2015
06.04

グレーな発達障害

Category: ★本のお話
 本の紹介です。2連投の記事の2つ目。

 2015年6月1日に医学書院さんから発売された、青木省三先生と村上伸治先生が編集された『大人の発達障害を診るということ』

青木先生

 この本は自分の頭のなかをスキっとさせてくれました。大人の発達障害は診断がとてつもなく難しく、精神科医もなかなか困っているところ。明らかな発達障害は幼少期に診断されていますし、大人でも分かりやすい患者さんはいます。しかし、幼少期から学校を何とか過ごしてきて、その後に環境がガラっと変わった、例えば仕事や結婚など、そんな時からあらあら…と調子が悪くなってくる患者さん、そして「典型的な統合失調症にしてはちょっとなぁ…」「典型的なうつ病にしては、うーん…」という患者さんもいます。そんな時に、この本に書かれてあることが役に立つと感じました。

 発達障害そのものも定型発達と連続をなすもので、どこで区切るかというのは社会的な要請によっても異なります。また、発達障害の特徴というのは、小分けにして考えてみれば誰しも持っているものです。そういったところが”診断”を難しくさせているのも事実。

 この本は、”発達障害的なところがあるが、診断してよいかどうか迷うようなグレーゾーン”(3ページ)を対象としています。まさに私たち精神科医が日常診療で「んん?」と考えこんでしまうところにスポットライトを当ててくれました。

 そして、「そうだよねぇ」と納得させてくれた部分が

”発達障害特性は、その人にかかるストレスによって、強く現れたり逆に見えにくくなったりするのである”(7ページ)

 というところ。大人で初めて発達障害を考慮するような患者さんは灰色の領域にいます。その灰色はストレスによって黒にもなり白にもなります。そして、1人の患者さんの中に黒の部分と白の部分をしっかりと探していきます(発達障害らしいところとそうでないところを診ていく)。曖昧さがあるということをまず治療者がしっかりと認めて、そこから進んでいく。この重要さを説いています。

”我々が目指すのは遺伝子の改善でもないし、心理検査の改善でもない。生活障害の改善である”(11ページ)
”どこが発達障害的で、どこが発達障害的でないかを丹念に診ていって初めて本人の特性を掴むことができる”(20ページ)

 発達障害かどうか迷う時は、患者さん自体が”白か黒か”という診断ではなく、灰色の患者さんの黒と白を診ていき、助け合いを考えていくことが大切です。黒の部分は助けてもらい、白の部分は他の人を助けるために。

”予後を決めるのは障害の重さではなく、「助けてもらうパターンを身につけたかどうか」である”(27ページ)

 まさにその通りだと膝を打ちました。

 この本は3部構成で、第2部が症例集になっています。自分の担当した患者さんを思い浮かべながら読むと「レジデントの時に診ていたあの患者さんは灰色の発達障害だったかもなぁ…」と思い出し、後悔することもあります。第1部と第3部を先に読んでから第2部に入っても良いのではないでしょうか。

 自分は大人の発達障害に関しては「理解は広く、診断は狭く」としています。灰色的なところが大きいのだという認識をより強くして

・患者さんをより援助できるように、困っているところを丹念に診る
・患者さんが他の人をより援助できるように、良いところを丹念に診る

 ということをしっかり行なっていこうと思いました。

 ただし、発達障害を診るには注意点があります。特に大人の発達障害を勉強すると、診る患者さんの多くがそのように見えてしまいます。レジデントのうちから積極的に大人の発達障害の知識を入れることは、良いところも悪いところもあるかもしれません。それよりは、例えば統合失調症、例えばうつ病、と言った代表的な精神疾患の典型例を早いうちにしっかりと押さえておくべきでしょうか。

発達障害を知るということは、それ以外の疾患を知ることによって成立する

 とでも言えそうです。代表的な精神疾患の非典型的な経過をたどる患者さんに灰色的な発達障害が潜んでおり、支援によって改善する可能性があります。昔で言う”非定型精神病”には、灰色の発達障害でストレスによって患者さんの灰色部分の多くが黒に一時的に変わってしまった状態も含まれているでしょう。

 この本は、あえて”灰色”を強調しています。「あなたは発達障害だ」「あなたは発達障害ではない」という白黒診断にはなかなかならないという事実。その上で、患者さんの困っている部分を見つけてどのように支援をしたら生活しやすくなるかを考えていく。これが臨床での実感と強く重なり、症例集も今後の診療に有用なものとなっています。代表的な精神疾患の典型例を学び経験した後に読んでみることをオススメします。
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コメント
初めまして。
いつもブログを拝見していました。
先生が思うアスペルガーについて記事を書いて下さい。
ノンdot 2015.06.07 13:13 | 編集
>ノンさん

ありがとうございます。
自分は発達障害に関する知識が乏しく、確かな考えを持てないでいます。
記事にするからには臨床経験も相応に必要ですが、自分はまだそこに至っていないと感じています。
よって、申し訳ありませんが、アスペルガー含めて発達障害の記事を書けません。
以前の記事ですが、この2つが参考になってくれればと思います。

http://m03a076d.blog.fc2.com/blog-entry-1626.html
http://m03a076d.blog.fc2.com/blog-entry-1586.html
m03a076ddot 2015.06.10 10:13 | 編集
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