2015
02.06

悪性症候群をちらりと疑った時は

Category: ★精神科生活
 悪性症候群は、多くの場合は抗精神病薬の使用による疾患です。他には抗パーキンソン病薬をいきなり中断した時や、ごく稀ですがメトクロプラミド(プリンぺラン®)やドンペリドン(ナウゼリン®)といった制吐剤の使用によっても生じることが知られています。いずれもドパミンが一気に遮断されるというのが共通。

 ただ、致死性緊張病という概念が1930年代にありまして。これは悪性症候群と同じような経過をたどる状態なんです。1930年代というのがポイントでして、この時期は抗精神病薬が開発されていなかった頃、すなわち統合失調症に対する本格的な薬剤治療が始まっていなかった頃なんです。これは、今の世で言う”悪性症候群”は100%薬剤によるものとは限らず、ごく一部は統合失調症の病状として現れるのではないかということを示唆しています。

 そして、悪性症候群と言えば対抗馬がセロトニン症候群。なかなか鑑別は難しいよとされています。悪性症候群はドパミンがブロックされるというのが大まかな原則で、対してセロトニン症候群はセロトニンが溢れるというのがイメージ(シナプス後部の5-HT1A受容体や5-HT2A受容体への刺激)。ただ、最近は抗うつ薬と抗精神病薬を一緒に使うこともあり(うつ病でも不安障害でも統合失調症でも)、使用薬剤のみではスパッと鑑別できかねる時もあります。

 薬剤使用開始(もしくは増量)から症状発現までのスパンは重要で、セロトニン症候群はほとんど24時間以内に始まります。対して悪性症候群は数日から数週間。治療開始から改善のスパンも同じでして、この辺りがまずもって病歴で欠かせません。あとは病態生理的に、セロトニン症候群は神経伝達の暴走(↑セロトニン)、悪性症候群は神経伝達の鈍さ(↓ドパミン)という基本に立ちかえります。よって、腱反射亢進やミオクローヌスというのは、悪性症候群では非常にレア。セロトニン症候群を強く示唆する所見です。かつ、セロトニンは消化管にも作用することを踏まえると、嘔気・嘔吐・下痢という消化器症状はセロトニン症候群の前駆症状として見られるもので、悪性症候群ではこれまた珍しいです。こういったのを参考に鑑別を拾っていきましょう。

 検査所見ではCK上昇が有名。rigidityを反映しており、CK以外にも筋に含まれるLDHやASTなども悪性症候群では90%ほどで上昇します。ただ、セロトニン症候群でもrigidityが強ければ上昇しますし、悪性症候群でもrigidityが軽ければそんなに上がりません。また、急性精神病状態では何故か判らないけれどもCKが上昇している、なんてことも往々にしてあります。だからCKのみではちょっと分からない時も。

 そこで今回のタイトルに戻るんですが、測定してみる項目として挙げられるのが


血清鉄


 なんです。鉄はカテコラミ合成に関わるチロシンヒドロキシラーゼ(tyrosine hydroxylase)の補因子で、血清鉄の低下はドパミン合成を落としてしまい、そこにドパミン受容体アンタゴニストを投与することによって更にドパミンが効かない様な状態に拍車がかかるようです。これを鑑別に使用してみることを少しばかりオススメします。

 いくつか文献を見てみると、血清鉄は悪性症候群のスクリーニング機能を持っていて、感度92-100%という優秀さ。Lancetの論文では結構キレイな図で出ています。

血清鉄測定

 キレイ過ぎるくらいで逆に訝しんでしまうくらい…。悪性症候群と回復の状態を繰り返した1人の患者さんで測っている図もあるんです。

同一患者さんでの測定

 こんなに鋭敏に動くとは驚き。文献がちょっと古いものしかないというのが残念ではありますが。フェリチンならどうなんでしょうね。ということで、悪性症候群かな? とふと思った時には、そっと血清鉄を測定項目に加えて参考にしてみると良いことがあるかもしれません。もちろん、いくら優秀なスクリーニングのマーカーとは言え事前確率が高ければそれのみをもって除外することは出来ませんよ。「悪性症候群じゃないよなぁ、たぶん」という時に測定して正常値であればかなり除外に向くというような印象で使い始めてみてはいかがでしょうか。


☆参考文献
Lee JW. Serum iron in catatonia and neuroleptic malignant syndrome. Biol Psychiatry. 1998 Sep 15;44(6):499-507.
Rosebush PI, et al. Serum iron and neuroleptic malignant syndrome. Lancet. 1991 Jul 20;338(8760):149-51.
Perry PJ, et al. Serotonin syndrome vs neuroleptic malignant syndrome: a contrast of causes, diagnoses, and management. Ann Clin Psychiatry. 2012 May;24(2):155-62.
トラックバックURL
http://m03a076d.blog.fc2.com/tb.php/1865-fb34634f
トラックバック
コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2015.02.09 00:02 | 編集
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

EMDRは様々な精神疾患への応用がなされていますが、最もエビデンスがある(信頼されている)のは、心的外傷についてです。特定の恐怖症がそれに基づくものであれば、絶対とは言い難いですが効果はあるかもしれません。
ただ、どんな治療法も”信頼”というのが効果を左右するというのは一言加えておきます。
m03a076ddot 2015.02.09 08:27 | 編集
 『悪性症候群』というのは、お薬を飲み始めて半年以上経過していて、それまで特に何もなかったような人でも、ある日突然なることがあったりするのでしょうか?
朧月夜dot 2015.09.28 21:48 | 編集
>朧月夜さん

ありがとうございます。
基本的には飲み始めや増量した時がリスクになります。
ただ、量が変わっていなくても、抗精神病薬の代謝を阻害するような薬剤(クラリスロマイシンやシメチジンなど)によって、血中濃度が上がって悪性症候群になるということもあります。
同様に身体的な状況で(脱水など)、相対的にお薬がきつく感じる時もリスクでしょう。
m03a076ddot 2015.09.30 00:46 | 編集
 お返事ありがとうございました。

 実は、うつで療養中の主人が風邪をひいてしまいまして、それが引き金になったのかどうかは分かりませんが、うつが悪化?してしまったようです。

 熱で食事も水分補給もあまりできていなかったせいか、脱水症状がひどかったです。普通だったら500mL1本打ったらトイレに行きたくなるのに、全然行きたがらなかったので、相当ひどかったのだと思います。

 最初は風邪ではなく、副作用のことが頭をよぎったのですが、喉も赤くなっていたようなので、風邪をひいただけなのかもしれません。

 精神科の薬もいろんな種類がありますし、副作用のこともあるので、先生方も慎重に選ばなければならないのかと思うと、本当に大変なお仕事なんだなと感じました。
朧月夜dot 2015.10.01 22:26 | 編集
>朧月夜さん

ありがとうございます。
悪性症候群は対処が遅れると大変なことになるので、疑った時点で病院に行って飲んでいるお薬などをそこの医者に話してみた方が良いかと思います。
検査をして悪性症候群でなければひと安心ですし、悪性症候群であっても早めの対処ができることにもなりますので。
m03a076ddot 2015.10.03 00:12 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top