2015
02.21

臨床のワンフレーズ(8):どちらを選んでも後悔する

Category: ★精神科生活
 うつ病患者さんで、そろそろ復職の段階になると就労中の恐怖感が蘇ってきて足がすくんでしまって頓挫するということを繰り返しているかたがいました。職場のことを”戦場”とも形容しており、その恐怖の強さがうかがえます。

 恐怖突入ができるかどうか。患者さんは言います。「あの職場に戻ることを考えると…。辞めて人生をリセットして、もう一度仕事を考えるのもありかなと思ってます」と。

 そこで長い間立ち止まって悩んでいる患者さんを複数経験します。よほど会社ではつらい経験をしてきたんでしょう。無責任に「戻ってみてダメならまたその時考えれば良いんじゃないですか」とはこちらも言えない雰囲気でもあります。もしダメだったら、患者さんの自尊心はボロボロになっているでしょう。そうなった場合、再び立ち上がれるか…。さて、どの様に対応したら良いんでしょう。

 正解かどうかは分かりませんが、自分は患者さんが悩むことを肯定します。ただし、いずれの選択肢をとっても後悔はするだろうということは絶対にお伝えしています。その上で、じっくり悩むこと。

自分「復職するかどうか、したらしたであの時の様なつらさが待ってるんですね」
患者さん「はい…。あの記憶を思うとまたあそこに戻るのか…て。でもこれで辞めてしまっても良いのか。逃げることにならないのか…」
自分「戻るのもつらい。でも辞めたら逃げることになるかもしれない」
患者さん「はい…」
自分「そうですね…。恐らく、どっちを選んでも後悔は付いて回ると思います」
患者さん「…」
自分「仕事に戻ったら、職場の苦しさで、あの時に辞めていれば、と。辞めたら、あの時逃げていなければ、と思うんじゃないでしょうか」
患者さん「…はい。そう、だと思います…」
自分「どっちを選んでも後悔する。だからこそ、たくさん悩んでみるのが良いんじゃないかなと思います」
患者さん「…」
自分「悩んで悩んで、そして納得のいくような後悔をしてください。その後悔を受け止めることができるように、じっくり悩んでください」
患者さん「…はい」
自分「だから、今の○○さんで良いんだと思います。間違ってません。大事なことですから、悩むのは自然ですし、○○さんは悩む力を持っています。悩みぬくことで見えてくることもあるかと思いますし、今がその時かもしれません」
患者さん「はい。ありがとうございます」
自分「でもどこかで、悩んでいるあなたを冷静に見つめる視点も持ってあげてください。悩みの中に入り切るんじゃなくて、どこかで悩む自分を見ていてください」
患者さん「はい」
自分「その上での決断であれば、それは大切な結果だと私は思います」

 「いずれにしても後悔はするでしょう」と伝えることは、患者さんにとってかなりの意外性を産みます。そして、その上で悩むことを肯定して納得の行く後悔をするようにとお話しする。そうすると、どうしようかとふわふわしていた患者さんの雰囲気がどっしりと腰を据えるような、真摯に悩むような、そんな感じを受けます。なかなか言葉にしづらいですが…。患者さんからも「どっちにしても後悔するって先生に言われて、自分で後悔を受け止められるようにたくさん考えるようになりました。それまではどうしようどうしようと思ってました」と振り返りを受けることが多いです。ただ、悩むことは本当に苦しく長いものなので、診察の度にそこへの配慮を忘れずに行ないましょう。

 治療者は決して指南役ではない、というスタンスを自分は持っています。患者さんの人生を決めるような立場であるという認識は、とてもおこがましい考え方だと思います(しかも若造の自分が)。出来ることは悩む患者さんの姿を、せいぜい診察室で肯定的にまなざすこと。もちろん、病状に圧倒されて冷静な判断ができない時は違いまして、治療者として代わりに出ることもあります。でも人生の深い悩みは、患者さん自身が考えて決めるもの。治療者はその行く末をハラハラドキドキしながらも、松葉杖として地面を突いて支えることくらいしかできないのかもしれませんね。
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コメント
こんいちわ。いつも楽しみにしています。
精神科医の先生は、臨床のワンフレーズを探して生活しているイメージです。
一方、自分があった心理療法家は、そういう定番のセリフを持っていないような。
学派で違うだけかもしれませんが、精神科医の先生方の方が時間的制約等がシビアだからでしょうか。私も、身障リハ職として、高齢者の方に対する定番の一言は用意してますね。
作業療法士dot 2015.02.21 23:32 | 編集
さくっと
実存主義なのかな?

鬱から上がる時の辛さというのはまた複雑ですよね。
双極性なので何度もあるので、いろいろ錯誤しますが最近では
「悩む力」シリーズは読みました。姜尚中さんの。
新書なので読みやすいので、鬱から上がってきた方には良いかもしれません。
なにか、サバサバ感は与えてくれる文章でした。

私は双極性なので完治はありませんが、やはり一つ突き抜けた事によって
症状の管理がかなり楽になりましたね。
特に不安感の解消というのにはあきらめがともなうと思うのですが
それを感じられる言葉が大事なのかも。
先生の突き放したようで突いた一言は患者さんの何かを誘発するのかも
しれませんね。

しかし、まあ、難しいです。
薬よりも効いたりしますから。
うたdot 2015.02.22 00:06 | 編集
>作業療法士さん

ありがとうございます。
精神科医は診察時間が短いため、こころに残るようなフレーズを使って精神療法の効果を診察室の外でも響くように心がけているのかもしれません。そうすると効果が日常生活でも持続して短い診察時間をカバーできるのかなと思っています。
m03a076ddot 2015.02.24 12:06 | 編集
>うたさん

ありがとうございます。
インパクトのあるフレーズは諸刃の剣になりやすいので、診察室の雰囲気や言うべきタイミング、言った後の空気などを整えておく必要があるかもしれませんね。
「どちらを選んでも後悔する」という言葉も、間違った状況で使うと結構厳しいように響くと思っています。
m03a076ddot 2015.02.24 12:08 | 編集
どちらを選ぶことが一番良いか、後悔ないかを考えていました。まだ、答えはでません。どちらを選んでも後悔する、そう考えると、その先の覚悟が少しできる気がします。先生のこの言葉を見て、少し肩の力が抜けました。後悔を航海できるようにしたいです。
ノラdot 2016.02.21 19:33 | 編集
>ノラさん

ありがとうございます。
後悔は必ずするものだと思っています。
であるならば、後悔を納得できるものとし、さらにその後悔を活かすことができれば、最も良いのだとも考えられます。
見つめ方によって、後悔は財産にすらなり得るのでしょうね。
m03a076ddot 2016.02.22 16:19 | 編集
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