2015
01.20

臨床のワンフレーズ(6):こころは水風船

Category: ★精神科生活
 臨床的に、精神症状には2つの意味があります。

 1つは症状そのものということで、患者さんが忌むべきものとしての意味。症状としての不安や、症状としての抑うつなどですね。こころのつらさの表れと解釈できましょう。

 もう1つは、つらさを症状として出しているからこそ、何とかこころのバランスを保っていられるという意味。症状には肯定的な意味があるんだ、というものです。コーピングと言えますね。
コーピング

 1つの症状には陰と陽の両者が含まれます。どちらか一方に偏りすぎてもいけないので、患者さんが意識していないようなところを、医者はそれとなくお伝えします。多くの場合は症状の持つ肯定的な意味を示すことにはなりますが。

 例えば境界性パーソナリティ障害患者さんが行なう頻回の自傷行為。これは防衛機制の”行動化”に含まれ、人格構造の未熟さを示唆はします。しかし、つらい状況の中で何とか生き延びるためにやむなくなされる対処行動という理解が可能ですし、求められます。

自分「どんな時にリストカットをするのかしらね」
患者さん「なんか、どうでもいいかなって」
自分「むなしさ?」
患者さん「あ、そうそう」
自分「むなしくなると、リストカットに」
患者さん「うん」
自分「もしリストカットできなかったら、どうします?」
患者さん「え…。考えたことないな…」
自分ん「ひょっとしたら他の人に向かっちゃう?」
患者さん「そんなことしたくないけど…」
自分「そうよね」
患者さん「うん」
自分「じゃあ、○○さんは自分を傷つけることで何とかやっていってるのかしらね」
患者さん「…そっか、そうかも」
自分「他の人を傷つけずに自分を傷つけることで、折り合いを見つけて、生きてるのかなぁ」

 症状には意味があり、それを用いることで何とか生き延びている。その自傷行為を封じられると、患者さんは生き延びる術を奪われ、さらに大きなカタストロフィに向かうかも。

 ただし、全面的な肯定はもちろんできません。自傷行為の場合は、それが癖になって繰り返す度に効果が薄まります(addictionとしての自傷)。そのため、同等の効果を得るためにだんだんとエスカレートしていく傾向にあるんです。患者さんが必死に編み出したコーピングではありますが、とりあえずのものであって、長期的なところは慮ってくれません。

自分「こころって水風船みたいなものでね」
患者さん「水風船?」
自分「つらさがどんどんたまっていって、限界になるとこころが破裂しちゃう。破裂しないように、そのつらさを外に出す必要があって、あなたのリストカットはその役目を持ってるのかもしれんですね」
患者さん「…うん。そうかも」
自分「だから、今のあなたには必要なんでしょう。ないとこころが破裂してしまうから。でもね、これだけは覚えておいて。リストカットってずっとやってるとその役目が薄くなっちゃう。そうなるともっと深く切ったり、脚とか頚とかを切る人もいるんですよ」
患者さん「うん」
自分「だから、つらさを外に出す方法を他にも知っていこう。私はやっぱり身体を大事にしてほしいと思ってるんです。ゆっくり少しずつで良いから、今日はそのスタートラインね」

 自分は、行動化に対してはこの様にお話しすることがほとんどです。つらい時にどう対処するか。理想はつらさをつらさとして吐露できること。当座のところは、その時々の行動化のきっかけを探って、その時の感情をしっかりと自覚し、また代わりのコーピングを覚えていくことになります。

 治療者と患者さんとの”あいだ”、ご家族と患者さんとの”あいだ”、社会と患者さんとの”あいだ”をより良好にしていくことが精神療法の基本になるでしょう。症状の持つ意味に思いを馳せることが、治療者には求めらると思います。”こころは水風船”はそのために用いられる簡単な比喩になりましょう。
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コメント
こんにちは。
水風船ってかわいらしい(^^)先生の優しさがわかるたとえですね。
私は「今はこころのダムに水を溜める時間だよ」って何かの本の一節にあって、それを抗鬱状態の状態の自分を思い出しながらわかりやすい表現だな、と思った事があります。「水」ってこころの状態の表現をわかりやすくしてくれますね。陰的に陽的にも使える。気分自体を水的に捉えるとよいのかもしれないですね。増えたり減ったり、蒸発したり凍ったりと色々な姿をみせるから。


うたdot 2015.01.23 14:53 | 編集
>うたさん

ありがとうございます。
確かに水は不思議ですね。私たちを包む安全な羊水から始まっていますし、一方で溺れ苦しい水というイメージもあります。雄大さと冷酷さも持ち、人間の奥に直接語りかけるような印象ですね。
m03a076ddot 2015.01.24 08:14 | 編集
人間の体はある意味ではとても賢く作られているのですね。

陰陽両方の側面に気づければ、もう少し自分を労われる気がします。

お勉強になりました。ありがとうございます。
ノラdot 2015.01.27 22:04 | 編集
>ノラさん

ありがとうございます。
自分自身の症状そのものをいたわるようになると、とても良いのかもしれませんね。
とても難しいことなのでしょうけれども。
そこまでせずとも、症状を別の視点から考えるというのは大事だと考えています。
m03a076ddot 2015.01.28 08:36 | 編集
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