2015
02.26

統合失調症のメカニズム(仮説)と抗精神病薬の考え方

 今日は、統合失調症のグルタミン酸仮説と、治療に用いられる抗精神病薬の分類である”定型”と”非定型”というものを考えてみます。

 まず、統合失調症という病気は脳内ドパミンのアンバランスで生じているという”仮説”があります。脳内のドパミン経路には4つあり、特に”中脳辺縁系”のドパミン過剰と”中脳皮質系”のドパミン過少というアンバランスが、統合失調症の症状にすべてではないにせよ関与しているとされています。中脳辺縁系のドパミン過剰で幻覚や妄想といった陽性症状が生じ、中脳皮質系のドパミン過少で感情鈍麻や意欲低下などの陰性症状、認知機能障害が生じると理解しておきましょう。他にもグルタミン酸神経伝達の異常やニコチン性アセチルコリン受容体の異常やミクログリア活性化と慢性炎症なども関与しているらしく、特にグルタミン酸受容体の機能不全によって、結果的にドパミンのアンバランスが産まれているのではないか、と言われます。これを”グルタミン酸仮説”と言いまして、以下のイラストを見てみましょう。

統合失調症仮説

 皮質にある抑制性のGABAニューロンですが、このグルタミン酸受容体が異常をきたしており、このニューロンが働きにくくなっています。すると次につながるニューロンを抑制することができなくなってしまい、興奮の強いまま脳幹にシグナルが伝達されます。このシグナルは、側坐核に向かう道と、前頭前野に向かう道の二手に分かれます。側坐核に向かうドパミンニューロンは抑制性のGABAニューロンを介さないため、強いシグナルがそのままどかんとやってきて、ドパミンをたくさん放出します。これが幻覚妄想へつながります。対して前頭前野に向かうドパミンニューロンは抑制性のGABAニューロンを介します。このGABAニューロンは機能しており、強いシグナルがやってくることで次につながるニューロンへの”抑制”を強めます。すると前頭前野に向かうドパミンニューロンにはブレーキがかかりすぎてしまい、ドパミンが放出されにくくなります。これが社会性の低下や認知機能の低下に結びつきます。

 現在の抗精神病薬は専らドパミンを標的としているんですが、これは最下流を何とか調整しようとしていることになります。上流であるグルタミン酸受容体へのお薬も研究が進んでいますが、残念ながら理論通りには行かず、なかなか成功していないのが事実。統合失調症は単一疾患ではなく異質性の高い症候群ということもあるでしょうが、特に慢性期の統合失調症においてはこのグルタミン酸受容体の機能不全がどこか別の部位で補償されている可能性があり、それがグルタミン酸への治療介入を難しくしているかもしれません。慢性炎症についての視点はまた別の記事(→コチラ)をご覧ください。

 ここからは、抗精神病薬の開発をたどって、現在の非定型抗精神病薬の立ち位置を再考してみましょう。

 世界で最初の抗精神病薬は、1950年に抗ヒスタミン薬として開発されたクロルプロマジン(コントミン®/ウィンタミン®)です。その後、中脳辺縁系のドパミンD2受容体阻害が統合失調症の陽性症状に効果があることが分かり、これを主目的としてハロペリドール(セレネース®/リントン®)など様々な薬剤がつくられました。しかし、この作用に特化したことで脳の至る処のドパミンD2受容体を攻撃したため、錐体外路症状や意欲低下という副作用を強めることになってしまいました。

 その中で登場したクロザピン(クロザリル®)は錐体外路症状が少なく陰性症状や認知機能障害も改善させたことから、非定型抗精神病薬と呼ばれるようになりました。ただし、重篤な副作用として無顆粒球症を生じることから、クロザピンの持つセロトニン5-HT2A受容体阻害作用に注目して同等の効果を持ちかつ安全に使用できる非定型の開発が進められ、結果としてオランザピン(ジプレキサ®)やクエチアピン(セロクエル®)がつくられました。この流れはドパミンD2受容体への親和性はそれほど高くなく、かつセロトニン5-HT2A受容体をはじめ多くの受容体に結合することが特徴です。他には、ハロペリドールと同系統のピパンペロン(プロピタン®)も錐体外路症状が少なくセロトニン5-HT2A受容体阻害作用を持つことが判明し、それをヒントにつくられた非定型がリスペリドン(リスパダール®)です。このように、非定型はセロトニン5-HT2A受容体阻害作用を強く持ち、定型よりも錐体外路症状が出にくく陰性症状や認知機能低下の改善も優れているという認識が一般的になりました。

 しかし、果たして本当にそうなのか? と言われるようになっています。非定型を販売している製薬会社が論拠とする定型との比較試験は、非定型に有利なように組まれていることが多いんです。対象としての定型はハロペリドールというドパミンD2受容体阻害作用の強いものがよく選ばれており、更に投与量が多く設定されています。これでは錐体外路症状や意欲低下や認知機能低下が出現しやすく、相対的に非定型の優位性が出て当然。更に、定型の時代はドパミンD2受容体を根絶やしにするような治療が行なわれ投与量が多く、適切な用量設定がなされていませんでした。こういったことを鑑みると、非定型が優れているという前提に疑問が湧いてきます。最近の複数のメタアナリシスでは、有効性において定型と非定型との間に大きな差はなく、定型は錐体外路症状がやや多く、非定型は代謝系の副作用がやや多いという結果になっています。これを考えると、定型でも用量に注意し使用すれば非定型といい勝負が出来るでしょう。

 とは言えどれも横並びで同等というわけではなく、クロザピンは治療抵抗性統合失調症への切り札として存在しています(モノアミン系以外への作用も想定されています)。ただし副作用のため使用できる施設が限られているというのがネックでして、日本の多くの施設で使用できるものではオランザピンが有効性において頭ひとつ出ているとされます。複数の非定型と定型のペルフェナジン(ピーゼットシー®)とを比較したCATIE試験がありますが、有効性はどれも同じでしたがオランザピンのみが有意に優れていました。試験の組み方に問題がないわけではなかったのですが、他のメタアナリシスも同様の結果になっています。しかし、これを以てオランザピンが純粋に優れているとは言えないでしょう。なぜならそれは、抗精神病薬の切り替えの際に“リバウンド症状”が生じるからです。以前の記事にも出しましたが、以下の図をご参照。

リバウンド

 この図では、それぞれの受容体を占拠した際の効果、そしてリバウンドによる症状も提示されています。オランザピンは示されている受容体の中ではセロトニン5-HT1A受容体を除いてすべてに作用し、カバーが非常に広いというのがポイント。例えば抗コリン作用を持つものから持たないものへいきなりスイッチングするとコリンリバウンドが生じ焦燥や混乱や不眠などをもたらすため、それを症状の悪化ととらえてしまうかもしれません。更に、長期にわたる抗精神病薬使用によって受容体を阻害し続けると受容体のアップレギュレーションが生じ、減量や切り替えでリバウンドも起こりやすくなると想定されています。オランザピンは実に多くの受容体を占拠しますが、言い換えればオランザピンから他剤への切り替えの際にはリバウンド症状が出やすく、他剤からオランザピンへの切り替えではその症状が出にくいんです。リバウンド症状を精神症状の悪化と判断してしまうと、オランザピンが統合失調症治療において優れているという結果になってしまいますね。

 ここでもう1つ図を示してみます。

CATIE PANSS

 これは前述のCATIE試験のものですが、前薬からの切り替え後の症状変化をプロットしていまして、最初の4週間は移行期間として切り替え前後の両薬剤の併用が認められています。オレンジの枠で括ったところを見てもらうと分かるように、オランザピンのみが一貫して症状の改善を示している一方で、他の抗精神病薬では切り替え完了後にいったん悪化している点。そして6ヶ月前後から改善を示すというパターンをとっています。これは純粋な症状悪化ではなく、リバウンドによる症状が含まれていると考えられるでしょう。オランザピンはその広汎な受容体カバーと適度なドパミンD2受容体への親和性から、強いリバウンドなく症状改善に向かったと言えます。オランザピンに限らず、抗精神病薬を変更する際は作用する受容体を考慮して、リバウンドが出ないよう慎重に調節しなければいけません。

 また、抗精神病薬の投与量も適切な量にすることで、統合失調症患者さんの死亡率が最も低くなるようです。慢性期の患者さんの全死亡率で最も高いのが抗精神病薬を内服していない群で、次に高用量内服群、低用量内服群と続き、最も低いのが中等用量内服群であることが示唆されています。初回エピソードでは内服していない群が抜きんでて死亡率が高かく、心血管疾患と悪性腫瘍による死亡は、内服していない群と高用量内服群で高かったとされました。呼吸器疾患による死亡は、内服していない群で最も低く、高用量内服群で最も高くなりました。自殺率はほぼ横一線。なお、抗精神病薬別では、クロザピンが最も死亡リスクを下げるとする研究もあります。抗精神病薬は高用量になると錐体外路症状が出現しますから、それを抑えるために抗コリン薬を使うこともあります。しかし、高用量と抗コリン薬の漫然とした使用の両者は認知機能低下をもたらすことになってしまいます。高用量で副作用が出現したら、適切な量まで慎重に減量することが最も正しい行為でしょう。

 ということで、抗精神病薬は“使い方”が重要になってきます。確かに非定型抗精神病薬は経験の少ない精神科医でもある程度うまく使うことができます。添付文書でも上限がしっかりと定められ、臨床試験も進んでおり急性期や安定期にどのくらいの用量を投与すれば良いかが把握しやすくなっています。ドパミンD2受容体のみを狙うのではなく、多くの受容体に作用することがハンドルで言う“アソビ”をもたらし、錐体外路症状が出にくく使いやすさを産むと言っていいかもしれません。ハロペリドールなどドパミンD2受容体への親和性が強く他の受容体をあまり考慮しないものは、細やかな用量調節が難しくなっています。製薬会社もわざわざ旧来の安い薬剤を調べ直す気にはならないですよね。しかし、様々な受容体に関わることは代謝系への副作用を強くすることを忘れてはいけません。耐糖能悪化、脂質異常、体重増加などが生じ、心血管イベントのリスクになります。その好例がオランザピンでありクエチアピンです。非定型のアリピプラゾール(エビリファイ®)はこういったリスクが少ないものの、ドパミンD2受容体パーシャルアゴニストという特性から、ドパミンD2受容体のアップレギュレーションが生じている場合は投与量を多くしても期待される薬剤効果が十分に出ないことも多いです。

 最後に、“定型”と“非定型”というラベリングにも注意が必要。この分節化で抗精神病薬の世界は理解しやすくなったかもしれませんが、それは本質ではありません。定型は第一世代、非定型は第二世代とも呼ばれますが、そのネーミングも実に恣意的です。定型の中でもクロルプロマジンやピパンペロンやクロカプラミン(クロフェクトン®)などは様々な受容体に結合するため、非定型に近いとも言えるでしょう。非定型の中でもリスペリドンは錐体外路症状や高プロラクチン血症を起こしやすく、定型に近い印象です。よって、“定型・非定型”と抗精神病薬を2つに分節するのではなく、混沌の中から個々の薬剤のプロフィールを今一度調べ、その性格に配慮した選択をすべき。特に自分はピパンペロンやモサプラミン(クレミン®)といった定型を使うことも多いです。



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