2014
12.27

臨床のワンフレーズ(4):不安を不安として

Category: ★精神科生活
 「この症状さえなかったらしたいことが出来るのに…」という患者さん。

 不安がなかったら…、うつなんてなかったら…、確かにこれまで症状に悩まされてきて、これがなかったらと想像してしまうのも無理からぬこと。

 しかし、本当にそうでしょうか?

 不安を経験しない、うつを経験しない人間は存在しません。患者さんはついマイナスの症状をすべて無くしたくなり、それが果たせないと自由を手に入れられないと考えてしまうことが多いです。とはいえ、それが非現実的であるのは論を俟たないでしょう。みんな「つらいこともあるけれど、明日も一日なんとか生きていこう」と思って過ごしています。ハッピーだけの人生はありえません。

自分「不安さえなければ、と思っているんですね」
患者さん「はい…。不安でどうしようもなくて、それで何も出来ません」
自分「確かにこれまでの状況を考えると、そう思うのも頷けますし、その中でとても頑張っていると思います。でも、知っておいて欲しいのは、不安そのものは決して悪いもんじゃないということです」
患者さん「…?」
自分「不安とか恐怖があるからこそ危険を回避して、人間って生存競争を生き残ってきたとも言えるんです。ヘビやライオンが近くにいてもぼーっとしてたら食べられてしまうでしょう。だから、不安も人間の大事な感情の1つ。それがなくなるということは、人間らしさを失うことかもしれませんよ」
患者さん「…」
自分「ただ、今はその不安が大きくて、それにとらわれてしまうと、頭のなかを巡って大変ですよね」
患者さん「そうなんです。どうしようどうしようって」
自分「それをなくそうと頑張れば頑張るほど、気づいたらもっと強い不安にはまっているような」
患者さん「ホントにそうです」
自分「不安をなくそうとすると逆効果になるんですよ、実は。だから、不安を不安として、悲しみを悲しみとして受け止める。これが大切なんです」
患者さん「不安を不安として、ですか」

 症状というのは不思議なもので、なくそうとすればするほど強くなり、とらわれが増してしまいます。

ループ

 そうではなく、症状を症状そのものとして見つめることがとても大事になってきます。”そのもの”っていうのは余計な修飾が加わらないこと。それ以上でもそれ以下でもない。ちょっと抽象的な話なので更にたたみかけます。

自分「不安はそれ以上でもそれ以下でもないんです。だから、○○さんの行動を完全にコントロールすることは出来ないんですよ」
患者さん「うーん、気を逸らせば良いってことですか?」
自分「あ、それとは違うんです。気を逸らすのは、まだ症状と戦っている証拠。目指すべきは、症状があっても目的とする行動ができることです。症状がある状態で、それを受け入れながら行動する」
患者さん「難しいですよね…」
自分「難しいですよ。でもこれまで症状と戦って全戦全敗なので、そろそろ戦わない方法をつくっていきましょう」
患者さん「はい。これまで不安と戦って結果を出そうと焦ってました」
自分「ですね。結果を出そうとするのも戦ってしまっている証拠」
患者さん「結果を求めなくて良いんですね」
自分「そうですね。不安と行動は別です。不安があるから行動できないと考えるのか、不安があっても行動しようと考えるのか。実は、選ぶ自由っていうのが○○さんにあるんですよ」
患者さん「あ、そうなんですか。選べるんですね」

 症状へのとらわれが強いと、それは行動をも左右します。そのとらわれを何とかして緩めるのが、治療の最たる目標になります。それには、症状との戦いを放棄するのが一番で、共存というと大げさかもしれませんが

”症状があっても行動は出来る”
”行動するかしないか、選択の自由は患者さんが持っている”

 ということを意識してもらいます。

症状は症状

 そして、どんなに小さなことでも良いので、行動を実際に起こしてもらって小さな自由を少しずつ得てもらいます。最初は失敗することが多いのは予めお話しして、行動を起こすことそのものが大切だと印象づけましょう。それまでは行動を起こせなかったわけですから、失敗しても実際に行動してみた/しようと思ってみたというのはとても大きな前進。ちょっと宗教がかって嫌かもしれないですけど、ヴィパッサナー瞑想を勧めることもあります。症状をありのままに受け止める練習として。アクセプタンス&コミットメントセラピー(ACT)では、”小川のエクササイズ”が代表例。

 こんな風にして、症状と一体化したこころをほぐして、症状を見つめることができるように絶えず働きかけます。症状を漂わせておく、泳がせておく、そんなイメージ。

 また、症状があるという状態で、行動をするかしないか。それは患者さんの”自由”である。これはお伝えすると意外な顔をされる患者さんが多いです。意表をつくというのはこころに残る発言であり、タイミングが合えば診察室の外でも十分に響く言葉になると思っています。ただ、裏を返しちゃうと「好きこのんで症状にしがみついている」という受け取られ方にもなるため、侵襲的になってしまう場合もあります。あえて「今のあなたは自ら不安にしがみついているようにも感じちゃうんです」と話す時はありますが、かなり治療の場がぐらつく一言になるので時と場合を選んで口にすべき言葉ですね。。。ということで、今回のワンフレーズには題名の他に”選ぶ自由はあなたにある”というのも入ります(注意して使うのが前提)。
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コメント
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

引き継ぎはとても大切です。よって、患者さんの情報で臨床的に重要だと思ったことは、引き継ぎの医者に伝えます。それが診療に役立つと考えるからです。
ただし、どこを重要だと思うかはその診てきた医者の判断になるので、その考えと患者さんの考えとは異なる場合もあります。
主治医の先生に相談しにくくても、引き継ぎで伝えてほしくないことは「このことは言わないでほしい」とはっきりお話ししたほうが良いでしょう。紹介状についても同様です。
m03a076ddot 2015.02.09 08:08 | 編集
不安と戦うと余計に不安になる。不安は人間として当たり前の感情。
おっしゃていることとても良く分かります。森田療法で言われている事項が多くみられますね。
私は今森田療法の会に入り始めたところで、だいぶ理解も進んできている方かと思います。が、近々の不安に翻弄されっぱなしで、会社勤めが辛いです!
ベンゾ(今は朝ワイパックス0.5を3/4錠、夜メイラックス1を3/4錠)もすでに10年毎日服用で、年々耐性が付いてきています。常用量依存というやつで、薬を飲んでいても仕事のことで不安でいっぱいです。徐々に減薬することに挑戦中ではありますが、今の時期は仕事のプレッシャーと不眠が強いので、減薬計画をステイしています。
SSRIに変えたいのですが、以前、急激に不安が増した時期(後に1か月休職)にジェイゾロフトを開始し吐き気、不眠が出て2度失敗しています。3回目のトライとしてレクサブロを持ってはいますが、まだ勇気が出せず飲んでいません。
とはいえ、だんだん効かなくなってきているベンゾを飲み続ける恐怖、いつまでも断薬できない恐怖があり、SSRIに置換したいと思っています。
急に、薬の相談になってしまいましたが、ご助言がありましたら、ぜひお願い致します。65歳の主治医はベンゾを止めようとすることに積極的ではありません。10年ベンゾを飲み続けて、止められた患者さんいますか?と聞いたら、転院したりしているからわからない、つまり一人もいないと言っていました。とんでもないことですよね!
ぶらばdot 2017.02.11 19:38 | 編集
>ぶらばさん

ありがとうございます。
今の生活でこころのゆとりを得ることが大事なのだと思います。
森田療法もそのために役立てば良いかもしれませんね。
ベンゾを長年服用していれば、サヨナラするにも年単位でかかることは確実だという気分で、かなり長期的に、そしてごくごく微量から臨むことが肝腎です。
減らないことに焦らないよう、ゆとりをキーワードにして取り組むと良いかと思います。
m03a076ddot 2017.02.12 22:35 | 編集
>m03a076dさん
お返事ありがとうございます。
やはり数年単位の減薬が必要ですか。
いまの量ですら、仕事に支障をきたすくらい不安症状あるのに。。。
もうどうすれば良いのかわからないのが本音です。
ぶらばdot 2017.02.12 23:13 | 編集
>ぶらばさん

ありがとうございます。
不安は薬剤でしか対処できないものではありません。
森田療法やマインドフルネスを併用して不安との付き合い方を勉強していきながらお薬を減らすことも可能でしょう。
そもそもお薬を減らすのはこころにまずまずのゆとりがある時がベストなので、そうでなければ非薬物療法でゆとりを得るようにするのが順番かと思います。
m03a076ddot 2017.02.17 09:16 | 編集
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

変な言い方かもしれませんが、ぐらつかせることが治療上の目的であることもあります。
停滞している時は(悪い意味で)安定している時であることも多く、そこから動かすにはそれなりの言葉を必要とする時も確かにあるのです。
受け入れる器は必要なく、そこで溢れた感情をご自身でどう眺めるか、主治医の先生がどう扱うか、というのがこれから大切になっていくのだと思います。
m03a076ddot 2017.02.17 09:21 | 編集
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

診察ではクロストークが大事なので、主治医の先生に意見を言える場というのを目指すのが良いかと思います。
m03a076ddot 2017.02.20 16:22 | 編集
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

医者だけが言ってオシマイ、ではなく、患者さんとの両者での呼応がとても大切です。
そして、言葉というのは良くも悪くも場を動かします。
その言葉を発したかたも、場を動かしたい気持ちがあったからかもしれませんね。
すぐに受け入れる必要性はないですし、それを咀嚼することが大事なのだと思います。

m03a076ddot 2017.02.24 13:55 | 編集
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