2015
01.10

15分間の問診技法

Category: ★本のお話
 今回は本の紹介。

 プライマリケアでどのように精神療法をすればいいのか、というのは皆さん悩んでいることかもしれません。ただ、精神科医も診察時間がかなり限られている(5分とか…)ので、そんなに御大層な精神療法を行なっているわけでは決してないんじゃないか?と個人的に思っています。精神科医がそんなこと言っちゃアカンでしょ、と思われるでしょうけど、精神療法ってデカデカと看板かかげるものではなくて、日常的なちょっとしたことが基本だと感じます。表情のつくりとか、声のトーンとか、目線とか、話しても難しい内容は書いて伝えるとか、そういう場の雰囲気ってすごく大事。

 姿勢として最も大切なのが”支持”というやつです。「支持とか共感くらいやってるよ! そんなことより認知行動療法とかでしょ」と思うかもしれませんが、磨き抜かれた支持というのはどんな治療法にも引けを取りません(たぶん)。あなたのやっている支持は本当に”支持”ですか? と問われると自分は「うーん…」と唸ってしまって即答できません。傾聴したと思っていても、相手は傾聴されたと感じないかもしれませんし、そうなるとそれは傾聴ではなくなります。

 支持は「分かること」「分からないこと」を出来るだけハッキリさせる作業がとても重要になってきます。患者さんの言語化できないシニフィエの部分をどれだけ医療者が推し量れるか。そしてそれを伝えてみて患者さんの”腑に落ちる”かを確かめる。そんなことを繰り返していき、「あぁ、そうだったのね。それならそう思うのも無理ないわねぇ」としみじみこちらも思ってお話をする。それが支持だと思います。ぴょろっと聞いただけで「そうですよね」「分かります」とか言って、それを支持や共感と勘違いしている医療者は結構多いのではないでしょうか。講習会に出て練習したくらいの支持や共感は、終末期患者さんをかえって抑うつにしてしまうというデータもあるくらい(Curtis JR, et al. Effect of communication skills training for residents and nurse practitioners on quality of communication with patients with serious illness: a randomized trial. JAMA. 2013 Dec 4;310(21):2271-81.)。見せかけでは人は傷つきます。

 そんな支持という基本的だけれどもデリケートで難しいことを、BATHE techniqueという方法で教えてくれるのがこの本。

15分間の問診技法―日常診療に活かすサイコセラピー15分間の問診技法―日常診療に活かすサイコセラピー
(2001/03)
玉田 太朗、 他

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 医学書院からずいぶん前に出た『15分間の問診技法』です。

 学生時代に、生坂政臣先生のケアネットDVDを見ていてそれで紹介されていました。さっそく買って読んで「ほー」と思い、研修医時代に読みなおして「おー」と思い、精神科になってからも読み返して「おぉぉぉ」と思い。ヴァイラントの防衛機制まで実は書いていたのね、と気づきました。ただしもう10年以上前の本で、絶版になっているようです。古本屋さんとかAmazonのマーケットプレイスで買うことが出来ますが…。

 これは訳書でして、もともとは『The Fifteen Minute Hour』という英語の本。今のところ2008年の第4版が最新です。

The Fifteen Minute Hour: Therapeutic Talk in Primary CareThe Fifteen Minute Hour: Therapeutic Talk in Primary Care
(2008/11)
Marian R. Stuart、Joseph A., III, M.D. Lieberman 他

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 2015年5月に第5版が出るようですが、この第4版も買っておいたので読んでみました(実は買ってからしばらくは本棚の肥やしになっていました…)。英語の本を読むのは精神科になってからめっきり少なくなってしまい、ところどころ読みづらかったですが、雰囲気は分かりやすいものです。根幹の部分は不変なので和訳されたものを探して読んでみても良いかもしれません。ただ、第4版の方が顕著ではありますが、どちらも文字でゴリ押しする傾向にあります。図表が一切なく、文字文字文字。同じ内容の繰り返しも結構あり、もうすこし字数を減らしてクリアカットに出来るんじゃないかな、とも思います。なので特に最初の部分は流し読みしていっても良いかと。ま、その流し読みの結果、自分はヴァイラント先生の防衛機制が書かれてあることをすっかり忘れていたんですが…。

 さて、この本で出ているBATHE techniqueですが、これは

・Background
・Affect
・Trouble
・Handling
・Empathy

 の頭文字をとったものです。Bは生活で何が起こっているかを聞き出すもので"What is going on in your life?"と問います。Aは起こっていることに対する感じ方を聞きまして"How do you feel about that?"です。Tは一番困っていることに焦点化して"What troubles you the most?"となります。Hはそれにどう対処しているかを聞くので"How are you handling that?"です。そして最後にねぎらいの"That must be very difficult."で締めます。

 ここで大事なのは、Eを最後に持ってくることだと自分は思っています。本でも"It is crucial that practitioners finish the BATHE sequence with a statement that demonstrates understanding and empathy."述べられていますが、最後にEmpathy(共感)を持ってくることで、このEは同情や憐憫という”見せかけの共感”にならないようにしているんです(と自分は理解しています)。患者さんの言うことに「わかります」とか「つらいですね」とただ返すだけでは、それは”分かったふり”になり、患者さんの中には逆に怒るかたもいます。状況が深刻であればあるほど、安っぽい共感モドキは患者さんと医療者との距離をつくってしまいます。このBATHE techniqueの優れているのは、BATHを以てまずしっかりと聞くこと、そしてそれを理解した上でEの「それは大変だったと思います」と声をかけるという構えになっているからでしょう。それを行なうことで、完全に患者さんの感情を追体験するのは難しいけれども論理的に認めることができるようになります。

 よって、このBATHE techniqueのEmpathyは共感というよりも、本文中にもあるようにValidation(認証)に近いものだと思います。これが押し付けがましくなく自然に患者さんの状態を受け入れられる(患者さんも自身を受け入れられる)下地になります。他にも問題解決のための3ステップや、難しい患者さんへの対応、第4版ではポジティブ心理学を援用したpositive BATHEなども記載されており、勉強になりますよ(positive BATHEはそんなにグッと来ませんでしたが…)。

 この本は文字が多くて図表がなくて単調な感じがする、という欠点はあるものの、内容は実にすばらしいです。自分もたまに読み返していますし、プライマリケアだけでなく若手の精神科医にも役立つような気がします。一般的な精神科医が行なう診察もこのBATHE techniqueの変法なんじゃないかしら。2015年に最新版が出版されるし、どこかで誰か和訳を改めて出してくれませんか? と切望してみる。

 あ、このブログではたまに本の紹介をしています。ただ、さびれたブログなので紹介しても売れ行きが良くなるわけでもなく著者の先生の懐は暖かくならないんですが…(アフィリエイトもしていませんよ)。そんなことは抜きにして個人的にこれは良いなぁと思ったものを記事にしております。
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コメント
今年もよろしくおねがいします。
ふと読むと参考になる記事があり感心してしまいます。
共感ですか。私も患者としても医療者としてもどちらの感覚もあるので、難しい言葉だと思いますが、共感出来る精神科医は凄いですね。
まず、15分の診察は日本の精神科では少ないとは思いますが。
私は1時間の診察なのでかなりマレなケースですね。しかも先生の相性も良いと思っていますし、技量手的にも上手いと思っています。
「大変だねえ」って言われる事よりも。患者自身が「大変だったんだなへえ」
と思える事が大事なんだとわからせれくれた先生です。主治医は。
それには時間と傾聴と共感が必要。現在のシステムではそれを享受出来る人は
少ないのでしょう。
うたdot 2015.01.12 18:43 | 編集
>うたさん

ありがとうございます。
相性というのは大事ですね。
うたさんの主治医の先生は、大変すぐれた先生のようにイメージをしました。
色んな”気づき”を得るというのが、重要になってきますね。
m03a076ddot 2015.01.14 22:12 | 編集
傾聴、共感ってなかなか奥が深いですね。
これを見て、私の主治医はなかなか傾聴、共感の上手だと感じました(笑)患者はよく見てます・・・・。

たかが15分の問診でも少しは効果はあるのでしょうか?
ノラdot 2015.01.17 14:13 | 編集
>ノラさん

ありがとうございます。
15分というのは、医者からするとかなり時間を割く方だと思います。
患者さんは「待ち時間は短いほうが良い」という思いと「診察時間は長くして欲しい」という思いを持っていることが多いですね。この矛盾したところを解決するのは容易ならざるものと感じています…。
理想的には、短時間でも患者さんの満足度が高い診察になるかと思っています。
例えば手術時間が長い方が良いとは思いませんし、歯科治療の時間も長いのは好まれませんし。
m03a076ddot 2015.01.20 00:43 | 編集
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dot 2015.01.22 21:39 | 編集
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。
プラセボ効果は漢方だけでなく、どのお薬にもあります。その中で、漢方薬は良い意味でミステリアスなので患者さんに悪くない印象を与えることが多いのだと考えています。
お話しされている精神科の先生の外来の時間にもよりますし、心理士の先生とタッグを組む必要性があるのかもしれません。とは言え、カウンセリングそのものにも副作用があります。
なので、現実的なのは精神科の先生のご意見を外来で伺ってみることなのだと思います。
他人の目線というのは新鮮です。そこから何か得られるものがあるかもしれません。
m03a076ddot 2015.01.24 08:10 | 編集
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dot 2015.01.24 17:04 | 編集
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dot 2015.01.26 22:32 | 編集
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

クリニックは随分と混んでいますね。1カ月待ちで、かつ行ったその日も2時間待ちということも多いようです。
酸棗仁湯パルスについては、自分は2週間程度にしています。それで効かなかったら酸棗仁湯そのものの効果が無いのだと思います。漢方薬は合う合わないが結構ありますので。
抑肝散加陳皮半夏は血管拡張作用のある生薬を含むため、のぼせ気味になるかたもいらっしゃるかと思います。合わないなと思ったら服用しない方が良いでしょう。
m03a076ddot 2015.01.28 08:02 | 編集
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dot 2015.01.28 21:36 | 編集
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

リリカは「Lyric:叙情詩(Music)」や「Lyrical:叙情的な」という、響きの良い単語が由来になっています。製薬会社の皆さんも頭捻って考えていますね。
m03a076ddot 2015.01.31 18:07 | 編集
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