見は軽く、嚥下痛が強い!
もしくは
咽頭所見は軽く、嚥下痛が軽い!



 これが「何かおかしいなぁ…」と感じる第一歩。患者さんが「喉が痛い」と言っているにもかかわらず咽頭所見が軽いというのは、事件の中心は“咽頭”ではないことを示します。つまり


咽頭周囲の問題
頚部の問題
放散痛の問題



 という風に分類できましょう。仮に咽頭ではなく”頚部痛”であったとしても、患者さんは「頚が痛い」ではなく「喉が痛い」と言うことがとても多いです。専門用語では頚と喉は異なりますが、患者さんの世界では明確な分類になっていません。自分の身に起きた現象を何とか持っている言葉で表現しようとして「喉が痛い」になるのです。医者側はそれを考慮して、言葉の奥の現象をとらえるようにする必要があります。患者さんの言葉に引きずられずここに気を配れるようになると、問診力がアップしますよ。患者さんと医者とは異文化の存在だという認識を持ち、出てくる言葉が表そうとしている現象(シニフィエと言えるかもしれません)に思いを馳せてみましょう。

 上記の点を考えながら、鑑別をしっかりかけて見逃してはいけない疾患を除外していきます。

 最後は、咳症状・喉症状・鼻症状のいずれもないという時。
いずれもない
 その際は「うーん、風邪でしょう」と言わないようにしましょう。”発熱+α”でとらえ、その+αは、頭痛、倦怠感、消化器症状、関節痛、皮疹などなどなど…。それぞれに従って鑑別疾患を挙げて診断していきます(個々の鑑別疾患は割愛)。+αが無く発熱のみのいわゆるsolo feverなら、気合いを入れた診察が欠かせず、血液・尿・胸部レントゲンの検査は必要になることが多いです。腎盂腎炎、胆管炎、前立腺炎、感染性心内膜炎、高齢者の肺炎など、ちょっと見逃せないものばかり。子どもさんも中耳炎から心筋炎まで幅広い。

 咳症状・喉症状・鼻症状がない時は本当に気をつけねばなりません。診断や診察の本をしっかり読んで鑑別を頭に入れておくことが結局のところ大事です。考える力も欠かせませんが、ある程度の暗記というか知識は絶対に必要。

 ということで、風邪のお話でした。最後に、いつも同じようなことを言っているかもしれませんが


風邪の典型例を知り、風邪と間違えやすい疾患を知ること。そうすることで“風邪”と“非・風邪”との境界線がよりはっきりと浮き出てくる!


 とまとめて、終わりとします。
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